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誰のための農業・農協改革なのか?

201529

「岩盤規制」の打破?
 「農協改革」がヤマ場を迎えている。これについて、26日付けの『北海道新聞』は「農協改革 これで『攻めの農業』に?」と題する社説を載せ、次のように記している。
 http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/590675.html 

 「担い手の減少、耕作放棄地の増加…。農業を取り巻く環境は厳しさを増している。それなのに政府・与党の論議からは、肝心の部分が聞こえてこない。重要なのは、組織論より今の農業が抱える問題への対策である。」
 「監査の仕方を変えれば、農業が活性化するのか。そんな単純な話ではなかろう。」
 「道内を含め金融機関などが農協だけの地域もある。制限で、こうしたマチの人が不利益を被る恐れもあった。結局、見送りになったが、これも改革論議が現実とかけ離れている証左と言えよう。」

 目下の「農協改革」を指して安倍首相らは「岩盤規制の打破」と称している。「岩盤規制」と言うと、いかにも「頑強な既得権益」を連想させ、郵政事業を「抵抗勢力」の象徴かのようにフレームアップして、「改革」=「既得権益打破」=善行、という虚構を拡散させ、地方の疲弊、富の格差をもたらす「似非改革」を強行した小泉「改革」と同根の手法である。

「地方創生」の美名の下で
 私が高校生まで過ごした実家は農家ではなかったが、近隣農家は政府の無秩序な減反政策に振り回されて後継者もいなくなり、耕作放棄地が増える一方だった。
 医療の面では、近くにあった「国立病院」が閉鎖され、中核病院と謳われた隣の市の県立病院も勤務医不足で小児科が閉鎖の危機に直面しているという。また、同じ地域にある赤十字病院でも産科が休止され、医療崩壊の危機に瀕している。
 
 地域の産業の中で農業、畜産業が大きなウェイトと占める地方では、これらの産業が衰退すると関連産業も連鎖的に衰退し、人口減少が止まらない。そうなると公的医療機関は患者数減→採算悪化→規模縮小・統廃合→医療アクセスの悪化→人口流出、という悪循環から抜け出せなくなる。

 
 TPP
交渉と並行して進められた日米二国間協議で、日本は米国車の対日輸出の非関税障壁になっているとして軽自動車の「軽課税」措置をやり玉に挙げ、軽自動車の増税を日本に押し付けた。
 しかし、全国軽自動車協会連合会の調べによると、20133月末現在で、軽四輪車の世帯当たり普及台数を都道府県別に見てみると、佐賀、島根、鳥取、山形、長野、福井の各県は0.98以上であるのに対し、東京都は0.11、神奈川県は0.21、大阪府は0.27だった。軽自動車は農作業に向いた小回りの利くほか、狭い農道や市町村道を買物、医療機関への送迎などにも適した車種なのだ。「地方差別」と言いたくもなるこうした増税がアメリカへの市場開放と称して行われたことを銘記しておく必要がある。

 私たち国民は今、政府が進めようとしている「農業・農協改革」を「農業固有の問題」とか「農協組織の問題」と狭く、他人事のように捉えて傍観することは大きな禍根を残す。

 「米百俵」の美談に淡い期待を寄せて、改革の痛みに耐えた先に、「富の格差」と「ふるさと衰退」の帰結を思い知った人なら、「誰のための改革」かという問いを立てなければならない。

 政府が農協の影響力を削いで、農業に「ビズネスチャンス」を与えようとしているのは企業参入ではないのか?
 しかし、地域に生活の場を持たず、採算に合わないとなれば、さっさと撤退するのが営利企業の原理である。 

 旧農地リース制度により農業に参入した企業の参入後の動向(撤退・継続)を調査した大仲克俊「農地リース制度による農業参入企業の経営展開と撤退」『JC総研レポ-ト』2013年夏、によると、32の企業が参入した新潟県では、そのうちの6社(18.8%)が撤退している。31の企業が参入した青森県では、そのうちの12社(38.7%)が撤退、島取県では参入した30社のうち8社(26.7%)、鹿児島県では参入した29社のうち9社(31.0%)、岩手県では参入した17社のうち5社(29.4%)が、それぞれ撤退している。
 こうして、撤退後に投げ出された荒地を誰が再興するのか?

「無知は罪」の自覚
 
 私も参加した大学教員の「TPPによる関税撤廃が農産業に及ぼす影響試算チーム」が昨年試算したところ、
  ・北海道は主要8品目の合計で50.5%の生産額、14.7%の農業所得を
         失う。
  ・富山県は米だけで富山県の全農業所得の26.3%を失い、福井県は
   25.6%を失い、石川県は19.8%を失う。
という結果を得た。
 農業、畜産業の衰退はこれら産業からの税収で成り立つ地方財政の破綻、雇用の場の消滅、学校教育や育児、医療、介護の崩壊につながる。ひいては、今でさえ、先進諸国で最低水準の食糧自給のさらなる悪化につながる。その先には、今以上に、どこで、誰が作ったかわからない食糧への依存度が一段と高まることになる。
 いまやシャッター通りと空き家は過疎地の代名詞ではなくなりつつある。地方都市にまで、急速に外延を広げつつあるのだ。

 安倍政権は「農業・農協改革」まで「成長戦略」に取り込むかの言辞を弄している。しかし、そのねらいは、地場の農産業の衰退、そこへの企業参入が辿った上記のような帰結は起こらないという見通しを何ら検証しないまま、「地方創生」なる美辞麗句で人々の期待をかき立て、政権の支持基盤を維持・底上げする点にあると思える。

 最近、私は「無関心は罪」という言葉以上に、「無知は罪」という言葉に魅かれる。国民が政治の主人公になるには、多くの国民が「無知は罪」を自覚できるかどうかにかかっていると思えてならない。

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