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「避難指示解除」の隠れた現実を伝えないメディア

201743
 
 
331日~41日を中心に、福島県内での原発「避難指示解除」をめぐる報道をモニターした。以下は、私が視た限りではあるが、その番組批評である。

 NHK,民放とも現地からのレポートをまじえて「解除」「帰還」の現実をそれなりに伝えた。しかし、「見えない」、「見せない」現実にどこまで迫ったかとなると、重大な疑問、限界を感じた。

「帰還希望者は16.0%」という数字はミスリーディング

 多くのメディアが伝えた、この「16.0%」という数字は復興庁が去年10月に公表した富岡町の住民意識調査の結果である。しかし、この数字には注意しなければならない点が二つある。

 一つは帰還の時期である。復興庁が公表した「住民意向調査速報版(富岡町)の公表について」(20161025日、記者発表)は次のとおりである

http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-4/ikoucyousa/20161025_ikouchousa.pdf 

 この元資料を見ると、「戻りたい」と答えた人の中で「避難指示解除後すぐ」と答えたのは36.0%である。つまり、回答者全体の中で「避難指示解除後すぐに帰還」と考えているのは5.8%(=0.16×0.36)に過ぎない。「戻りたい」という人のうちの残りは「解除後310年以内」が25.6%、「時期は決めていない」が37.5%となっている。いろいろネットで調べると、「帰還の時期」も含めて住民の意向調査の結果を伝えたのはインターネット・ニュースチャンネル「Abema Prime」(だけ?)だった。

「『避難指示』帰還困難区域など除き解除 避難生活者『今の状況では帰る選択はない』」(Abema Prime Time, 2017311日)
 https://abematimes.com/posts/2121835 

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  政府による避難者への慰謝料の支払いは来年3月分で打ち切られる。指定区域外からの自主避難者への住居の無償提供もこの3月末で打ち切られ、条件付きの家賃補助に切り替えられた。こうした避難者支援の打ち切りとセットの「避難指示解除」の意味を考える上で、避難指示解除後すぐに帰還する意向の住民が全体の6%に過ぎないという情報は極めて重要である。大手メディアはなぜ、こうした情報を伝えないのか? 

 「帰還希望者は16.0%」という数字が持もう一つの限界は、この数字が全年代の平均だということである。37日に放送されたNHK「おはよう日本」は「震災6年 ふるさとへの帰還進めるためには」というタイトルの特集を組んだ。その中で、上と同じ富岡町の「戻りたい」とする住民の意向を年代別に調べたグラフを示した。
 これを見ると、平均は16.0%だが、70代以上で20.8%の一方、30代では8.2%、20代以下では4.9%となっている。

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 331日のNHKニュースウオッチ9は「戻る住民 避難し続ける住民」というテロップを出して避難指示「解除の現実」を伝えた。そのような伝え方をしたのは、帰還した住民と避難先で住み続ける住民の医療をともに担うための医師、職員の配置が予算の制約から難しくなっている実態を伝えるためだったことはわかる。そういう現実にスポットを当てたことも重要だと思う。
 しかし、「戻る住民 避難し続ける住民」という表現では、住民の意向が二分しているかのように伝わる。現実はそうではなく、上記のAbema Prime Timeニュースに登場した避難住民が語ったように、「今の状況では帰る選択はない」ということではないか?「帰還」と言っても多くは昼間の一定時間だけ、というのが現実のようだ。帰還の時期に関する住民の意向の分布はそのことを物語っている。

 6年ぶりに自分の家で食事をし、畑仕事をする家族の喜びはよくわかる。しかし、地域にもよるが、帰還しても隣近所は空家、コンビニも1店だけ、夜は真っ暗、学校の再開も来年度以降では、帰還して元の自宅での生活もままならない。
 41日のNHKニュース7に登場したコメ農家の住民も、自分が先頭に立って米作の再興に取り組まなければと抱負を語っていた。しかし、除染で砂を敷いた田んぼは雨で肥料が流れてしまうと語り、米作の再開と言っても田んぼの除染効果を確認するため、町が行う「実証栽培」に参加するという段階だ。また、帰還といっても、当分はいわき市から片道1時間かけて富岡町に通い農業を続けるという。
 さらに、帰還した住民にとって、勤労/若年世代がどれくらい帰還し、定住するかは町の復旧、復興にとって決定的な意味を持つ。その意味で、「おはよう日本」が伝えた年代別の帰還の意向割合は重要な情報と言える。

「解除の指針20ミリシーベルト」の意味をなぜ問わないのか

 政府が避難指示を解除する指針としたのは「年間放射線量20ミリシーベルト以下」という基準だ。しかし、専門家の間では周知のことだが、もともと、この基準値は国が避難指示を出す基準として用いた年間放射線量である。国際的にも事故やテロなど緊急時の対応を発動する基準として作られたもので、平常の生活を営むことを可とする基準ではない。(自然界にもともと存在する放射線<自然放射線>からうける放射線量は、世界平均で年間約2.4ミリシーベルトと言われている。)

 避難指示解除の指針として「20ミリシーベルト」を使うのは帰還第一主義の国策を正当化し、つじつまを合わせるためのものである。このような背景を伝えない報道は見えない形で棄民の国策に翼賛するものと言っても過言でない。

政府話法に立ち止まらないメディア
 今村雅弘復興相は312日放送のNHK「日曜討論」で、福島原発事故の自主避難者について、「ふるさとを捨てるのは簡単」、「ふるさとに戻って頑張っていくんだという気持ちを持ってもらいたい」と発言した。
 原発避難者ではない私でも、自分の意思でふるさとを捨てたかのようなこの発言は「長靴業界、儲かった」の発言よりも重大と思え、このブログに批判の記事を書きとめた。しかし、世の中もメディアも今村発言に批判はおろか、ほとんど関心を向けなかった。
 
 今村大臣の発言を聞いて、私は2011411日の閣議決定で、東日本大震災復興構想会議を設置するにあたっては「単なる復旧ではなく、未来に向けた創造的復興を目指していくことが重要である」という文言があったのを思い起こした。その時(2011422日)も、

「復旧なくして復興なし~被災地は高邁なロマンの実験場ではない~」

 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/post-765f.html


という記事を書き、「復旧は『単なる』といえるほど軽い事業なのか?」と憤りを綴った。
メディアは、一見してそれとわかる政治家の暴言は大々的に伝えるが、一見ではわかりにくい政治家の暴言は素通りすることが多い。しかし、「棄民」政治を生む政治家の本性を表す言葉にメディアも市民ももっと敏感でなければならない。いつ何時、自分も「棄民政治」の冷酷さを味わうか、わからないのだから。

「ゼロから」ではなく、「ゼロへの」スタート
 そうしたメディアの状況の中で、救われる思いがしたのは今日(43日)の『朝日新聞』社説が「ゼロへのスタート」という飯館村の菅野典雄村長の含蓄に富んだ言葉を紹介したことだ。避難指示解除はふるさとでの元の生活の再開を待ち望んだ人々にとっては、明るいニュースに違いない。
 しかし、メディア、特にNHKは天皇夫妻や有名人が避難先を訪ね、慰問をする姿を「明るい話題」として大きく報道してきた。慰問の気持ちに背を向けるつもりはないが、天皇夫妻が慰問し、ひざまずいて励ましたからと言って復旧が進むわけではない。
 ふるさとへ戻る人も、今度は廃炉のなりゆきに不安を訴えている。その意味で、帰還は「ゼロから」ではなく、ゴールが見えない「ゼロへの」スタートにほかならないという現実をメディアはリアルに伝えなければならない。

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