TPPバスから下車することが唯一・最善の道~12月2日、参議院TPP特別委で意見公述~
2016年12月4日
今月2日、急きょ、参議院TPP特別委員会に参考人として出席して意見を公述した。私の他、遠藤久夫氏(学習院大学教授)、西尾正道氏(北海道がんセンター名誉院長)が冒頭15分ずつ意見を述べ、その後、7会派の委員と各20分、質疑を交わした。以下はその録画である。
醍醐の冒頭の意見陳述の録画 (約16分)
https://www.youtube.com/watch?v=tf7DV5eTtP0&feature=youtu.be
公聴会全体(7会派の議員との質疑を含む)の録画
https://www.youtube.com/watch?v=P0DSFaZh9-w&feature=youtu.be
なお、NHKが夕方のニュースで公聴会の模様を短く伝えたことを一昨日、帰宅して知った。
「TPP参院特別委で参考人質疑 医療分野で意見(NHK 12月2日 16時18分)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161202/k10010792771000.html
なお、ネットを検索するうちに、「ももな」というニックネームの方が私の冒頭意見陳述を文字におこしてくださっていることを知った。
http://ameblo.jp/sumirefuu/entry-12225264393.html
ご尽力に感謝しながら、拡散可という趣旨の添え書きがされているので、以下、転載させていただく。なお、私の不明瞭な発言のため、聞き取りづらかったことから表記の正確を期すため、数か所、訂正と加筆をさせていただいた。また、このブログに掲載するにあたって小見出しを付けた。なお、参議院としての議事録が追って作成される。それが公式の記録である。
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醍醐聰 冒頭意見陳述
醍醐と申します。こういう機会を頂きましてありがとうございます。
国会承認は譲歩の国際公約となる
私が申し上げたい事は、大きく二つでございます。もはや発効が見込めなくなったTPP協定。それでも国会で承認するという事は、ただ無意味であると言うにとどまらず、危険な行為だと言う事をお話ししたい。
では、どこが危険なのか。協定案をスタートラインとして、二国間協議に入って行く事がどうして危険なのか?その事を少しお話しします。その場合、本日の主なテーマである医療、薬価問題を中心にお話ししたいと思っております。
TPP協議に参加入りを決めた時に、全国の大学教員が非常に将来を危惧しまして、約850人の様々な分野の大学教員、私の様な名誉教授も含めまして、TPP参加交渉からの脱退を求めようという会を作りました。
今回、11月28日に緊急声明を発表しました。今日の私の話と関わる所を少し読み上げさせて頂きます。
「死に体のTPP協定をわが国が国会で承認しようとするのは、無意味であるというにとどまらず、危険な行為である。協定文書を国内で承認すれば、仮にTPPが発効に至らないとしても、日本はここまで譲歩する覚悟を固めたという、不可逆的な公約と受け止られ、日米二国間協議の場で協議のスタートラインとされる恐れが多分にある。」
この点を私は強調したいと思っております。
これは実は大学教授の会だけが言ったのではなくて、安倍首相ご自身が国会で実はおっしゃっている訳です。28日、昨日、私もテレビで見ましたが、この特別委員会の場で安倍首相はこういう答弁をされています。
協定案が国会で承認されるならば、「日本がTPP並のレベルの高いルールをいつでも締結する用意があるという国家の意志を示す事になる」、こういうことを明言されています。解釈は全く逆ですけれども、将来の見通しについては奇しくも同じになっている様な気がしました。
しかし、その解釈の違いなのですが、つまりTPPバスの行き先が全く違うと言う事ですね。協定案は、それほど、安倍首相がおっしゃるほど胸を張れる内容なのか? バスの行き先は、墓場から至福へといつ変わったのか? 私は変わったとは思っていません。むしろTPPの原理主義で例外無き関税撤廃に向かってひたすら走り続けるという事だと思っております。
国会決議に背く協定案
そのようなTPP協定を国会が承認すると言う事は、そもそもなぜ危険なのかというと、危険に警鐘を鳴らした国会決議に背いていると言う事です。これにつきまして、ある議員が「日本は他国に比べて多くの例外を確保した」とおっしゃっていました。昨日、TPP特別委員会をテレビで見ておりまして、その録画をとってお配りしている〔パワポバージョンの〕資料に貼付けました。これは、よく頑張ったというおっしゃり方でした。しかし、この他国に比べてと言う時に、日本は他国がほぼ100%関税を撤廃したのに対して、日本は全品目では95%農林水産品では82%という数字をパネルで紹介されました。問題は、この82%から外れたのは一体なんなのだと。その事を触れられなかったのを私は奇異に思いました。
重要5品目が594ラインです。そのうちの28.5%170品目で関税を撤廃しております。また、269品目45.3%で税率削減か新たな関税割当をしております。このような内容抜きに、よくやった!ととても言えるものではないと思っております。
しかも強調したい事は、この協定案がファイナルではないと言う事です。これからがむしろ、どんどんとTPPバスが先へまっしぐらに走り続けると。その事が、皆様には言うまでもない事ですが、協定案の附属書をご覧になればもう随所に協議、協議と言う言葉が登場します。しかもまた、セーフガードにつきましても牛肉は16年目以降4年間連続で発動されなければ廃止。豚肉は12年目で廃止。と軒並み廃止です。
片道切符の継続協議の約束に触れないのは欺瞞
次のページです。安倍首相は再協議には応じないってことを繰り返しおっしゃっています。私はこの言葉がすり替えだと言うふうに思う訳です。
そもそもTPP協定案で明記されているのは再協議と言う事ではなくて、協議、協議、つまり継続協議を約束すると言う事が、TPP協定の根幹だと思っているわけです。
「協議を継続する」と協定案の中に明記されている事を、あたかも任意でやったりやらなかったりできるかのような「再協議」と言うふうに呼び方を変えると言うことはすり替えだと思います。
しかも、この継続協議といいますけれども、逆戻りが出来るのかどうなのかです。
片道切符のバスと書きましたが、例えば第2・4条1では、「いずれの締約国も現行の関税引き上げ又は新たな関税を採用してはならない」となっている訳ですから、もう逆戻りは出来ないということです。これは、もう好き嫌いではなくて約束している訳ですね。これは安倍首相といえども変える事は、離脱しない限り、出来ない訳です。
それから、同条の2で「漸進的に関税を撤廃する」ということも明記しています。
また、同条3では、「関税の撤廃時期の繰り上げについて検討するため、協議を継続する」と言う事も明記しております。
さらに、「附属書2-D 日本国の関税率表 一般解釈の9(a)では、「オーストラリア、ニュージーランド又はアメリカ合衆国の要請に基づき、原産品の待遇についての約束、これにはセーフガードも含むとあります、について検討するため、この協定が効力を生じる日の後7年を経過する日以降に協議する」となっています。協議と言いましても、どちらにも向けるのでは無くて、関税を下げる、撤廃の方向にひたすら走る協議だということは、もうこれは動かせない事実となっております。
この後は少し、医療をめぐって、意見を述べさせて頂きたいと思います。
医療の分野にも組み込まれた継続協議の約束
協定の第2-6章、このあたりは時間が無いのでやめますが、その中の第5条で
「各締約国はこの附属書に関連する事項について協議を求める他の締約国の要請に好意的な考慮を払い、協議のための適当な機会を与える」と言っています。つまりTPP協定全般ではなくて、医療でもこのような約束が明記されています。
また、この協議に関して、日米両国間が交わした書簡が含まれています。今年の2月4日に日米がかわした書簡で、フロマン氏からこういう書簡が出されています。
「日本国及び合衆国は、附属書26-A5に規定する協議制度の枠組みの下で、附属書に関するあらゆる事項、この中には保健医療制度を含むとあります、について協議する用意があることを確認する。本代表は貴国政府がこの了解を共有する事を確認されれば幸いであります」と書かれています。これに対し、同じ日に高鳥修一副大臣名で、
「本官は、更に、日本国政府がこの了解を共有していることを確認する光栄を有します。」
と述べています。
つまり、この書簡で医療をめぐって協議を入る事を約束している、TPPの中に二国間協議の入り口がリンクされている訳ですね。ですから、TPPと二国間協議はもう連動している訳です。TPPを承認すると言う事は、このような協議に入る事を約束すると言う事になる訳です。
あるいは、TPPが発効しなくても安倍首相の言葉を借りれば、それを国際公約として胸を張って約束するということをおっしゃっている訳ですね。
二国間協議で薬価の高止まりを要求する米国
そのことが、どういう懸念があるのかと言う事ですが、2011年2月に発表されました日米経済調和対話の中の米国側関心事項と言うのがあります。
その中で、先程からちょっと出ました、新薬創出加算を恒久化する。加算率の上限を廃止すると記しています。それから、オブジーボの件でこの後、出てくる市場拡大再算定ルールが、企業のもっとも成功した価値を損なわない様、これを廃止もしくは改正すると。こういう事を米国は要望事項として出しています。
その市場拡大再算定ルールを前倒しで使って半額にしたのがご承知のオブジーボです。詳しい事は時間が無くて触れられません。これが前倒しした事でオブジーボは緊急でしたが半分に下がった訳です。
因にこれオブジーボだけでは無いということを申し上げたいので、(お配りしました)高額新薬品データー一覧をご覧ください。例えば、一瓶あたりとか、あるいは一日薬価とか、12週間とか。軒並みこれが一日薬価でも万単位はざらに出て参ります。このようなものが軒並みある訳ですね。これらをどうするのかと言う時に、予想よりも市場が拡大した、あるいは効能が拡大した、そのことをもって、それに市場が拡大したものに見合うだけ薬価を下げると言う仕組みが、今後の薬価の高止まりを抑える決め手になると私は思う訳ですが、アメリカはそれをやると成功した医薬品の価値を損なうといって廃止を求めてきている訳です。これはものすごく脅威だと私は考えております。
あり余る余剰資金~開発費の回収は薬価加算の理由にならない~
私がこういうことを言うと、それをやると新薬開発のインセンティブを損なうのではないかという指摘がございます。しかし私、会計学を専攻している者として、これにはどうしても一言二言申し上げたいと思う訳です。
「開発費の回収は薬価加算の理由にならない」と書きましたスライド原稿のところです。今回、意見陳述の準備をする過程で2005〜2014年度の売上高営業利益率調べました。売上高を100とした時に営業利益としていくら残ったかの割合です。製造業の加重平均は3.4%でした。それに対し、東証一部上場27社の製薬企業は16.3%、製造業平均の約5倍弱でした。
大事な事は、この営業利益というのは試験研究費を費用として差し引いた後の数字だと言う事を是非ご理解頂きたいと思います。
次に、今度は製薬企業上位16社の財政状況です。製薬工業会が出しているデーターですが、2010年3月期から2016年3月期の6年間で見ますと、留保利益は7.5兆円から8.7兆円に1.2兆円増えています。では留保利益全部を設備投資等に使ったのか? そうじゃない。この間、現金預金は1.6兆円から2.7兆円。つまり留保利益が増えたのとほぼ同じ額だけ、手もとの現金預金として持っている訳です。
もっと薬価上げて欲しいと言う前に、これなぜ使わないのですか?こんな状態で、お金が足りない、インセンティブが損なわれます、なんて言って社会的に通用するのかということを、ぜひとも申し上げたい訳です。
国民皆保険を未来の世代に引き継ぐ政治の責任が問われている
最後に私が感銘を持ったのは、2013年7月4日、自民党長老の尾辻秀久議員が選挙の出陣式でおっしゃったことです。YouTubeで聞きました。こういう場で画像まで取り出すのはいかがかと思ったのですが、貼り付けました。
「米では4000万人が医療保険に加入していない。」
「WTOは世界の医療保険制度で文句なしに日本が一番と太鼓判を押した。」
「なんで15番の国、米から世界一の日本が偉そうに言われるんですか?」
続きまして、
「私たちの宝を、米の保険会社の儲けの走狗にするためになくすなどという愚かな事を絶対にしてはいけない。」
私はこの言葉を聞いて本当に感銘を覚えました。そこでこれを受けまして、最後に。
・多国籍製薬資本の営利に国民皆保険制度を浸食されて良いのか?
・国民皆保険制度を財政面から揺るがさないためには、TPPバスから
下車するのが唯一最善の道だと私は考えます。
・結局、今、国会議員の皆さま、あるいは国民一人一人、有権者一人
一人に問われているのは、未来の世代に尾辻さんのおっしゃる貴
重な財産、宝物を未来の世代にしっかりと引き継ぐ事ができるのか
どうなのか。それを引き継ぐ責任が問われている、
と言うふうに申し上げて終わらせて頂きます。
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