政府統計から消される「自主」避難者
2017年8月30日
8月28日の「朝日新聞」朝刊に「統計から消える自主避難者」という記事が掲載された。同文が「朝日新聞DIGITAL」にも掲載された。
「統計から消える自主避難者 福島原発事故、無償住宅打ち切り影響」
「朝日新聞DIGITAL」2017年8月28日05時00分)
http://www.asahi.com/articles/DA3S13105922.html
避難者に「自主」を付ける官製用語は棄民政治に通じる
今年の3月末で、福島第一原発事故の影響で各地に避難した「自主避難者」への避難先住宅の無償提供が打ち切られたのを機に、各市町村が自主避難者の多くを統計上「避難者」に計上しなくなったのがその理由とされている。
しかし、無償が有償(自己負担)に代わったからといって、また、それを理由に政府統計上、「避難者」にカウントされなくなったからといって、元の生活に戻れず、避難生活を余儀なくされる人たちがいる現実がなくなるわけではない。
(参考)「県外への避難状況と推移」(福島県HPより)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/ps-kengai-hinansyasu.html
2012年3月8日(ピーク時) 62,831人
2017年3月13日(避難指示解除直前) 39,218人
2017年7月14日(最新の調査時点) 35,166人
《醍醐コメント》
①避難指示が解除された時点の県外避難者の89.7%は今も県外で避難
生活をしている。
②ピーク時の県外避難者の57.0%が今も県外で避難生活をしている。
行政が支援を打ち切ったのを理由に、政府統計から消される人たちからすれば、生活者としての今の自分を政治の手で抹消(棄民)され、闇(=社会の関心の外)に葬られるのと同じではないか・・・・自分が「自主」避難者だったらと考えると戦慄と怒りがこみ上げる記事だった。
私が調べたかぎりでは、この問題を報道したのは上記の「朝日新聞」の記事だけで、他のメディアは伝えていない。
「福島の人間だとは絶対言わないように生きている」
問題はメディアだけではない。県外避難者に、「福島からの避難者」という自分の履歴を伏せて、ひっそり避難生活を送ることを余儀なくさせている日本の「ムラ社会」体質の根深さも露呈している。
これについてはNHKが偏見の実態を生々しく伝えた。社会部の調査報道の労作である。
「震災6年 埋もれていた子どもたちの声 ~“原発避難いじめ”の実態」
(NHK「クローズアップ現代+」No.39472017年3月8日(水)放送
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3947/1.html
「父親
ずっとこう言われる。『東電に文句を言えば金になるんだろうから、なにも働かなくてもいい』って。」
「90代女性(埼玉)
あなたたちは、俺たちの税金で暮らしてんだよなーと声をかけられた。心が震えました。」
「父親
他の人たちに被災者だと知れ渡ったときの怖さが出てしまう。今でもそうですけど、福島の人間だっていうのは出さないように。今でも『絶対に言わないように』って、お互い確認し合いながら生きている。」
「社会の目となり耳となれ」~メディアの調査報道の初心~
「人の目となり、耳となる」ということわざがある。「メディアは社会の目となり、耳となれ」と言われたりする。「調査報道」の初心を表す言葉といってよい。
「自主」避難者という言葉の非自明性(政治性)、この言葉に潜む「棄民政治」への通路、にメディアも私たち自身も、もっと感性を研ぎ澄ます必要がある。
「自主」避難者という官製用語に易々と染められてどうする!
「メディアの権力監視」という言葉を利口ぶって使うんじゃない!
使うなら、もっとリアルに、地べたに足を着けて、自分の言葉で使え!
「被災者に寄り添う」などという浮わついたた言葉を私は好まない
自戒を込めて
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