起算日規則に従えば記録は残っているはず~森友交渉記録の廃棄は「脱法」:(第2回)
2017年4月7日
“保存期間1年未満”でも即廃棄とはならない
佐川宣寿理財局長は、森友学園への国有地売却の事案は契約の締結を以て終了したので、省内の規則に従い、保存期間1年未満の文書として廃棄したと答弁している。
確かに、「保存期間1年未満」となると「即廃棄もあり」かに思える。専門家の中には、これを逆からとらえて、「即廃棄も可能となる『保存期間1年未満』という規則や慣例は不当だ」と指摘する論者もいる。
しかし、こうした議論には、行政文書の保存期間に「起算日」があることを考慮しない致命的な欠陥がある。
「財務省行政文書管理規則」の第13条第4項によると、行政文書の保存期間の起算日は原則として行政文書を作成・取得した日の翌年度の4月1日とする、となっている。
とすれば、森友学園関連の行政文書の管理者である財務省近畿財務局長が、本規則を順守していたら、かりに保存期間が1年未満だったとしても、保存期間の起算日は2017年4月1日となるから、森友学園への国有地売却問題が審議された今年の2月~3月の時点では問題の文書は「あった」はずである。
森友関連の文書に「ただし書き」は当てはまらない
ただし、上で引用した「財務省行政文書管理規則」の第13条第4項には、上記の文章に続けて、次のような「ただし書き」がある。
「ただし、文書作成取得日の属する年度から1年以内の日であって4月1日以外の日を起算日とすることが行政文書の適切な管理に資すると文書管理者が認める場合にあっては、その日とする。」
ここでいう「行政文書の適切な管理に資する」とは、どういう意味なのか? 近畿財務局はこのくだりを使って、起算日を翌年度(2017年度)の4月1日より早い日とすることができたのだろうか?
そこで、この文言の解釈を確かめるため、3月31日、財務省文書課文書係に電話で問い合わせた。そして、途中で代わって応対したOさんと、概略、次のようなやりとりをした。
醍醐 「第13条第4項の『ただし書き』を保存期間1年未満とされた森
友学園関連の行政文書に適用したら、文書を作成した後、今年
の4月1日より早く文書を廃棄することもありとなりますが、そ
ういう処理は想定できますか?
O氏 「・・・・」
醍醐 「『ただし書き』で言われる『行政文書の適切な管理に資する』
という文言を使って、森友学園関連の交渉記録を売買契約締結の
あと、すぐに廃棄するのは無理な解釈だと思いますが。」
O氏 「・・・・」
醍醐 「私の言っていることは法規の解釈として明らかにおかしいです
か?」
O氏 「ご意見としてうかがっておきます。」
この時、私は起算日以外のこともいくつかOさんに尋ねた。情報公開請求をしなければ入手できない「細則」について、一部を口頭で読み上げて教えてもらったりした。そして、「規則」や「細則」に関する質問には明快にYes、Noで答えてもらった。しかし、起算日については、日頃あまり出ない質問だったためか、はっきりした答えが返ってこなかった。そこで、私は自分の解釈は、あながち見当外れではないのではと思ったりした。
というのも、1つ前の記事で書いたように、起算日を翌年度の4月1日としない事例の大半は、訴訟関係資料(特定日以降10年保存)、告示・訓令・通達等(通知日を起算日としている模様)、休暇簿、出勤簿など(暦年を用いて1月1日を起算日としている)、確かに行政事務に資すると思える理由がある場合ばかりだった。森友学園関連の文書に、これに類するような行政事務上の便宜は想定できないのである。
類似の行政文書はどう扱われたか?
~国有財産の売却に関連した行政文書ファイル管理簿の調査より~
しかし、それは「心証」だと言われたら、それまでだ。そこで、各省庁所管の「行政文書ファイル管理簿」をネットで検索して、森友学園関連の行政文書と類似の文書はどのように管理されたか――具体的には、類似の文書の保存期間の起算日はどのように決められたか、保存期間はどのようになっていたか――を調べてみた。私の調査はまだまだ限られた範囲であるが、これまでに次のような条件で検索した。その結果を書き留めておく。
〔検索の方法〕
キーワード:<国有財産>&<売却>
文書作成・取得日の期間:2013年4月1日~2017年4月6日
文書管理者:全省庁
〔検索の結果の概要〕
ヒット件数:45件 うち、森友学園案件に類似した文書31件
(注:その他14件のうち13件は「処分すべき国有財産調査票及び売却
予定表」、1件は「国有財産用途廃止」に関わる文書)
*保存期間の起算日(45件すべて)
文書作成・取得日の翌年度の4月1日(原則通り) 43件
文書作成・取得日の年度末(3月31日) 1件
文書作成・取得日の翌年1月1日(この文書の保存期間は10年)
1件
*保存期間(森友学園案件に類似した文書31件の場合)
3年:5件 5年:21件 10年:3件 30年:2件
〔コメント〕
①起算日は、45件全体の96%に当たる43件で原則どおり、文書作成・取
得日の翌年度の4月1日となっていた。
②残りの2件のうち1件は文書作成・取得日の年度末(3月31日)で、原
則を採用した場合と1日違い、もう1件は原則日より3ヶ月早い、文書
作成・取得日の翌年の1月1日だった。しかし、この場合も文書の保存
期間は10年だったから、文書が作成・取得された年度内に廃棄される
ことはなかった。
③森友学園案件に類似した文書31件の保存期間はすべて3年以上で、68
%は5年だった。しかし、そうはいっても、保存期間1年未満とされ、
保存期間が満了したため、すでに廃棄された文書があった可能性は
ある。
④以上から、今回調査を行った国有財産の売却に関連した行政文書を見
る限り、文書の保存期間の起算日を、文書が作成・取得された年度内
の恣意的な月日と決めて、1年未満で文書を廃棄した(できた)と考
えられる事例は見当たらなかった。
佐川理財局長の答弁のジレンマ
~違法行為? それとも虚偽答弁?~
このような調査と「財務省行政文書管理規則」の条文解釈を踏まえると、森友学園関連の行政文書を今年の4月1日よりも前倒しで廃棄することは事実上、不可能だったといって間違いない。
とすれば、森友学園関連の行政文書は、超最短でも今年の4月1日までは保存されていたはずだ。にもかかわらず、佐川理財局長は今年の2月24日に開かれた衆議院予算委員会で、森友学園への国有地売却の事案は2016年6月20日の契約締結を以て終了したので、省内の規則に従い、保存期間1年未満の文書として廃棄し、もはや残っていないと答弁した。その後、3月中に開かれた委員会でも同様の答弁を繰り返した。
そうなると、佐川理財局長の答弁は次のA、Bのどちらかを意味すると考えるほかない。
A:近畿財務局は「財務省行政文書管理規則」第13条第4項に反
して、今年の4月1日以降、所定の保存期間満了日まで保存し
なければならなかった行政文書を、それ以前に廃棄するとい
う違法行為を行った。
B:今年の2~3月の時点では実際には「あった」文書を「ない」
と虚偽の答弁をした。
現在の私には、A、B以外の第3の可能性は想定できない。と同時に、「起算日」規則を知らないはずがない行政事務、法令解釈に精通した財務省役職者が、違法を承知で、今年の4月1日以前に森友学園関連の行政文書を廃棄するとは考えられないから、Bが真相ではないか? そう考えて、「残っているはず」というタイトルを付けた。
実際はA、Bのどちらなのか? 国会議員各位は簡単にいなされる質問ではなく、入念な調査のうえ、ギリギリ詰めた質問で、真実を究明してほしい。
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コメント
こんにちは。
素晴らしい追及で大変感激しました。以前、新聞記者の方が講演で「役人は平気でうそをつく。ほんと、平気で」と呆れかえってお話になったことを思い出しました。
保存期間の起算日は文書を作った年の翌年度4月1日からだということを白日に晒したのは素晴らしい事ですね。
さて、内閣府においては違う内規のようです。
安倍昭恵夫人付の公務文書は「用済み」廃棄
まさのあつこ 5/12 https://news.yahoo.co.jp/byline/masanoatsuko/20170512-00070897/
>「廃棄した」と言われた時に、少なくとも「廃棄簿を出せ」と言えば、ウソならバレ、本当ならタイトルなどから捨てたものの片鱗は見えるはずだと考えたのだが、1年未満なら廃棄簿すらない
>内閣官房が保有する保存期間1年未満の行政文書ファイル等の取扱いについて
内閣官房行政文書管理規則(平成23年4月1日内閣総理大臣決定)第19条に基づき、下記の通り決定する。
記
内閣官房が保有する行政文書ファイル等のうち、保存期間が1年未満のものについては、当該行政文書ファイル等を作成し、または取得した日を保存期間の起算日とし、その使用目的終了後、遅滞なく廃棄するものとする。
ただし、当該行政文書ファイル等の使用目的終了後、これを保有することについて、合理的な理由があるときは、この限りではない。
>「内規は、法律や規則と同等なんだから出すべきですよ。そうじゃないと、今日のことを想定問答して、昨日作ったものかもしれないと疑われますよ。いつ作成したものですか」と問うと、「おっしゃることは分かりますが、平成28年9月1日に作成したものです」と言う。「なぜ去年9月なんですか」と詰めると「なかったからです」と空虚な答えが返ってきた。ずっとなかったものを突然、昨年9月に作ったというのである。
しかし、昨年9月とは、実は、朝日新聞が報じたように、豊中市議が財務局に情報開示請求を行った月でもある。
まさのあつこさんはこうしたことに詳しいようですからお会いしたらいかがですか?
投稿: L | 2017年5月24日 (水) 14時52分
先生。 「佐川理財局長の答弁は次のA、Bのどちらかを意味する」と結論づけられる推論過程は、流石です。
そして、財務省の文書管理には問題があるのは、事実でしょう。
ただ、佐川理財局長の答弁では、森友学園事案での交渉過程に係る文書等で、公開しては不味いものを短期の保存期間に係る文書に無理に分類しているのではないか、と疑います。
更に、無理筋なのは、短期の保存期間分類を是としましても、当該事案は、契約進行中ですので、完結してはいないのです。
登記事項を見ると明らかです。 其処には、以下のとおりにあり、現在は、契約期間中である事実を知ることが出来ます。
当該登記事項中、付記1号として、原因 平成28年6月20日特約 売買代金 金1億3,400万円 契約費用 返還を要しない 期間 平成28年6月20日から10年間 買戻権者 国土交通省
kyoto-seikei 建設業界、産業廃棄物業界、行政などのニュースを発信。
http://kyoto-seikei.com/hp/2017/03/01/%E6%A3%AE%E5%8F%8B%E5%AD%A6%E5%9C%92%E3%83%BB%E5%9C%9F%E5%9C%B0%EF%BC%9A%E5%9B%BD%E6%9C%89%E5%9C%B0%E6%89%95%E4%B8%8B%E3%81%92%E3%81%A7%E3%81%AF%E7%8F%8D%E3%81%97%E3%81%84%E3%83%BB%E8%AC%84%E6%9C%AC/
一体、何処の世界に、契約期間中に関連文書を毀棄する行政庁(のみではありませんが)があるのでしょうか。
投稿: 熊王 信之 | 2017年4月 7日 (金) 09時11分