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思想としての立憲主義、毒薬条項としての緊急事態条項

2016111

 今国会で安倍首相はこの夏の参院選(衆議院とのダブル選挙の可能性も論じられている)で改憲に必要な3分の2超の議席獲得に意欲を示している。その改憲で要注目は自民党の憲法改正草案で謳われている「緊急事態条項」である。

 私は昨年95日、6日、神戸で開催された第19回中小商工業交流集会の憲法講座のセッション(95日)に、石川康宏(神戸女学院大学)さんともにゲスト・スピーチをした。私のスピーチのタイトルは「日本国憲法から読み解く戦争法案の違憲性と欺瞞性」で、石川さんは「憲法をめぐるたたかいの可能性」だった。
 2人のスピーチの全文とその後の質疑の模様をまとめた報告集の抜粋(URL)を石川さんが、ご自身のツイッターに掲載されているので、目下の政治状況に照らして、このブログでも紹介することにしたい。ただし、ここでのスピーチは安保関連法案(戦争法案)が参議院で可決される日が近いと報道された時期に行ったものであるという事情を断っておく。

19回中小商工業交流集会 憲法講座(報告集からの抜粋)
醍醐聰「日本国憲法から読み解く戦争法案の違憲性と欺瞞性」
石川康宏「憲法をめぐるたたかいの可能性」
質疑)。『第19回中小商工業全国交流・研究集会 報告集』2016年12月
)。『第19回中小商工業全国交流・研究集会 報告集』2016年12月
http://walumono.typepad.jp/files/160107-%E5%85%A8%E5%95%86%E9%80%A3%E7%A0%94%E7%A9%B6%E9%9B%86%E4%BC%9A-%E6%86%B2%E6%B3%95%E8%AC%9B%E5%BA%A7-2.pdf

 全文を貼り付けると長くなるので、私のスピーチの中で、今の政治状況に照らして意味があると思える2つの部分――思想としての憲法・立憲主義に触れた部分と、緊急事態条項に触れた部分――の原稿を転載しておきたい。文中、不正確な話し言葉があるが、報告集に記載のまま転載することにした。

思想としての憲法・立憲主義
 
 醍醐と申します。私は憲法の専門家、法律の専門家ではございませんので、法律論をお話しするのは大変おこがましいと思いますが、きょうは憲法といいましても、とにかくこの戦争法案をどうするのかということで、皆さんの関心もそこに集中していると思いますので、国会審議を通じて浮かび上がってきた戦争法案の問題点、論点、核心部分を、立憲主義、あるいは、憲法に引き寄せて考えたいと思います。
 きょうは新幹線でこちらに出向いたんですけれども、車内のニュースのテロップでは、自民党、与党は15日に参考人招致をやる。16日に参議院の安保特別委員会で採決する。そして、同日、16日に本会議で即時可決する、採決すると、そういう方向で固まってきたと伝えてきております。従って、この1週間半の間が、本当に日本の歴史を左右するような重大局面に立っている、そういうつもりでお話をさせていただきたいと思います。

 まず、最初に、法律論としてではなく、思想としての憲法、あるいは、立憲主義というものはどういうものなのかということを考えておきたいと思うわけです。
 まず、立憲主義という言葉がこの間盛んに使われますが、その基礎にある考え方というものは、何なんだということを、少し歴史的にさかのぼって考えてみますと、アメリカの大統領のトーマス・ジェファソンという方を、皆さんもよくご存じだと思いますが、彼が講演したことが、ケンタッキーの州議会の決議という形で残されております。
 その中に次のようなくだりがあります。「信頼はどこでも専制の親である」信頼といえば、お互い同士の良好な関係のきずなのように、普通私たちは思うんですけれども、しかし、立憲主義の考え方、国民と政府との関係に関して言えば、逆だと。信頼というものは専制を生む土壌だということを言っているわけです。自由な政府は、信頼ではなく、疑い、猜疑(さいぎ)に基づいて建設されると。憲法の問題においては、他人に対する信頼に耳を貸さず、憲法の鎖によって、政府が非行、悪い事をしないように拘束する、縛っておく必要があると。この言葉は、まさに立憲主義の核心をずばり突いた言葉ではないかと思うんですね。国民は政府を疑ってかからなければいけない。やすやすと信頼したら、これは危ないことになるということですね。


 次に、またこれも日本で有名な思想家、植木枝盛という人を知っておられると思います。その植木枝盛の評論集が岩波文庫から出ている『植木枝盛選集』というのがございます。その中に、「世に良政府なるものなきの説」という、1877年に書かれた文章なんですね。「人民にして政府を信ずれば、政府はこれに乗じ、これを信ずること厚ければ、ますますこれに付け込み、もしいかなる政府にても、良政府などといいて、これを信任し、これを疑うことなく、これを監督することなければ、必ず大いに付け込んで、いかがなことをなすかも、はかりがたきなり」と、こういう言葉を残しているんですね。ジェファソンが言ってることとほとんどぴったり同じですね。歴代の偉大な思想家というものの考え方は、こうやってくしくも一致するんだなっていうことを、今回非常に感慨深く思ったわけです。こんなような考え方が立憲主義の根底にあるということを、私たち、理解しておくことが大事だと思うんです。

自民党憲法改正草案が目指す国家ビジョンと国民像の危険性

 最後に私がお話ししておきたいのが、自民党の憲法改正草案についてです。憲法講座ですので、少しそこのところだけは触れておきたいと思います。緊急事態条項というのがありますので、ここだけ大急ぎでご紹介をしておきたいと思います。自民党の草案の中にこんなのがあるということを、ぜひとも知っておいていただきたいなと思って出しました。


 これは緊急事態というのを設けて、有事や大規模災害などが発生したときに、緊急事態宣言をすると。内閣総理大臣に一時的に権限を与えるということになっているのですが、どんな権限を与えるのかということなんですけども、二つあります。一つは内閣が法律と同じだけの効果を持つ政令を制定できるようになっています。2番目は、なにびとも公の機関、国とか、公の機関の指示に従わなければならないという条項です。緊急事態条項、これはまさに治安維持法だと思うのですけど、ここで非常に気になることは、要するところ、公の機関の指示に従わなければいけないといったって、何も限定されてないんですよ。非常事態を乗り切るためには、内閣は、こういうことが必要だと思ったら、国民はそれに従わなければいけないというのです。他の国からの武力攻撃に応戦するためには、今の自衛隊だけでは人が足りない。それは後方支援か、前線か、知りませんけど、ここで予備兵を募集すると言っちゃったら、嫌だとは言えない。これまさに徴兵制ですよね。自民党はこういう草案をつくっているんですよ。将来にわたって徴兵制は断じてあり得ないなんて、安倍首相がいくら言ったって、自民党の改憲草案ではそうなっていません。もちろん言論の自由だって、一時停止されちゃいますね。これは恐ろしい条項なんですね。こういうものが用意されているっていうことを、ぜひとも知っておく必要があるんじゃないかなと思います。


 それから、もう一つ、自民党の草案の、思想・表現の自由は、これを侵してはならないというのが今の憲法19条でしょう。それを変えています。「思想・表現の自由は、これを保障する」となっています。「侵してはならない」と「保障する」同じじゃないか、こう思われるかもしれませんけど、これは全然違います。「侵してはならない」ということは、これは人間に持って生まれて絶対的な権利として、これは認められるというのが今の憲法でしょう。「保障する」といったら、国が保障するということですが、国がこれは保障の限りではないなんてことを言いだしたら、制限付きの権利になりますよね。保障するっていうことは、これは国の政策的な判断に関わってきますよということを、暗に言っているのと同じじゃないですかね。非常にこれは怖いことを言っているんです。


 今の戦争法案の中で、いろいろと議論になっている問題について、自民党の憲法草案ではどう言っているのかということを見極めておきませんと、後になって、そうだったのかでは、われわれとしては、将来の世代に対して大変な負の遺産を残してしまうことになると思うんですね。私はこの1週間、ものすごく大事だと思います。

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コメント

日本の護憲派や左派・リベラル陣営は、立憲主義や民主主義の正当性を天賦人権論者のように意識や上部構造のアプリオリとして、または現象主義的に強調しても舌足らずだと思いますね。
この点は、最近、志位氏がマルクスの「領有法則の転回」論も援用した主張を「赤旗」でしていますが、彼も「転回」論の矛盾(=運動し存立する矛盾)が諸個人の価値意識や規範性貫徹欲求を発生させることを曖昧にしか理解していないようですから、法学的幻想やブルジョア私人主義を克服しきれない。

戦争法や安部の独裁、復古主義は、我々の不明と理論的怠慢を炙り出してくれた点で反面教師でもあると思います。

投稿: バッジ@ネオ・トロツキスト | 2016年1月12日 (火) 14時01分

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