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「政治部話法」を根絶することが改革の第一歩 ~年末のNHK「解説スタジアム」を視て~

20161230
 
   29日、440分ごろまで4時間にわたって2017世界と日本 安心・安全は」と題した
「解説スタジアム・スペシャル」が放送された。今回は1年の締めくくりという意味からか、「スペシャル」と付け加えられたが、3ヶ月に1度の間隔で、さまざまな専門分野を担当するNHKの解説委員同士が時のテーマを多角的に徹底討論すえるという触れ込みの番組である。
   今回は、
1部 激論!国際社会と安全保障、第2部 暮らしの安心・安全は、第3部 “ゆたかな未来”にむけて、というように3部構成で行われた。時間が時間だけに私が視たのは第2部の中の「防災、原発、エネルギー問題」が議論された部分だけである。出演者は次のとおりだった。
   司 会:鎌田靖、アシスタント:岩渕梢
   討論者:板垣信幸・太田真嗣・後藤千恵・関口博之・竹田忠・
       早川信夫・増田剛・水野倫 之 各解説委員

多角的に論点を解説することが期待できる企画だが
   このような討論番組は、各出演者がそれと意図しなくても、各自が忌憚なく持論を語り合うことで、「予定調和的に」、視聴者に焦眉の問題について多角的に論点を解説するという結果をもたらすことを期待できる有意義な番組だと思っている。

   今回も、私が視た範囲でも、傾聴に値する意見がいくつか見受けられた。
 *「除染の費用は原発のコストに入っていない。その一方で、除染し
  ないと国土を失うことになる」(板垣)
 *「廃炉や賠償の費用を全国民の負担に転嫁しようとするのは、
   〔銃後の〕戦争被害への補償を受忍論で放棄させようとするのと
  同じだ」(早川)
 *「原発の再稼働をいかに守っていくかが最初からありきの政策
  で、もんじゅをやめても使用済み核燃料をどうするかが決まって
  いない。
  原発推進だけでやっているのでこういう決め方になる。第三者委
  員会を立ててエネルギー政策の徹底的な見直しをしなければな
  らない。」(水野)

「政治の代弁をする必要はない!」
     討論の中でこんな一幕があった。
 *「(政府が廃炉費用を電気料に課することへの批判については)
   政治担当としては、ぐうの音も出ない」(太田)
 *「政治の代弁をする必要は全然ないですよ」(司会/鎌田)

   太田氏はその前の発言でも、「政府としては・・・」と、まるで政府の報道官のようなセリフを2回、使っていて、私も視ていて、これが「NHKの政治部話法」かと思った矢先だった。解説委員同士がこんなふうに緊張感のあるやりとりをする気風が育つことはいいことだ。

   ただ、原発問題をめぐる討論は全体として、○○担当の解説委員の徹底討論というにしては、密度の薄い討論と思えた。

シャープに意見をかみ合わすには至らなかった
  この種の討論番組の成否は、ファクトベースの議論と鋭い持論がバランスよく展開されるかどうかにかかっている。この点で、私が視た範囲では、今回の「解説スタジアム」はファクトベースの議論が乏しかった。そのため、各委員の持論も雑駁で説得力に欠け、噛み合った討論にはなっていなかった。1つだけ例を挙げて、この点を説明しておきたい。

   終始、「当面原発必要論」を唱えた関口氏が、「自給率が低い日本にとって原子力は維持すべき国産エネルギーだ」と発言したが、これに対し、再稼働反対論者からの正面切った反論はなく、「原発維持政策の下では他のエネルギー開発が育たない。日頃びくびくした状態で暮らすのか、国土を失う危機を避けるのか、大きなテーマの中でエネルギー問題を考えるべき。〔その意味からは〕原発はたたむべき」(板垣)といった、雑駁な反論が出るにとどまった。
   しかし、日本は原子力の原料を自給できているわけではなく、核燃料のリサイクルで得られるウラン、プリトニウムを再利用することを指して「自給」とみなしているに過ぎない。この意味から、原子力は「準国産」などと称されている。
   問題は、そのリサイクルが破たんし、稼働の目途が立たないまま、閉鎖を余儀なくされているという現実である。
   再稼働批判論者が核燃料リサイクルの破綻を強調するなら、それと「原子力=準国産エネルギー」論をリンクさせ、「原子力=準国産」論は、核燃料リサイクルの破綻で夢想に終わろうとしている現実を指摘する意見がなぜ出なかったのか?

   こうした不満が残るが、ネット上では概ね好評で、「もっと昼間にやるべきだ」という意見がたくさん書き込まれた。同感だ。

自律的に「NHK政治部話法」の根絶を
   解説委員同士が「同僚意識」を捨てて、視聴者の前で、真剣勝負で意見をぶつけ合う中で、「NHK政治部話法」を自力で根絶できるかどうかは、NHKの報道番組にジャーナリズム精神を吹き込めるかどうかの試金石といっても過言ではない。


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国民に「伝える義務」を果たすNHKにするために

20161228日 

  「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」の運営委員会は1226日、「籾井会長退任後の当会の運動の進め方」と題する文書をまとめ、同日、会員に通知するとともに、会のHPにアップした。
  http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/ 

 また、翌27日には、この文書を次期NHK会長に就任することが決まった上田良一氏宛に発送した。
 今回の文書は、
  *籾井氏不再任に伴う受信料凍結運動の解除
  *上田新体制のNHKに対する当会の基本的立場
 という構成になっている。

 文書の後半に書かれているように、「当会は従来から、NHKの政府広報化、国策放送化は会長の資質に還元して済む問題ではなく、政治部による報道番組のコントロール、番組制作現場の職員のジャーナリズム精神の劣化といった要因によるところが大きいと考えてき」た。
  そこから、「会長が交代したことによって、NHKの『政府広報』体質が改まるのかどうか、・・・・『会長が籾井氏だから、どうにもならない』といった言い訳が通らなくなったこれからが、NHK職員の矜持と力量が問われる時だと言っても過言ではない」と考えている。
  また、これに続けて書いているように、「目下、日本では数の力に頼んだ愚劣な政治が横行し、憲法『改正』、海外での武力行使、沖縄での米軍の基地機能の拡大強化、本土へのオスプレイ配備、原発再稼働、世代を超えた貧困の深刻化など、悪政の犠牲が広がっている。このような悪政を国民の意思で一掃するには、多くの国民が『事実を知ること』、『参政に当たって十分な判断材料を持つこと』が不可欠であり、そのためにメディア、とりわけNHKが担うべき役割は非常に大きい。」

  この1年を振り返ると、安倍政権の反理性・棄民の政治が対震災被害者、対韓国(「慰安婦」問題に関する日韓「合意」)、対沖縄(基地機能の強化の問題)で際立った年だった。
 と同時に、韓国市民、沖縄県民の権力を振りかざした不条理との非妥協的な運動と比べて、私たち(「本土」の)日本人11人、さらには日本の市民運動の地力の脆弱さ、「情と和の精神が理性を覆う」政治意識のひ弱さを実感させられた1年だった。

 その背景には、1人の有権者として「知っておかなければならない事実」を知らない実態、知らされない実態がある。これからNHKにどう向き合うかを考える時、政府に不都合な事実を「知らせないNHK」を、政府に不都合であればなおさら「知らせるNHK」に変えていく運動を、さまざまな方法、創意で強めることが重要になっていると痛感している。

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  20161226日 
     
       
 籾井会長退任後の当会の運動の進め方

         NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ
                       運営委員会

 籾井氏不再任に伴う受信料凍結運動の解除
 NHK経営委員会は12月6日の会合で籾井現会長を再任せず、現経営委員で監査委員を兼務した上田良一氏を新しい会長に選出した。NHKの政治権力からの自立と独自の取材にもとづく調査報道の意義をまったく理解しない妄言を繰り返してきた籾井氏の資質に照らせば当然の判断である。というより、資質の点でも品性の点でも、公共放送のトップと真逆の籾井氏を名ばかりの注意で放免し、任期を全うさせた経営委員会の無責任が厳しく問われなければならない。

 籾井氏を退任させたのは、多くの視聴者が粘り強くかつ継続的に籾井氏の言動に厳しい批判を向け、籾井氏が「非行・悪行」を行う度に即刻の罷免を要求して来たことが最大の要因である。各地で開かれた「視聴者と経営委員が語る会」で籾井氏の言動に手厳しい批判が相次いだことも、経営委員会の任命責任の重さを自覚させる大きな力になったのは間違いない。

 と同時に、各地の市民団体が3年近くにわたって続けた罷免要求の署名運動が8万筆を超えたこと、さらに、籾井氏の任期切れ半年前から、21の市民団体が共同で取り組んだ籾井氏不再任の要求署名が4か月足らずで35千筆を超えたことも、籾井会長の退場を促すダメ押しの力となった。

 当会は会長就任会見で籾井氏が「政府が右と言う時、左と言うわけにはいかない」などと発言したことを重大視し、201451日から、籾井会長の辞任を求めて半年間の受信料凍結運動を呼びかけた。残念ながら、それから半年が経過した10月末日に至っても籾井氏は会長職にとどまった。そこで、当会としては当初の呼びかけ通り、その時点で受信料凍結運動の解除をやむなきことと判断し、1117日付でその旨の見解を発表した。
 ただし、当時、籾井氏が会長職にとどまり、NHKの国策報道化が顕著になっていたことから、会員が自らの意思で受信料の凍結を続けるなら、その意思を尊重するという判断も明らかにした。

 今回、会長職への不再任という形ではあるが、籾井氏の退場が確定したことで、受信料凍結運動の所期の目的は達成された。そこで、当会は、会員ならびに当会の呼びかけに応えて受信料凍結運動を続けて来られた方々に凍結の解除、受信料の支払い再開を呼びかける。

上田新体制のNHKに対する当会の基本的立場
 次期会長に上田良一氏が選任されたことについて、「4代続けて財界出身の会長」、「経営委員から会長を選ぶのは異常」といった指摘がある。確かに、財界人の出身母体に由来する利害と公共放送のトップに求められる使命には無視できない利益相反がある。これまで経営委員として同僚だった上田氏と経営委員会が緊張関係を保ちながら各々の職務に専念するかどうかも注視しなければならない。他方、上田氏は今年の5月に函館市で開かれた視聴者と語る会で、

 「受信料は、契約を締結する義務は法律で定められていますが、支払い義務は負っていません。支払いを義務化するということは、『支払いの義務を負わせて、支払わない人に対して罰則を設ける』ということであり、国の力で受信料を徴収するということになりますので、国の影響が及んでくるという懸念があります。」
 「放送、ジャーナリズムが国家権力に追随するような形というのは、必ずしも望ましい形ではありません。」


と発言したことは注目に値する(
NHKホームページ・「『視聴者のみなさまと語る会』in函館」より)。当会は、上田次期会長が今後、こうしたジャーナリズム精神を貫いて職務にまい進するのかどうか、注意深く見守り、是々非々の立場で新執行部と向き合っていく。

 その際、重要なのは会長が交代したことによって、NHKの「政府広報」体質が改まるのかどうかである。当会は従来から、NHKの政府広報化、国策放送化は会長の資質に還元して済む問題ではなく、政治部による報道番組のコントロール、番組制作現場の職員のジャーナリズム精神の劣化といった要因によるところが大きいと考えてきた。「会長が籾井氏だから、どうにもならない」といった言い訳が通らなくなったこれからが、NHK職員の矜持と力量が問われる時だと言っても過言ではない。

 目下、日本では数の力に頼んだ愚劣な政治が横行し、憲法「改正」、海外での武力行使、沖縄での米軍の基地機能の拡大強化、本土へのオスプレイ配備、原発再稼働、世代を超えた貧困の深刻化など、悪政の犠牲が広がっている。
 このような悪政を国民の意思で一掃するには、多くの国民が「事実を知ること」、「参政に当たって十分な判断材料を持つこと」が不可欠であり、そのためにメディア、とりわけNHKが担うべき役割は非常に大きい。

 当会は今後も、予断をまじえず、NHKの番組をウオッチし、良質の報道・ドキュメンタリィ番組、豊かな文化と教養を育む番組には激励を送り、国策を援護したり、視聴者の知る権利に背いたりするような番組には厳しく批判を続けていく。また、NHKの番組に対し、政治権力の介入や圧力があった場合は報道の自由を守るために毅然と抗議していく。

 当会はNHKの報道の自由を守り、NHKのガバナンス改革を進めていくうえで経営委員会が果たす役割が大きいことを踏まえ、経営委員の選考過程の透明化、選任基準の明確化を求めると同時に、他の市民団体と共同して公募・推薦制を含む経営委員の選考制度の抜本改革を目指す運動に取り組んでいく。
 と同時に、さしあたっては、経営委員会の会議の公開(傍聴)、「視聴者と語る会」の充実(回数を増やすこと、語る会の模様をNHKの番組として放送することなど)を要望していく。

                              以上

 

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「会長が籾井さんだから」の言い訳が利かなくなった時

201612月6日

昨夜のNHKニュース7~
政府広報報道の長期保存版~
 昨夜NHKニュース7をご覧になっただろうか? リアルタイムで視てあ然とし予約で撮った録画を、改めてメモを取りながら視た。NHK報道の政府広報ぶりを示す典型例として長期保存版になりそうな録画だった。放送項目、時間配分は次のとおり。

    2016125日 NHKニュース7 ウオッチ・メモ

 1.  安倍首相、真珠湾訪問 犠牲者慰霊の意向   551
 
2.  イタリア国民投票、首相が辞任表明      619
 
3.  ブレーキ作動などデータ分析、福岡3人死亡事故 338
 
4.  まとめ記事、掲載中止相次ぐ         302
 
5.  超高層ビルに雷 破片落下の危険       341
 
6.  参院TPP特別委 安倍首相、自由貿易の重要性示す 
                         1
25
 
7.  大谷、来期は27000万円   
                      128
 
8. 安倍首相、真珠湾訪問 犠牲者慰霊の意向   234
 
9.  天気予報                    43秒 
 
 

コメント
 1. 安倍首相の真珠湾訪問の意向発表を緊急重大ニュースかのように番組内で2度、延べ825秒を充てた。放送内容も安倍首相の独演、岩田明子記者の協演解説といえるものだった。
 さらに、オバマ氏の広島訪問の返礼といった「強いられた訪問であってはならない」というオバマ大統領の気配りを伝え、「安倍首相独自の判断による訪問である」と字幕付きで伝える念の入れようは尋常ではない。

 2.③は続報。一瞬にして両親を亡くした子供のことを聞くと心が痛む。しかし、「ブレーキ作動などデータ分析」という情報を3番目に338秒を充てて伝える話題とは思えない。

 3  ④⑤は今日7時のニュースで伝えるほどのニュース価値があるとは思えない。もっと時間枠のある「おはよう日本」で取り上げればよいのではないか。

 4. ⑥の扱いに大きな疑問。「国のかたちを変える」とまで言われるTPP協定案。大詰めを迎えた国会審議というのに、質問に立った与野党8人のうち、放送されたのは公明党の議員と安倍首相との一往復の質疑のみ。時間にして125秒。⑦の「大谷、来期27,000万円」という話題よりも短かった。なぜ公明党議員の質問だけなのか? この1点だけでも大問題と思えた。

「会長が籾井さんだから」の言い訳が外れた時

 籾井現会長の不再任が濃厚になったと各紙が伝えている。当然のことというより、今まで罷免もされず、会長職にとどまり続けさせた経営委員会の体たらくが情けない。
 そんな中、今夜のニュース7を視て考えた。今日に始まった感想ではないが。

   籾井氏が会長職を退いたとして、今日のようなあからさまな政府広報はNHKの報道番組から姿を消すのか?

   「会長が籾井さんだから」という言い訳が、「政治部には、上司の指示には逆らえない」という言い訳にとって代わることはないのか?
 
 NHK
の番組制作スタッフの個としてのジャーナリズム精神の真価が問われ、NHKの報道番組の真贋を見極める視聴者の眼力、醜悪な番組を正す行動力が試される時である。

言論の自由を実践する場はメディアの外ではなく、内にある
  「J氏は新聞社に身を置きながら、『世界』に書いているようなことを組織内で堂々と主張し、上司と闘っているのだろうか。新聞労連の委員長氏は出身母体に戻ったとき、数々の正論をその通りに主張し、堂々と社内で上司と議論しているのだろうか。」

  「『言論の自由』は、対権力との関係において語られるが、しかし、言論の自由を実践する場所は『対権力=メディア企業の外側』ではなく、メディア企業の内部にこそある。」

(高田昌幸「北海道新聞を去るにあたって 『組織』ジャーナリズムとジャーナリスト『個人』の狭間で」『マスコミ市民』20119月)


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TPPバスから下車することが唯一・最善の道~12月2日、参議院TPP特別委で意見公述~

2016124

  今月2日、急きょ、参議院TPP特別委員会に参考人として出席して意見を公述した。私の他、遠藤久夫氏(学習院大学教授)、西尾正道氏(北海道がんセンター名誉院長)が冒頭15分ずつ意見を述べ、その後、7会派の委員と各20分、質疑を交わした。以下はその録画である。

醍醐の冒頭の意見陳述の録画 (約16分)
https://www.youtube.com/watch?v=tf7DV5eTtP0&feature=youtu.be
 

公聴会全体(7会派の議員との質疑を含む)の録画 
https://www.youtube.com/watch?v=P0DSFaZh9-w&feature=youtu.be
 

なお、NHKが夕方のニュースで公聴会の模様を短く伝えたことを一昨日、帰宅して知った。

TPP参院特別委で参考人質疑 医療分野で意見NHK 122 1618分)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161202/k10010792771000.html
 

 なお、ネットを検索するうちに、「ももな」というニックネームの方が私の冒頭意見陳述を文字におこしてくださっていることを知った。
http://ameblo.jp/sumirefuu/entry-12225264393.html

ご尽力に感謝しながら、拡散可という趣旨の添え書きがされているので、以下、転載させていただく。なお、私の不明瞭な発言のため、聞き取りづらかったことから表記の正確を期すため、数か所、訂正と加筆をさせていただいた。また、このブログに掲載するにあたって小見出しを付けた。なお、参議院としての議事録が追って作成される。それが公式の記録である。

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               醍醐聰 冒頭意見陳述

 醍醐と申します。こういう機会を頂きましてありがとうございます。

国会承認は譲歩の国際公約となる
 私が申し上げたい事は、大きく二つでございます。もはや発効が見込めなくなったTPP協定。それでも国会で承認するという事は、ただ無意味であると言うにとどまらず、危険な行為だと言う事をお話ししたい。
 では、どこが危険なのか。協定案をスタートラインとして、二国間協議に入って行く事がどうして危険なのか?その事を少しお話しします。その場合、本日の主なテーマである医療、薬価問題を中心にお話ししたいと思っております。

 TPP協議に参加入りを決めた時に、全国の大学教員が非常に将来を危惧しまして、約850人の様々な分野の大学教員、私の様な名誉教授も含めまして、TPP参加交渉からの脱退を求めようという会を作りました。
 今回、1128日に緊急声明を発表しました。今日の私の話と関わる所を少し読み上げさせて頂きます。

 「死に体のTPP協定をわが国が国会で承認しようとするのは、無意味であるというにとどまらず、危険な行為である。協定文書を国内で承認すれば、仮にTPPが発効に至らないとしても、日本はここまで譲歩する覚悟を固めたという、不可逆的な公約と受け止られ、日米二国間協議の場で協議のスタートラインとされる恐れが多分にある。」
 この点を私は強調したいと思っております。

 これは実は大学教授の会だけが言ったのではなくて、安倍首相ご自身が国会で実はおっしゃっている訳です。28日、昨日、私もテレビで見ましたが、この特別委員会の場で安倍首相はこういう答弁をされています。

 協定案が国会で承認されるならば、「日本がTPP並のレベルの高いルールをいつでも締結する用意があるという国家の意志を示す事になる」、こういうことを明言されています。解釈は全く逆ですけれども、将来の見通しについては奇しくも同じになっている様な気がしました。
 しかし、その解釈の違いなのですが、つまりTPPバスの行き先が全く違うと言う事ですね。協定案は、それほど、安倍首相がおっしゃるほど胸を張れる内容なのか?  バスの行き先は、墓場から至福へといつ変わったのか? 私は変わったとは思っていません。むしろTPPの原理主義で例外無き関税撤廃に向かってひたすら走り続けるという事だと思っております。

国会決議に背く協定案
 そのようなTPP協定を国会が承認すると言う事は、そもそもなぜ危険なのかというと、危険に警鐘を鳴らした国会決議に背いていると言う事です。これにつきまして、ある議員が「日本は他国に比べて多くの例外を確保した」とおっしゃっていました。昨日、TPP特別委員会をテレビで見ておりまして、その録画をとってお配りしている〔パワポバージョンの〕資料に貼付けました。これは、よく頑張ったというおっしゃり方でした。しかし、この他国に比べてと言う時に、日本は他国がほぼ100%関税を撤廃したのに対して、日本は全品目では95%農林水産品では82%という数字をパネルで紹介されました。問題は、この82%から外れたのは一体なんなのだと。その事を触れられなかったのを私は奇異に思いました。
 重要5品目が594ラインです。そのうちの28.5170品目で関税を撤廃しております。また、269品目45.3%で税率削減か新たな関税割当をしております。このような内容抜きに、よくやった!ととても言えるものではないと思っております。

 しかも強調したい事は、この協定案がファイナルではないと言う事です。これからがむしろ、どんどんとTPPバスが先へまっしぐらに走り続けると。その事が、皆様には言うまでもない事ですが、協定案の附属書をご覧になればもう随所に協議、協議と言う言葉が登場します。しかもまた、セーフガードにつきましても牛肉は16年目以降4年間連続で発動されなければ廃止。豚肉は12年目で廃止。と軒並み廃止です。

片道切符の継続協議の約束に触れないのは欺瞞
 次のページです。安倍首相は再協議には応じないってことを繰り返しおっしゃっています。私はこの言葉がすり替えだと言うふうに思う訳です。
 そもそもTPP協定案で明記されているのは再協議と言う事ではなくて、協議、協議、つまり継続協議を約束すると言う事が、TPP協定の根幹だと思っているわけです。
 「協議を継続する」と協定案の中に明記されている事を、あたかも任意でやったりやらなかったりできるかのような「再協議」と言うふうに呼び方を変えると言うことはすり替えだと思います。
 しかも、この継続協議といいますけれども、逆戻りが出来るのかどうなのかです。

 

片道切符のバスと書きましたが、例えば第241では、「いずれの締約国も現行の関税引き上げ又は新たな関税を採用してはならない」となっている訳ですから、もう逆戻りは出来ないということです。これは、もう好き嫌いではなくて約束している訳ですね。これは安倍首相といえども変える事は、離脱しない限り、出来ない訳です。
 それから、同条の2で「漸進的に関税を撤廃する」ということも明記しています。
 また、同条3では、「関税の撤廃時期の繰り上げについて検討するため、協議を継続する」と言う事も明記しております。
 さらに、「附属書2D 日本国の関税率表 一般解釈の9a)では、「オーストラリア、ニュージーランド又はアメリカ合衆国の要請に基づき、原産品の待遇についての約束、これにはセーフガードも含むとあります、について検討するため、この協定が効力を生じる日の後7年を経過する日以降に協議する」となっています。協議と言いましても、どちらにも向けるのでは無くて、関税を下げる、撤廃の方向にひたすら走る協議だということは、もうこれは動かせない事実となっております。
 この後は少し、医療をめぐって、意見を述べさせて頂きたいと思います。

医療の分野にも組み込まれた継続協議の約束
 協定の第26章、このあたりは時間が無いのでやめますが、その中の第5条で
 「各締約国はこの附属書に関連する事項について協議を求める他の締約国の要請に好意的な考慮を払い、協議のための適当な機会を与える」と言っています。つまりTPP協定全般ではなくて、医療でもこのような約束が明記されています。

 また、この協議に関して、日米両国間が交わした書簡が含まれています。今年の24日に日米がかわした書簡で、フロマン氏からこういう書簡が出されています。

 「日本国及び合衆国は、附属書26A5に規定する協議制度の枠組みの下で、附属書に関するあらゆる事項、この中には保健医療制度を含むとあります、について協議する用意があることを確認する。本代表は貴国政府がこの了解を共有する事を確認されれば幸いであります」と書かれています。これに対し、同じ日に高鳥修一副大臣名で、
 「本官は、更に、日本国政府がこの了解を共有していることを確認する光栄を有します。」
と述べています。
 つまり、この書簡で医療をめぐって協議を入る事を約束している、TPPの中に二国間協議の入り口がリンクされている訳ですね。ですから、TPPと二国間協議はもう連動している訳です。TPPを承認すると言う事は、このような協議に入る事を約束すると言う事になる訳です。
 あるいは、TPPが発効しなくても安倍首相の言葉を借りれば、それを国際公約として胸を張って約束するということをおっしゃっている訳ですね。

二国間協議で薬価の高止まりを要求する米国
 そのことが、どういう懸念があるのかと言う事ですが、20112月に発表されました日米経済調和対話の中の米国側関心事項と言うのがあります。
 その中で、先程からちょっと出ました、新薬創出加算を恒久化する。加算率の上限を廃止すると記しています。それから、オブジーボの件でこの後、出てくる市場拡大再算定ルールが、企業のもっとも成功した価値を損なわない様、これを廃止もしくは改正すると。こういう事を米国は要望事項として出しています。
 その市場拡大再算定ルールを前倒しで使って半額にしたのがご承知のオブジーボです。詳しい事は時間が無くて触れられません。これが前倒しした事でオブジーボは緊急でしたが半分に下がった訳です。
 因にこれオブジーボだけでは無いということを申し上げたいので、(お配りしました)高額新薬品データー一覧をご覧ください。例えば、一瓶あたりとか、あるいは一日薬価とか、12週間とか。軒並みこれが一日薬価でも万単位はざらに出て参ります。このようなものが軒並みある訳ですね。これらをどうするのかと言う時に、予想よりも市場が拡大した、あるいは効能が拡大した、そのことをもって、それに市場が拡大したものに見合うだけ薬価を下げると言う仕組みが、今後の薬価の高止まりを抑える決め手になると私は思う訳ですが、アメリカはそれをやると成功した医薬品の価値を損なうといって廃止を求めてきている訳です。これはものすごく脅威だと私は考えております。

あり余る余剰資金~開発費の回収は薬価加算の理由にならない~
 私がこういうことを言うと、それをやると新薬開発のインセンティブを損なうのではないかという指摘がございます。しかし私、会計学を専攻している者として、これにはどうしても一言二言申し上げたいと思う訳です。
 「開発費の回収は薬価加算の理由にならない」と書きましたスライド原稿のところです。今回、意見陳述の準備をする過程で20052014年度の売上高営業利益率調べました。売上高を100とした時に営業利益としていくら残ったかの割合です。製造業の加重平均は3.4%でした。それに対し、東証一部上場27社の製薬企業は16.3%、製造業平均の約5倍弱でした。
 大事な事は、この営業利益というのは試験研究費を費用として差し引いた後の数字だと言う事を是非ご理解頂きたいと思います。
 次に、今度は製薬企業上位16社の財政状況です。製薬工業会が出しているデーターですが、20103月期から20163月期の6年間で見ますと、留保利益は7.5兆円から8.7兆円に1.2兆円増えています。では留保利益全部を設備投資等に使ったのか? そうじゃない。この間、現金預金は1.6兆円から2.7兆円。つまり留保利益が増えたのとほぼ同じ額だけ、手もとの現金預金として持っている訳です。
 もっと薬価上げて欲しいと言う前に、これなぜ使わないのですか?こんな状態で、お金が足りない、インセンティブが損なわれます、なんて言って社会的に通用するのかということを、ぜひとも申し上げたい訳です。

国民皆保険を未来の世代に引き継ぐ政治の責任が問われている
 最後に私が感銘を持ったのは、201374日、自民党長老の尾辻秀久議員が選挙の出陣式でおっしゃったことです。YouTubeで聞きました。こういう場で画像まで取り出すのはいかがかと思ったのですが、貼り付けました。
 「米では4000万人が医療保険に加入していない。」
 「WTOは世界の医療保険制度で文句なしに日本が一番と太鼓判を押した。」
 「なんで15番の国、米から世界一の日本が偉そうに言われるんですか?」
続きまして、
 「私たちの宝を、米の保険会社の儲けの走狗にするためになくすなどという愚かな事を絶対にしてはいけない。」

 私はこの言葉を聞いて本当に感銘を覚えました。そこでこれを受けまして、最後に。

・多国籍製薬資本の営利に国民皆保険制度を浸食されて良いのか?
・国民皆保険制度を財政面から揺るがさないためには、TPPバスから
 下車するのが唯一最善の道だと私は考えます。
・結局、今、国会議員の皆さま、あるいは国民一人一人、有権者一人
 一人に問われているのは、未来の世代に尾辻さんのおっしゃる貴
 重な財産、宝物を未来の世代にしっかりと引き継ぐ事ができるのか
 どうなのか。それを引き継ぐ責任が問われている、

と言うふうに申し上げて終わらせて頂きます。

 



 

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