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戦時性犯罪の償いと反省を政治決着で幕引きしようとする野卑で傲慢な企て~「従軍慰安婦」問題をめぐる日韓政治「決着」を考える(1)~

20151231
 
日韓合意の要点
 1228日、日韓両国外相はソウルで行った会談後に共同記者会見を開き、いわゆる「従軍慰安婦問題」で合意に達したと発表した。
 それによると、日本政府は、
 ①慰安婦問題は、旧日本軍の関与の下で多数の女性の名誉と尊厳を深く
  傷つけた問題であり、政府として責任を痛感していると表明。安倍首
  相はこの点について心からおわびと反省の気持ちを表明する、
 ②韓国政府が元慰安婦の支援を目的とした財団を設立した場合、日本政
  府の予算で資金を一括で拠出する。規模は概ね10億円程度とする、
とすると表明した。

 一方、韓国政府は、
 ③日本政府の表明と今回の発表に至るまでの取り組みを評価する、
 ④日本政府が在韓日本大使館前に設置されている少女像について、関連
  団体と話し合いを行い適切な形で解決するよう努力する、
と表明した。

 その上で日韓両国政府は、
 ⑤今回表明した措置が着実に実施されるとの前提で今回の発表により、
  この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する
 ⑥両国政府は今後、国連等国際社会において、本問題について互いに避
  難・批判することは控える、
ことで合意したと発表した。

日本国内の反応
 今回の合意について、日本国内では与野党を問わず、前向きの評価でそろった。維新の党の今井雅人幹事長は朴政権から、今後、慰安婦問題について「蒸し返さない」との言質を得たことを評価したいというコメントを発表。民主党の長島昭久党ネクスト外務大臣も「このような未来志向の合意ができたことを率直に歓迎したい」と評価した。日本共産党の志位和夫委員長も、日本政府が上記①②の見解を表明したことを挙げて「これらは、問題解決に向けての前進と評価できる」との見解を発表した。社会民主党の又市征治幹事長は、日韓国交正常化50周年の節目の年に合意したのは一歩前進と評価しつつ、問題をこじらせてきたは安倍政権の歴史認識によるところが大きかった、とコメントした。(以上、『財経新聞』1229日)

 しかし、マスコミの間では、日韓両国の国交正常化に向けた前進と評価する点では一致しながらも、両国政府、特に韓国政府が国内の不満を説得して合意を確実に履行できるかどうか、さらには両国国民レベルで和解が円滑に進展するかどうか、なお課題が山積していると指摘している。
 また、これまで安倍首相を嫌韓のエースとみなしてきた国内の保守層の間からは、日本政府が「軍の関与」を認め、償い金として10億円を拠出すると表明したことに失望と怨嗟の声が起こっている。

韓国国内の反応
 他方、韓国内では政府の思惑に反し、反発が広がっている。最大野党の「共に民主党」の李鍾
●院内代表は1230日、記者会見で、元慰安婦の意見が排除された上、韓国政府が一方的に譲歩し、日本政府に法的責任を認定させるという原則が合意に反映されなかったと批判、合意を白紙に戻して再交渉するよう政府に求めた。
 また、韓国で従軍慰安婦問題を中心的に担ってきた「韓国挺身隊問題対策協議会」(以下、「挺対協」と略す)は1228日に声明を発表。その中で、今回の日韓両国政府の合意は日本政府に対して国家的法的責任を明確に認定するよう求める元慰安婦や韓国国民の願いを徹底的に裏切った外交的談合に他ならない、と厳しく批判した。この「挺対協」の声明には私たち日本人も傾聴すべき内容が含まれていると思えるので、声明の要点を列挙しておく。

 ①日本政府は「慰安婦」犯罪に旧日本軍が関与した事実を認めたが、軍の「関与のレベル」が問題なのではなく、日本政府が主体となった組織的犯罪であったという事実こそが重要である。しかし、今回の「合意」にはこの点の認識を見出すことができない。
 ②日本政府は加害者として、「慰安婦」犯罪に対する責任認定と賠償などの後続措置事業を履行しなければならないにもかかわらず、財団を設立するという形で、その義務を被害国政府に放り投げて手を引こうとする意図が見える。
 また、今回の合意は日本国内でなすべき日本軍「慰安婦」犯罪の真相究明と歴史教育などの再発防止措置について全く言及されていない。
 ③このようなあまりに不完全な合意を得るために韓国政府が、今回の発表を通じて日本政府とともに、この問題が最終的および不可逆的に解決することを確認したのは、小を得るために大を渡してしまった、あまりに屈辱的外交である
 ④韓国政府が、平和の碑(「慰安婦」の少女像)の撤去という日本政府のあきれた条件を受け入れるだけでなく、今後、日本軍「慰安婦」問題を口にしないという条件を受け入れたのは心底から恥ずかしく失望した
 生きた歴史の象徴物であり、公共の財産である平和の碑に対し、韓国政府が撤去および移転を云々したり介入したりすることはありえない。
 ⑤被害者と市民社会が受け入れることのできない今回の合意で政府が最終解決を確認することは、明らかに越権行為であり、被害者をふたたび大きな苦痛に追いやる所業である。

 また、当の元「慰安婦」の女性たちも、合意の説明に訪れた韓国外務省の高官に対し、「あんた誰よ」、「会談より前に被害者に会うべきでしょう。年寄りだからといって無視するの?」「韓国外務省は何てことするんだ!」と激しい口調で政府の対応を非難した(1229日、TBSニュース)。別の施設で生活する元「慰安婦」の女性も「まだ妥結などしていない」、「安倍首相が『悪かった、許してほしい』と謝罪すべきだ」と主張した(1229日、共同通信)

 さらに、韓国国内の反応として注目されるのは、韓国の世論調査会社リアルメーターが1230日に発表した少女像の移転に関する世論調査(1229日に成人535人を対象に実施)の結果である。それによると、回答者の66.3%が「反対」と回答、「賛成」は19.3%にとどまった。しかも、重要と思われるのは、世代別の「反対」の割合である。20代では86.8%に達し、30代では76.8、以下、40代は68.8%、50代は59.9%、60代は45.1%と、若い世代ほど反対が多くなっている(以上、ソウル聯合ニュース、1230日、1553分配信)。

 朴槿恵大統領は日韓両国の合意を受けて28日、国民に向けたメッセージを発表した。その中で朴大統領が強調したのは、元慰安婦の高齢化が進む中、一刻も早い被害者の名誉の回復を目指したという事情説明だった。しかし、これに対して、上記の「挺対協」の声明は「被害者が一人でも多く生きているうちに解決すべき優先課題であるが、決して原則と常識を欠いてはならず、時間に追われてかたをつけるような問題ではない」と反論した。 

早くも表面化した両国政府の解釈の食い違い
 また、今回の合意で「慰安婦」問題の最終決着を確認しあった日韓両国政府間でも、合意の条件、前提をめぐって早くも解釈の食い違いが生じている。交渉にあたった岸田外相は日本政府が同意した10億円の拠出は少女像の移転が前提との認識を示したが(「朝日新聞」1230日)、韓国政府当局者は同じ日に、こうした日本メディアの報道を「完全なねつ造」と強く批判した(ソウル聯合ニュース。1230日、1251、「朝鮮日報」Online掲載)

 さらに、今回の合意のキーワードの一つといえる「不可逆的」という文言の解釈についても、日韓双方の報道には食い違いが見られる。日本の報道では、「不可逆的」とは、安倍首相の強い指示で挿入されたもので、今回合意した措置が履行されることを条件にして今後は「慰安婦問題」を蒸し返さないこと、と説明している。
 しかし、12301004分の韓国「中央日報」のニュース記事によると、韓国政府当局者はこうした報道に直ちに反論、「不可逆的」とう表現を入れるよう提起したのは韓国が先で、その意味するところは、過去に日本の政治家が河野談話などを否定する発言を繰り返したことを念頭に置き、「もうこれ以上、言葉を変えるな」という趣旨であると強調したと伝えている。

 双方あるいは一方の政府の国内向け解釈といえばそれまでだが、戦時性犯罪という歴史上の深刻かつ残虐な問題を、アメリカの強い「和解」要請を背に短期間で、政治的思惑がらみで、当事者である被害者の意向抜きに「最終決着」を図ろうとした無理が早くも露呈したものといえる。

不可解な日本共産党の見解

  ここで、話題を日本国内の反応に戻したい。今回の日韓両国政府の合意に関して、韓国国内で反発や異論が広がっているのと対照的に日本では、合意の先行きを危惧する論調はあるものの、合意そのものに対する根本的な異論や批判は見られない。私が問題にしたいのはこの点である。

 さきほど紹介した民主党の長島昭久党ネクスト外務大臣は自身のツイッター(@nagashima211228日)に次のような書き込みをしている。
 「今回の合意に一番苛立っているのは彼の国でしょうね。それが伝わってくるコメントです。そういう意味でもこの合意には戦略的な意義があると思います。国際社会は日本の姿勢を賞賛するでしょう。」
 ここには、韓国国内での反発を対岸の火事のごとく様子見し、今回の合意を政治的思惑絡みで評価する底意が見え隠れしている。
 もっとも、安倍首相の熱烈な支持者である金美齢氏の事務所に招かれ、下村博文・元文科大臣や百田尚樹氏らと親しく会食する長島氏であってみれば、こうした書き込みをするのも驚くに足らないかもしれない。

 私が奇異に思うのは日本共産党の反応である。同党の志位和夫委員長は合意が発表された翌1229日の「しんぶん赤旗」紙面に談話を掲載した。その末尾で、今回の合意を「問題解決に向けての前進」と評価し、「今回の日韓両国政府の合意とそれにもとづく措置が、元『慰安婦』の方々の人間としての名誉と尊厳を回復し、問題の全面的解決につながることを願う」と記している。
 今回の合意が問題の全面的解決につながることを願うと記されていることから、同党が今回の合意を以て「慰安婦」問題の最終解決とはみなしていないことは窺い知れる。しかし、それにしても、今回の合意が「問題解決に向けての前進」となぜ評価できるのか? 
 なによりも、ここで指摘しなければならないのは、志位氏によって、今回、合意された措置が、人間としての名誉と尊厳の回復につながることを期待された当の元「慰安婦」女性、ならびに韓国で彼女らの名誉と尊厳の回復を目指す運動を長きにわたって続けてきた「挺対協」が、前記のとおり、今回の日韓両政府合意に激しく反発し、被害者と韓国国民の願いを徹底的に裏切った外交的談合と断罪した事実を志位氏はどう受け止めるのか? 
 また、それ以前に、「願い」や「期待」を表明する前に、今回の合意とそこで示された措置が、元「慰安婦」の人間としての名誉と尊厳を回復し、問題の全面的解決につながるものかどうかを、どこまで主体的に吟味したのか? こうした点について同党の見解を知りたいと思う。

私のそもそも論
 続きは次の記事に回すが、私が考える論点を前触れすると次のとおりである。 

 ・わが国では与野党、マスコミを問わず、日本政府が示した「元日本軍の関与」、「責任の表明」、安倍首相の「おわびと反省の気持ち」を大きく報道し、それが合意を導く要因の一つになったと論評している。しかし、これらの文言は目新しいものなのか? 日本の歴代首相や政府関係者は、この種の表現を一切しなかったのか?
 言及したにもかかわらず、日韓関係がこじれたままになった原因はどこにあったのか?

 ・歴史上の問題、特に人間の尊厳の根幹にかかわる戦時性犯罪に関する反省は、個々の言葉で済む問題ではなく、歴史認識の共有、長きにわたって反省を妨げてきた要因の解明とそれを克服するための行動(関係資料の公開と討論、歴史教育の改革など)が欠かせない。今回の「合意」に至る過程でそうした努力が十分になされたのか?

 ・「不可逆的」というが、歴史上の犯罪行為に関する認識と教訓の継承に「不可逆性」とか「決着」とか「終止符」とかいったことが、そもそもありうるのか?

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参議院選挙の共通公約について野党党首に要望書を提出

20151215

【追記(2015年12月16日)
 記事をアップした後で、タイトルが重要だなと思い返すことがある。今回の記事もその一例。以下の記事で言いたかったことを直截に言うと、「なぜ安保関連法一点なのですか? 辺野古、原発再稼働、消費税増税、法人税減税など税制と社会保障の問題などその他の課題はどうなんですか? 一点に絞った方がまとまりやすい、支持が広がりやすいと言えるのですか? 事実はその逆ではないですか?」ということです。

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  目下、野党間で来年7月の参議院選挙に向けた選挙協力のあり方、その際に掲げる公約(以下、これを「共通公約」と呼ぶことにする)について協議が行われている。

 この件で筆者は今日、野党5党の党首(民主党代表・岡田克也氏、日本共産党委員長・志位和夫氏、維新の党代表・松野頼久氏、社民党党首・吉田忠智氏、生活の党と山本太郎となかまたち代表・小沢一郎氏・山本太郎氏)宛てに次のような要望書を発送した。

「目下の重要課題を共通公約に掲げた選挙協力を」
 
~来年の参議院選に臨む野党各党への要望書~
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/yobosho_yato_toshu_ate20151215.pdf

 タイトルをご覧になったら、漫然とした要望と受け取られそうである。しかし、このような仰々しい文書を1個人として野党党首に送ったのは、目下、野党間で進められている共通公約の協議のあり方に強い疑問を感じているからである。
 
 要望書の全文を書き出すと長くなるので、ここでは、私が目下、野党間で進められている共通公約の協議のどこに疑問を感じているか、それをどのように改めるよう要望したかを記した箇所を転載しておきたい。

安保関連法廃止の他に3つの課題を共通公約に
 
~辺野古基地・原発再稼働・税制改正~

1.国内外の平和に重大な脅威をもたらす安保関連法の廃止を共通公約に掲げること 
 
 目下、安保関連法の廃止と立憲主義の回復を共同の目標に掲げた選挙協力が協議されています。確かに安保関連法はその内容において戦後日本が世界に誇ってきた平和憲法の条項を根底から覆すものです。また、法案審議の過程を振り返れば、参議院特別委員会での審議は、参議院議事規則を踏みにじった「採決不存在」、「議事録偽造」と称すべき実態を経たものです。それだけに、安保関連法は一刻も早い廃止が望まれ、それを可能とする政権を誕生させることが喫緊の課題です。

2.移設条件なしの普天間基地閉鎖、辺野古基地建設阻止を共通公約に掲げること
 
 しかし、安保関連法の廃止だけに絞った選挙協力・共同でよいのかというと、私はそうではないと考えます。目下の国政では辺野古への基地移設、当地での新基地建設をめぐる国の工事強行、それを阻止ずる沖縄県内外の運動の対峙が正念場にさしかかっています。普天間基地の危険性を除去する責任が沖縄県にあるかのような物言いで、辺野古への基地移設を沖縄に迫る政府の主張は翁長知事の反論にあるとおり、政治の堕落です。
 
 沖縄県と国の間の裁判の帰趨にもよりますが、来年7月前にもボーリング調査を経た埋め立て工事が強行される可能性を否定できません。それだけに来年の国政選挙は辺野古への基地移設・当地での基地建設を阻止する上で分岐点となる選挙といって過言ではありません。この選挙で、政府による辺野古基地工事の強行にNoの民意を突きつけることが、タイミングの上でも、決定的に重要です。
 
 野党各党は政府・自民党が強行しようとする辺野古基地建設に反対で一致するはずだと私は考えますが、どうなのでしょうか? 野党までが選挙協力のための共通公約から、辺野古基地問題を外すなら、沖縄切り捨てと言われてもやむを得ません。ぜひ、移設条件なしの普天間基地閉鎖、辺野古基地建設阻止を共通公約に掲げ、国民に信を問うていただくよう要望します。

3.「出口がふさがった原発再稼働は認めない」を共通公約に掲げること
 
 福島第一原発の事故の教訓を忘れたかのように、目下、各地で原発再稼働に向けた動きが進んでいます。しかし、その福島第一原発では廃炉に向けた工程は一向に見えないばかりか、放射能漏れや汚染水の流出が止まりません。その上、使用済核燃料の再処理を掲げた核燃料リサイクル事業の破綻がいっそう明瞭になってきました。
 
 その一方で、福島第一原発事故以来、原子力なしでも電力供給は所定の予備率を確保した上で、滞りなく需要に応じました。 また、直近の四半期決算では、すべての電力会社が、原発が休止した状況でも、黒字に転じました。
 
 こうした状況の下で、使用済核燃料の処理の目途がないまま再稼働を認めることは、はけ口のない器に危険な物質を注ぎ続けるに等しく、未来の世代に対する無責任極まりない政策です。この意味で、「出口がふさがった原発再稼働は認めない」は野党の共通公約になり得るし、そうならなければならないと考えますが、どうなのでしょうか?

4.税制・財源に関する具体的対案を共通公約に掲げること
 
 安保関連法以外の課題の中で、避けて通れないのは経済分野の課題です。取りわけ、逆進性を払拭できない消費税率の引き上げを図る一方で、根拠のない法人税減税を連年、実施しようとする自公与党の税制大綱は、応能負担の理念を蹂躙する不公正な税制の極みであり、こうした税制の撤回を公約に掲げることは多くの国民の意思に合致すると私は確信しています。
 
 若年世代の多くが将来の就業不安、結婚もままならない低賃金に苦しみ、高齢世代の多くも将来の健康・要介護の不安、老後破産などの不安を抱える中で、多くの国民は社会保障や景気の先行きに強い関心を寄せています。
 
 そうした中で行われる来年の国政選挙にあたって、野党が安保関連法の廃止に絞った選挙協力を目指すとすれば、大きな過誤を犯すことになり、選挙結果を見通しても重大なマイナス要因になるのではないかと危惧します。

 そこで、野党各党が来年の選挙に臨まれるにあたっては、別紙で詳細をご説明する税制関連の公約、つまり、道理のない法人税減税を中止し、法人税率を2013年度時点の水準に戻すとともに、所得税の分野で高額所得者を優遇している金融所得の低率分離課税を廃止する、それとセットで、消費税率の10%への引き上げを中止し、現在の8%に据え置く、をぜひとも共通公約に掲げていただくよう要望します。

税制改正私案詳細説明(これについては、このブログの次の記事で取り扱う。)
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/appendix_zeiseikaiseisian_shosaisetumei.pdf

税制改正私案関連資料 No.1
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/tax_data1.pdf
 

税制改正私案関連資料 No.2
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/tax_data2.pdf
 

安保関連法廃止に絞るのは過誤。民意を冷静に見極めて
 
 最後に申し上げたいのは、課題を1点に絞った方が共同の輪を広げやすいと決めてかかるべきではないということです。国政上で喫緊の課題が複数あるなら、それらの諸課題について一致点を探る努力が必要です。
 
 この点で、安保関連法の廃止は日本の将来の平和と安全にとって、ゆるがせにできない課題であると同時に、世界の平和にも大いに貢献する重要な課題です。
 
 しかし、多くの有権者は安保関連法だけに関心を向けているわけではなく、目下の消費税増税の行方、就業の安定と雇用条件の改善、社会保障の充実等にも強い関心を向けています。

 また、沖縄の民意と自治権を踏みにじり、根拠もない沖縄駐留の米国海兵隊の抑止力にしがみついて辺野古基地建設を強行しようとする政府の理不尽な国策に対し、疑問、怒りを感じている有権者が過半を占めています。何よりも歴史上、幾度となく「琉球処分」の再現と言ってよい沖縄切り捨てを繰り返してきた自民党政権を断罪することは日本の政党と全国の有権者に課された責務と言っても過言ではありません。
 
 であれば、辺野古建設に向けた工事が強行されようとするさなかに行われる国政選挙で、自民党政権と対峙する野党各党が辺野古基地建設阻止を共通公約に掲げるのは当然のことではないでしょうか。

 さらに、将来のエネルギー構成に関して野党間で種々の意見があるにせよ、出口のない核燃料を増殖させる原発再稼働を止めることは未来の世代に対する現世代の道義的責任であるという点では野党各党の見解の一致は十分可能と考えます。

 そもそも、安保関連法の廃止を願う有権者の中で、辺野古基地の建設には賛成する、原発再稼働には賛成する、消費税の増税にも賛成するという人々はどれくらい、いるのでしょうか? 実態はおおむね、その逆ではないでしょうか?
 
 このような有権者の目線に立てば、安保関連法の廃止の他に、上記の3つの課題を共通公約に掲げることで、支持が広がることはあっても狭まることはないと思います
 
 野党の中には当面、安保関連法廃止に絞った暫定政権を目指し、その目的を成し遂げたのち、すみやかに総選挙を行うという構想もあります。しかし、そのような構想はどれほどの有権者の共鳴を得るでしょうか? いかに安保関連法が重大とはいえ、国政選挙という以上、有権者はそれ以外の重要な課題も判断材料に加えて1票を投じるはずです。自らの価値判断と有権者の価値判断にずれはないか、慎重に見極めて共通公約と選挙協力、政権構想のあり方を協議されるよう要望します。

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