京都・岡山での初動の実態の検証~自衛隊の初動には重大な不作為があった(その2)~

2018730日 

3. 
77日、SOSが殺到した岡山県への救助ヘリの出動ゼロ 
 
 
31 過少な規模 
  32 岡山県への救助ヘリの出動ゼロ

  (以上、一つ前の記事)
  
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2018/07/1-9806.html
 
 33 遅すぎた出動
 規模とともに問われるのは初動のスピード(派遣要請から被災地で活動を開始するまでに要した時間)である。
 もっとも現地で救助活動を開始するまでの時間といっても、どこの部隊から派遣されるかによって所要の時間は違ってくる。『防衛白書』では、陸上自衛隊の場合、全国に配置された157カ所の駐(分)屯地を基盤として初動対処部隊(FAST-Force。人員3,900名、車両1,100両、航空機40機)が1時間を基準に出動できる態勢を整えているとしている(平成29年版『防衛白書』図表Ⅲ-1216)。

 では、今回はどうであったかを確かめるため表4を見ると、府県知事名で派遣が要請されてから活動部隊が各駐屯地を出発するまでに要した時間にはばらつきがあった。最短の愛媛県の場合は派遣要請と同時刻に出動しており、福岡県、広島県では派遣要請があった時刻から30分後に出動している。しかし、山口県では1時間25分後、京都府では第1陣(福知山駐屯地の20名)が出発したのは1時間30分後、岡山県では1時間49分後となっている。
 また、京都府の場合、第2陣の自衛隊(125名)が福知山駐屯地を出発したのは2時間35分後(76240分)以降、岡山県の場合、第2陣が豊川駐屯地(愛知県)を出発したのは派遣要請があってから8時間49分後だった(以上、表4を参照いただきたい)。

 しかし、どの府県でも派遣要請がされるに先立って、自衛隊の最寄りの部隊から数名のLO(連絡幹部。LOLiaison Officer)が派遣要請元の自治体に出向き、情報の収集と共有、派遣に関する協議を行っていた。にもかかわらず、一刻を争う派遣要請から出動までにかかった時間にこれだけ開きが生じたのはなぜなのか? 特に、山口県、京都府、岡山県で1時間半かそれ以上も後になったのはなぜだったのか、検証が必要である。

 さらに、災害時の人命救助という点で重要なのは派遣要請を受けて災害現場に到着し、救助活動を始めるまでにどれだけの時間を要したかである。
 防衛省・自衛隊が発表した資料では、派遣された部隊が災害現場で救助活動を開始した時刻は記載されない場合が多いが、派遣された部隊が専用のツイッタ―に書き込んだ記録などから把握できる場合がある。
 それも不可能な場合は、インターネット上の道路情報をもとに、派遣元の駐屯地から派遣先(被災現場)まで、有料道路優先で出動した場合に要する標準的時間を計算した。

 京都府の場合 
 この方法で推定すると、京都府の場合、第1陣の派遣部隊(福知山駐屯地)が、派遣先の桂川・久我橋(伏見区)に到着するまでに要する標準的時間は1時間39分である。これを基準にすると、第1陣が久我橋に到着し、土嚢の積み上げ作業を始めたのは76日の4時過ぎ、第2陣が到着したのは76日の5時半以降だったと考えられる。もちろん、現実には道路の混雑状況などにより、実際に到着した時刻がこれよりも前後したことは当然ありうる。
 ところが、京都府河川防災情報で、久我橋の南方6.8km地点にある伏見区納所観測所での76日明け方の桂川の水位を確かめると、ピークは100分(4.42ⅿ)で、以後4時までは氾濫危険水位とされる4mを超えていた。しかし、自衛隊の第1陣が久我橋に到着して土嚢の積み上げを始めたと推定される4時過ぎには水位は4m以下まで下がっていた。また、第2陣が到着したと推定される5時半頃には納所観測所での水位は3.7mで、氾濫危険水位をかなり下回っていた。 
 さらに、嵐山の北方約15kmの地点にある亀岡市保津橋観測所での桂川の水位を見ると、75日、15時の時点ですでに氾濫危険水位の4mを超え、522時~60時の間は4.8mを超えていた。しかし、その後、水位は下がり続け、自衛隊の第1陣が久我橋付近で土嚢の積み上げ作業を始めたと推定される6日の4時過ぎには4mを下回り、第2陣が久我橋に到着したと推定される6日の5時半頃には水位は3.8mまで下がっていた。 

                桂川の水位の変化
        納所観測所(伏見区)  保津橋観測所(亀岡市)
 7520時      2.88m                4.34m  
 
     21時      3,16m          4.60m  
     22時         3.52m             4.85m 
   
     23時      4.11m             4.98m 
      24
時      4.37m          4.99m  
     601時      4.42m          4.84m  
      02時      4.40m          4.60m   
      03時      4.27m                                 4.33m
      04時      4.08m          4.09m 
      
05時      3.85m                        3.90m  
     
06時      3.61m                3.76m   
   
     07時         3.41m         3.79m  
   (注)4m:氾濫危険水位 
    京都府防災情報(水位)」より検索・作成    
 

 こうして、結果的に桂川の氾濫は免れたが、自衛隊の出動が氾濫の危険が過ぎた時点だったことは否めない。むしろ、桂川の水位の状況から言えば、自衛隊の出動の遅れというより、京都府から自衛隊への防災派遣の要請が控えめに見ても5時間ほど遅かったと思われる。もっとも、自衛隊への派遣要請がもっと早かったとしても土嚢の積み上げなどの対応で桂川の氾濫を防げたと言える根拠はない。しかし、空振りを厭わない「先手の対応」というなら、万一の氾濫に備えた、より早い対処が必要だったと思える。
 実際、防衛省が逐次発表した「平成3075日からの大雨に係る災害派遣について」によると、京都府では75日の1640分に第7普通科連隊のLO2名が京都府庁に向け福知山駐屯地を出発していたから、75日の1830分頃(京都府知事から自衛隊に派遣要請がされる5時間30分ほど前)に京都府庁に到着し、自衛隊の派遣について情報の収集と協議を始めていたと考えられる。
 であれば、府知事から派遣要請があってから1時間半後(第1陣)、2時間35分後(第2陣)ではなく、派遣要請を受けて可及的速やかに救助部隊が出発できるよう、人員、装備の手配を整えておけたはずではないか?

 岡山県の場合
 岡山県の場合、上記のように、派遣隊の第1陣(約20名)が被災地に向かって三軒屋駐屯地(岡山市)を出発したのは派遣要請があってから1時間49分後、第2陣(約50名)が出発したのは派遣要請があってから8時間49分後の77日、800分だった。第2陣の出発がなぜこれほど遅れたのか、不可解である。
 しかも、岡山県でも、派遣要請があった時刻の14時間36分前(76日の835分)に第13特科隊(岡山県勝田郡奈義町の日本原駐屯地に所属)のLO2名が岡山県庁に向かって駐屯地を出発していたから、6日の1020分頃には岡山県庁に到着し、災害情報の共有、自衛隊派遣をめぐる協議を始めていたと考えられる。であれば、第1陣はもとより、第2陣をなぜもっと早く被災現場に出動させられなかったのかという疑問を拭えない。
 
 ここで、さらに不可解に思えるのは、①第1陣、第2陣の派遣先が、被害が集中した真備町など倉敷市ではなく、高梁市役所だったこと、②第2陣の派遣元が愛知県豊川市に所在する第49普通科連隊だったこと、である。
 ちなみに、豊川駐屯地から具体的な行き先とされた海田駐屯地までに要する時間は道路情報(有料道路有線)に基づくと7時間10分となる。防衛省の発表資料とおりだとすると、第49普通科連隊は岡山県を通り越して広島県の海田駐屯地へ向かい、そこで部隊を編成して(?)高梁市役所へUターンしたと考えられるが、実際はどうだったのか? 防衛省の発表通りだとすると、道路情報にもとづけば、高梁市役所へ直行した場合と比べ、約3時間多く時間がかかったことになる。そもそも、救助現場に到着するまでに6時間近くかかる愛知県の豊川駐屯地の自衛隊を派遣させた判断は一刻を争う災害救助の目的に照らして適切だったのか大いに疑問である。

 かりに、豊川駐屯地から派遣された第2陣が77日の8時に駐屯地を出発して倉敷市真備町に直行したとしても、現地に到着するまでに道路情報による机上の計算では有料道路優先でも約5時間30分かかるから(ちなみに76日の2310分頃、名古屋を出発した名古屋消防局緊急援助隊が真備町に到着して救助活動を始めたのは13時間半ほど経った77日の13時半だった。一般道路を利用したからだろうか?)被災現地で救助作業を始めたのは早くても、77日の13時半ごろとなる。
 しかし、この日、真備町では130分に高梁川が堤防を越水したとして倉敷市は避難指示を発令、明け方から、水が押し寄せてきたなどと救助を求める通報が相次ぎ、一刻を争う状況だった(真備町の詳しい状況は、あとの記事で触れる)。であれば、救助のための派遣の要請先をなぜ愛知県の豊川駐屯地にしたのか、出発がなぜ派遣要請から8時間49分も経ってからになったのか? こうした初動の遅れを徹底して検証する必要がある。その際には遅れの原因を防衛省・自衛隊だけに帰すのではなく、政府全体、とりわけその中枢である官邸の初動態勢を徹底して検証する必要がある。

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自衛隊の初動には重大な不作為があった(その1)

2018729日 

1. 検証のための4つの基礎資料
 今回の西日本豪雨災害に関する政府対応が「災害対策基本法」第2条で定められた基本理念、第3条に定められた国の責務を忠実に履行したものだったかどうかを検証するため、ひとまず、自衛隊の初動に焦点を充てて次のような一覧資料を作成した。典拠資料はそれぞれの表の欄外に注記した。

 表1 災害の状況と政府の対応
  
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/t1_nisinippongouu_seifutaio.pdf
 表2 岡山県倉敷市真備町における被害の状況と政府・地元自治体
     の対応
  
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/t2_mabicho.pdf
 表3 近年の主な災害の規模と自衛隊の活動規模の比較表
  
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/t3_zieitainosaigaitaiohikaku.pdf
 表4 主な被災地での自衛隊の初動の状況
  
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/t_4_shodonozyokyo.pdf 

 今回の西日本豪雨災害における人命優先の初動について、政府は「先手先手」で「万全の体制」を講じたと力説するが、「空白の66時間」と対応の遅れを批判する論調も見られる。また、気象庁が14時に大雨洪水警報を発表した75日夜、安倍首相ほか閣僚数名も出席して赤坂の国会議員宿舎で酒宴が開かれたことにも各方面から批判が相次いでいる。

そこで、政府の初動対応の実態はどうだったのかを事実にもとづいて検証したい。ただ、政府の対応と言っても広範囲な省庁が関わっているが、ここでは人命救助、早期救援を任務とする初動対応に大きな役割が期待される自衛隊の活動を中心に検証する。

2. 活動人員は途中から待機要員も含めて水増しされた 
 菅官房長官は
77日、午前1108分から行われた官房長官会見の冒頭発言の中で「現在、警察・消防・自衛隊が約4万8千人の体制で人命を第一に、捜索、救助活動を行っております」と発言した。
 しかし、防衛省・自衛隊が広報した資料によると(上の表4を参照されたい)、その日の14時現在で災害救助に派遣された自衛隊の規模は「延べ人員900名」となっている。
 4万8千人の体制の詳細は示されてないが、この数字が実働人員だとすると、残りの約47,100名は警察・消防隊から派遣された人員ということなのか? だとしたら自衛隊からの派遣は全体の0.2%に過ぎないことになる。
 また、7月8日、9時03分から始まった「7月豪雨非常災害対策本部会議(第1回)」の冒頭あいさつの中で、安倍首相は、「救命救助、避難は時間との戦いです。54,000人の救助部隊の諸君が、懸命に救助に当たっています」と発言した。また、会合の後、926分から開かれた官房長官会見のなかで菅官房長官は「本日も警察、消防、自衛隊、海上保安庁の救助部隊が人命第一の方針の下、約5万4千人、ヘリ41機の体制で捜索・救助活動に全力で取り組んでおります」と発言した。

 しかし、防衛省・自衛隊が発表した資料によると、前日7日2030分現在で、災害救助に派遣された自衛隊の規模は「延べ人員2,340名、艦艇延べ19隻、航空機延べ7機」となっている。また、総務省消防庁が発表した資料によると、7日、23時現在で各地から広島県、岡山県に派遣された緊急消防援助隊の活動規模(地元消防、県ヘリは含まない)は合計で850名、ヘリ10機となっている。さらに、警察庁の情報公開室に問い合わせると、警察庁が所管する広域緊急援助隊として被災地へ救助に派遣された人員は78日、6時現在で550名(同日16時現在でも同数)とのことだった。
 政府は54,000人体制の詳細(機関別・派遣先別・装備別の内訳)を示していないが、上の数字をもとにすると、54,000名のうちの残りの52,600名(全体の94.1%)は、地元自治体の消防や警察から派遣された人員を別にすると、各地の自衛隊から派遣された人員となるが、実態はどうだったのか?

 防衛省・自衛隊の報道発表を調べていて気が付いたのは、772030分現在の発表された派遣先別の活動人員を足し合わせると上記のとおり2,340名となるが、翌8日の23時現在と断って発表された活動規模を見ると、官邸の発表形式と同様、派遣元/派遣先別の内訳は消え、総計規模として人員約27,300名、艦艇3隻、航空機10機と発表されただけだった。だとすると、一日で約25,000名が増員され、活動人員は10倍強に跳ね上がったことになるが、実際はそうだったのか?
 この点を確かめるため、726日、防衛省内の報道発表の担当部署と教えられた参事官室に問い合わせた。3度目の電話でようやくつながった担当官の説明によると、78日から、活動規模の発表の仕方を見直し、人員の中に、指令部、待機中の人員も含めることにした」ということだった。
 しかし、「人命救助第一」の初動というなら、被災現場で救命救助の活動に当たった人員、装備(防災ヘリ、ボート)の規模を示すのが常識であり、活動規模の中に司令部や待機中の人員を含むのは不合理である。

.   7月7日、SOSが殺到した岡山県への救助ヘリの出動ゼロ 
 31 過少な規模
 今回の西日本豪雨で気象庁は台風7号が接近した75日の14時以降、数次にわたって西日本など広域に向けて大雨特別警報を発表し、土砂災害、河川の氾濫に厳重な警戒を呼びかけた。それを受けて、77日、530分の時点で広島、福岡、岡山、大阪、佐賀などの府県で、など19の府県で計697,585世帯、1,614,251名に対して避難指示が発令された(消防庁、第8報)。
 そして、豪雨による土砂崩れ、河川の氾濫の災害のピークとなった77日には電話やツイッタ―で救助を求める声が各地で殺到した(表158ページ、表227ページ参照)。また、76日夜から7日明け方にかけて、福岡県、広島県、京都府、岡山県、愛媛県、山口県から自衛隊に対し、人命救助のための派遣要請が相次いだ。(以下、ツイッターからの発信)

「大人二人、こども3人、住宅二階に取り残されています。助けて下さい!」(77日、929分、真備町岡田より)

「救助ヘリを飛ばして下さい。2階も浸水している人が沢山います。早く助けて、お願いします。」(77日、1058分、倉敷市内より)

「おじおば宅602人です。冠水のため避難できず2階に取り残されています。救助をお願いします」(77日、1141分、真備町川辺より)

「高齢の両親と身障者の妹と従兄弟の4人二階に閉じ込められています。ベランダにタオルをかけています。救助お願いします」(77日、1238分、真備町岡田より)

「大至急助けてください!子供2人、大人(女性)1人で家の二階に避難していましたが足首まで水が来ており体温がどんどん奪われています!子供が小さく屋根に登っての救助要請ができません!!一刻も早く救助をお願いします!」(77日、1552分、真備町川辺より)

「(岡田より)「助けて下さい バッテリ-が残り少ないとの事で代わりにツイートしています。大人4名(60代2名、402名)子供2名(中学生2名)猫1匹 2階建ての自宅の2階にいます。1階はまもなく天井まで水位が上ってきそうな状況です 救助を待っています よろしくお願いします」(77日、1726分、真備町岡田より)


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 3-2 岡山県への救助ヘリの出動ゼロ
 ところが、表4からわかるように、77日、14時の時点で自衛隊から派遣された人員は全国合計で900名、倉敷市真備町など大きな被害を蒙った岡山県へ派遣された人員は70名に過ぎず、ヘリコプターはゼロ、ボートも8隻に過ぎなかった。さらに、同じ77日の2030分現在でも活動要員は延べの全国合計で2,340名にとどまり、岡山県へ派遣された人員は80名、ヘリはなおゼロだった。同様に、7月7日、20時30分になっても愛媛県、福岡県、山口県へのヘリの出動はゼロ、広島県へわずかに2機、出動しただけだった。

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 しかし、被害の規模はどうだったかというと、公表されたのは719日であるが、住宅全壊2,847棟、床上浸水15,008棟(いずれも全国合計)のほとんどは77日の時点で発生したものと考えられる。

 広域に及んだこれだけの規模の被害に照らすと、初動の段階で自衛隊から派遣された上記の規模は極めて少ないと考えられる。特に77日明け方から8日にかけて各地で住宅が水没し、2階や屋根、屋上で救助を求めた人々が続出した今回の豪雨災害の特徴からいうと、この時点で自衛隊が派遣した艦艇(救助用ボート)が全国合計で919隻、飛行機(救助用ヘリ)が同じく47機というのはあまりに少ない。

 ちなみに、防衛省に問い合わせると、災難救助のために使われるヘリは輸送用、多用途などの機種という回答だった。そこで、『防衛白書』(2017年版)に掲載された自衛隊が保有するヘリコプター(回転翼航空機)を調べると、保有台数は陸海空あわせて555機、そのうち狭義の戦闘用以外(ここでは輸送、多用途、観測など)は333機となっている。このうち、陸上自衛隊が57機保有する輸送用ヘリCH-47J/JA1機あたり55名を輸送できる機種である。これらの機種のへリ数十機をなぜ77日の少しでも早い時刻に岡山などへ派遣しなかったのか?

 なお、消防庁が発表した772300分現在の「緊急消防援助隊の活動実績」によると、陸上では愛知、奈良、滋賀の各県から派遣された隊員が、上空では奈良、東京、熊本、大分の各県から派遣された隊員が、総計約310人、ヘリ4機で救助活動に当たっている。ちなみに消防庁がまとめた2017101日現在の消防防災用のヘリコプターの配備機数は全国計で75機となっている。

    第5表 自衛隊と緊急消防援助隊の救助ヘリの活用規模の比較

    救助に利用可能なヘリの保有機数   77日時点の利用機数 
自衛隊       333機             47機 
消防隊        75機             4機  

 このように災害時の救助用に利用可能なヘリの保有状況の比較から見ても、消防庁の緊急援助隊の初動と比べ、自衛隊の初動が規模の面で過少ではなかったかという疑問はいっそう強まる。

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会計検査院へ意見発信~書類の不備を口実に意見見合わせは許されない~

20171110

 NHKは昨夜7時のニュースで会計検査院の河戸院長のインタビューを伝えた。

「森友学園問題 会計検査院長『検証に必要な書類欠けている』」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171109/k10011217871000.html?utm_int=news-new_contents_list-items_027
 

 国会への検査報告前に会計検査院長が報告の内容を先触れするような発言をしたことに非常に疑問を感じた。しかし、森友学園への国有地の異常な安値売却をめぐる解明にあたって、会計検院がどのような検査報告を出すのか(今月中)は重要な意味を持つ。
 そこで、今朝がた、会計検査院のHPに設けられている「意見・感想受付窓口」へ後掲のような意見をメールで送信した。

会計検査院 意見・感想受付窓口 
https://www.jbaudit.go.jp/form/opinion/index.html 
 郵送 〒100-8941 東京都千代田区霞が関3-2-2 会計検査院渉外広報室
 メール 入力フォーム 
 https://www.jbaudit.go.jp/form/opinion/form.html
 
 字数:2000字以内 個人情報:記載任意(私は名前を明記して送った。)

 なお、私も参加している「森友・加計問題の幕引きを許さない市民の会」は112日、会計検査院へ次のような申し入れ文書を提出した。あわせて、ご参照いただけるとありがたい。

「森友・加計問題の幕引きを許さない市民の会」
「会計検査院への申し入れ--- 森友学園への国有地売却についての真相究明を求めて」
 http://sinkan.cocolog-nifty.com/blog/2017/11/----7e15.html 

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     会計検査院に送った意見(20171110日)

タイトル「昨夜のNHKニュース7で放送された河戸院長のインタビューについて」

 (1)国会へ検査報告を提出する前に、「必要な書類が欠けている」、「そのため十分な検証ができない(のは問題)」などと、部分的とはいえ、検査報告の内容を示唆するような、あるいは予断を生むような院長の発言が報道されたことに驚き、大変疑問に思った。

 (2)財務省、国交省のずさんな公文書管理は検査妨害と言えるから厳重な抗議、批判を報告に書き込む必要はある。

 (3)しかし、真相究明を半ばあきらめたかのような院長の発言は、関係省庁のずさんな公文書管理を口実にして、検査の限界を先触れし、「確かなことは言えない」という結論をエクスキューズする意図が透けて見える。それでは「国民の高い関心」に応えたことにはまったくならない。

 (4)過日の報道によると、会計検査院は「ごみ撤去費用」の算定は妥当だったかどうかを「ごみ混入率」から検証しているとのことである。それなら、その前提として、有益費に算入されなかった「新たなごみ」が実在したことを確認するのが先決だが、会計検査院は実在を確認できたのか? 
 ちなみに、佐藤善信・国交省航空局長は「どの箇所から、どこのくいを打ったところから出たかということについては確認をできておりません」、「9.9メートルまでのくい打ち工事を行った過程で発見された地下埋設物という、そういう連絡があり、それをその工事関係者から説明を受けたというふうに承知をしてございます。したがいまして、その9.9メーターまでのどこの深さからそのごみが出てきたかということについては、残念ながら確認をできておりません」(2017228日開催、参議院予算委員会)と答弁している。
 要するに、売買価格の値下げを希望する利害関係者から「報告を受けた」というだけで会計検査院は約8億円の値引きの証拠とするのか? ごみの実在を不問にして、「書類不備のため、ごみ撤去費用が過大かどうかは判断できなかった」で済ませるつもりなのか? それでは、政府、関係省庁は安どしても、国民の疑問は全く解消しない。

 (5)河戸院長はNHKのインタビューに応えて「正解がひとつとはなかなか決められないのではないか」と発言された。それはもっともなことと思うが、億円過大、と言えなくても、過日、報道されたように〇~〇億円過大、という報告を躊躇うべきではない。書類の不備から正確な撤去費単価の算定などができないとしても、その不備の責は財務省や国交省が負うべきものであり、会計検査院に帰す責任ではない。“Best Estimate”の手法で幅を持たせた算定を示すことは可能なはずだ。

 (6)会計検査院としては、具体的な積算の上で売買価格の妥当性を検査するという任を負っていることは理解するが、それだけでなく、国有財産の売却をめぐる近畿財務局職員が取った手法の顕著な不当性、脱法性も検査し、意見を付してほしい。特に、問題なのは、近畿財務局職員が、本件国有財産の売却価格となんら関わりのない有益費をベンチマークとして、適正な時価を大幅に下回ることを十分、認識しながら、値引きを希望した森友学園の意向に応えるように交渉を進めたという点である。

 このような不当なベンチマークによる売買交渉が異常な廉価売却を生み出す根本的原因となったことを厳正に糾していただきたい。

 (7)最後に。会計検査院が、関係省庁のずさんな公文書管理を理由にして、「確かなことは言えない」という結論をエクスキューズするようでは国民はまったく納得しないことを銘記してほしい。会計検査院に与えられたさまざまな調査権限は主権者である国民から負託されたものであることを銘記していただきたい。

                       醍醐 聰

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「避難指示解除」の隠れた現実を伝えないメディア

201743
 
 
331日~41日を中心に、福島県内での原発「避難指示解除」をめぐる報道をモニターした。以下は、私が視た限りではあるが、その番組批評である。

 NHK,民放とも現地からのレポートをまじえて「解除」「帰還」の現実をそれなりに伝えた。しかし、「見えない」、「見せない」現実にどこまで迫ったかとなると、重大な疑問、限界を感じた。

「帰還希望者は16.0%」という数字はミスリーディング

 多くのメディアが伝えた、この「16.0%」という数字は復興庁が去年10月に公表した富岡町の住民意識調査の結果である。しかし、この数字には注意しなければならない点が二つある。

 一つは帰還の時期である。復興庁が公表した「住民意向調査速報版(富岡町)の公表について」(20161025日、記者発表)は次のとおりである

http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-4/ikoucyousa/20161025_ikouchousa.pdf 

 この元資料を見ると、「戻りたい」と答えた人の中で「避難指示解除後すぐ」と答えたのは36.0%である。つまり、回答者全体の中で「避難指示解除後すぐに帰還」と考えているのは5.8%(=0.16×0.36)に過ぎない。「戻りたい」という人のうちの残りは「解除後310年以内」が25.6%、「時期は決めていない」が37.5%となっている。いろいろネットで調べると、「帰還の時期」も含めて住民の意向調査の結果を伝えたのはインターネット・ニュースチャンネル「Abema Prime」(だけ?)だった。

「『避難指示』帰還困難区域など除き解除 避難生活者『今の状況では帰る選択はない』」(Abema Prime Time, 2017311日)
 https://abematimes.com/posts/2121835 

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  政府による避難者への慰謝料の支払いは来年3月分で打ち切られる。指定区域外からの自主避難者への住居の無償提供もこの3月末で打ち切られ、条件付きの家賃補助に切り替えられた。こうした避難者支援の打ち切りとセットの「避難指示解除」の意味を考える上で、避難指示解除後すぐに帰還する意向の住民が全体の6%に過ぎないという情報は極めて重要である。大手メディアはなぜ、こうした情報を伝えないのか? 

 「帰還希望者は16.0%」という数字が持もう一つの限界は、この数字が全年代の平均だということである。37日に放送されたNHK「おはよう日本」は「震災6年 ふるさとへの帰還進めるためには」というタイトルの特集を組んだ。その中で、上と同じ富岡町の「戻りたい」とする住民の意向を年代別に調べたグラフを示した。
 これを見ると、平均は16.0%だが、70代以上で20.8%の一方、30代では8.2%、20代以下では4.9%となっている。

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 331日のNHKニュースウオッチ9は「戻る住民 避難し続ける住民」というテロップを出して避難指示「解除の現実」を伝えた。そのような伝え方をしたのは、帰還した住民と避難先で住み続ける住民の医療をともに担うための医師、職員の配置が予算の制約から難しくなっている実態を伝えるためだったことはわかる。そういう現実にスポットを当てたことも重要だと思う。
 しかし、「戻る住民 避難し続ける住民」という表現では、住民の意向が二分しているかのように伝わる。現実はそうではなく、上記のAbema Prime Timeニュースに登場した避難住民が語ったように、「今の状況では帰る選択はない」ということではないか?「帰還」と言っても多くは昼間の一定時間だけ、というのが現実のようだ。帰還の時期に関する住民の意向の分布はそのことを物語っている。

 6年ぶりに自分の家で食事をし、畑仕事をする家族の喜びはよくわかる。しかし、地域にもよるが、帰還しても隣近所は空家、コンビニも1店だけ、夜は真っ暗、学校の再開も来年度以降では、帰還して元の自宅での生活もままならない。
 41日のNHKニュース7に登場したコメ農家の住民も、自分が先頭に立って米作の再興に取り組まなければと抱負を語っていた。しかし、除染で砂を敷いた田んぼは雨で肥料が流れてしまうと語り、米作の再開と言っても田んぼの除染効果を確認するため、町が行う「実証栽培」に参加するという段階だ。また、帰還といっても、当分はいわき市から片道1時間かけて富岡町に通い農業を続けるという。
 さらに、帰還した住民にとって、勤労/若年世代がどれくらい帰還し、定住するかは町の復旧、復興にとって決定的な意味を持つ。その意味で、「おはよう日本」が伝えた年代別の帰還の意向割合は重要な情報と言える。

「解除の指針20ミリシーベルト」の意味をなぜ問わないのか

 政府が避難指示を解除する指針としたのは「年間放射線量20ミリシーベルト以下」という基準だ。しかし、専門家の間では周知のことだが、もともと、この基準値は国が避難指示を出す基準として用いた年間放射線量である。国際的にも事故やテロなど緊急時の対応を発動する基準として作られたもので、平常の生活を営むことを可とする基準ではない。(自然界にもともと存在する放射線<自然放射線>からうける放射線量は、世界平均で年間約2.4ミリシーベルトと言われている。)

 避難指示解除の指針として「20ミリシーベルト」を使うのは帰還第一主義の国策を正当化し、つじつまを合わせるためのものである。このような背景を伝えない報道は見えない形で棄民の国策に翼賛するものと言っても過言でない。

政府話法に立ち止まらないメディア
 今村雅弘復興相は312日放送のNHK「日曜討論」で、福島原発事故の自主避難者について、「ふるさとを捨てるのは簡単」、「ふるさとに戻って頑張っていくんだという気持ちを持ってもらいたい」と発言した。
 原発避難者ではない私でも、自分の意思でふるさとを捨てたかのようなこの発言は「長靴業界、儲かった」の発言よりも重大と思え、このブログに批判の記事を書きとめた。しかし、世の中もメディアも今村発言に批判はおろか、ほとんど関心を向けなかった。
 
 今村大臣の発言を聞いて、私は2011411日の閣議決定で、東日本大震災復興構想会議を設置するにあたっては「単なる復旧ではなく、未来に向けた創造的復興を目指していくことが重要である」という文言があったのを思い起こした。その時(2011422日)も、

「復旧なくして復興なし~被災地は高邁なロマンの実験場ではない~」

 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/post-765f.html


という記事を書き、「復旧は『単なる』といえるほど軽い事業なのか?」と憤りを綴った。
メディアは、一見してそれとわかる政治家の暴言は大々的に伝えるが、一見ではわかりにくい政治家の暴言は素通りすることが多い。しかし、「棄民」政治を生む政治家の本性を表す言葉にメディアも市民ももっと敏感でなければならない。いつ何時、自分も「棄民政治」の冷酷さを味わうか、わからないのだから。

「ゼロから」ではなく、「ゼロへの」スタート
 そうしたメディアの状況の中で、救われる思いがしたのは今日(43日)の『朝日新聞』社説が「ゼロへのスタート」という飯館村の菅野典雄村長の含蓄に富んだ言葉を紹介したことだ。避難指示解除はふるさとでの元の生活の再開を待ち望んだ人々にとっては、明るいニュースに違いない。
 しかし、メディア、特にNHKは天皇夫妻や有名人が避難先を訪ね、慰問をする姿を「明るい話題」として大きく報道してきた。慰問の気持ちに背を向けるつもりはないが、天皇夫妻が慰問し、ひざまずいて励ましたからと言って復旧が進むわけではない。
 ふるさとへ戻る人も、今度は廃炉のなりゆきに不安を訴えている。その意味で、帰還は「ゼロから」ではなく、ゴールが見えない「ゼロへの」スタートにほかならないという現実をメディアはリアルに伝えなければならない。

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個人番号の利用事務等の停止を求める申し立て書を提出

2015年11月11日

マイナンバー、87%が「不安を感じる」
 各自治体から住民へのマイナンバー(個人番号)の通知するカードの送付が始まった。来年1月から運用が予定されている。
 しかし、内閣府が今年の723日から82日まで行った「マイナンバー(社会保障・税番号)制度に関する世論調査」(調査対象3,000人、有効回答数1,773人、調査員による個別面接聴取)によると、マイナンバー制度の「内容まで知っていた」と答えたのは今年1月の調査の時(28.3%)と比べて、43.5%まで増加しているが、それでも制度の周知はまだ半分以下である。
 では、周知度が上るのに応じて回答者の間でマイナンバー制度に関する理解・信頼度は高まったのか?
 これについて、内閣府の上記世論調査は、マイナンバー制度における個人情報の取扱いに関して、最も不安に思うことは何かを1項目選択形式で尋ねている。この設問に対して、有効回答者の14.4%が「国により個人情報が一元的に管理され、監視・監督されるおそれがある」を選び、34.5%が「個人情報が漏えいすることにより、プライバシーが侵害されるおそれがある」、38.0%が「マイナンバーや個人情報の不正利用により、被害にあうおそれがある」をそれぞれ選んでいる。つまり、有効回答者の86.9%がマイナンバー制度における個人情報の取扱いに関して不安を抱いていることになる。他方、不安に思うことは「特にない」を選んだのは9.1%にとどまっている。
 また、「あなたは、個人番号カードの取得を希望しますか」との設問については、「希望する」は24.3%「希望しない」の25.8%を下回っている。もっとも多いのは「現時点では未定」で47.3%に達している。

内閣府政府広報室「『マイナンバー(社会保障・税番号)制度に関する世論調査』の概要」
http://survey.gov-online.go.jp/tokubetu/h27/h27-mynumber.pdf

 つまり、周知度が高まったといっても、個人番号を取得したものかどうか態度を決めかねている人が47%に上り、態度を明らかにした人でいえば、カードの取得を希望しない人の方が希望する人より多いのが実情である。また、マイナンバー制度の周知度は高まったといっても、個人情報の取り扱いに関して不安を持つ人の割合は今年1月の調査の時(83.1%)よりも増えているのが実態なのである。
 このような状況でマイナンバー制を導入するのは民意を顧みない「見切り発車」のそしりを免れない。

アメリカで広がったなりすまし被害~毎年5兆円の損害~
 現に、アメリカでは多くの個人情報をひも付けした「SSN」(Social Security Number)と呼ばれる社会保障番号が悪用される事案が深刻化している。その一端は指定都市市長会がまとめた次の資料で紹介されている。

 「米国社会保障番号の不正利用によるなりすまし被害と日本のマイナンバー制度における対応」(20141020日、指定都市市長会作成)  http://siteitosi.jp/conference/honbun/pdf/h26_10_20_01_shiryo/h26_10_20_05_01.pdf

 これによると、SSNを悪用した「なりすまし被害」は2006年~2008年の3年間で1,170万人、損害額は毎年約5兆円と報告されている。事例として、行政分野では年金・医療給付金等の不正受給、失業給付金の二重受給、民間分野では他人の社会保障番号による銀行口座の開設などが挙げられている。
 
 また、アメリカ政府機関の統計では2014年には、16歳以上の7%にあたる延べ1760万人が被害に遭ったといわれている。
 http://news.yahoo.co.jp/feature/53
 この記事によると、「こうした『なりすまし詐欺』は、多くの場合、番号とともに住所、氏名、口座情報がセットで盗まれて起きる。病院で診察を受ける際に医療費控除のために記入した書類が外部に漏れたり、勤務先で作成された所得申請の書類がごみ箱から拾われるなどして、流出するケースもあるという。また、ショッピングサイトなどで入力されたSSN情報がハッキングされ、流出してしまうということもある」という。

 上記の記事は終りの方で、米国でのSNNによる被害をいくつも見てきたエヴァさんは日本人向けに次のような警告をしている。
 「日本版マイナンバーはアメリカのSSNと似ている部分がある。」「SSNも当初は社会保障の分野だけで使われるという政府のメッセージがありました。そして、いつからか多目的で使用されるようになりました。日本の皆さんは私たちを見てそれを避けることができるはず。政府にマイナンバーにはどのような未来が待っているのか強く説明を求めるべきです。」


通知カードの受け取りを拒否しても個人情報の利用は止められない
 最近、マイナンバーの通知カードの受け取りを拒否しようとか、そうすることでマイナンバー制度を止めることができるとかいった議論が見受けられる。私はマイナンバー制度の専門家ではないが、カードの受け取りを拒否しても個人情報を守るという点では全く効果がないことは確かである

 

2013420日にビデオドットコム・ニュースに出て共通番号制につき、青木理さん、宮台真司さんと議論をした。その時、「共通番号制から離脱する権利を認めよ」と発言した。

 「共通番号制」から離脱する権利を認めよ」
 (醍醐聰 マル激トーク・オン・ディマンド 第627回)
  http://www.videonews.com/marugeki-talk/627/ 

 「小さく生んで大きく育てる」ではないが、12桁の個人番号をキーにしてやり取りされる情報は当初は従前の住基ネット情報と同じでも、順次、民間活用を拡大していくことが法の施行当初から謳われている。また、番号法(正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」)の第6条では個人番号の利用事務は特段の制約もなく(入札審査に委ねて)委託、再委託をすることができるとなっている。
 こうなると、12桁の個人番号をキーにして情報を授受する組織や個人が住基ネットの時(行政機内にとどまっていた)と比べ、格段に広がり、それだけ、職歴、婚姻歴、その他、個人情報が漏えいしたり、本人になりすました不正利用が広がる恐れがある。

 そうであれば、自分の情報をどう管理するかは自分が決める「自己決定権」が個人に保証されることが重要だ。そのためにはマイナンバー制度に参加しないという選択肢が保証されてしかるべきである。
 今回、成立した通称、番号法(正式名称は「「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」)にそって言いうと、マイナンバー制度から個人情報が漏えいし、不正使用されるリスクを断つには、法第2条第10条で定められた「個人番号利用業務」12桁の個人番号をキーにして、行政機関内のの各種部署、業務の委託・再委託先、医療機関、勤務先などが、さらに将来はハローワークや銀行その他の民間機関などへ拡大して、個人情報をやり取りする業務)を停止させる以外ないと考えるに至った。


地元市長あてに「利用業務の停止」を求める申立書を提出 
 これについて、先月、地元の市役所に3回出かけ(『週刊金曜日』の記者は3回とも同行取材し、最後の時は『毎日新聞』の記者も同行取材した)、役所の担当者とのやりとりを通じて、「個人番号利用業務」を止めることが問題の核心だということを確かめた。(2回目の模様を伝えた記事が『週刊金曜日』20151023日号に掲載された。)

 その上で、私は1029日に以下のような、私の「個人番号利用業務等の停止を求める申し立て」を市長あてに提出した。時間の関係で大変簡素な文書となった。
 受け取った行政側が「はい分かりました」と応じるとは思っていないが、申し立てを拒むなら拒むで、どのような根拠を示すのか、質したいのである。


                          20151029
佐倉市長
蕨 和雄 様

「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」に基づく個人番号利用事務等の停止を求める申し立て書

                      (住所)××××
                              醍醐 聰

 後掲の理由により、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下、「マイナンバー法」)の第2条各項、第9条、第10条に基づく、私の個人番号に係る「個人番号利用事務」ならびに「個人番号関係事務」(以下、「マイナンバー法」第10条第1項にならって「個人番号利用事務等」と略す)の全てを直ちに停止または取り消しされるよう申し立てます。
 この申し立てに対する貴職の対応を20151113日までに私宛に返答下さるよう、お願いいたします。

                申し立ての理由 

 1.「マイナンバー法」の施行にあたり、政府として個人情報の安全・安心に配慮するのは当然ですが、それを前提としてもなお、内閣府が今年の78月に実施した世論調査では、個人情報の取り扱いについて不安を感じる回答が86.9%(国により個人情報が一元的に管理され、監視・監督されるおそれがある14.4%、個人情報が漏えいすることにより、プライバシーが侵害されるおそれがある34.5%、マイナンバーや個人情報の不正利用により、被害にあうおそれがある38.0%。各項目は1つのみの選択回答の結果)に上っています。また、カード取得希望者は「希望しない」が26%で「希望する」の24%を上回っています。
 私も同様の懸念を抱いており、このような状況でマイナンバー法の施行を見切り発車することは、到底許されず、これに協力することをためらうのは当然です。

2
.日本国憲法第13条で定められた国民の権利には、国民各自が自分の情報を意に反して利用・管理されないとする条理が含まれていると解するのが判例上、学説上、有力です。マイナンバー法に基づく「個人番号利用事務等」は、国民の意に反する個人情報の利用・管理を含み、容認できません。

3
.「マイナンバー法」は国の責務(第4条)、地方公共団体の責務(第6条)を定めていますが、事業者については国および地方公共団体の施策の実施に協力するよう「努めるものとする」(第6条)と定めるにとどめています。
 
さらに、国民、住民については国および地方公共団体の施策の実施に協力するよう義務づけた定めはもとより、協力を求める明文上の定めもありません。

                                以上


 申立書に記したとおり、番号法では、国の責務(第4条)、地方公共団体の責務(第5条)、事業者の努力(第6条)は明記されているが、住民の協力義務、応諾義務は一切、明記されていない。
 また、確定申告書に12桁の番号を記載する欄が設けられるが、国税庁がまとめたQAでは、個人番号が記載されていなければ確定申告ができないわけではないと記されている

 国税庁「マイナンバー 国税分野におけるFAQQ2-3-2参照)
 https://www.nta.go.jp/mynumberinfo/FAQ/04kokuzeikankei.htm

各地で同様の申し立てを!
 すでに住民基本台帳情報を使った自衛隊員適齢の新卒者の名簿集めに行政が協力するという事態が各地で起こっている。

 衆議院 阿部知子 質問主意書(平成二十六年九月二十九日提出)
 「高校生等に対する自衛官等募集ダイレクトメール送付及び住民基本台帳情報利用に関する質問主意書」http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a187002.htm


「<社説>自衛隊に適齢名簿 個人情報提供は抑制を」
 (『琉球新報』20151026日)
 
http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-160496.html


 こうした事態は、国家が個人の情報を収集し、管理する先に何が起こりうるかを示すものである。法的にはさまざま検討課題があるにせよ、私と同様申し立てを各地で起こしていただき、個人の情報管理の自己決定権の価値、ならびに個人情報を国家が一元的に管理する危険性を社会に訴える運動を一緒に広げていければ幸いである。


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誰のための農業・農協改革なのか?

201529

「岩盤規制」の打破?
 「農協改革」がヤマ場を迎えている。これについて、26日付けの『北海道新聞』は「農協改革 これで『攻めの農業』に?」と題する社説を載せ、次のように記している。
 http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/590675.html 

 「担い手の減少、耕作放棄地の増加…。農業を取り巻く環境は厳しさを増している。それなのに政府・与党の論議からは、肝心の部分が聞こえてこない。重要なのは、組織論より今の農業が抱える問題への対策である。」
 「監査の仕方を変えれば、農業が活性化するのか。そんな単純な話ではなかろう。」
 「道内を含め金融機関などが農協だけの地域もある。制限で、こうしたマチの人が不利益を被る恐れもあった。結局、見送りになったが、これも改革論議が現実とかけ離れている証左と言えよう。」

 目下の「農協改革」を指して安倍首相らは「岩盤規制の打破」と称している。「岩盤規制」と言うと、いかにも「頑強な既得権益」を連想させ、郵政事業を「抵抗勢力」の象徴かのようにフレームアップして、「改革」=「既得権益打破」=善行、という虚構を拡散させ、地方の疲弊、富の格差をもたらす「似非改革」を強行した小泉「改革」と同根の手法である。

「地方創生」の美名の下で
 私が高校生まで過ごした実家は農家ではなかったが、近隣農家は政府の無秩序な減反政策に振り回されて後継者もいなくなり、耕作放棄地が増える一方だった。
 医療の面では、近くにあった「国立病院」が閉鎖され、中核病院と謳われた隣の市の県立病院も勤務医不足で小児科が閉鎖の危機に直面しているという。また、同じ地域にある赤十字病院でも産科が休止され、医療崩壊の危機に瀕している。
 
 地域の産業の中で農業、畜産業が大きなウェイトと占める地方では、これらの産業が衰退すると関連産業も連鎖的に衰退し、人口減少が止まらない。そうなると公的医療機関は患者数減→採算悪化→規模縮小・統廃合→医療アクセスの悪化→人口流出、という悪循環から抜け出せなくなる。

 
 TPP
交渉と並行して進められた日米二国間協議で、日本は米国車の対日輸出の非関税障壁になっているとして軽自動車の「軽課税」措置をやり玉に挙げ、軽自動車の増税を日本に押し付けた。
 しかし、全国軽自動車協会連合会の調べによると、20133月末現在で、軽四輪車の世帯当たり普及台数を都道府県別に見てみると、佐賀、島根、鳥取、山形、長野、福井の各県は0.98以上であるのに対し、東京都は0.11、神奈川県は0.21、大阪府は0.27だった。軽自動車は農作業に向いた小回りの利くほか、狭い農道や市町村道を買物、医療機関への送迎などにも適した車種なのだ。「地方差別」と言いたくもなるこうした増税がアメリカへの市場開放と称して行われたことを銘記しておく必要がある。

 私たち国民は今、政府が進めようとしている「農業・農協改革」を「農業固有の問題」とか「農協組織の問題」と狭く、他人事のように捉えて傍観することは大きな禍根を残す。

 「米百俵」の美談に淡い期待を寄せて、改革の痛みに耐えた先に、「富の格差」と「ふるさと衰退」の帰結を思い知った人なら、「誰のための改革」かという問いを立てなければならない。

 政府が農協の影響力を削いで、農業に「ビズネスチャンス」を与えようとしているのは企業参入ではないのか?
 しかし、地域に生活の場を持たず、採算に合わないとなれば、さっさと撤退するのが営利企業の原理である。 

 旧農地リース制度により農業に参入した企業の参入後の動向(撤退・継続)を調査した大仲克俊「農地リース制度による農業参入企業の経営展開と撤退」『JC総研レポ-ト』2013年夏、によると、32の企業が参入した新潟県では、そのうちの6社(18.8%)が撤退している。31の企業が参入した青森県では、そのうちの12社(38.7%)が撤退、島取県では参入した30社のうち8社(26.7%)、鹿児島県では参入した29社のうち9社(31.0%)、岩手県では参入した17社のうち5社(29.4%)が、それぞれ撤退している。
 こうして、撤退後に投げ出された荒地を誰が再興するのか?

「無知は罪」の自覚
 
 私も参加した大学教員の「TPPによる関税撤廃が農産業に及ぼす影響試算チーム」が昨年試算したところ、
  ・北海道は主要8品目の合計で50.5%の生産額、14.7%の農業所得を
         失う。
  ・富山県は米だけで富山県の全農業所得の26.3%を失い、福井県は
   25.6%を失い、石川県は19.8%を失う。
という結果を得た。
 農業、畜産業の衰退はこれら産業からの税収で成り立つ地方財政の破綻、雇用の場の消滅、学校教育や育児、医療、介護の崩壊につながる。ひいては、今でさえ、先進諸国で最低水準の食糧自給のさらなる悪化につながる。その先には、今以上に、どこで、誰が作ったかわからない食糧への依存度が一段と高まることになる。
 いまやシャッター通りと空き家は過疎地の代名詞ではなくなりつつある。地方都市にまで、急速に外延を広げつつあるのだ。

 安倍政権は「農業・農協改革」まで「成長戦略」に取り込むかの言辞を弄している。しかし、そのねらいは、地場の農産業の衰退、そこへの企業参入が辿った上記のような帰結は起こらないという見通しを何ら検証しないまま、「地方創生」なる美辞麗句で人々の期待をかき立て、政権の支持基盤を維持・底上げする点にあると思える。

 最近、私は「無関心は罪」という言葉以上に、「無知は罪」という言葉に魅かれる。国民が政治の主人公になるには、多くの国民が「無知は罪」を自覚できるかどうかにかかっていると思えてならない。

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死刑存廃の世論調査はどう設計されるべきか

2015131

今回は主体的解釈にもとづく報道も見られた
 前回(20123月)の死刑存廃の世論調査に関するメディアの報道は、内閣府が発表した主質問に対する結果をそのまま受け止め、「85.6%が死刑容認」をメインの見出しにした横並び報道だった。
 それに対し、今回は新たに「終身刑(仮釈放のない無期懲役刑)を導入した場合の死刑制度の存廃」が質問事項(注)に追加されたこともあって、メディアの報道にはバラツキが生まれた。
 (注)この質問に対する回答結果は次のとおりだった。
    死刑を廃止する方がよい (37.7%)
    死刑を廃止した方がよい (51.5%)
    わからない・一概にいえない (10.8%)

 「読売新聞」、「朝日新聞」、「毎日新聞」はそれぞれ「死刑『容認』、高水準を維持」、「死刑制度を容認80%」、「死刑制度 容認8割」という見出しを付け、主質問に対する回答結果に重きを置いた記事を掲載した(いずれも125日朝刊)。
 これに対して、NHK124日のニュースで「『終身刑導入でも死刑存続』は半数」という見出し(字幕)を付けて、「現状での死刑制度の存続は80%の人が容認する一方、仮に終身刑を導入した場合でも死刑は存続した方がよいと考える人は51%にとどまりました」と伝えた。「東京新聞」(125日朝刊)も、「死刑容認 微減80%」という小見出しを添えた上で、「終身刑導入なら『存続』は51%」という文言を主たる見出しにした記事を掲載した。
 ただし、「朝日新聞」は記事の最後の部分で終身刑を導入した場合は、「死刑容認の割合が大きく減る一方で、半数以上は「終身刑は死刑の代わりにならない」と答え、意見が割れた状況も伝えた。「毎日新聞」も「終身刑を導入した場合の死刑容認派は半数程度にまで減るとの結果も今回初めて出た」というコメントも付け加えた。

 死刑を廃止したイギリス、ドイツ、フランスで死刑廃止後の最高刑として、各国それぞれに適用緩和の条件を付けて、終身刑を採用している事実を参照すると、終身刑を導入した上での死刑廃止に関する賛否を問う意味は十分あると思われる。
 しかし、「死刑の存続か」、「最高刑として終身刑の導入による死刑の廃止か」という枠組みに収斂させて死刑存廃の世論調査なり国民的議論なりを進めるのはなお早計と思える。
 その前に、死刑存廃(特に廃止)の時間軸を明確にした世論の趨勢を見極めることが重要と思える。

死刑制度の存廃を問題にする時間軸
 政府が行った死刑存廃の世論調査の結果に関し、「当面は存続、将来、状況が変われば廃止してもよい」という回答を政府解釈のように「死刑存続」に含めるべきか、「死刑廃止」に含めるべきかの判断を難しくするのは、一連の質問の設計の仕方に問題があるためと思われる。
 というのも、冒頭の主質問で死刑の存廃に関する回答を求めた後で、「即時廃止か」、「漸進的廃止か」、あるいは「将来も存続か」、「状況が変われば、将来的には廃止してもよいか」を選ぶ質問が設けられたところからすると、「死刑制度の存廃」を問う主質問は暗黙裡に将来はともかく、「当面は存続か」、「ただちに廃止か」を問う趣旨だったと解される。そのうえで、「当面は存続」と答えた人に「将来的にはどうか」、「状況が変化した場合はどうか」を問う質問形式と受け取れるのである。
 質問の趣旨がそうなら、その趣旨が調査対象者に明瞭に伝わるよう、質問の文言を工夫する必要がある。また、質問の形式がこのように段階的なものだとしたら、「当面の存廃」を問うた主質問への回答結果が、その後のサブ・クエションと切り離して、一人歩きすることがないような広報や報道のあり方が求められる。 
 なぜなら、死刑制度について日頃から特定の強い主義・信念を持ち合わせている人は別として、死刑制度に疑問を感じている国民の間でも、「即時廃止に賛成か」と問われるとためらいを感じ、十分な国民的議論を経て(段階的に)廃止といった意見を選好する国民も少なくないと予想されるからである。

 実際、法務省が「死刑制度に関する世論調査についての検討会」第1回会議(2014828日開催)に提出した「死刑廃止国における死刑廃止に至る経緯等について」という標題の資料によると、イギリス、フランスにおける死刑廃止までの経緯は次のとおりである。

イギリス
 1957年以前 謀殺罪には死刑を絶対刑として適用
 1957年 犯情の重い謀殺犯、以前に別の謀殺で有罪判決を受けた者には死
      刑を適用し、これらに該当しない謀殺には終身刑を適用するとの
      法律を施行
 1965年 5年間の死刑停止を定めた法律が成立
 1969年 1965年制定の死刑停止法を恒久的なものとする動議が可決さ
                れ、謀殺罪が全廃される。
 1998年 反逆罪、暴力を用いた海賊行為罪の死刑および軍法犯罪の死刑廃
      止(死刑全廃)

 つまり、死刑制度をめぐる議論が立法府で議論され始めた1957年から起算すると死刑全廃まで41年を要し、その間、謀殺罪など犯罪の類型ごとに死刑の適用が段階的に停止・廃止されてきたのである。
 また、イギリスでは、その間、下院議会ではたびたび(直近では1994年死刑復活の是非を問う投票が行われたが、いずれも復活反対票が賛成票を上回った。
 死刑廃止後の最高刑は無期刑とされ、裁判所は無期刑を言い渡す場合、犯罪が極めて重大な場合は最低拘禁期間を「終身」とする(終身刑)ことも可能とされている。

フランス
 1970年代に相次いで発生した凶悪殺傷事件およびその被告に対する判決な
      どが国民の間にも死刑の存廃をめぐる議論を喚起
 1977年 この年に死刑が執行されたのをきっかけにバダンテール弁護士を
      中心とする死刑廃止派が死刑の廃止に向けた運動を強力に展開、
      数回にわたって死刑廃止法案が提出されたが、いずれも可決に至
      らなかった。
 1981年 死刑の存廃が争点の一つになった大統領選挙で死刑廃止法 案の
                提出を公約に掲げたミッテラン候補(社会党)が勝利 
 同年6月 司法大臣に就任したバダンテールは死刑廃止法案を国民議会に提
      出、可決・成立し、同年1010日から施行
 
その後、2007年までに死刑復活を規定した法律案が約30回国会に提出され
 たが、いずれも否決または採決見送り。
 2007年 死刑禁止規定を創設した憲法改正。これにより死刑復活の議論終
      結 

 
このようにイギリスでは死刑存廃の議論が始まってから死刑廃止に至るまで41年を要した。フランスでも死刑存廃の議論が起こってから死刑廃止が確定するまで37年が経過した。
 わが国でも、かりに死刑廃止の是非に関する議論を起こすとしても、立法的結論に至るまでには死刑をめぐるそもそも論や効用(犯罪抑止力)などについて、国民的な議論、国会での審議、専門家の間での国際的な刑法制度の比較研究などに長い年月を要することは間違いない。

死刑の存廃に関する世論調査の設計私案
 であれば、今の時点での死刑の存廃に関する世論調査は、死刑制度存廃をめぐる論議の長期的な展望に立って、次のように設計されるべきではないか。

 主質問 1 死刑の存廃をめぐる今後の議論の進め方について
   A. 死刑存続を基本にして議論を進めていくのがよい
   B. 死刑廃止を基本にして議論を進めていくのがよい
 
      C. わからない、一概に言えない。
 
主質問 2 死刑の存廃が定まるまでの間の制度の運用・見直しについて
   D. 現在の死刑制度に則り、対処していく
   E. 存廃の議論が定まるまで、死刑を停止する
   F. わからない、一概に言えない
 サブ質問1 (A, Bどちらを選んだかを問わず、すべての対象者に)
  今後、死刑の犯罪抑止力に関する評価が変わるなど、死刑をめぐる状況
      が変わった場合
   D. 議論の基本的方向性を見直す
   E. 議論の基本的方向性を見直す必要はない
     F. わからない、一概に言えない
 サブ質問2 (Aを選んだ回答者に対して) 
 
終身刑を導入した場合の死刑制度の存廃について
   G. 死刑を存続させる
   H. 死刑を廃止する
   I.  わからない、一概に言えない

 上川法務大臣は、さる127日の記者会見で内閣府が実施した死刑制度に関する今回の世論調査の結果について、死刑について「肯定的な結果が示された」、「慎重かつ厳正に対処していく」と述べつつ、死刑制度を維持し、刑を執行していく考えを示した(「朝日新聞」2015128日)
 現職の法務大臣として現行制度に則って死刑を施行していくのは当然と言えば当然であるが、刑の執行については大臣の判断が介在してきたことは周知のところである。そして、その判断にあたって、死刑をめぐる国内世論(冤罪の確定、それが死刑制度や死刑執行に及ぼす世論の動向なども含む)や死刑制度をめぐる国際的な議論の動向が斟酌されるのも当然だろう。
 その意味で、内閣府が行う(質問形式は法務省が作成)世論調査の回答結果は慎重に解釈される必要があると同時に、質問形式の適否にまで及ぶ十分な検討が必要である。


 

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今回もおかしい死刑存廃の世論調査

2015131

前回の調査(質問形式)について感じた疑問
 昨日、内閣府大臣官房政府広報室は「基本法制度に関する世論調査」の一環として昨年11月に行った「死刑制度に対する意識調査」の結果の概要を公表した。
 「基本法制度に関する世論調査 2. 死刑制度に対する意識」
 
「調査結果の概要」(2015126日 内閣府大臣官房政府広報室)
   http://survey.gov-online.go.jp/h26/h26-houseido/2-2.html

 これに先立ち、NHK124日夜のニュースで、新聞各紙は125日の朝刊で、「死刑制度を容認80%」(朝日新聞)、「死刑『容認』80%、高水準を維持」などの見出しで調査結果の要旨を伝えた。

 こうした死刑制度の存廃に関する政府の世論調査は1956年以降これまでに9回実施されているが、私がこれに関心を持ったのは、2012329日、3人の死刑囚に対する死刑が執行されたことを伝えた同夜のニュース番組で2009年に内閣府が行った死刑制度の存廃に関する世論調査の概要が紹介されたのを視たのがきっかけだった。
 その折、私は、NHKのニュース番組の画面に、「どんな場合でも死刑は廃止すべきである」が5.7%だったのに対して、「死刑を容認する国民は約85%」という字幕が出、そのすぐ後で、この約85%という数字は「場合によっては死刑もやむを得ない」という問いに対する肯定の回答だったことを示す字幕が出たのを視て驚いた。「場合によっては」という条件がついた死刑肯定を「死刑容認」と括ってしまってよいのか、「場合によっては」という条件を、なぜ「死刑存続」の方にだけ付けて、死刑廃止の方には付けないのか(「場合によっては死刑もやむを得ない」という選択肢を設けるなら、それと対称的に、「場合によっては死刑を廃止してもよい」という選択肢を設けるべきではないか)という疑問がよぎったからである。

 そこで、改めて内閣府政府広報室が公表したこの世論調査の結果の概要を見ると、「場合によっては死刑もやむを得ない」に肯定の回答をした人に対して次のような追加質問がされ、その回答結果が掲記さていることが分かった。

  d. 将来も死刑を廃止しない。(60.8%)
  e. 状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい。(34.2%)
  f. わからない。(5%

 となると、世論調査の結果は次のように集約するのが的確ではないか、というのが私の感想だった。

  *将来とも死刑を存続させせるべきである。(52.6%)
   (注)0.856×0.6080.526
  *現在はやむを得ないが、将来、状況が変われば廃止してもよい。
         (29.3%)
   (注)0.856×0.342=0.293

  *どんな場合でも廃止すべきである。(5.7%)    
  *わからない、一概にいえない。(8.7%)
   (注)10.8560.0570.087

 このような資料分析とそれをもとに、その日のうちにこのブログに論評記事をアップした。
 「死刑制度に関する内閣府の誤導的世論調査、それを受け売りしたメディ
   ア
の報道」(2012330日)
 
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-34ef.html

 また、翌41日にはNHKニュース番組制作担当へ次のような意見を送った。
 「死刑支持は85.6%ではなく、52.6%と伝えるべき~NHKに意見を提出
     ~」
201241日)
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/856526nhk-88b7.html
 

 このような経緯があったので、今回の世論調査について正式の公表前に報道された「死刑容認80%」という調査結果の詳細ならびに質問形式の変化の有無に強い関心を持った。

今回の質問正式と回答結果は
 今回の質問正式と回答結果の詳細は前記の内閣府政府広報室の発表記事で示されている。その要点を再掲すると次のとおりである。(アルファベットは醍醐が追加)

 1. 死刑制度の存廃(該当者総数1,826人) 
   a. 死刑は廃止すべきである(9.7%)
   b. 死刑もやむを得ない(80.3%)
   c. わからない・一概に言えない(9.9%)
 2. 即時死刑廃止か、いずれ死刑廃止か
  (1で「死刑は廃止すべきである」と答えた者に)
   d. すぐに、全面的に廃止する(43.3%)
   e. だんだん死刑を減らしていき、いずれ全面的に廃止する(54.5%)
   f. わからない(2.2%)
 3. 将来も死刑存置か
  (1で死刑制度について「死刑もやむを得ない」と答えた者に)
   j. 将来も死刑を廃止しない(57.5%)
   k. 状況が変われば、将来的には死刑を廃止してもよい(40.5%)
   l . わからない(2.0%)
 4. 終身刑を導入した場合の私刑制度の存廃
  (注:すべての調査対象者に対して)
   m. 死刑を廃止する方がよい(37.7%)
   n . 死刑を廃止しない方がよい(51.5%)
   o . わからない・一概に言えない(10.8%)

誘導的な文言は消えたかに見えるが
 ここから、「死刑容認80%」という報道の見出しは質問1に対してbを選択した人が80.3%だったことを捉えたものだったことがわかる。ただし、前回2009(平成21)年の調査と比べ、「死刑容認」が5.3ポイント減少し、「死刑廃止」が4ポイント増えている。
 ここで注意したいのは、質問1(しばしば「主質問」と呼ばれる)の死刑容認の選択肢から「場合によっては」という文言が削除されていることである。これは日弁連の意見書や国会での質疑で、死刑廃止の選択肢には「どんな場合でも」という強い意思を想定した文言が付けられていたのに対し、死刑容認の選択肢には「場合によっては」という緩やかな意思を想定した文言が付けられ、死刑容認への回答を誘導しがちな形式になっているとの指摘を受けた見直しと言われている。
(注)日本弁護士連合会が20131122日に発表した「死刑制度に関する
 
   政府の世論調査に対する意見書」の全文は次のとおり。
         http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2013/opi nion_131122_4.pdf
  
 こうした見直しによって、「死刑容認」と「死刑廃止」の選択肢の表現の非対称性が幾分緩和されたことは確かだ。しかし、対称的な質問形式というなら、冒頭の質問を「死刑は廃止すべきである」、「死刑は存続させるべきである」とするのがすっきりした文言であり、「死刑廃止」の選択肢の方は「べきである」という強い意思を想定し、「死刑存続」の選択肢の方は 「やむを得ない」という柔軟な意思を想定させる文言を使ったのは見直しの不徹底を物語っている。とりわけ、婉曲で温和な意思や考えに支持が集まりやすい日本人の気質を前提にすると、質問1の文言にはなお見直しの余地があると考えられる。

条件次第で「死刑廃止」に転じる意見も「死刑容認」と括ってよいのか
 しかし、今回の世論調査にはもっと大きな問題がある。「死刑もやむを得ない」という選択肢を設けることによって、条件次第で「死刑廃止」に転じる意見まで「死刑容認」と括ってよいのかというのがそれである。 
 今回の世論調査でも質問1(主質問)に続くサブ・クエッションの一つとして、「死刑は廃止すべきである」と答えた人に対して、「即時死刑廃止か、いずれ廃止か」という質問が設けたれた。回答結果は先に再掲したように、即時廃止か漸進的かで意見が分かれているが、「死刑廃止」の考えはこのサブ・クエッションへの回答でも揺らいでいない。では、「死刑存続」の方はどうか?
 サブ・クエッションとして設けられた「将来も死刑存置か」という問いには、「死刑存続」論者のうちの40.5%が「状況が変われば、将来的には死刑を廃止してもよい」を選び、「将来も死刑を廃止しない」を選んだ人は57.5%にとどまっている。

集計結果の組み替え~世論をより的確に表すために~
 とすれば、死刑制度の存廃をめぐる世論は次のようにまとめるのが実態にもっとも忠実な集計になると考えられる。

  ①将来とも死刑を存続させる(46.2%)
    (注)0.803×0.5750.462 
  ②当面は存続、将来、状況が変われば廃止してもよい(32.5%)
 
  (注)0.803×0.4050.325
  ③当面は存続、その先どうすべきかはわからない(1.6%)
 
  (注)0.803×0.0200.016
  ④だんだん死刑を減らしていき、いずれ全面的に廃止する(5.3%)
    (注)0.097×0.5450.053
  ⑤すぐに全面的に廃止する(4.2%)
 
  (注)0.097×0.4330.042 
  ⑥廃止すべきだが、すぐにか、段階的にか、はわからない(0.2%) 
 
  (注)0.097×0.0220.002 
  ⑦(存廃の是非は)わからない・一概に言えない(9.9%)

 ここで、死刑の存廃に関する世論を二者択一的に分類しようとすると、②③の扱い方が問題になる。これらを存続に加えれば、死刑制度を支持する回答は一部の新聞報道の見出しに付けられたように80.3%となり、圧倒的国民が死刑の存続を支持しているという解釈になる。
 他方、③はともかく②を「死刑廃止を支持する回答」とみなすと、死刑存続は46.2%、死刑廃止は42.2%(=32.55.34.20.2)となり、存廃の意見分布は接近する。

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JAL客室乗務員解雇撤回裁判:「管財人が右と言ったら左と言わない」裁判官でよいのか(下)

201465 

財務面から見て解雇の必要性はまったくなかった~筆者の立証~
 私は本件裁判で東京高裁に財務の面から見て本件整理解雇の必要性を反証する意見書を提出した。その中で、一審判決が解雇の必要性を認める拠り所にした「二次破綻回避論」を反証した箇所を抜粋しておきたい。

 「(JAL乗員と客室乗務員裁判の)ふたつの判決は、更生計画策定時の日本航空が直面していた財政状況を不動の前提にし、その後の日本航空の財政状況の変化を顧みることなく、『破綻的清算を回避するため』、あるいは『二度と沈むことがない船にするため』には整理解雇を実行する必要性があったと判断した点で共通している。また、そうした判断を導く過程で、「事業規模の縮小に見合った人員の縮小」というフレーズを多用し、人員削減を人件費削減の手段としてではなく、それ自体が更生計画の目的であったかのようにみなすことによって、更生計画の実行に伴って日本航空の財政状況が好転したからと言って、整理解雇の必要性はいささかも変化しないとみなす点でも、ふたつの判決は軌を一にしている。」

 「(このような)「危機回避型」整理解雇の必要性を判断するには、整理解雇当時の日本航空が、なお二次破綻の危険から脱していなかったとみる状況判断が妥当だったのかどうかが問われる。通常、企業の破綻は当座の資金繰りの行き詰まりが契機になることが多い。そのため、短期的な債務弁済能力が重視され、それを測る財務指標として伝統的に用いられてきた代表的な指標は「当座比率」(=当座資産÷流動負債)と流動比率(=流動資産÷流動負債)である。

 このうち、流動比率は短期間のうちに(金銭債務であれば1年以内に)決済期限が到来する流動負債に対する流動資産(現金預金のほか、短期間に換金できる金銭債権、製品・商品等)の倍数を表し、この比率が大きいほど短期的な支払い能力が安定していることを示す。一律に下限値があるわけではないが、19901月から20071月の間に倒産した138社をサンプルにしてデフォルト・リスクの予見にどのような財務比率が有効かを検証した桜井・村宮の研究によると、流動比率は100%が安全性の一応の判定値でこれを下回ると倒産に至る懸念が生じると指摘している(桜井久勝・村宮克彦「倒産企業の財務比率の時系列特性」『国民経済雑誌』1966号、200712月、15ページ)。

 また、当座比率は、流動負債に対して短期的な決済手段に充て得る当座資産(現金預金、営業未収入金、受取手形、流動性の高い有価証券)をどの程度保有しているかを表すものである。これもどの程度なら安全かを一律にいえるわけではないが、この比率が1を超えていれば、会社が支払い不能に陥る危険性はなく、事業の存続に関して懸念すべき点はないことになる。上記桜井・村宮の実証論文は当座比率については50%が一応の判定値で、これを下回ると倒産に至る懸念が生じると指摘している。

 そこで、会社更生手続中の期間を挟む時期の日本航空の流動比率と当座比率の推移を全日空と対比すると次のとおりである。

 これを見ると、2008年度末から200912月当時の日本航空は流動比率が100%を下回り、当座比率も50%を下回る水準で、債務決済のための資金繰りが逼迫していた状況が窺える。しかし、整理解雇の時点に近接する2010年度末には当座比率は100%を超え、流動比率は150%を超える水準まで復調して、全日空を大きく上回る状況になっている。

 

1 日本航空と全日空の流動比率の推移(連結ベース:%) 

        2007年度末 08年度末 09.12.31 10年度末 11年度末

JAL       100            75     61    161      157
ANA       86               89           104         105          119

(出所)両社の有価証券報告書、決算短信より算定

 

2 日本航空と全日空の当座比率の推移(連結ベース:%)
       2007年度末 08年度末 09.12.31 10年度末 11年度末
JAL        92               53 44    135          130
ANA     55         46            73        68         87
   
   
(出所)表1と同じ
 

 次に、損益計算項目から会社の財務的安定性を測る指標としてしばしば用いられるのが「インタレスト・カバレッジ・レシオ」(=(営業利益+受取利息・配当金)÷(支払利息・割引料))である。計算式から明らかなように、借入や増資等に頼らず、年々の営業利益と金融収益で年々の金融費用を支払い続けることができているかどうかを測る指標であり、これが1を超えていれば、事業を継続できる財務的安定性が備わっているとされている。

 この比率の推移を全日空と対比すると表3のとおりで、日本航空は2010年度には27.9と、全日空(3.65)の8倍近い値になっている。つまり、向こう28年分の利払いに必要なキャッシュをこの年度の営業活動から生み出したことになるのである。日本航空のインタレスト・カバレッジ・レシオがこれほど好転した主な理由は、会社更生の過程での債務整理を通じて有利子負債が9,210億円(200912月末時点)から4,818億円(20113月末時点)へと激減したことにある。

 
3 日本航空と全日空のインタレスト・カバレッジ・レシオの推移(連結ベース)
    2007年度    08年度 09年度    10年度 11年度
 JAL         4.87     (—)    *      27.9      18.9
 ANA        5.93          0.71      
(—)     3.65        5.08
   
(出所)表1と同じ。」

 「次に、中長期的な財務の安定性を評価する代表的な指標とされてきたのは、有利子負債償還年数と自己資本比率である。このうち、自己資本比率については、ここまでの行論で触れてきたので、ここでは有利子負債償還年数を取り挙げておきたい。

 ここでいう「有利子負債償還年数」とは有利子負債残高を営業活動によるキャッシュ・フローで除した数値のことで、現在の有利子負債を現在のプラスの営業収支尻で返済するのに要する年数を表す。当然ながら、この値が小さいほど短期のうちに有利子負債を完済できることを意味し、それだけ会社の中長期的な財務の安定性が高いことになる。

 そこで、日本航空と全日空の有利子負債償還年数の推移を調べると表6のとおりである。これを見ると、経営破綻直前期の日本航空の償還年数は28.8年と際立って高い水準だったが、整理解雇時点に近接した2010年度末の時点では5.6年と大幅に短縮され、全日空とほぼ同水準になっている。

 ちなみに、企業再生支援機構が2010119日に作成した「日本航空に対する支援決定について」と題する文書で、支援適合基準の一つとして有利子負債のキャッシュ・フロー倍率を挙げ、日本航空ではこれが3年後には2.2倍になり、機構が定めた10年以内という基準を満たすため、支援の基準を充足する、と記している。実際は約12ヶ月後の2010年度末で5.6倍、22ヶ月後の2011年度末時点で0.8倍となっている。この点からも、さらに自己資本比率が更生計画の目標値を超えるテンポで改善していた事実を併せて考慮しても、整理解雇当時の日本航空に、予防的解雇を実施しなければならないような経営破綻の予兆は全くなかったといえる。むしろ、この時点では、再上場の要件をほぼ満たすまでに財務状況は改善しつつあったといえる。

  
6 日本航空と全日空の有利子負債償還年数の推移(連結ベース)
          2007年度末   08年度末  09.12.31     10年度末   11年度末
JAL          6.2     28.8         (注1)      (注3)    0.8
ANA 4.6            
(注1)      (注2)          4.6           4.4
  (出所)表1と同じ
  (注1)は営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスのため、計算せず。
  (注2)は営業期間が9ヶ月、(注3)は営業期間が4ヶ月のため、他の年度との
    時系列の比較ができないので、計算せず。」

  営業費用の0.13%にすぎない人件費がJAL再生を左右するとみなす常軌を逸した判決
 結局、今回の東京高裁判決は、本件整理解雇の必要性はなかったとする被控訴人や筆者の意見書の立証事実について認否をせず、更生計画に書かれたこと、管財人が必要と判断したことには合理性があるという論法に尽きる。これでは、更生手続き下の解雇の不当性を求める労働者の訴えの利益は中身の審理以前に実質的に排除されているに等しい。これでは司法の独立も存在意味もないに等しい。
 判決は次のように述べている。
 
 「本件解雇について、被控訴人に巨額の債務超過と累積赤字があって高度の経営上の困難に陥っており、被控訴人が企業の事業を維持するためには、本件解雇に係る人員の削減が必要であって、被控訴人の合理的な運営上やむを得ないものと認められるのであるから、この観点から検討しても、その人員削減の必要性が認められるものと言うべきである。」

 本当にそうか?
 筆者は本件控訴審につき、東京高裁に提出した意見書の中で次のように立証・主張した。
 
 「乗員81名、客室乗務員84名を整理解雇することによって削減される人件費は約14.7億円だった。

  原告請求金額合計÷原告人数×1.3(法定福利)×0.7(新人事賃金制度による3割カット)=14.7億円

 この金額は、2009年度のJALグル-プの営業費用合計額の0.09%、2010年度の営業費用合計額の0.125%に過ぎない(乗員訴訟甲170/客乗訴訟甲1762ページ)。

 かりに会社が指摘するように、整理解雇による人件費削減の通年効果額を20億円と想定しても、それぞれの割合は0.123%、0.170%に過ぎない。

 つまり、整理解雇による費用削減効果を解雇時点の日本航空の財政状況に照らして見ると、営業費用合計額の0.1%台にすぎなかったのである。にもかかわらず、一審判決は、更生計画の実行がまだ緒についていない計画策定の時点の日本航空の財政状況を前提にして、人員削減による費用削減の必要性を――その時点でさえ人員削減の費用削減効果はデータに基づいて検証されていなかったのだが――云々したため、営業費用合計の0.10.2%を削減する程度の効果しかない整理解雇を実施しなければ、日本航空は、破綻的清算を免れなかったとか、再び沈む船になる恐れがあったとかのようにみなす常軌を失した判断に陥らざるを得なかったのである。

 本件整理解雇が事業再生に果たす財務的効果がこれほど僅少であった事実に鑑みると、かりに会社が主張し、一審判決が追認したような余剰人員が整理解雇の時点で存在したとしても、「余剰人員の削減を解雇によって達成しようとしている経営上の目的が余りにもささいであるときは解雇という手段によって従業員を失職させるという結果を生じさせることとの均衡を失しているといわざるを得ず、そのような場合に余剰人員の削減について経営上の必要性が企業経営上の観点から合理性を有するということはできないのであって、解雇権の行使は濫用に当たると言わざるを得ない」(ナショナル・ウェストミンスター銀行解雇事件東京地判平成11129日、労働判例78235ページ以下。下線は筆者が追加)という判断がそっくり当てはまる。」

 本件控訴審を担当した大竹裁判長他、裁判官は筆者のこのような立証・主張をどのように受け止めたのだろうか? 整理解雇当時の日本航空の営業費用合計の0.10.2%にすぎなかった整理解雇者の合計人件費を削減しなければ、日本航空の事業を維持できなかったなどとなぜ言えるのか―――この問いに答えず、本件解雇はやむを得ないものだったなどと結論づけるのは常軌を逸した暴論である。

 整理解雇当時のJALに更生計画が掲げた人員削減目標に未達の状況があったかどうかの争点については、この記事の(上)で論じた。その争点は別としても、「人員の削減を解雇によって達成しようとしている経営上の目的が余りにもささいであるときは解雇という手段によって従業員を失職させるという結果を生じさせることとの均衡を失しているといわざるを得ず、そのような場合に余剰人員の削減について経営上の必要性が企業経営上の観点から合理性を有するということはできないのであって、解雇権の行使は濫用に当たると言わざるを得ない」というナショナル・ウェストミンスター銀行解雇事件(東京地判平成11129日)の判決が本件JAL整理解雇の必要性を判断する上で貴重な先例になると私は考えており、このような指針を採用すれば客室乗務員解雇撤回訴訟も、今日行われる乗員解雇撤回訴訟も、解雇無効の判決以外、あり得ないのである。(完)

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JAL客室乗務員解雇撤回裁判:「管財人が右と言ったら左と言わない裁判官」でよいのか(中)

201465      

融資行の関心を恣意的に曲解し、忖度した異常なまでに不公正な判決        

  今回の東京高裁判決のもう一つの特徴は、日本航空が主要行から新たな融資(リファイナス)を確実に受けるためには、「主要行に対し・・・人員圧縮策が確実に遂行されるという認識を与える」(判決文p.62。以下、数字はすべて判決文の該当ページ)必要があったという想定をもとに、整理解雇の必要性を金融機関との約束の履行という面から認めたという点である。判決文の中のこれに関係する箇所を引用しておきたい。(下線はすべて引用にあたって筆者が追加したもの)。

 「主要行は、本件更生計画に基づく人員削減計画の達成に特に強い関心をもっており、上記の条項に基づき、『人員圧縮』策の目途がつかない限り、利率、担保、返済期限等のリファイナスの条件に関する協議の前提が整っていないと主張して、これらの協議が進まない状況にあり、管財人は、毎月の主要行とのバンクミーティングにおいても、人員削減の進捗状況の報告を求められた。」(p.51

 「本件更生計画案が可決されるためには、投票期限である同月19日までに更生債権者らから法定の賛成票を得ることを要したが、その1週間前の同月12日の時点においても、法定多数の賛成票は得られていなかったこと、主要行は、本件更生計画によって、一般更生債権の多額の免除を余儀なくされることもあって、本件更生計画の基礎である本件新事業再生計画の完遂可能性を慎重に見極めており、本件更生計画案における人員削減計画について・・・・特に多大な関心を示していた・・・・」(p.64

 「・・・・以上の経緯及び上記証拠を総合すれば、本件更生計画案に対して、債権者らから法定多数を得るためには、上記の時期に上記方針の決定を公表して、管財人が確実に人員削減施策を実行して削減目標値を達成する決意であることを対外的に表明する必要があるとした管財人の経営判断には合理性があるものと認められる。
 したがって、管財人が平成221112日の時点において希望退職者が目標値に達しない場合には整理解雇も辞さないとの基本方針を決定して、同月15日にこれを正式に発表したことについても、更生会社である被控訴人を存続させ、これを合理的に運営する上でやむを得ないものと認められる。」(p.64

 以上の判決文の中で注意が必要なのは、主要行が「人員削減」ないしは「人員圧縮計画」の達成に強い関心を持っていた、というくだりである。しかし、こうした指摘の原典といえる、更生会社日本航空と企業再生支援機構が2010(平成22)年1130日に主要5行と締結した「基本合意書」第7条を確かめると、リファイナンスの協議の前提条件として設けられた(3)項で、「本件リファイナンスに係る最終契約締結までの間に、更生計画に記載されている対象事業者における諸施策(人員圧縮等、実施中のコスト削減策)及び更生計画策定後に具体化された生産性向上や購買改革等による持続的なコスト削減策等の実現に重大な支障が生じていないこと」を挙げ、同(4)項では、「本件リファイナンスに係る最終契約締結までの間に、対象事業者の損益・財政状況の悪化により、対象事業者の更生計画の実現に重大な支障が生じていないこと」を挙げている。

 ここからもわかるように、人員削減はそれ自体(削減数の追求)が目的ではなく、コスト削減策の一部としての人件費削減の手段として位置づけられていたことは明らかである。

 これは更生会社に対する金融支援行の有するもともとの利害関心に照らしても至極当然のことである。なぜなら、支援行にとっての関心事は債権なり出資の確実な回収が唯一の関心事であり、この目的を実現する観点から、更生会社の財務の再建に寄与するコスト削減に関心を寄せるのであり、人員削減はコスト削減の一部である人件費の削減の手段であって、それ自体に支援行が関心を寄せるいわれはないのである。 
 かりに、支援行が融資なり出資なりの回収可能性を超えて、支援先の会社の人員削減に介入するとすれば、それは自らの利害が及ぶ範囲を超えた不当な干渉でありあり、整理解雇の必要性を判断するにあたって法的評価に値しないし、支援行の法益を超えたそのような関心を解雇必要性の根拠にするのは不当不公正な司法判断である
 ちなみに、コスト削減策の手段として人員削減をとらえると、更生計画で定められた更生会社日本航空は2010年度決算で計画値を260億円も超過する人件費削減を達成していた。この点から見て、人件費削減の手段としての人員削減を行う必要性はなかったのである。

 
矛盾と混迷を免れない人員削減自己目的論

こうした解釈を裏付ける資料を示しておきたい。それは、管財人代理・服部明人、同加藤慎、企業再生支援機構ディレクター・飯塚孝徳、企業再生支援機構マネジャー・オリバー・ボルツアーの連名で運航乗務員に宛てて作成された「現在の状況について」と題する文書の中の一節である。冒頭のまえがきから見て、この文書は会社が整理解雇を検討せざるをえない状況を運航乗務員に説明するために作成されたものと思われる。この文書は「現下の収支状況が計画を上回っているので人員削減は不要、と言えるか?」という問いを設け、これに対する答えを次のように記している(下線は筆者の追加)。

「・更生計画案にある利益目標の達成は最低条件に過ぎない。

 ・債権者や支援機構が注目しているのは、当社が今後も中長期的に継続して利益が出せる生産体制になったかどうかである。

 ・事業規模に見合った人員規模とすることは、安定的に利益を上げる体制を構築するために必要不可欠の措置である

 ・再上場も視野に入れているが、投資家に優良な企業と認めてもらうためには、経営も社員も一丸となって少しでも計画値を上回り、累積損失を減らしていかなければならない。」

 

 こうした想定問答に続けて、この文書は債権放棄を求められている金融機関が日本航空のどこを注目しているかという視点から上記の説明を次のように解説している。

 

 「膨大な債権放棄を求められている債権者や、巨額の出資を予定している支援機構が注目しているのは、当社が今後も中長期的に継続して利益が出せる生産体制になったかどうかであり、更生計画案に記載された事業規模に合わせた人員削減は、そのための重要な要素となっています。」

 

 こうした説明は、管財人代理や企業再生支援機構の関係者が本件人員削減を、日本航空を安定的に利益を出せる生産体制にするための手段の一つと捉えていたことを裏付ける明白な証拠である。したがって、こうした管財人代理らの説明は、本件裁判で日本航空が繰り返した、人員削減は人件費削減のいかんとは独立した、それ自体を達成すべき目的だった、という主張の信憑性を根底から覆すものといってよい。」

 反証を無視して二次破綻回避論に固執

 東京高裁の判決の3つ目の特徴は、筆者が意見書で、原告団が準備書面で立証した二次破綻回避論を一切無視して、牽強付会に解雇必要性を正当化している点である。
 判決は本件整理解雇の必要性を論じた中で次のように述べている。

 「また、(控訴人らは)本件解雇の時点で、本件更生計画を上回る営業利益が確保され、自己資本比率も増大しているなど、事業を継続する上で財務安定性に何らの支障もなく、二次破綻の危険性を示す事実もなかったから、人員削減の必要性がない旨を主張し、本件解雇の当時、被控訴人の経営が財務的に安定しており、二次破綻の危険がなかったなどとする意見書(甲456113)の記載も存在する。
 しかし、本件解雇による人員削減の実行は、被控訴人の事業を維持更生するという会社更生法の目的にかんがみ、更生会社である被控訴人の本件更生計画の基礎をなす本件新事業再生計画に照らして、その内容及び時期において、合理性のあることが認められ、更生会社である被控訴人を存続させ、これを合理的に運営する上でやむを得ないものとして、その人員削減の必要性が認められ、また、本件会社更生手続に基づき被控訴人の事業の維持更生を図るために不可欠なリファイナス契約を適時に締結して融資を得るためにも、管財人が上記の時期において本件解雇に係る人員削減を実行する必要性があるものと認められる点からしても、更生会社である被控訴人を存続させ、これを合理的に運営する上でやむを得ないものとして、その人員削減の必要性が認められるものであることは、前記1判示のとおりである。」(pp.8182

 私が一読して思うのは、「しかし」以下の判決文は、「しかし」の前の私の意見書他が示した立証・主張を退けるに足る論理的文章になっているのかということである。私が在職中、自分のゼミ生の卒業論文の草稿にこのような論旨不明の駄文があったら、書き直しを求めたのは確実である。
 結局、この判決文が言いたいことを縮めて言うと、
 1.裁判所で認可された更生計画で更生会社と破産管財人が記したことに裁判所は異議を差し挟まない
 2.管財人が必要とみなした人員削減(注:整理解雇という方法に特定されたわけではない)には合理性が認められる
ということに尽きる。

 しかし、こうした判断は、大竹たかし裁判長が法廷で読み上げた「判断の枠組み」の冒頭の事項――すなわち、会社更生手続き下の整理解雇にも解雇の4要件は適用される―――という前提と相容れない。なぜなら、更生手続き下の整理解雇にも解雇の4要件(解雇に高度な必要性があるか、解雇回避措置が十分に講じられたか、解雇対象者の人選基準は適正だったか、解雇に至るまで労使協議は尽くされたか)が適用されるというなら、解雇の必要性は更生計画に明記されていることを以て満たされているなどといって、裁判所の実質的判断を事実上停止することはあり得ないからである。

          うでまくらでうたたねするウメ
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