「政治部話法」を根絶することが改革の第一歩 ~年末のNHK「解説スタジアム」を視て~
2016年12月30日
29日、4時40分ごろまで4時間にわたって「2017世界と日本 安心・安全は」と題した
「解説スタジアム・スペシャル」が放送された。今回は1年の締めくくりという意味からか、「スペシャル」と付け加えられたが、3ヶ月に1度の間隔で、さまざまな専門分野を担当するNHKの解説委員同士が時のテーマを多角的に徹底討論すえるという触れ込みの番組である。
今回は、第1部 激論!国際社会と安全保障、第2部 暮らしの安心・安全は、第3部 “ゆたかな未来”にむけて、というように3部構成で行われた。時間が時間だけに私が視たのは第2部の中の「防災、原発、エネルギー問題」が議論された部分だけである。出演者は次のとおりだった。
司 会:鎌田靖、アシスタント:岩渕梢
討論者:板垣信幸・太田真嗣・後藤千恵・関口博之・竹田忠・
早川信夫・増田剛・水野倫 之 各解説委員
多角的に論点を解説することが期待できる企画だが
このような討論番組は、各出演者がそれと意図しなくても、各自が忌憚なく持論を語り合うことで、「予定調和的に」、視聴者に焦眉の問題について多角的に論点を解説するという結果をもたらすことを期待できる有意義な番組だと思っている。
今回も、私が視た範囲でも、傾聴に値する意見がいくつか見受けられた。
*「除染の費用は原発のコストに入っていない。その一方で、除染し
ないと国土を失うことになる」(板垣)
*「廃炉や賠償の費用を全国民の負担に転嫁しようとするのは、
〔銃後の〕戦争被害への補償を受忍論で放棄させようとするのと
同じだ」(早川)
*「原発の再稼働をいかに守っていくかが最初からありきの政策
で、もんじゅをやめても使用済み核燃料をどうするかが決まって
いない。
原発推進だけでやっているのでこういう決め方になる。第三者委
員会を立ててエネルギー政策の徹底的な見直しをしなければな
らない。」(水野)
「政治の代弁をする必要はない!」
討論の中でこんな一幕があった。
*「(政府が廃炉費用を電気料に課することへの批判については)
政治担当としては、ぐうの音も出ない」(太田)
*「政治の代弁をする必要は全然ないですよ」(司会/鎌田)
太田氏はその前の発言でも、「政府としては・・・」と、まるで政府の報道官のようなセリフを2回、使っていて、私も視ていて、これが「NHKの政治部話法」かと思った矢先だった。解説委員同士がこんなふうに緊張感のあるやりとりをする気風が育つことはいいことだ。
ただ、原発問題をめぐる討論は全体として、○○担当の解説委員の徹底討論というにしては、密度の薄い討論と思えた。
シャープに意見をかみ合わすには至らなかった
この種の討論番組の成否は、ファクトベースの議論と鋭い持論がバランスよく展開されるかどうかにかかっている。この点で、私が視た範囲では、今回の「解説スタジアム」はファクトベースの議論が乏しかった。そのため、各委員の持論も雑駁で説得力に欠け、噛み合った討論にはなっていなかった。1つだけ例を挙げて、この点を説明しておきたい。
終始、「当面原発必要論」を唱えた関口氏が、「自給率が低い日本にとって原子力は維持すべき国産エネルギーだ」と発言したが、これに対し、再稼働反対論者からの正面切った反論はなく、「原発維持政策の下では他のエネルギー開発が育たない。日頃びくびくした状態で暮らすのか、国土を失う危機を避けるのか、大きなテーマの中でエネルギー問題を考えるべき。〔その意味からは〕原発はたたむべき」(板垣)といった、雑駁な反論が出るにとどまった。
しかし、日本は原子力の原料を自給できているわけではなく、核燃料のリサイクルで得られるウラン、プリトニウムを再利用することを指して「自給」とみなしているに過ぎない。この意味から、原子力は「準国産」などと称されている。
問題は、そのリサイクルが破たんし、稼働の目途が立たないまま、閉鎖を余儀なくされているという現実である。
再稼働批判論者が核燃料リサイクルの破綻を強調するなら、それと「原子力=準国産エネルギー」論をリンクさせ、「原子力=準国産」論は、核燃料リサイクルの破綻で夢想に終わろうとしている現実を指摘する意見がなぜ出なかったのか?
こうした不満が残るが、ネット上では概ね好評で、「もっと昼間にやるべきだ」という意見がたくさん書き込まれた。同感だ。
自律的に「NHK政治部話法」の根絶を
解説委員同士が「同僚意識」を捨てて、視聴者の前で、真剣勝負で意見をぶつけ合う中で、「NHK政治部話法」を自力で根絶できるかどうかは、NHKの報道番組にジャーナリズム精神を吹き込めるかどうかの試金石といっても過言ではない。
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