BPOへ審議要望書を提出~NHKの瑕疵ある辺野古報道を正すために97名の連名で~
2015年4月22日
4月20日、全国各地で活動している、NHKなどメディアの放送のあり方を考える市民団体の有志とメディア研究者など97名が連名で、放送倫理・番組向上機構(BPO)に対し、
「辺野古の米軍基地建設に関するNHKの報道の不公平と
不作為を正すための審議を求める要望書」
を提出した。私もこの要望書の提出者の連名に加わった。要望書の全文は次のとおりである。
審議要望書全文
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/bpo_henokohodo_yobosho.pdf
また、次のような添付資料2点もあわせて提出した。
添付資料1 「辺野古新基地建設をめぐる動き」(年表)
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/nenpyo_henoko.pdf
添付資料2 「参照番組・記事・論説一覧」
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/sansho_kizi_bangumi_henoko.pdf
要望書は4点にわたって、辺野古の米軍基地建設に関するNHKの報道の瑕疵を指摘しているが、要旨は次のとおりである。
審議要望書の要旨
(1)基地建設に反対する沖縄の民意を伝えない瑕疵
本年1月以降再開された辺野古沖基地建設の準備作業に対して、翁長沖縄県知事だけでなく、沖縄県選出の超党派の国会議員、沖縄県議会、名護市議会、那覇市議会等が工事の中断・中止を求める決議を採択した事実(詳細は添付資料1〔年表〕を参照いただきたい)をNHKはまったく伝えなかった。
また、3月21日、名護市瀬嵩の浜で開かれた辺野古新基地建設に反対する集会には県内外から3,900人が参加(主催者発表)、あいさつした安慶田県副知事は「知事が近いうちに最大の決断をする時期が来ると思う」と発言した。全国紙とともに、「テレビ朝日」、「日本テレビ」はその日のニュースで集会の模様を単独項目で伝えた。しかしNHKは沖縄放送局が当日、「移設計画反対の大規模集会」という見出しで伝えるにとどまり、全国ニュースでは、4日後の3月25日のニュースウオッチ9で、多くの話題の一コマとして約30秒、集会の模様を紹介するにとどまった。
(2)海上保安庁、沖縄防衛局の「過剰警備」の実態を伝えない不作為
海上保安庁、沖縄防衛局は基地建設に抗議行動を続ける地元市民やそれを取材した報道関係者に対し、「警備」に名を借りた暴力・威嚇行為を繰り返してきた(添付資料2を参照)。その実態はメディアの映像に収められており、全国紙も大きな紙面を割いて過剰「警備」の実態を報道した。
しかし、NHKは、2月22日に2人の市民が米軍に拘束され、沖縄県警に逮捕される事件を伝えたのみで、過剰「警備」の実態も、市民、地元首長・議会、沖縄県選出国会議員がこれに厳重に抗議した事実もまったく伝えなかった。
(3)翁長知事と政府との対話をめぐる事実経過をゆがめた不公平な報道
翁長知事は昨年末以降、知事就任のあいさつ、新年度沖縄振興予算ならびに辺野古基地建設反対の要望を政府に伝えるためたびたび上京し、安倍首相、菅官房長官、中谷防衛相らとの面会を要請した。しかし政府関係者はその都度、「知事の上京を知らなかった」、「面会の申し入れはなかった」などとかわし、面会は4月5日まで実現しなかった。
ところがNHKは翁長知事に対する政府の冷遇ぶりは一切伝えない一方、3月24日になって、中谷防衛相が閣議後の記者会見で沖縄県側との対話の姿勢を打ち出すと、一転、これをその日の定時の全国ニュース(3月24日、正午のニュース、23時30分からのNEWS WEB)で伝えた。同じく中谷防衛相が3月27日の閣議後の記者会見で翁長知事と面会し理解を求めていきたいと発言したことも、その日の定時の全国ニュース(NHKNEWS WEB投稿時刻、10時23分)で伝えた。
さらに、NHKは3月26日、菅官房長官が「そんなに遠くないうちに機会があったら〔翁長知事と〕お会いしたい」と語ったことも、その日の定時の全国ニュース(NEWS WEB, 23時30分~)で伝えた。
しかし、中谷防衛相は上記の発言に先立つ3月13日の記者会見で「〔翁長知事に〕こちらから会う考えはない。より対立を深めるなら会っても意味がない」(「時事通信」3月13日、12時16分)と発言した。この防衛相発言は地元紙から厳しい批判・ひんしゅくを浴びたほか、全国紙や在京テレビキー局もその日のニュースで大きく伝えたが、NHKは一切、報道しなかった。
つまり、NHKの報道は、昨年の各種選挙で示された沖縄県民の基地建設反対の民意を政府に伝えようとする翁長知事の面会要請に背を向けた政府の対応は伝えず、「いずれ機会があれば」という政府の断り付きの発言であってもそれを大きく伝えた。
また、3月25日のニュースウオッチ9では、翁長知事、菅官房長官との単独インタビューを終えた大越キャスターの感想という形で、「接点がなかなか見えない中、対話の必要性では政治家どうしの意見は重なるところがありました」という発言を放送した。
しかし、中立、等距離をよそおった、このような伝え方は対話を要請し続けたのは誰で、それを拒み続けたのは誰かをあいまいにし、政府も対話に前向きの姿勢であったかのような印象を視聴者に与えるゆがんだ放送と言って過言でない。
こうした報道のあり方は、「ニュースは、事実を客観的に取り扱い、ゆがめたり、隠したり・・・・しない」という「NHK国内番組基準」第2章第5項2の定めに反している。
(4)「発表報道」への偏向、その裏返しとしての課題設定の役割の放棄
近年、報道の重要な使命の1つとして「課題設定機能」(日々の報道におけるニュースの選択・提示行為を通じて、いま何が重要な課題であるかを報道の受け手の知覚に働きかける機能)が重視されている。この点からNHKの辺野古基地建設に関する報道番組を検討すると、政府首脳の記者会見での定番の発言(「粛々と工事を進める」など)を論評抜きで伝える「発表報道」が大半である。
その結果、辺野古での基地建設をめぐって焦点となっている次のような論点がまったくといってよいほど俎上に乗せられず、視聴者が必要とする判断材料が提供されないばかりか、政府が意識的に喧伝するゆがんだ争点が咀嚼されないまま視聴者に伝えられるという「国策」報道に変質してしまっている。
本来、辺野古基地問題をめぐって、NHKに求められるのは、
①辺野古への移設が果たして沖縄の基地負担の軽減につながる
のか?
②沖縄に駐留する米軍(海兵隊)にどのような「抑止力」があ
るのか? 「抑止力」を認めたとしても沖縄に駐留すること
が必然なのか? 軍事力に依存した「抑止力」は「戦争の脅
威」に対する真の抑止力になるのか?
という課題を設定し、それぞれの課題について国民が理性的な判断をするのに必要な情報を提供することである。
このうち、①の課題を報道するにあたっては、「辺野古への移設」という側面だけでなく、辺野古での基地建設には「軍港の機能」が付け加えられているという指摘(注6)、米軍北部訓練場の一部返還に先立って、東村高江集落近辺にヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設用の土地を提供することが閣議決定され、すでにオスプレイの飛行訓練が激化している事実、伊江島で米軍の最新鋭ステルス戦闘機(F35B)の配備・訓練が計画され、伊江村議会は3月20日、計画の即時中止を求める決議と意見書を全会一致で可決した事実など、沖縄全域での米軍再編の動きを調査した上での報道が不可欠である。
また、②の課題を報道するにあたっては、沖縄に駐留する海兵隊はどのような任務を負い、どのような活動をしてきたのかを調査の上、報道する「調査・取材報道」が不可欠である。
ところがNHKは、この間、「クローズアップ現代」や「NHKスペシャル」などで辺野古基地建設の動きはもとより、沖縄における米軍基地再編の動きをテーマにした番組を一度も企画しなかった。
「放送法」(第4条第1項第4号)は、「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」を求めているが、NHKの報道は政府発表をそのまま伝える「発表報道」に終始している。その結果、独自の調査・取材を通じて沖縄での基地建設の実態を多角的に伝えるという点でも、政府が強調する基地負担の軽減の真偽を判断する材料を国民に提供するという点でも、著しく瑕疵のある報道になっている。これは報道番組の質の面でも由々しい問題である。
私たちは、以上指摘したNHKの辺野古基地建設をめぐる報道の瑕疵について貴機構が「放送法」等の精神に則って慎重に審議し、NHKの報道の政治的不公平、不作為を正すとともに番組の質の向上を促す措置(意見表明、勧告等)を講じてくださるよう、要望する。
「もっと届け 大切なこと」
~誰に向かって言うセリフか?~
今朝の報道によると、「クローズアップ現代」(「出家詐欺」)に「やらせ」があったとして、番組に出演した人物がBPOに申し立てをしたとのことである。そのような疑惑が提起された以上、BPOはもとより、NHKは番組に対する視聴者の信頼を裏切る「やらせ」があったのかどうか、徹底究明するのは当然である。
しかし、沖縄の基地問題、憲法「改正」、安全保障の法整備、秘密保護法の法整備、TPP交渉、労働法制の見直しなど、国政の重要課題をめぐる今のNHKの報道を見ていると、論評抜きの「薄味報道」、官邸のプレス・リリースと大差のない「発表報道」が大半である。
これでは、NHKが19時のニュースの直前に流す「もっと届け 大切なこと」というフレーズは誰に向かっていうセリフなのかと失笑してしまう。
BPOも世間の耳目を集める話題の審議ばかりに追われるのではなく、報道機関がその根幹的使命――国政をめぐる重要問題について、理性ある判断に資する材料を国民に提供するという使命――を果たせているのかどうかについて、真正面から取り組むよう、求めたい。
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