« 2020年8月 | トップページ

NHK宛てに 「ソウル中央地裁の元慰安婦損害賠償判決の報道についての意見・要望」を送った

2021年1月11日 
今日NHK報道局ニュース制作センター宛てに次のような意見・要望を送った。

NHK報道局 ニュース制作センター 御中
                                 醍醐 聰

   ソウル中央地裁の元慰安婦損害賠償判決の報道についての意見・要望

 1月8日、ソウル中央地裁は、日本軍元「慰安婦」被害者が日本政府に対して訴えていた損害賠償を認める判決を言い渡しました。これについて、NHKは同日のシブ5時、ニュース7、ニュースウオッチ9で、「国際法上、主権国家は他国の裁判には服さないのが決まりだ」と反発した菅首相の発言を論評抜きで伝えました。
 さらに翌9日の「おはよう日本」では「国際法の世界で『主権免除』の原則は常識中の常識であり、今回の判決は恥ずべきことだ」という日本政府関係者の発言を伝えました。
 しかし、日本政府が依拠する「絶対免除主義」は今日では国際法の常識どころか、「制限免除主義」に取って代わられつつあります。最高裁第二小法廷は平成18(2006)年7月21日に言い渡した判決の中で、外国国家は主権的行為以外の私法的ないし業務管理的な行為については特段の事情がない限り、主権免除されない、と判示しました。
  033348_hanrei.pdf (courts.go.jp 
 さらに、近年、国際法学界では、たとえ、外国国家の主権的行為であっても、他国または他国民に対する組織的で重大な人権侵害に当たる場合は、主権免除を認めるべきではないという見解が有力になっています。
 その理由として指摘されているのは、国家の主権的行為といえども国際法の最高強行規範(根源的な人権あるいは裁判を受ける権利)を侵害させるべきではないという議論です。

(主な参考文献)
・水島朋則『主権免除の国際法』2012年、名古屋大学出版会
・黒田秀治「外国政府による人権侵害と主権免除」(住吉良人編『現代国際社会と人権の諸相
 宮崎繁樹先生古稀記念』1996年、成文堂、所収)
・坂巻静佳「重大な人権侵害行為に対する国家免除否定論の展開」(『社会科学研究』2009年
 2月)
・山本晴太「日本軍『慰安婦』訴訟における主権免除」2019年5月
 http://justice.skr.jp/stateimmunity/stateimmunity-in-sexslave-cases.html 

 今回のソウル中央地裁判決が「本事件の行為は、日本帝国による計画的・組織的で広範囲な反人道的犯罪行為として、国際強行規範に違反するものであり、当時日本帝国によって不法占領中だった朝鮮半島内で、我が国民である原告に対して行われたものとして、たとえ本事件の行為が国家の主権的行為だとしても、主権免除を適用することはできず、例外的に大韓民国の裁判所に被告に対する裁判権がある」と判断したのは、上記のようなわが国の国際法学界の流れとも符合するものであり、非常識でもなんでもありません。「恥ずべき」という言葉をあてがうなら、こうした国際法の判例や学説の流れを知らないかのようにソウル中央地裁判決に高圧的な態度をとる日本政府に向けるべきです。

 NHKは、このような場合こそ、日本政府の主張を鵜呑みに拡散するのではなく、自立した取材と調査をもとに、「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と定めた「放送法」第4条第1項第4号、ならびに、「意見が対立している裁判や論争になっている問題については、できるだけ多角的に問題点を明らかにするとともに、それぞれの立場を公平・公正に扱う」と定めた「NHK放送ガイドライン 2020」を厳守するよう、強く求めます。

 ------------------------------------------------------------------

上記の文中にURLを付けた以外の参考資料
 ・ソウル中央地裁判決要旨(詳細版) 
  (読売新聞on Line 2021/01/09/05:00)
  https://www.yomiuri.co.jp/world/20210108-OYT1T50238/
 ・わが国では近年、駐留米軍の不法行為の裁判権等についても主権免除の否定を求める
  訴訟や学説が広がっている。参考文を1点のみ。
   長尾英彦「駐留米軍と主権免除の原則」『中京法学』2004年
   https://irdb.nii.ac.jp/01444/0000819252
   

| | コメント (0)

健康で文化的に生きる権利の平等のために~2021年 新年にあたって~

                      新 春

                    2021年 

             皆さまのご健勝をお祈りいたします。 
              本年もよろしくお願いいたします。

 

 晴れがましい新年の言葉が不似合いなコロナ禍の越年。
 年越しの食料を求める人々の集まりが各地で見られる一方、誰にも助けを求めず、社会から消えていく困窮死、孤独死、餓死のニュースを聞くたびに、私が生まれて間もない日に、皇居前広場に25万人が集まって開かれた飯米獲得人民大会(通称、「食糧メーデー」の熱気を思い起こします。
 
 意気込んで新年の抱負を話す年齢ではなくなりましたが、誰もが平等に文化的で健康な生活を送れる社会のインフラとして、あるべき税財政とはどのようなものなのか、考えていきたいと思っています。

 具体的には、一昨年、昨年に続き(注1)、富の社会的再分配の実行のために避けて通れない富裕税(個人)と留保利益税(法人)の創設に寄与できる研究を進めたいと思っています。
 また、昨年は日本銀行のバランスシートを用いて、異次元金融緩和を批判的に評価する小論をまとめましたが(注2)、今年は、コロナ禍を尻目に高騰を続ける株価を下支えしている日銀のETF(上場投資信託)購入の危険な罠を解き明かす研究も手掛けたいと思っています。

 本年もよろしくお願いいたします。


(注1)
・醍醐聰「いかにして内部留保を社会に還元させるのか~~富を再分配する税制の提言~」『全労連月報』2019年6月号、1~11ページ。
・醍醐聰「コロナ禍における財源問題を考える」国公労連情報誌『KOKKO』2020年11月号、30~48ページ。

(注2)
・醍醐聰「日銀のバランスシートを活用した異次元金融緩和の政策評価」『会計理論学会年報』第34号、2020年、所収、9~18ページ。

| | コメント (0)

« 2020年8月 | トップページ