参議院財政金融委員会で財源論について意見陳述と質疑

 昨日(325日)に開かれた参議院財政金融委員会(委員長・円より子氏)に土居丈朗氏(慶応義塾大学経済学部准教授)、浅羽隆史氏(白鷗大学法学部准教授)とともに参考人として出席し、「今後の財政運営に必要な財源の確保に関する意見」を述べる機会を得た。
 最初に3人の参考人が各自15分程度、意見陳述をし、その後、峰崎直樹氏(民主党)、鶴保庸介氏(自由民主党)、荒木清寛氏(公明党)、大門実紀史氏(日本共産党)と、それぞれ20分ずつ質疑を交わした。

 その模様が参議院のホームページのビデオライブラリに掲載されているので紹介させていただく。

 参議院財政金融委員会(2009325日開催)録画
http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/library/result_consider.php?page=2&tx_mode=consider&sel_kaigi_code=0&dt_singi_date_s=2009-01-05&dt_singi_date_e=2009-03-26&tx_speaker=&sel_speaker_join=AND&tx_anken=&sel_anken_join=AND&absdate=no&sel_pageline=10&dt_calendarpoint=2009-02-26&abskaigi=6


 私の意見の要旨は次の2点である。
 1.特別会計における余剰金(特に毎年69兆円に達している不用額と、使途未定のまま繰り越されている決算剰余金)を的確に把握し、一般財源として活用すべきである。
 2.「初めに消費税ありき」の予断を交えず、すべての税目、増税なき増収財源(特に毎期発生している上記の特別会計余剰金)を視野に入れた検討をすべきである。

 全体で午後105分から319分ごろまでと2時間余りなので、すべてをご覧いただくのは大変かと思う。ビデオの時間帯でいうと、私の意見陳述は、063024:00である。お忙しい方はその中で消費税について意見を述べた部分(20502400)をご覧いただけるとありがたい。3分ほどの非常に限られた時間であったが日頃の私の考えを話すことはできたと思っている

 また、もう少し、時間を割いていただける方には、あるべき税制をめぐって土居氏と交わしたやりとり(013200013655)をご覧いただくと、消費税増税をめぐる争点の概要を知っていただけるのではないかと思う。 

 なお、当日、意見陳述用に提出した資料(本体と別紙資料)も掲載しておきたい。
 本体ペーパー
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/zaigen_ikenchinzyutu20090325.pdf
 

 別紙資料
  別紙1 特別会計における予算と決算の関係(概念図)
   (会計検査院「特別会計の状況に関する会計検査の結果について」    平成1810月、13ページの図を引用したもの)

  別紙2 特別会計分析の3つのポイント
  
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/besshi2_3point.pdf

  別紙3 各特別会計の不用額の推移
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/besshi3_fuyogaku.pdf

  別紙4 各特別会計の予備費不用額の推移
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/besshi4_yobihi_fuyogaku.pdf

  別紙
5 特別会計の分類別の繰越額・不用額(16年度)
   (会計検査院、前記資料
37ページより引用)

  別紙
6 決算剰余金のうち翌年度歳入繰入額の見合い財源の内容(16     年度)
   (会計検査院、前記資料
6364ページより引用)

  別紙7 平成16年度決算で使途未定のまま100億円以上の歳計剰余金を     繰り越した特別会計・勘定のその後の決算状況
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/besshi7_sitomitei_kurikosikin_no_tuiseki.pdf


 (別紙156はファイル・ベースの資料でないため掲載していない。)

補足 経済学の「定説」にたじろがないために
 
一点、質疑の場で触れられなかったことについて、この場で補足しておきたい。土居氏は質疑の中で数回、「所得税の引き上げを検討するにあたっては、すでに社会保険料において所得に比例した負担がされていることを考慮しなければならない」という趣旨の発言をした。

しかし、周知のはずと思うが、社会保険料における所得比例の負担は受給の時点で所得比例の年金部分として自分に還元されるものであって、社会的に再分配されるものではない。この意味で所得税負担の限度を議論する際に社会保険料の所得比例負担を持ち出すのは失当である。

昨日の意見陳述や質疑の中での土居氏の発言にも見られたが、経済学者の間で「経済学では~~となっている」という論法で特定の見解が経済学上の自明の定説であるかのような論法をしばしば見受ける。しかし、本当に定説なのか疑問に思えることが少なくない。上の社会保険料をめぐる見解などはその好例である。

また、かりに定説だとしても、それ自体の社会的合理性を問わなければならない場合が少なくない。社会保障負担と経済成長を二律背反かのように捉える見解などはその代表例といえる。

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過剰な積立金と経常的に発生する剰余金の一般会計への還元――埋蔵金論争の正しい決着のために(4・完)――

 最終回のこの記事では、保険を除く事業特別会計の中で毎年度の不用額または剰余金と直近年度末の積立金・資金の規模が傑出している財政投融資特別会計(旧財政融資資金特別会計)と外国為替資金特別会計の積立金・資金を検討してみたい。はじめに、両特別会計の過去5年度(20022006年度)の不用額、剰余金等の推移を再掲しておく。
 1 各特別会計の決算状況(2006年度)
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/tokubetu_kaikei_kessan_H18.pdf

 表2 各特別会計の不用額の推移
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/tokubetu_kaikei_fuyogaku.pdf

財政投融資特別会計の事例分析
 まず、財政投融資特別会計であるが、現在のこの特別会計は旧産業投資特別会計投資勘定を引き継いだ「投資勘定」と旧財政融資資金特別会計を引き継いだ「財政融資資金勘定」の二つに区分されている。このうち、投資勘定については前回触れた。もう一つの財政融資資金勘定については2回目の記事で少し触れたが、中小零細企業、教育、社会福祉関係等への長期低利の貸し付けを通じてこの分野で経済社会に貢献することを目的としている。そのため、この勘定では金利変動による損失に備える金利変動準備金を設けることとされ、2006年度末現在で残高は15.3兆円となっている。しかし、金利変動リスクというが過去において逆ザヤとなったことはなく、この5年間は毎年度2.8兆円~4.0兆円の剰余金を計上している。加えて、2007年度で郵貯・年金の預託払い戻しが概ね終了し、金利リスクが相当程度低減した。そのため、金利変動準備金の準備率の上限をそれまでの1,000分の100から1,000分の50に引き下げ、準備率の上限を上回る9.8 兆円が国債整理基金特別会計に繰り入れられた。
 このような状況から判断すると、財政融資資金勘定では現状の準備率でも金利リスクに十分対処できると考えられ、過去5年間の実績を基準にしていうと、毎年度発生した2.5兆円程度の不用額に相当する剰余金を今後、一般会計に還元することが可能と考えられる。また、今後各年度の金利変動準備金への繰入れで金利リスクに概ね対応できると考えられるから、約15兆円の準備金の大半を段階的に一般会計に繰り入れて行くことが可能と考えられる。

外国為替資金特別会計の事例分析
 次に、外国為替資金特別会計であるが、この特別会計も2006年度末現在で17.5兆円の積立金・資金を保有する一方で、過去5年間、1.7兆円~3.7兆円規模の剰余金を計上してきた。これは運用サイドの米国債の金利と為替介入の際のドル購入用資金を調達するために発行した債券の国内金利の差、つまり日米金利差に起因するものである。剰余金率(=剰余金/収納済歳入額)でいうと90.3%~99.4%を記録している。歳入額の90%以上を余している計算である。

 ところが、与謝野馨氏は、「外為資金特別会計は、為替変動リスクに備え、為替介入などの原資となるものだ。いわば、家計における保険料のようなもの。食費が足りないからといって使っていいものではない」(『堂々たる政治』166ページ)と述べ、17.5兆円の積立金は任意に使えないかのように主張している。本当にそうか? 
 しかし、為替介入に備えるといっても、20043月に実施された円売り・ドル買いの介入を最後に日本は為替介入を封印している。この間おおむね、ドル高傾向が続いたこともあるが、欧米各国や中国に為替介入の意思がない中で日本が単独介入しても相場への影響は微々たるものだということがわかっているからである。もっとも、このところ急速に進む米国発の金融危機の中で日本の通貨当局が4年半ぶりに介入に踏み切るかどうか注目されているのも事実である。しかし、欧米の通貨当局は、為替レートは相場の動向を反映させるべきであるとして、人為的な介入に否定的な姿勢を取り続けている。むしろ、是非は別にして金融機関への公的資金の投入で協調行動をとることで合意している。そうした中、日本が単独で介入してもさしたる効果は見込めないから、日本の通貨当局も介入には慎重な姿勢をとるものと思われる。このように考えると、為替介入の原資として必要という与謝野氏の説明は事情に疎い人々をミス・リードするには簡潔明瞭であるが、あまりに単純すぎる。

 では、円高・ドル安の進行により、保有する米国債に為替差損が生じたときの穴埋めのために積立金を取っておく必要があるという議論はどうか? 資産の運用成果を測るためなら、資産を時価で評価替えして差益、差損を洗い出すことが必要である。しかし、外為特別会計が現在保有する82兆円もの米国債を現在のようなドル安の時期に差損を確定することを承知で一挙に処分することはありえないし、市場の需給関係、相場への売り圧力からいってもできるはずもない。そうであれば、多額の為替差損が実現する可能性はほとんどなく、差損を穴埋めするために積立金の大半を取り崩す必要も生まれない。こう考えると、与謝野氏の議論は外為特別会計の積立金を特別会計に囲い込んで手放さないでおくための幼稚なためにする説明である。
 しかし、それとは別に、将来、為替介入が行われる見込みも乏しい中で、外為特別会計が82兆円にも上る資金を米国債に投資し続ける点については、次のいずれかの方法で現状を改革することが必要であるし、実行可能でもあるといえる。
 (1)年度ごとの剰余金の一般会計への繰り入れ
 米国債を今後も保有し続け、日米の金利差が、多少の幅の変化はあるにせよ、今後も続くとすると、毎年23兆円の剰余金が発生すると考えられる。これを一般会計に繰り入れることは可能である。
 (2)相場の動向をにらみながら米国債を段階的に処分し、その際に発生した差益か、処分額にみあって不要となった積立金を一般会計に繰り入れること。
 (1)の方法を選べば、一般会計に対する外為特別会計の剰余金の貢献は剰余金の計上が続く限り、持続することになる。(2)の方法を選ぶと、持続的とはいかないが、米国債の段階的処分が続く間は増税なき増収財源として一般会計に寄与することになる。

まとめ
 以上のように見てくると、①特別会計に留保された積立金等の「埋蔵金」は決して一過性のものではないこと、②一般財源化が可能な特別会計の余剰金は過剰な積立金に限ったことではなく、これまで毎期発生してきた不用額相当の剰余金の一般会計への繰入れ、ないしは一般会計から特別会計への繰入れの停止によって、社会保障等の歳出に持続的に充当可能な財源となりうるといえる。それだけに、特別会計の余剰金は規模において、社会保障財源を議論する上で、ノイズであるどころか、「公の租税の必要性を確認し、それを自由に承認し、その使途を追跡し、かつその数額、基礎、取立て、および期間を決定する権利」を持つ市民・納税者にとって、避けて通れない重大なテーマなのである。

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特別会計の余剰金は持続的で大規模な一般財源となりうるー―埋蔵金論争の正しい決着のために(3)――

 これまで2回の記事から、偶発債務に備える保険特別会計の剰余金・不用額を除外しても、①多額の不用額なり剰余金を計上している事業特別会計に対する一般会計からこれら特別会計への繰り入れを停止するか、②これら特別会計の剰余金を一般会計へ繰り入れることによって、たとえば、基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げるために要する約2.3兆円程度の財源を確保するのはたやすいことがわかる。

 しかし、それでもなお、政府部内はもとより財政学者の間でも、特別会計の埋蔵金は財政赤字の解消にとっては1回限りの財源に過ぎないとか、「埋蔵金論争は早く終止符を打って、もうないというけじめをつけていただきたいと思っていて、まだ埋蔵金があるのだかないのだかということは、全く社会保障等の財源を安定的に確保するということとは、非常にノイジーなもの」(財政制度等審議会財政制度分科会財政構造改革部会(2008530日開催)議事録より(発言者:土居丈朗)であるとかいった論調が見受けられる。そこで、特別会計の現在の余剰金(積立金に限らないことに再度注意!)ははたして一過性の財源にすぎないのかどうかを具体的事実に照らして検証しておきたい。

特別会計の余剰金が持続可能な一般財源といえる根拠(その1
――不用額に見合う剰余金の一般財源化、国債費への充当――

 このシリーズの1回目の記事に掲載した表2からわかるように、各年度の不用額(偶発債務に備える保険事業特別会計を除く)に見合う剰余金を一般会計に繰り入れるか、不用額に相当する一般会計からの繰り入れを停止したなら、過去5年間(20022006年度)で一般会計に対し総額で37.7兆円(年平均7.5兆円)の増収効果をもたらしたことになる。そして、この増収額を国債整理基金特別会計に繰り入れ、国債の繰上償還に当てるか、毎年度の国債の元利償還費に充当することによって生じる一般会計の歳出削減効果は一過性ではなく、国債の残存償還期間全体に及ぶことになる。ちなみに、同じ5年間の一般会計の年平均歳入額は87.0兆円、国債費の年平均額は17.1兆円だったから、この間に特別会計で生じていた不用額を上のいずれかの処理で一般会計に還元していたら、一般財源は8.6%増加したことになり、不用額の全額をかりに国債費に充てたとしたら、国債費に要する歳入の44%が節減でき、他の財源に充てられたことになる。

特別会計の余剰金が持続可能な一般財源といえる根拠 (その2
――特定財源を環境税に転換――

 毎年度2兆円前後の特定財源(揮発油税の4分の3と石油ガス税及び自動車重量税)が一般会計を経由して道路整備特別会計に繰り入れられてきた。これらは道路整備に使途が特定された財源であるという受益と負担の関係に着目した処理であった。しかし、自動車の走行による受益と道路の維持補修という受益者負担の原則ではなく、自動車の走行による混雑・社会的費用の増加、環境への負荷という外部不経済に着目し、原因者負担の原則にもとづいて道路特定財源を恒久的な環境税と捉え直し、一般財源として活用することも十分考えられる(このような考え方の詳細は、中里透「道路特定財源制度の今後のあり方に関する論点整理」『会計検査研究』34号、20069月、を参照されたい)。

特別会計の関連法人に隠れた余剰金
 特別会計に一般財源化が可能な余剰金がどれだけあるかを査定するにあたっては、各特別会計が受け入れた一般会計からの繰入金や特定財源がその特別会計で最終消費されるのではなく、かなりの金額が、
   
   特別会計 → 関連独立行政法人 →  関連公益法人

という経路で関連法人へ流れている実態を注視する必要がある。2006年度末現在でいうと、特別会計の資産総額のうち253千億円が出資や融資などの形で特殊法人から衣替えした独立行政法人など関連法人へ流れている。そして、これら独立行政法人の中には毎期研究委託費、業務委託費等の形でかなりの金額を関連公益法人(主に財団法人)に支出している例が珍しくない。となると、資金の経路の末端での使途まで追跡し、特別会計に一般財源化が可能な余剰金がどれだけあるのかを広い視野で査定することが不可欠である(注)。

 (注)フランス人権宣言は前文で「人の権利に対する無知、忘却または軽視が、公の不幸と政府の腐敗の唯一の原因であることを考慮し、人の譲りわたすことのできない神聖な自然的権利を、厳粛な宣言において提示することを決意した」(樋口陽一・吉田善明編『解説 世界憲法集』第4版、2001年、三省堂、284285ページ)と謳った後に第14条で次のように記している。
  「第14条〔租税に関する市民の権利〕 すべての市民は、みずから、またはその代表者によって、公の租税の必要性を確認し、それを自由に承認し、その使途を追跡し、かつその数額、基礎、取立て、および期間を決定する権利を持つ。」


 そこで、一例として、旧電源開発促進対策特別会計2007年度に石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計と統合され、「エネルギー対策特別会計」に衣替え。ただし、新特別会計の下で「電源開発促進勘定」として存続)を取り上げてみよう。2006年度末現在の資産総額は6,799億円であったが、そのうちの4,464億円(65.7%)は出資金の形で2つの独立行政法人(新エネルギー・産業技術総合開発機能と日本原子力研究開発機構)に流れている。このうち、資産規模が圧倒的に大きい日本原子力研究開発機構2006年度の財務諸表を調べると、関連公益法人(財団法人)7つが事業収入総額の19.2%にあたる18.2億円を機構から委託費等として受け入れていることがわかる。ここでは、その中の(財)原子力安全技術センターと(財)原子力共済会を取り上げてみたい。以上の資金の流れを図で示すと次のとおりである。

       旧電源開発促進対策特別会計  
                           ↓
      (独)日本原子力研究開発機構
                  ↓
      
(財)原子力安全技術センタ-・原子力弘済会      

 ここで注目すべきは資金の流れの終点にある公益法人での資金の運用実態である。まず、原子力安全技術センター2006年度末現在の貸借対照表を調べると、資産総額の15.0%にあたる5.6億円が現金で、同じく13.9%にあたる5.2億円が投資有価証券として、それぞれ保有されている。また、短期的な資金繰りのゆとりを表す当座比率(=当座資産/流動負債)は144%、正味財産比率(正味財産/資産総額)は70.6%で極めて潤沢な財政状況となっている。次に、投資有価証券の内訳を見ると、総額5.2億円のうち4.2億円は国債、1億円は東京電力社債となっているが、東京電力社債は次の年度に全額処分され国債に再投資されている。しかし、特別会計の関連法人が低利の国債を保有するほか運用対象がないのであれば、一般会計に還元して国債の償還に充てるか、公的資金にふさわしい使途に充てるのが当然であろう。民間企業、それも特別会計を所管する省庁の監督対象である民間企業の社債を特別会計の関連法人が保有するのは不適切である。なお、原子力安全技術センターの役員名簿を見ると、2006年度末現在では会長は元科学技術庁事務次官、理事長は同じく元科学技術庁審議官が就任している。また、理事(非常勤)の一人に元国土庁長官官房審議官が、監事の一人に科学技術庁原子力局立地地域対策課長が就いている。なお、2007年度には上記の役職のほかに常勤理事として元文部科学省科学技術・学術政策局原子力安全課放射線規制室長が就任している。
 
 次に、(独)日本原子力研究開発機構から8,150万円の事業収入(全事業収入の72.7%)を得ている(2006年度)(財)原子力弘済会の財務内容を調べてみよう(以下は2007年度)。寄附行為によると、当財団は①原子力に関する科学技術情報サービスと②(独)日本原子力研究開発機構の職員等の福祉の増進を図ることを目的にしている。しかし、このうちの①の具体的業務はというと、国際原子力情報システムのデータベースからの検索サービス、世界各国の公開された原子力レポート等の複写、入手可能な外部機関からの複製物の取り寄せ、原子力関連の図書の出版と説明されている。一見していえるのは、このような業務なら日本原子力研究開発機構が付帯業務として行えば済む話であり、わざわざ別個に財団法人を設立するには及ばない。むしろ、原子力弘済会の主たる事業は②の福祉事業であり、事業費の60.4%が給付費(慶弔関係給付、退会給付)となっている。また、給付費に職員給与、賃金、法定福利費、退会給付引当金繰入、退職給付引当金繰入を含めた広義の人件費・共済関連費が事業費に占める割合は79.1%に達している。さらに、管理費に占める広義の人件費の割合も81.3%に達している。ストックの面でみると、資産総額(18.0億円)の68.3%(12.3億円)が会員貸付金となっている。
 では、原子力弘済会の資産の使途(運用状況)はどうかというと、資産総額の25.8%にあたる4.6億円を流動資産に分類される預金として保有している。これは1年間の経常費用(引当金への繰入など資金の流出を伴わない費用を除く)の1.5倍にあたる。また、有価証券として1.5億円を保有しているが、そのうちの1億円は国債、0.5億円は大阪府公募公債である。つまり、資産総額の約3分の2は会員貸付金に充てられ、残りの約31は現金、有価証券として保有されていて、対外的事業に充てられている資金は全体の6%ほどに過ぎないのである。このような職員の共済組合といってさしつかえない事業を特別会計の傘下におき、独立行政法人を経由して公的資金が流れる仕組みを温存しておく理由は見当たらない。かりに、存続させるのであれば、退会給付、退職給付に備える引当金に見合う資産は別にして、その他の余剰資産(預金、有価証券等)は日本原子力研究開発機構を経由して一般会計に還元してしかるべきであろう。
 なお、原子力弘済会の貸借対照表を見ると、貸倒引当金として6,139万円が計上されているが、この金額は売掛金、貸付金の5.0%に相当する。比較に難はあるが、同じ時期の大手行の不良債権比率が1.4%、地方銀行では3.7%であったのと対比して異常に高い比率である。実態に見合った引当てだとすると、融資とその後の債権管理のあり方がどうなっているのか精査する必要がある。

 以上みてきた旧電源開発促進対策特別会計の事例は、金額的には一般財源化が可能な億円~十数億円単位の余剰金が存在することを指摘したにとどまる。しかし、特別会計全体に同様の独立行政法人が、そしてその外郭に関連公益法人がそれぞれぶらさがっていること、特別会計からこれら関連法人に総額で25.3兆円の資金が出資や融資の形で流れていること、それ以外でも年々、委託費などの形で支出がされていることを考えると、関連法人にまで視野を広げて特別会計を経由する資金の最終の使途を追跡することが重要な課題といえる。

 ここでは、金額的規模の点で注視すべき旧産業投資特別会計投資勘定2008年度から財政融資資金特別会計に移管され、「財政投融資特別会計」と改称)を例に挙げて検討しておきたい。この特別会計の資産総額は114685億円に達するがその99.0%、113477億円は日本たばこ産業と日本電信電話の株式保有額である(2006年度末現在)。これらは現状では、法律で政府保有が義務付けられているが、民営化の趣旨に照らせば政府がいつまでも株式を保有し続ける根拠はなくなっている。保有額のすべてを一挙に処分することは市場の需給関係からいって不可能に近いが、市場価格への影響を考慮しながら段階的計画的に処分し流動化して、一定期間にわたって一般財源に繰り入れることは不可能でない。

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「埋蔵金は存在しない」という与謝野馨氏の無責任な虚言――「埋蔵金」論争の正しい決着のために(2)――

「埋蔵金があると証明した人はいない」という与謝野馨氏の発言の真偽
 一つ前の記事で紹介したように、与謝野馨氏は、「『埋蔵金論争』だが、あると証明した人もいない」(『毎日新聞』2008913日)と発言している。こう断定的にいわれると、「やはりそうなのか」と信じ込む人も少なくないと思われるので事の真偽を明らかにしておく必要がある。私は、「埋蔵金」を「過剰な」積立金に限定せず、一般財源に充当できる不用額(歳出予算の使い残し)、使途未定のまま翌年度に繰り越される剰余金等も含めて、「特別会計の余剰金」と呼んでいる。こうした余剰金が数十兆円規模で存在することは政府関係機関の文書でも明確に証明されている。

多額の繰越額・不用額・決算剰余金・積立金の精査・縮減を求めた会計検査院報告書
 その一つは、会計検査院が200610月に参議院に提出した「特別会計の状況に関する会計検査について」と題する報告書である。この報告書は会計検査院が「各府省が所管する特別会計について、参議院の検査要請に基づき、財務等の情報に関する透明性、多額な繰越額・不用額・決算剰余金の状況、積立金等の残高の状況、予算の執行状況、特に予算積算との対比及び出資法人への出資の状況に関し、財政統制の面から着眼して検査した」(報告書、140ページ)結果をまとめた計188ページの大部な文書である。
 この報告書のまとめの箇所で会計検査院は次のように指摘している。
 全文は次のサイトにある。
 会計検査院「特別会計の状況に関する会計検査の結果について」平成1810
 http://report.jbaudit.go.jp/org/pdf/h17-0628-tokukai.pdf 

「(1)特別会計における透明性について
  <省略>
 (2)繰越額・不用額について
 特別会計の中には、各年度とも同種の事由により、多額の繰越額・不用額が継続して発生しているものがあり、繰越しが継続している科目の中には、繰越額の全額又は相当額を、翌年度の決算においてもそのまま不用額として処理しているものも見受けられる。<以下、省略>
 (3)決算剰余金について
 特別会計の中には、当該特別会計の事業の性格上やむを得ないものもあるが、各年度とも同種の事由により、多額の決算剰余金が継続して発生しているものが見受けられる。また、決算剰余金の処理として翌年度の歳入に繰り入れられる金額の中には、その有効活用を図るなど決算剰余金を縮減する措置の検討対象とすることが特に重要と考えられる部分も少なからずある。<以下、省略>
 (4)積立金等について
 特別会計に設置されている積立金等の主な財源は、決算剰余金、一般会計からの繰入金等であり、その残高は16年度末現在、財政融資資金及び外国為替資金を除く31資金で200兆円を超えている。積立金等の保有量については、設置目的、使途、特別会計の事業規模等に応じ、それぞれ適正規模があると考えられるが、ほとんどの資金においては、そのような基準を舞台的に定めていない。このため、積立金等の残高が適正な水準であるかどうかを判断できず、資金の有効活用を図る上での財政統制が機能しにくい状況となっている。<以下、省略>」(以上、報告書、136137ページ)

 なお、多額の繰越額・不用額・決算剰余金・積立金等の実態は上記報告書の157188ページに各特別会計ごとに2001年度~2005年度分の具体的なデータが掲載されているので参照されるとよい。
 
特別会計の余剰資金の透明化・縮減・一般財源化を促した参議院決算委員会の決議
 参議院決算委員会は国の決算の審査を行うにあたって決算決議を採択することがあるが、2004年度、2005年度の決算審査にあたり、特別会計の多額の剰余金、不用額、積立金の透明化・縮減・有効活用を求める以下のような決議を採択している。
 「平成16年度決算審査措置要求決議」200667日)
 http://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/164/k028_06060701.pdf
 「8 特別会計積立金の一層の活用方策の検討について
 財政融資資金特別会計においては、将来の金利変動による逆ざやの発生の可能性に備え、毎年度、損益計算上利益を生じた場合には、金利変動準備金として整理することとしているが、昭和55年度より毎年黒字を計上し、逆ざやを生じたことはなく、近年、年間3兆円単位で積立金が増加している。18年度予算においては、同準備金より12兆円を国債整理基金特別会計に繰り入れ、国債残高の圧縮に充てることとしている。
 また、外国為替資金特別会計においては、将来の歳入不足の可能性に備え、為替介入で得たドルで米国債を購入するなどしてその利子収入を蓄えており、昭和56年度より剰余金の一部をほぼ毎年一般会計に繰り入れているものの、何間数千億円単位や、時には一兆円を超える額で積立金が増加している。
 <中略>
 さらに、多くの特別会計においては、一般会計から多額の繰入金を受け入れているが、いったん予算化されると執行残が出ていながらも、一般会計に戻されることなく、そのまま特別会計において繰り越されている。
 政府は、これら特別会計の積立金等について、その規模の妥当性につき国民が納得できるよう説明を行うとともに、規模が過大であると考えられる部分については、国債償還への充当や一般会計への繰り入れを行い、その上で消費拡大策への利用なども念頭に、その活用策を徹底的に検討すべきである。」

 「平成16年度決算 議決」200669日)
 http://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/164/k010_06060901.pdf
 3 特別会計については、歳出規模が純計規模で前年度を上回り225兆円余と一般会計を大きく上回っており、依然として多くの特別会計において不要不急の事業の実施や多額の積立金・資金、不用・剰余金を抱え、一部は引き続き増加傾向にあることは看過できない。政府は、各特別会計の事務事業の見直しに加え、右の各種の余剰資金の縮減、一般会計への繰り入れ・繰戻し、事業の実態に即した適切な予算計上など、透明化のため、一層目に見える改善に努めるべきである。」

 「平成17年度決算審査措置要求決議」2007611日)
 http://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/164/k028_07061101.pdf
 「8 特別会計の剰余金及び積立金の財政健全化のための更なる活用について
 第166回国会において特別会計に関する法律が成立したことに伴い、剰余金については、一般会計への繰入れが共通ルール化され、積立金については、その必要性や水準等が各特別会計予算の積立金明細表に公表されることとなった。
 しかしながら、恒常的に繰入れが行われてきた外国為替資金特別会計を除けば、剰余金からの一般会計への繰入れは少額にとどまっており、積立金明細表における必要性や水準等の記載は、そのほとんどが抽象的文言となっている。<中略>
 政府は、すべての特別会計の剰余金の使途をより一層精査するとともに、積立金の必要性及び水準等について、積立金明細表に特別会計の業務の性格に応じて明確な基準を示し、現在掲げられている20兆円の財政健全化への貢献目標にとどまることなく、剰余金及び積立金の財政健全化のための更なる活用を図るなど、今後も特別会計の不断の見直しに努めるべきである。」(下線はいんようにあたって追加)
 (下線部分に関する注)
 たとえば、財政融資資金特別会計の場合、積立金の積立基準に関し、「本特別会計の財務の健全性を確保するために必要な金額まで積み立てることとしている」と記しているにすぎない。

 「特別会計改革法」(通称、2006年成立)による一般会計への繰入措置
 政府は2006年に成立した「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(法律第47号)の中で、特別会計の資産、負債、剰余金等を縮減するなどして、2006年度から5年間を目途に総額20兆円を財政の健全化に寄与することを目標とした。しかし、2007年度予算までにすでに15.6兆円を一般会計ならびに国債整理基金特別会計に繰り入れ、今後毎年1.5兆円程度を一般会計等へ繰り入れすれば目標は達成可能な状況になっている。このような事実は現状の特別会計の内部に一般財源に充当可能な余剰金が数十兆円単位で存在していたことの証左である。
 しかも、参議院決算委員会の上記の「平成17年度決算審査措置要求決議」にもあるように特別会計に存在する一般財源化が可能な余剰金はこれに尽きるわけではない。一つ前の記事で指摘したように偶発債務に備える保険事業特別会計を別にしても、特別会計全体で毎年5兆円~9兆円の不用額が発生していることはこの指摘を裏付けるのに十分な事実である。

「堂々たる政治」どころか「姑息な政治」
 与謝野馨氏は新著『堂々たる政治』(2008年、新潮新書)の中で、「耳障りであっても、事実をきちんとお話しする。時には批判を浴びることがわかっていても、国民に堂々と語りかける。それが政治家としての本道ではないかと思う」(はじめに、5ページ)と記している。実際、先の自民党総裁選の渦中でも与謝野氏は他の候補者が消費税の引き上げの必要性を認めながらも、将来の政治的アジェンダとして先送りする政見を示したのに対し、国民受けしないことを承知で消費税引き上げの必要性を説き続けた。こうした与謝野氏の政治姿勢に多くのマスコミは耳障りなことから逃げず、正直に国民に訴える実直な政治家として好意的な評価をした。しかし、こうしたイメージ先行のマスコミ論調はかつて国民に痛みを伴うことを厭わず「改革断行」を絶叫した小泉元首相に喝采を送ったマスコミ論調とそっくりである。問題は、与謝野氏がはたして、社会保障等の財源を検討する際に不可欠な事実を国民に向かって「堂々と語りかけている」のかどうかである。

 この点でいうと、「埋蔵金を証明した人はいない」という与謝野氏の発言は、本稿で示した上記の会計検査院報告書、参議院決算委員会の一連の決議によって、まやかしの発言であることは明白である。国会に提出された会計検査院の特別会計に関する検査報告書や国会でなされた特別会計に関する決算決議を無視するかのような与謝野氏の発言は無責任な虚言であり、財政担当大臣として不見識もはなはだしい。
 与謝野氏は財政融資資金特別会計や外国為替資金特別会計の「積立金には、すでに定められた目的や理由がある。決してフリーハンドで使えるお金ではない」(前掲書、166ページ)と述べている。しかし、会計検査院も参議院決算委員会決議も私も、これら特別会計の積立金のすべてが自由に使えるなどといったためしはない。与謝野氏や前回紹介した吉野直行氏が答えなければならないのは、
 ①財政投融資特別会計の積立金のうち、およそどれだけが自由に使えないお金なのか、それを国民に説明するのに、「本特別会計の財務の健全性を確保するために必要な金額まで積み立てることとしている」といった国民を愚弄するような所管省庁の説明でよしとするのかどうか、
 ②財政投融資特別会計の積立金は独立行政法人などに長期固定金利で貸し付けをした場合に金利が急上昇して逆ざやになった時の損失に備えるためのものというが、1980年度より毎年黒字を計上し、逆ざやになった年度はなく、2003年度~2008年度の間、年間28千億円~4兆円の決算剰余金が発生している事実をどう説明するのか、
という点である。

 もっとも、与謝野氏によれば、特別会計の余剰金は会計検査院が定期監査で指摘する「無駄」の問題と同じ次元で捉えられている。与謝野氏は前掲書の中で財政における無駄を2種類に分け、次のように述べている。与謝野氏がいう一つ目の無駄は会計検査院が指摘するような「本当の無駄」である。もっと安く買えるのに高く買ったとかいった「税金の無駄使い」である。もう一つは政策の評価に関わる無駄である。その例として与謝野氏は地方の道路整備や老人医療費、児童手当を挙げ、「社会福祉は結果的に社会の安定を底支えするわけで、その恩恵は誰もが受ける」(152ページ)と記している。「社会福祉は社会の安定を底支えし、誰もがその恩恵を受ける」という意見には私も同感である。

 しかし、会計検査院が毎年の定期検査で指摘する「無駄」を引き合いに出して特別会計の余剰金を論じるのは場違いであるし、社会福祉のための支出と少なからぬ特別会計に毎年生じている不用額・剰余金・使途不定の繰越金を同列に置き、後者まで政策評価次第で無駄とは言えない余剰金であるかのようにみなすのは荒唐無稽なすり替えである。多くの特別会計において、毎年発生する多額の不用額や剰余金を一般財源化せず、積立金や繰越金として特別会計に内部留保している実態は政策評価以前の、財源の非効率な運用である。

 「増税なき増収」財源が毎年数兆円規模で発生している実態から目をそらせ、財政当局が敷いた「消費税増税による財政再建路線」の振り付けに順応して、消費税引き上げなしには社会保障等のための増収財源がないかのように世論を誘導する発言を繰り返す与謝野馨氏の言動は、「堂々たる政治」どころか、「財政当局に」耳障りな事実をはぐらかす「姑息な政治」といわなければならない。

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特別会計の余剰金は「焼け石に水」ではない――「埋蔵金」論争の正しい決着のために(1)――

誤解に満ちた「埋蔵金」論争
 財政赤字の補てんや社会保障政策のための財源をどのように確保するのかをめぐって議論が沸騰している。その中で、世上、「霞が関の埋蔵金」と称されている特別会計の余剰金(定義は後述)を社会保障費等のための安定的な財源としてあてにできるのかどうかが、大きな争点の一つになっている。これについて、先の自民党総裁選で圧勝した麻生太郎新首相が景気対策のための一時的財源として特別会計の積立金を活用する考えを示したのに対し、与謝野馨氏は「埋蔵金」をあてにすることを一貫して戒め、次のように述べている。

 「『埋蔵金』論争だが、あると証明した人もいない。楽観論を国民に与えてはいけない。現実にお金があるかないか、それは使っていいお金かも含めて、正直に政治が国民に説明する。妙な楽観論は日本の将来に好ましくない。」(『毎日新聞』2008913日)

 「ただし、残念なことに、こうした無駄をカットすることで浮くお金は、どんなに頑張っても年に数百億円にしかならない。ところが、私たちが直面している財政問題は、何兆円単位の収支である。財政赤字の問題解決として、無駄を省けばいいのだという議論は、本質的に成立しない。ボリュームが違いすぎるのだ。」
 (与謝野馨『堂々たる政治』2008年、新潮新書、151ページ。ただし、与謝野氏がここでいう「無駄」は霞が関省庁全体の財政執行のあり方を指したものであり、特別会計の「埋蔵金」に限定した議論ではない。)

 これと同類の議論は金融・財政政策を専攻する経済学者の中にも見受けられる。たとえば、慶応義塾大学教授の吉野直行氏は、「『埋蔵金」頼みには限界」と題した論説(「経済教室」『日本経済新聞』200856日)の中で、財政融資資金特別会計を例にとり、次のように述べている。

 「国の特別会計にある『準備金』などを取り崩すことで、財政赤字を縮小させ、国債残高の減少につなげることができるであろうか。・・・・・バブル崩壊以降の財政赤字肥大化で積み上がった莫大な国債残高を減らす手段としては、焼け石に水の議論である・・・・。」

 「万が一、埋蔵金を財政赤字削減に充当した場合でも、財政赤字縮小は当年度のみで、翌年度以降の財政収支改善にはつながらない。」

 また、経済産業研究所上席研究員の鶴光太郎氏も、次のように述べ、埋蔵金は安定財源になり得ないと力説している。

 「埋蔵金はあくまで枝葉の議論に過ぎないことをまず認識すべきだ。埋蔵金論争では規模の話が完全に度外視されている。何十兆円規模の財政赤字に対し、無駄を削って浮かすことができる財源はせいぜい数百億円程度。・・・・・そもそも上げ潮派が埋蔵金と主張している特別会計の積立金を取り崩したとしても、一過性の財源に過ぎない。」(『毎日新聞』2008511日)

 以上、与謝野馨氏、吉野直行氏、鶴光太郎氏の議論は、特別会計の埋蔵金を行政の無駄と同列のものとみなし、その規模からして財政再建なり社会保障費の財源としては「焼け石に水」で安定的な財源とはなり得ないとみなす点で共通している。しかし、私に言わせれば、3氏が自信ありげに語るこの共通点こそ、疑ってみる必要がある。

特別会計の余剰金は一過性の財源なのか?
――
「埋蔵金」という用語に誤導されないために――
 目下、政界では、小泉内閣以来の社会保障費2,200億円の削減路線の継続か撤廃か、撤廃する場合、財源をどうするのかをめぐって、活発な議論が交わされている。その一つとして基礎年金の国庫負担を2分の1に引き上げる措置の実施時期が議論されてきたが、政府・与党は年間2.3兆円の財源確保のための消費税引き上げの目途が立たないことから、2009年度4月開始という当初の予定を先送りし、当面、消費税増税に代わる財源として、特別会計の積立金(「埋蔵金」)を充てる案が浮上している。しかし、上記3氏の議論にも見られたように、特別会計の積立金は1回限りの財源であって社会保障費のための安定した財源とはなりえないという批判が根強い。
 ここで注意が必要なのは「埋蔵金」の定義である。「埋蔵金」を財政再建にとって「焼け石に水」とみなす議論は、「埋蔵金」を暗黙裡に特別会計の「過剰な」積立金に限定して使っている。「積立金」といえばストックであり、いったん取り崩せば消えてなくなる一過性の財源と誰しも思いがちだからである。しかし、特別会計から見込まれる「増税なき増収」の財源は「過剰な」積立金にかぎられるわけではない。それ以外にも、毎年、多くの特別会計に発生している不用額(=歳出予算現額-支出済額-翌年度繰越額)、使途が不定のまま翌年度に繰り越されている多額の剰余金も問題とされる必要がある。以下では、各特別会計が保有する「過剰な」積立金・資金に、①②を加えた金額を特別会計の「余剰金」と呼び、これらが社会保障費の一過性の財源に過ぎないのかどうかを財務データに基づいて検討したい。

特別会計には余剰金がどれほどあるのか?
 特別会計の財政規模を2008年度歳出予算で見ると(ただし、一般会計と特別会計間の入り繰り、特別会計間の入り繰りなどの重複分を除いた純額ベース)、178.3兆円で一般会計( 34.2兆円)の5.2倍に相当する。また、特別会計全体の過去5年間の決算状況を概観する(データは次の表1を参照いただきたい)と次のような特徴を指摘できる。
  1 各特別会計の決算状況(2006年度)
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/tokubetu_kaikei_kessan_H18.pdf


1)過去5年間、特別会計全体で2351兆円の歳計剰余金を計上しており、これらの金額を歳入決算額で除した剰余金率は6.411.3%の水準を記録している。また、2006年度の歳計剰余金を個別の特別会計ベースで見ると、9つの保険事業特別会計を除く22の特別会計・24の勘定のうち、8つの特別会計・4つの勘定で剰余金率が20%を超えている。
22006年度の歳計剰余金の処理の状況を見ると、翌年度歳入への繰越が41.9兆円、積立金・資金への繰り入れが7.4兆円、一般会計への繰り入れが1.6兆円となっている。つまり、剰余金の約97%、49.3兆円が特別会計に留保されているのである。しかるに、会計検査院の調査結果によると、2004年度決算において翌年度の歳入として繰り越された4.8兆円のうち、見合いの財源として確保しておくべき額が確定しているものが2.4兆円、未定のものが2.4兆円となっている。
3)過去5年間、特別会計全体で毎年9.2兆円12.1 兆円(保険事業特別会計を除くと5.8兆円~9.0兆円)の不用額を計上している。また、個別の特別会計ベースで見ると、保険事業を除く22の特別会計・24の勘定のうち、5つの特別会計・7つの勘定で不用率が10%を超えている。詳しくは、次の表2を参照いただきたい。
  2 各特別会計の不用額の推移
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/tokubetu_kaikei_fuyogaku.pdf

4)ここで留意する必要があるのは、不用額は上記のとおり、
    歳出予算現額-支出済歳出額-翌年度繰越額=不用額
という計算式により計算されている点である。言い換えると、翌年度に執行が見込まれる支出残額は不用額として計上されず、「翌年度繰越額」として処理されているのである。では、翌年度繰越額はその後どうなったのかというと、たとえば、旧電源開発促進対策特別会計の不用率は2002年度から2003年度にかけて25.7%から18.5%へと大幅に低下している。これは歳出予算額の執行率が上ったからではなく、新たに電源立地の進展に伴って将来発生する財政需要に対応するためとして、同年度から「周辺地域整備資金」が新設され、この資金勘定への剰余金の繰り入れが始まったからである。では、同資金の使用実績はどうかというと、2003年度~2005年度は払出ゼロで、2006年度には同資金固有の支出予定額が少なかったため、約49.9億円を同じ特別会計内の電源立地勘定(当時)の歳入に繰り入れている。このような支出残額や新設の資金の翌年度以降の使用実態を見ると、実際の不用率は公表値よりも相当高い水準にあると推定できる。
52006年度末現在、特別会計全体で203.8兆円の積立金・資金を保有している(9つの保険事業を除く22の特別会計の合計では166.9兆円)。また積立金・資金の推移を見ると、2002年度末現在で192.5兆円であったのが、2006年度までの5年間に11.3兆円増加している。その一方で、19952004年度の10年間に使用実績がゼロの積立金・資金を保有する特別会計が保険事業で6、その他で4となっている。

特別会計の余剰金は「焼け石に水」ではない
 以上のような事実を確かめると、特別会計の余剰金は、与謝野氏や鶴光氏がいうような数百億円というオーダーではなく、数十兆円という規模であること、また、一過性の財源どころか、毎年6兆円~9兆円の規模で発生し続けていることは明らかである。もちろん、これだけで財政赤字の解消を図れるわけではないが、基礎年金の国庫負担率を2分の1まで引き上げるのに必要な2.3兆円の財源を賄う上では有り余る安定した財源といって差し支えない。

 むしろ、「焼け石に水」というなら、消費税の1%税率引き上げで見込まれる税収(地方配分額を含め)は約2.7兆円で、財政赤字の解消や国と地方の債務残高773兆円(2006年度予算段階)に対しては特別会計の余剰金よりもはるかに「焼け石に水」である。それでも消費税こそ安定した財源と言い続けるのは、それこそ「国民に根拠のない楽観論」を振りまく議論か、さもなければ消費税率の果てしない引き上げを目論む地ならしの議論といわなければならない。

  次の記事では、特別会計の積立金は与謝野氏や一部の経済学者がいうように使い道が決まっていて取り崩すことができない財源なのかどうか、特別会計に毎年なぜ多額の剰余金が生じるのか、特別会計の余剰金を一般会計に還元して活用することが国の財政収支に(一過性ではなく)中長期的な貢献をすると期待できる理由、についてもう少し詳しく検討してみたい。

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地価動向の判断にみる「平均値」の危うさ

地価は上昇に転じたといううけれど
 去る22日、国土交通省は今年1月時点の公示地価を発表したが、その報道を見て非常に気になる点があったので、ここで書き留めることにした。

 各種報道に共通するトーンは、全国平均(全用途)で16年ぶりに上昇(前年比0.4%)に転じた点を前面に押し出している点である。その要因として、3大都市圏の大幅な回復(住宅地2.8%、商業地8.9%。いずれも前年比)が平均を押し上げたこと、地方圏も下落が続いているものの、下落幅は3年連続で縮小したこと、を挙げている。このこと自体に間違いはない。問題は平均値がややもすると一人歩きして、地価動向の格差の実態が平均値に埋没させられていることである。
 論評の前に国土交通省が発表した総括的データを紹介しておく。

 第2表 圏域別・用途別対前年比変動率
http://tochi.mlit.go.jp/chika/kouji/20070322/20070322g.html
 
 第4表 都道府県別・用途別対前年比変動率http://tochi.mlit.go.jp/chika/kouji/20070322/20070322i.html

メディアはどう伝えたか?
 これについて、NIKKEI NETは「公示地価、全国平均16年ぶりに上昇」という見出しで次のような記事を掲載した。
  「国土交通省が22日発表した200711日時点の公示地価は全国平均(全用途)で前年に比べ0.4%上昇し、1991年以来、16年ぶりにプラスの転じた。マンションやオフィスの需要が堅調な東京、大阪、名古屋の3大都市圏が地価を押し上げているのが主因。地方圏は下落が続いているものの、仙台や福岡など中核都市には地価反転が波及した。日本経済全体でみると、バブル崩壊後、長らく続いた『土地デフレ』が終わりを迎えた形だ。(以下、省略)」(322日)

 『時事通信』もこれとほとんど同じトーンで次のような記事を配信した。
  「国土交通省は22日、今年11日時点の公示地価を発表した。全国平均で住宅地が前年比0.1%、商業地が2.3%の上昇となり、バブル崩壊の1991年以来16年ぶりの上昇に転じた。3大都市圏では前年の商業地に続いて住宅地でも上昇したほか、地方圏では3年連続で下落幅が縮小。福岡、仙台など地方中核都市を中心に上昇に転じる動きが出てきており、同省は『日本経済が良い方向に転じたことの反映ではないか』と分析している。地価の変動率が前年から上昇した都道府県は、住宅地で東京都のみから9都道府県に、商業地で4都府県から11都道府県に拡大した。下落幅が拡大したのは住宅地が9県から4県に減少し、商業地はゼロとなった」(322日)

都道府県別の変動率データからわかること
 しかし、上の第4表から、住宅地の都道府県別変動率の分布を集計してみると、次のようになる。

  表 都道府県別の前年比変動率の分布(住宅地)
  + 8%台  10)  - 0%台  110
  + 7%台  00)  - 1%台  6 0
  + 6%台  00)  - 2%台  11 5
  + 5%台  00)  - 3%台   11 5
  + 4%台  00)  - 4%台    613
  + 3%台  00)  - 5%台    210
  + 2%台  00)  - 6%台    1 3
  + 1%台  60
  + 0%台  21
   
( )内の数値は平成18年の前年比変動率

 これを見ると、上昇に転じたといっても、8%台の上昇を記録した東京都を除くと、他は12%台にとどまっている。また、地方圏で下落幅が縮小したといっても、過半が-0%~-3%の範囲内にとどまり、平成18年度の変動率との比較でいっても、12%ポイント上方へシフトしたにとどまる。香川、高知、鹿児島の3県は前年比の下落率が拡大している。

市別の変動率データからわかること
 次に、地方圏の地価動向を立ち入って吟味するために、国土交通省が発表した資料の中の第15表を分析してみよう。
 第15表 人口10万以上の市の対前年変動率(住宅地)
http://tochi.mlit.go.jp/chika/kouji/20070322/20070322x.html

 この表から、前年比の変動率の分布を集計すると、マイナス(下落率が拡大)を記録した市が6、プラス0%台の市が43、プラス1%台の市が50であった。つまり、全体の678%(99)の市は依然として住宅地の値下がり幅が拡大しているか、上昇に転じたといっても1%台以下にとどまっていることがわかる。
 なお、地方中核都市といっても、松江市、高松市、高知市、鹿児島市などでは下落幅が拡大している。

関東圏内の市区別の変動率データからわかること
 上記のように、関東圏では東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県で変動率が上昇に転じた。しかし、次の東京圏の市区別のデータを見ると、ここでも平均値に隠れた地価動向の実態が浮かび上がってくる。

 第7表 東京圏の市区の対前年比変動率(住宅地)
http://tochi.mlit.go.jp/chika/kouji/20070322/20070322m.html

 これを見ると、神奈川県の場合、平均で1.7%だけ変動率が上昇したといっても、県内の19市のうち、変動率がプラスを記録したのは3市(横浜市3.2%、川崎市5.3%、大和市0.2%)だけで、残りの16市は依然として値下がりが続いている。

 また、東京都の場合、平均で8.0%の上昇となっているが、都区部、市部別に見ると、港区(27.2%)、渋谷区(24.8%)、中央区(20.9%)で20%を超えるプラスの変動率を記録した反面、市部で8%を超える変動率を記録したのは3市だけで、1市は1%台、別の1市は2%台、3市が2%台にとどまっている。

平均値の陰に隠れた地域間格差の原因分析こそ重要
 地価の動向は上昇傾向であれ、下落傾向であれ、様々な利害関係者に異なった影響を及ぼすから、トレンドだけで価値判断を交えて評価を下すことには慎重でなければならない。しかし、どのような政策的含意を引き出すにせよ、「平均値」の陰に隠れた実態を的確に把握することが大前提である。
 この点でいうと、地方財政、医療を受ける機会(産婦人科を始めとする医師不足など)、教育を受ける機会(地方の大学の経営危機など)などの地域間格差がとみに指摘されるなか、こうした生活、文化、産業をめぐる環境の格差が人口動態や土地の需給の地域間格差を拡大させ、それが地価動向に影響していないかどうかを分析する必要性を強く感じさせられる。

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構造改革という名の「合成の誤謬」(マイリスト・私の仕事「社会問題」にアップ)

 だいぶ時が経ったが、『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー』2003年9月号に掲載した拙稿「構造改革という名の『合成の誤謬』」がWEB上にアップされているのがわかったので、そのURLをマイリスト「私の仕事」(社会問題)に加えた。
 この小論は一つのテーマ(構造改革の虚実)について3冊の書物を取り上げ、書評風にまとめたものである。取り上げた書物は次のとおり。
  小林慶一郎・加藤創太『日本経済の罠』日本経済新聞社、2001年
  小野善康『誤解だらけの構造改革』日本経済新聞社、2001年
  内橋克人『不安社会を生きる』文藝春秋、2000年 
 不良債権処理と景気回復の因果関係について、正反対の議論をした小林・加藤両氏の見解(新古典派経済学の系譜に属する構造改革論)と、小野氏の見解(ケインズ経済学の系譜に属する需要重視の経済学)を比較検討したものである。

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