個人番号の利用事務等の停止を求める申し立て書を提出
2015年11月11日
マイナンバー、87%が「不安を感じる」
各自治体から住民へのマイナンバー(個人番号)の通知するカードの送付が始まった。来年1月から運用が予定されている。
しかし、内閣府が今年の7月23日から8月2日まで行った「マイナンバー(社会保障・税番号)制度に関する世論調査」(調査対象3,000人、有効回答数1,773人、調査員による個別面接聴取)によると、マイナンバー制度の「内容まで知っていた」と答えたのは今年1月の調査の時(28.3%)と比べて、43.5%まで増加しているが、それでも制度の周知はまだ半分以下である。
では、周知度が上るのに応じて回答者の間でマイナンバー制度に関する理解・信頼度は高まったのか?
これについて、内閣府の上記世論調査は、マイナンバー制度における個人情報の取扱いに関して、最も不安に思うことは何かを1項目選択形式で尋ねている。この設問に対して、有効回答者の14.4%が「国により個人情報が一元的に管理され、監視・監督されるおそれがある」を選び、34.5%が「個人情報が漏えいすることにより、プライバシーが侵害されるおそれがある」、38.0%が「マイナンバーや個人情報の不正利用により、被害にあうおそれがある」をそれぞれ選んでいる。つまり、有効回答者の86.9%がマイナンバー制度における個人情報の取扱いに関して不安を抱いていることになる。他方、不安に思うことは「特にない」を選んだのは9.1%にとどまっている。
また、「あなたは、個人番号カードの取得を希望しますか」との設問については、「希望する」は24.3%「希望しない」の25.8%を下回っている。もっとも多いのは「現時点では未定」で47.3%に達している。
内閣府政府広報室「『マイナンバー(社会保障・税番号)制度に関する世論調査』の概要」
http://survey.gov-online.go.jp/tokubetu/h27/h27-mynumber.pdf
つまり、周知度が高まったといっても、個人番号を取得したものかどうか態度を決めかねている人が47%に上り、態度を明らかにした人でいえば、カードの取得を希望しない人の方が希望する人より多いのが実情である。また、マイナンバー制度の周知度は高まったといっても、個人情報の取り扱いに関して不安を持つ人の割合は今年1月の調査の時(83.1%)よりも増えているのが実態なのである。
このような状況でマイナンバー制を導入するのは民意を顧みない「見切り発車」のそしりを免れない。
アメリカで広がったなりすまし被害~毎年5兆円の損害~
現に、アメリカでは多くの個人情報をひも付けした「SSN」(Social
Security Number)と呼ばれる社会保障番号が悪用される事案が深刻化している。その一端は指定都市市長会がまとめた次の資料で紹介されている。
「米国社会保障番号の不正利用によるなりすまし被害と日本のマイナンバー制度における対応」(2014年10月20日、指定都市市長会作成) http://siteitosi.jp/conference/honbun/pdf/h26_10_20_01_shiryo/h26_10_20_05_01.pdf
これによると、SSNを悪用した「なりすまし被害」は2006年~2008年の3年間で1,170万人、損害額は毎年約5兆円と報告されている。事例として、行政分野では年金・医療給付金等の不正受給、失業給付金の二重受給、民間分野では他人の社会保障番号による銀行口座の開設などが挙げられている。
また、アメリカ政府機関の統計では2014年には、16歳以上の7%にあたる延べ1760万人が被害に遭ったといわれている。
http://news.yahoo.co.jp/feature/53
この記事によると、「こうした『なりすまし詐欺』は、多くの場合、番号とともに住所、氏名、口座情報がセットで盗まれて起きる。病院で診察を受ける際に医療費控除のために記入した書類が外部に漏れたり、勤務先で作成された所得申請の書類がごみ箱から拾われるなどして、流出するケースもあるという。また、ショッピングサイトなどで入力されたSSN情報がハッキングされ、流出してしまうということもある」という。
上記の記事は終りの方で、米国でのSNNによる被害をいくつも見てきたエヴァさんは日本人向けに次のような警告をしている。
「日本版マイナンバーはアメリカのSSNと似ている部分がある。」「SSNも当初は社会保障の分野だけで使われるという政府のメッセージがありました。そして、いつからか多目的で使用されるようになりました。日本の皆さんは私たちを見てそれを避けることができるはず。政府にマイナンバーにはどのような未来が待っているのか強く説明を求めるべきです。」
通知カードの受け取りを拒否しても個人情報の利用は止められない
最近、マイナンバーの通知カードの受け取りを拒否しようとか、そうすることでマイナンバー制度を止めることができるとかいった議論が見受けられる。私はマイナンバー制度の専門家ではないが、カードの受け取りを拒否しても個人情報を守るという点では全く効果がないことは確かである。
2013年4月20日にビデオドットコム・ニュースに出て共通番号制につき、青木理さん、宮台真司さんと議論をした。その時、「共通番号制から離脱する権利を認めよ」と発言した。
「共通番号制」から離脱する権利を認めよ」
(醍醐聰 マル激トーク・オン・ディマンド 第627回)
http://www.videonews.com/marugeki-talk/627/
「小さく生んで大きく育てる」ではないが、12桁の個人番号をキーにしてやり取りされる情報は当初は従前の住基ネット情報と同じでも、順次、民間活用を拡大していくことが法の施行当初から謳われている。また、番号法(正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」)の第6条では個人番号の利用事務は特段の制約もなく(入札審査に委ねて)委託、再委託をすることができるとなっている。
こうなると、12桁の個人番号をキーにして情報を授受する組織や個人が住基ネットの時(行政機内にとどまっていた)と比べ、格段に広がり、それだけ、職歴、婚姻歴、その他、個人情報が漏えいしたり、本人になりすました不正利用が広がる恐れがある。
そうであれば、自分の情報をどう管理するかは自分が決める「自己決定権」が個人に保証されることが重要だ。そのためにはマイナンバー制度に参加しないという選択肢が保証されてしかるべきである。
今回、成立した通称、番号法(正式名称は「「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」)にそって言いうと、マイナンバー制度から個人情報が漏えいし、不正使用されるリスクを断つには、法第2条第10条で定められた「個人番号利用業務」(12桁の個人番号をキーにして、行政機関内のの各種部署、業務の委託・再委託先、医療機関、勤務先などが、さらに将来はハローワークや銀行その他の民間機関などへ拡大して、個人情報をやり取りする業務)を停止させる以外ないと考えるに至った。
地元市長あてに「利用業務の停止」を求める申立書を提出
これについて、先月、地元の市役所に3回出かけ(『週刊金曜日』の記者は3回とも同行取材し、最後の時は『毎日新聞』の記者も同行取材した)、役所の担当者とのやりとりを通じて、「個人番号利用業務」を止めることが問題の核心だということを確かめた。(2回目の模様を伝えた記事が『週刊金曜日』2015年10月23日号に掲載された。)
その上で、私は10月29日に以下のような、私の「個人番号利用業務等の停止を求める申し立て」を市長あてに提出した。時間の関係で大変簡素な文書となった。
受け取った行政側が「はい分かりました」と応じるとは思っていないが、申し立てを拒むなら拒むで、どのような根拠を示すのか、質したいのである。
2015年10月29日
佐倉市長
蕨 和雄 様
「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」に基づく個人番号利用事務等の停止を求める申し立て書
(住所)××××
醍醐 聰
後掲の理由により、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下、「マイナンバー法」)の第2条各項、第9条、第10条に基づく、私の個人番号に係る「個人番号利用事務」ならびに「個人番号関係事務」(以下、「マイナンバー法」第10条第1項にならって「個人番号利用事務等」と略す)の全てを直ちに停止または取り消しされるよう申し立てます。
この申し立てに対する貴職の対応を2015年11月13日までに私宛に返答下さるよう、お願いいたします。
申し立ての理由
1.「マイナンバー法」の施行にあたり、政府として個人情報の安全・安心に配慮するのは当然ですが、それを前提としてもなお、内閣府が今年の7~8月に実施した世論調査では、個人情報の取り扱いについて不安を感じる回答が86.9%(国により個人情報が一元的に管理され、監視・監督されるおそれがある14.4%、個人情報が漏えいすることにより、プライバシーが侵害されるおそれがある34.5%、マイナンバーや個人情報の不正利用により、被害にあうおそれがある38.0%。各項目は1つのみの選択回答の結果)に上っています。また、カード取得希望者は「希望しない」が26%で「希望する」の24%を上回っています。
私も同様の懸念を抱いており、このような状況でマイナンバー法の施行を見切り発車することは、到底許されず、これに協力することをためらうのは当然です。
2.日本国憲法第13条で定められた国民の権利には、国民各自が自分の情報を意に反して利用・管理されないとする条理が含まれていると解するのが判例上、学説上、有力です。マイナンバー法に基づく「個人番号利用事務等」は、国民の意に反する個人情報の利用・管理を含み、容認できません。
3.「マイナンバー法」は国の責務(第4条)、地方公共団体の責務(第6条)を定めていますが、事業者については国および地方公共団体の施策の実施に協力するよう「努めるものとする」(第6条)と定めるにとどめています。
さらに、国民、住民については国および地方公共団体の施策の実施に協力するよう義務づけた定めはもとより、協力を求める明文上の定めもありません。
以上
申立書に記したとおり、番号法では、国の責務(第4条)、地方公共団体の責務(第5条)、事業者の努力(第6条)は明記されているが、住民の協力義務、応諾義務は一切、明記されていない。
また、確定申告書に12桁の番号を記載する欄が設けられるが、国税庁がまとめたQ&Aでは、個人番号が記載されていなければ確定申告ができないわけではないと記されている。
国税庁「マイナンバー 国税分野におけるFAQ」(Q2-3-2参照)
https://www.nta.go.jp/mynumberinfo/FAQ/04kokuzeikankei.htm
各地で同様の申し立てを!
すでに住民基本台帳情報を使った自衛隊員適齢の新卒者の名簿集めに行政が協力するという事態が各地で起こっている。
衆議院 阿部知子 質問主意書(平成二十六年九月二十九日提出)
「高校生等に対する自衛官等募集ダイレクトメール送付及び住民基本台帳情報利用に関する質問主意書」http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a187002.htm
「<社説>自衛隊に適齢名簿 個人情報提供は抑制を」
(『琉球新報』2015年10月26日)
http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-160496.html
こうした事態は、国家が個人の情報を収集し、管理する先に何が起こりうるかを示すものである。法的にはさまざま検討課題があるにせよ、私と同様申し立てを各地で起こしていただき、個人の情報管理の自己決定権の価値、ならびに個人情報を国家が一元的に管理する危険性を社会に訴える運動を一緒に広げていければ幸いである。
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