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平均値で隠された賃上げ格差の実態~安倍首相の自画自賛を検証する (その4)~

 20151月13日

 1つ前の記事では安倍首相が使う「過去15年間で最高の賃上げ率2.07%」という数字は全雇用者の5%程度をカバーするに過ぎない連合傘下の大企業の賃上げ率を指すことを指摘した。この記事では平均値で示された賃上げ率によって隠された格差の実態をもう少し掘り下げて確かめることにしたい。

従業員1,000人以下の企業の約4割は賃上げ率1.4%以下
 
1は従業員規模を4つの階級に分け、階級ごとに賃金改定率の分布を示したものである。

 
1 企業規模別に見た1人平均賃金の改定率の分布
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/kigyokibo_betu_chinage_kaiteiritu_no_bunpu.pdf
   (出所)厚労省「平成26年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」付表
     4より作成 

 上の表を見ると、従業員1,000人以上の企業では賃上げ率の最頻値は2.02.9%で、4550%の企業が2.0%以上の賃上げ率を達成している。
 これに対し、従業員999人以下の企業では賃上げ率0.11.4%が最頻値で、約40%が賃上げ率1.4%以下に属している。また、従業員999人以下の企業の60%以上は賃上げ率が1.9%以下となっている。
 
 全規模の賃金改定率の分布をグラフにすると正規分布とならず、0.11.4%と2.02.9%に2つのヤマができる。これは、規模別の賃金格差が存在していることを表している

 ところで、上の厚労省の集計では、企業規模が常用雇用者数に応じて4つに区分され、規模ごとの1人当たり賃金改定率が示されている。しかし、集計対象に就いては、「民営企業で、製造業及び卸売業,小売業については常用労働者30人以上、その他の産業については常用労働者100人以上を雇用する企業のうちから産業別及び企業規模別に抽出した 約3500企業を対象とした」、「平成26年調査の回答企業は 2,044社で、有効回答率は 57.8%であった」と記されているだけで、2,044社の規模ごとの分布は示されていない。
 企業規模ごとに賃金改定率にバラつきがあるにもかかわらず、集計対象の規模ごとの分布が示されず、各調査項目に対する回答も百分比のみで実数が示さていないのは統計調査の結果の公表の仕方として不可解である。

集計対象の割合を直近の実態に合わせて組み替えると加重平均賃上げ率は1.5%を割り込む
 連合201473日に発表した2014年春季生活闘争 第8回(最終)回答集計」(平均賃金方式)では、従業員規模ごとに賃上げ回答があった組合、人員数、加重平均賃上げ率が示されている。そこで、連合が集計した人員(常用雇用者)の企業規模ごとの割合を「平成24年経済センサス-活動調査」に収録された常用雇用者(国内)の規模ごとの分布と突き合わせると次のとおりである。

 
2 連合の集計対象を組み替えた上での賃上げ率の加重平均の再計算
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/rengo_no_chinageritu_no_kumikaekeisan.pdf


 そのうえで、連合が集計した常用雇用者の企業規模ごとの割合(分布)を「平成24年経済センサス」で集計された常用雇用者数の企業規模別百分比に合わせて組み替え、それをもとに全規模の賃上げ率の加重平均を計算し直すと1.87%となり、連合が発表した2.07%より0.2ポイントだけ低くなる
 さらに、より最近の実態を集計した国税庁「民間給与実態統計調査」(平成25年分)に収められた「事業所規模別の給与所得者数の構成割合」に準じて連合の集計組合割合を組み替えて賃上げ率の加重平均を再計算すると、上の表で示したように、全規模の賃上げ率の加重平均は1.43%となり、連合が発表した数値より0.64ポイントだけ低くなる

 そうなるわけは、表2の対比表からわかるように、実際には全常用雇用者の32.7%を雇用するにとどまる1,000人以上の規模の企業に属する常用雇用者が連合の集計においては全体の68.7%を占めるという集計対象の偏りに起因して、これら大企業の相対的に高い賃上げ率が全規模の賃上げ率の加重平均値を押し上げたからである。

 また、連合の集計では常用雇用者99人以下の中小・零細企業は全集計対象の常用雇用者の3.9%を占めるにとどまっているが、「平成24年経済センサス」では全規模の常用雇用者の37.8%がこの規模の企業に属し、国税庁「民間給与実態統計調査」(平成25年分)では全規模の常用雇用者の47.1%がこの規模の企業に属している。

 しかも、経産省2014815日に公表した「中小企業の雇用状況に関する調査 集計結果の概要」によると、常用雇用者100人以下の企業(集計数では6,981社)のうち定期昇給制度を含む賃金制度を持たない企業が4,108社(58.8%)を占め、そのうちの61.7%(2,535社。集計された常用雇用者100人以下の企業の24.4%)は2014年度中に月給の引き上げを実施しなかったと回答している。連合の集計では、このように賃上げを見送った中小・零細企業のウェイトが実態よりも極端に低かった。このことからも連合が発表した2014年春闘における平均賃上げ率2.07%という数字は実態よりも相当高めの数字だったことは明らかである。

 

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