個人番号の利用事務等の停止を求める申し立て書を提出

2015年11月11日

マイナンバー、87%が「不安を感じる」
 各自治体から住民へのマイナンバー(個人番号)の通知するカードの送付が始まった。来年1月から運用が予定されている。
 しかし、内閣府が今年の723日から82日まで行った「マイナンバー(社会保障・税番号)制度に関する世論調査」(調査対象3,000人、有効回答数1,773人、調査員による個別面接聴取)によると、マイナンバー制度の「内容まで知っていた」と答えたのは今年1月の調査の時(28.3%)と比べて、43.5%まで増加しているが、それでも制度の周知はまだ半分以下である。
 では、周知度が上るのに応じて回答者の間でマイナンバー制度に関する理解・信頼度は高まったのか?
 これについて、内閣府の上記世論調査は、マイナンバー制度における個人情報の取扱いに関して、最も不安に思うことは何かを1項目選択形式で尋ねている。この設問に対して、有効回答者の14.4%が「国により個人情報が一元的に管理され、監視・監督されるおそれがある」を選び、34.5%が「個人情報が漏えいすることにより、プライバシーが侵害されるおそれがある」、38.0%が「マイナンバーや個人情報の不正利用により、被害にあうおそれがある」をそれぞれ選んでいる。つまり、有効回答者の86.9%がマイナンバー制度における個人情報の取扱いに関して不安を抱いていることになる。他方、不安に思うことは「特にない」を選んだのは9.1%にとどまっている。
 また、「あなたは、個人番号カードの取得を希望しますか」との設問については、「希望する」は24.3%「希望しない」の25.8%を下回っている。もっとも多いのは「現時点では未定」で47.3%に達している。

内閣府政府広報室「『マイナンバー(社会保障・税番号)制度に関する世論調査』の概要」
http://survey.gov-online.go.jp/tokubetu/h27/h27-mynumber.pdf

 つまり、周知度が高まったといっても、個人番号を取得したものかどうか態度を決めかねている人が47%に上り、態度を明らかにした人でいえば、カードの取得を希望しない人の方が希望する人より多いのが実情である。また、マイナンバー制度の周知度は高まったといっても、個人情報の取り扱いに関して不安を持つ人の割合は今年1月の調査の時(83.1%)よりも増えているのが実態なのである。
 このような状況でマイナンバー制を導入するのは民意を顧みない「見切り発車」のそしりを免れない。

アメリカで広がったなりすまし被害~毎年5兆円の損害~
 現に、アメリカでは多くの個人情報をひも付けした「SSN」(Social Security Number)と呼ばれる社会保障番号が悪用される事案が深刻化している。その一端は指定都市市長会がまとめた次の資料で紹介されている。

 「米国社会保障番号の不正利用によるなりすまし被害と日本のマイナンバー制度における対応」(20141020日、指定都市市長会作成)  http://siteitosi.jp/conference/honbun/pdf/h26_10_20_01_shiryo/h26_10_20_05_01.pdf

 これによると、SSNを悪用した「なりすまし被害」は2006年~2008年の3年間で1,170万人、損害額は毎年約5兆円と報告されている。事例として、行政分野では年金・医療給付金等の不正受給、失業給付金の二重受給、民間分野では他人の社会保障番号による銀行口座の開設などが挙げられている。
 
 また、アメリカ政府機関の統計では2014年には、16歳以上の7%にあたる延べ1760万人が被害に遭ったといわれている。
 http://news.yahoo.co.jp/feature/53
 この記事によると、「こうした『なりすまし詐欺』は、多くの場合、番号とともに住所、氏名、口座情報がセットで盗まれて起きる。病院で診察を受ける際に医療費控除のために記入した書類が外部に漏れたり、勤務先で作成された所得申請の書類がごみ箱から拾われるなどして、流出するケースもあるという。また、ショッピングサイトなどで入力されたSSN情報がハッキングされ、流出してしまうということもある」という。

 上記の記事は終りの方で、米国でのSNNによる被害をいくつも見てきたエヴァさんは日本人向けに次のような警告をしている。
 「日本版マイナンバーはアメリカのSSNと似ている部分がある。」「SSNも当初は社会保障の分野だけで使われるという政府のメッセージがありました。そして、いつからか多目的で使用されるようになりました。日本の皆さんは私たちを見てそれを避けることができるはず。政府にマイナンバーにはどのような未来が待っているのか強く説明を求めるべきです。」


通知カードの受け取りを拒否しても個人情報の利用は止められない
 最近、マイナンバーの通知カードの受け取りを拒否しようとか、そうすることでマイナンバー制度を止めることができるとかいった議論が見受けられる。私はマイナンバー制度の専門家ではないが、カードの受け取りを拒否しても個人情報を守るという点では全く効果がないことは確かである

 

2013420日にビデオドットコム・ニュースに出て共通番号制につき、青木理さん、宮台真司さんと議論をした。その時、「共通番号制から離脱する権利を認めよ」と発言した。

 「共通番号制」から離脱する権利を認めよ」
 (醍醐聰 マル激トーク・オン・ディマンド 第627回)
  http://www.videonews.com/marugeki-talk/627/ 

 「小さく生んで大きく育てる」ではないが、12桁の個人番号をキーにしてやり取りされる情報は当初は従前の住基ネット情報と同じでも、順次、民間活用を拡大していくことが法の施行当初から謳われている。また、番号法(正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」)の第6条では個人番号の利用事務は特段の制約もなく(入札審査に委ねて)委託、再委託をすることができるとなっている。
 こうなると、12桁の個人番号をキーにして情報を授受する組織や個人が住基ネットの時(行政機内にとどまっていた)と比べ、格段に広がり、それだけ、職歴、婚姻歴、その他、個人情報が漏えいしたり、本人になりすました不正利用が広がる恐れがある。

 そうであれば、自分の情報をどう管理するかは自分が決める「自己決定権」が個人に保証されることが重要だ。そのためにはマイナンバー制度に参加しないという選択肢が保証されてしかるべきである。
 今回、成立した通称、番号法(正式名称は「「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」)にそって言いうと、マイナンバー制度から個人情報が漏えいし、不正使用されるリスクを断つには、法第2条第10条で定められた「個人番号利用業務」12桁の個人番号をキーにして、行政機関内のの各種部署、業務の委託・再委託先、医療機関、勤務先などが、さらに将来はハローワークや銀行その他の民間機関などへ拡大して、個人情報をやり取りする業務)を停止させる以外ないと考えるに至った。


地元市長あてに「利用業務の停止」を求める申立書を提出 
 これについて、先月、地元の市役所に3回出かけ(『週刊金曜日』の記者は3回とも同行取材し、最後の時は『毎日新聞』の記者も同行取材した)、役所の担当者とのやりとりを通じて、「個人番号利用業務」を止めることが問題の核心だということを確かめた。(2回目の模様を伝えた記事が『週刊金曜日』20151023日号に掲載された。)

 その上で、私は1029日に以下のような、私の「個人番号利用業務等の停止を求める申し立て」を市長あてに提出した。時間の関係で大変簡素な文書となった。
 受け取った行政側が「はい分かりました」と応じるとは思っていないが、申し立てを拒むなら拒むで、どのような根拠を示すのか、質したいのである。


                          20151029
佐倉市長
蕨 和雄 様

「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」に基づく個人番号利用事務等の停止を求める申し立て書

                      (住所)××××
                              醍醐 聰

 後掲の理由により、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下、「マイナンバー法」)の第2条各項、第9条、第10条に基づく、私の個人番号に係る「個人番号利用事務」ならびに「個人番号関係事務」(以下、「マイナンバー法」第10条第1項にならって「個人番号利用事務等」と略す)の全てを直ちに停止または取り消しされるよう申し立てます。
 この申し立てに対する貴職の対応を20151113日までに私宛に返答下さるよう、お願いいたします。

                申し立ての理由 

 1.「マイナンバー法」の施行にあたり、政府として個人情報の安全・安心に配慮するのは当然ですが、それを前提としてもなお、内閣府が今年の78月に実施した世論調査では、個人情報の取り扱いについて不安を感じる回答が86.9%(国により個人情報が一元的に管理され、監視・監督されるおそれがある14.4%、個人情報が漏えいすることにより、プライバシーが侵害されるおそれがある34.5%、マイナンバーや個人情報の不正利用により、被害にあうおそれがある38.0%。各項目は1つのみの選択回答の結果)に上っています。また、カード取得希望者は「希望しない」が26%で「希望する」の24%を上回っています。
 私も同様の懸念を抱いており、このような状況でマイナンバー法の施行を見切り発車することは、到底許されず、これに協力することをためらうのは当然です。

2
.日本国憲法第13条で定められた国民の権利には、国民各自が自分の情報を意に反して利用・管理されないとする条理が含まれていると解するのが判例上、学説上、有力です。マイナンバー法に基づく「個人番号利用事務等」は、国民の意に反する個人情報の利用・管理を含み、容認できません。

3
.「マイナンバー法」は国の責務(第4条)、地方公共団体の責務(第6条)を定めていますが、事業者については国および地方公共団体の施策の実施に協力するよう「努めるものとする」(第6条)と定めるにとどめています。
 
さらに、国民、住民については国および地方公共団体の施策の実施に協力するよう義務づけた定めはもとより、協力を求める明文上の定めもありません。

                                以上


 申立書に記したとおり、番号法では、国の責務(第4条)、地方公共団体の責務(第5条)、事業者の努力(第6条)は明記されているが、住民の協力義務、応諾義務は一切、明記されていない。
 また、確定申告書に12桁の番号を記載する欄が設けられるが、国税庁がまとめたQAでは、個人番号が記載されていなければ確定申告ができないわけではないと記されている

 国税庁「マイナンバー 国税分野におけるFAQQ2-3-2参照)
 https://www.nta.go.jp/mynumberinfo/FAQ/04kokuzeikankei.htm

各地で同様の申し立てを!
 すでに住民基本台帳情報を使った自衛隊員適齢の新卒者の名簿集めに行政が協力するという事態が各地で起こっている。

 衆議院 阿部知子 質問主意書(平成二十六年九月二十九日提出)
 「高校生等に対する自衛官等募集ダイレクトメール送付及び住民基本台帳情報利用に関する質問主意書」http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a187002.htm


「<社説>自衛隊に適齢名簿 個人情報提供は抑制を」
 (『琉球新報』20151026日)
 
http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-160496.html


 こうした事態は、国家が個人の情報を収集し、管理する先に何が起こりうるかを示すものである。法的にはさまざま検討課題があるにせよ、私と同様申し立てを各地で起こしていただき、個人の情報管理の自己決定権の価値、ならびに個人情報を国家が一元的に管理する危険性を社会に訴える運動を一緒に広げていければ幸いである。


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誰のための農業・農協改革なのか?

201529

「岩盤規制」の打破?
 「農協改革」がヤマ場を迎えている。これについて、26日付けの『北海道新聞』は「農協改革 これで『攻めの農業』に?」と題する社説を載せ、次のように記している。
 http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/590675.html 

 「担い手の減少、耕作放棄地の増加…。農業を取り巻く環境は厳しさを増している。それなのに政府・与党の論議からは、肝心の部分が聞こえてこない。重要なのは、組織論より今の農業が抱える問題への対策である。」
 「監査の仕方を変えれば、農業が活性化するのか。そんな単純な話ではなかろう。」
 「道内を含め金融機関などが農協だけの地域もある。制限で、こうしたマチの人が不利益を被る恐れもあった。結局、見送りになったが、これも改革論議が現実とかけ離れている証左と言えよう。」

 目下の「農協改革」を指して安倍首相らは「岩盤規制の打破」と称している。「岩盤規制」と言うと、いかにも「頑強な既得権益」を連想させ、郵政事業を「抵抗勢力」の象徴かのようにフレームアップして、「改革」=「既得権益打破」=善行、という虚構を拡散させ、地方の疲弊、富の格差をもたらす「似非改革」を強行した小泉「改革」と同根の手法である。

「地方創生」の美名の下で
 私が高校生まで過ごした実家は農家ではなかったが、近隣農家は政府の無秩序な減反政策に振り回されて後継者もいなくなり、耕作放棄地が増える一方だった。
 医療の面では、近くにあった「国立病院」が閉鎖され、中核病院と謳われた隣の市の県立病院も勤務医不足で小児科が閉鎖の危機に直面しているという。また、同じ地域にある赤十字病院でも産科が休止され、医療崩壊の危機に瀕している。
 
 地域の産業の中で農業、畜産業が大きなウェイトと占める地方では、これらの産業が衰退すると関連産業も連鎖的に衰退し、人口減少が止まらない。そうなると公的医療機関は患者数減→採算悪化→規模縮小・統廃合→医療アクセスの悪化→人口流出、という悪循環から抜け出せなくなる。

 
 TPP
交渉と並行して進められた日米二国間協議で、日本は米国車の対日輸出の非関税障壁になっているとして軽自動車の「軽課税」措置をやり玉に挙げ、軽自動車の増税を日本に押し付けた。
 しかし、全国軽自動車協会連合会の調べによると、20133月末現在で、軽四輪車の世帯当たり普及台数を都道府県別に見てみると、佐賀、島根、鳥取、山形、長野、福井の各県は0.98以上であるのに対し、東京都は0.11、神奈川県は0.21、大阪府は0.27だった。軽自動車は農作業に向いた小回りの利くほか、狭い農道や市町村道を買物、医療機関への送迎などにも適した車種なのだ。「地方差別」と言いたくもなるこうした増税がアメリカへの市場開放と称して行われたことを銘記しておく必要がある。

 私たち国民は今、政府が進めようとしている「農業・農協改革」を「農業固有の問題」とか「農協組織の問題」と狭く、他人事のように捉えて傍観することは大きな禍根を残す。

 「米百俵」の美談に淡い期待を寄せて、改革の痛みに耐えた先に、「富の格差」と「ふるさと衰退」の帰結を思い知った人なら、「誰のための改革」かという問いを立てなければならない。

 政府が農協の影響力を削いで、農業に「ビズネスチャンス」を与えようとしているのは企業参入ではないのか?
 しかし、地域に生活の場を持たず、採算に合わないとなれば、さっさと撤退するのが営利企業の原理である。 

 旧農地リース制度により農業に参入した企業の参入後の動向(撤退・継続)を調査した大仲克俊「農地リース制度による農業参入企業の経営展開と撤退」『JC総研レポ-ト』2013年夏、によると、32の企業が参入した新潟県では、そのうちの6社(18.8%)が撤退している。31の企業が参入した青森県では、そのうちの12社(38.7%)が撤退、島取県では参入した30社のうち8社(26.7%)、鹿児島県では参入した29社のうち9社(31.0%)、岩手県では参入した17社のうち5社(29.4%)が、それぞれ撤退している。
 こうして、撤退後に投げ出された荒地を誰が再興するのか?

「無知は罪」の自覚
 
 私も参加した大学教員の「TPPによる関税撤廃が農産業に及ぼす影響試算チーム」が昨年試算したところ、
  ・北海道は主要8品目の合計で50.5%の生産額、14.7%の農業所得を
         失う。
  ・富山県は米だけで富山県の全農業所得の26.3%を失い、福井県は
   25.6%を失い、石川県は19.8%を失う。
という結果を得た。
 農業、畜産業の衰退はこれら産業からの税収で成り立つ地方財政の破綻、雇用の場の消滅、学校教育や育児、医療、介護の崩壊につながる。ひいては、今でさえ、先進諸国で最低水準の食糧自給のさらなる悪化につながる。その先には、今以上に、どこで、誰が作ったかわからない食糧への依存度が一段と高まることになる。
 いまやシャッター通りと空き家は過疎地の代名詞ではなくなりつつある。地方都市にまで、急速に外延を広げつつあるのだ。

 安倍政権は「農業・農協改革」まで「成長戦略」に取り込むかの言辞を弄している。しかし、そのねらいは、地場の農産業の衰退、そこへの企業参入が辿った上記のような帰結は起こらないという見通しを何ら検証しないまま、「地方創生」なる美辞麗句で人々の期待をかき立て、政権の支持基盤を維持・底上げする点にあると思える。

 最近、私は「無関心は罪」という言葉以上に、「無知は罪」という言葉に魅かれる。国民が政治の主人公になるには、多くの国民が「無知は罪」を自覚できるかどうかにかかっていると思えてならない。

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死刑存廃の世論調査はどう設計されるべきか

2015131

今回は主体的解釈にもとづく報道も見られた
 前回(20123月)の死刑存廃の世論調査に関するメディアの報道は、内閣府が発表した主質問に対する結果をそのまま受け止め、「85.6%が死刑容認」をメインの見出しにした横並び報道だった。
 それに対し、今回は新たに「終身刑(仮釈放のない無期懲役刑)を導入した場合の死刑制度の存廃」が質問事項(注)に追加されたこともあって、メディアの報道にはバラツキが生まれた。
 (注)この質問に対する回答結果は次のとおりだった。
    死刑を廃止する方がよい (37.7%)
    死刑を廃止した方がよい (51.5%)
    わからない・一概にいえない (10.8%)

 「読売新聞」、「朝日新聞」、「毎日新聞」はそれぞれ「死刑『容認』、高水準を維持」、「死刑制度を容認80%」、「死刑制度 容認8割」という見出しを付け、主質問に対する回答結果に重きを置いた記事を掲載した(いずれも125日朝刊)。
 これに対して、NHK124日のニュースで「『終身刑導入でも死刑存続』は半数」という見出し(字幕)を付けて、「現状での死刑制度の存続は80%の人が容認する一方、仮に終身刑を導入した場合でも死刑は存続した方がよいと考える人は51%にとどまりました」と伝えた。「東京新聞」(125日朝刊)も、「死刑容認 微減80%」という小見出しを添えた上で、「終身刑導入なら『存続』は51%」という文言を主たる見出しにした記事を掲載した。
 ただし、「朝日新聞」は記事の最後の部分で終身刑を導入した場合は、「死刑容認の割合が大きく減る一方で、半数以上は「終身刑は死刑の代わりにならない」と答え、意見が割れた状況も伝えた。「毎日新聞」も「終身刑を導入した場合の死刑容認派は半数程度にまで減るとの結果も今回初めて出た」というコメントも付け加えた。

 死刑を廃止したイギリス、ドイツ、フランスで死刑廃止後の最高刑として、各国それぞれに適用緩和の条件を付けて、終身刑を採用している事実を参照すると、終身刑を導入した上での死刑廃止に関する賛否を問う意味は十分あると思われる。
 しかし、「死刑の存続か」、「最高刑として終身刑の導入による死刑の廃止か」という枠組みに収斂させて死刑存廃の世論調査なり国民的議論なりを進めるのはなお早計と思える。
 その前に、死刑存廃(特に廃止)の時間軸を明確にした世論の趨勢を見極めることが重要と思える。

死刑制度の存廃を問題にする時間軸
 政府が行った死刑存廃の世論調査の結果に関し、「当面は存続、将来、状況が変われば廃止してもよい」という回答を政府解釈のように「死刑存続」に含めるべきか、「死刑廃止」に含めるべきかの判断を難しくするのは、一連の質問の設計の仕方に問題があるためと思われる。
 というのも、冒頭の主質問で死刑の存廃に関する回答を求めた後で、「即時廃止か」、「漸進的廃止か」、あるいは「将来も存続か」、「状況が変われば、将来的には廃止してもよいか」を選ぶ質問が設けられたところからすると、「死刑制度の存廃」を問う主質問は暗黙裡に将来はともかく、「当面は存続か」、「ただちに廃止か」を問う趣旨だったと解される。そのうえで、「当面は存続」と答えた人に「将来的にはどうか」、「状況が変化した場合はどうか」を問う質問形式と受け取れるのである。
 質問の趣旨がそうなら、その趣旨が調査対象者に明瞭に伝わるよう、質問の文言を工夫する必要がある。また、質問の形式がこのように段階的なものだとしたら、「当面の存廃」を問うた主質問への回答結果が、その後のサブ・クエションと切り離して、一人歩きすることがないような広報や報道のあり方が求められる。 
 なぜなら、死刑制度について日頃から特定の強い主義・信念を持ち合わせている人は別として、死刑制度に疑問を感じている国民の間でも、「即時廃止に賛成か」と問われるとためらいを感じ、十分な国民的議論を経て(段階的に)廃止といった意見を選好する国民も少なくないと予想されるからである。

 実際、法務省が「死刑制度に関する世論調査についての検討会」第1回会議(2014828日開催)に提出した「死刑廃止国における死刑廃止に至る経緯等について」という標題の資料によると、イギリス、フランスにおける死刑廃止までの経緯は次のとおりである。

イギリス
 1957年以前 謀殺罪には死刑を絶対刑として適用
 1957年 犯情の重い謀殺犯、以前に別の謀殺で有罪判決を受けた者には死
      刑を適用し、これらに該当しない謀殺には終身刑を適用するとの
      法律を施行
 1965年 5年間の死刑停止を定めた法律が成立
 1969年 1965年制定の死刑停止法を恒久的なものとする動議が可決さ
                れ、謀殺罪が全廃される。
 1998年 反逆罪、暴力を用いた海賊行為罪の死刑および軍法犯罪の死刑廃
      止(死刑全廃)

 つまり、死刑制度をめぐる議論が立法府で議論され始めた1957年から起算すると死刑全廃まで41年を要し、その間、謀殺罪など犯罪の類型ごとに死刑の適用が段階的に停止・廃止されてきたのである。
 また、イギリスでは、その間、下院議会ではたびたび(直近では1994年死刑復活の是非を問う投票が行われたが、いずれも復活反対票が賛成票を上回った。
 死刑廃止後の最高刑は無期刑とされ、裁判所は無期刑を言い渡す場合、犯罪が極めて重大な場合は最低拘禁期間を「終身」とする(終身刑)ことも可能とされている。

フランス
 1970年代に相次いで発生した凶悪殺傷事件およびその被告に対する判決な
      どが国民の間にも死刑の存廃をめぐる議論を喚起
 1977年 この年に死刑が執行されたのをきっかけにバダンテール弁護士を
      中心とする死刑廃止派が死刑の廃止に向けた運動を強力に展開、
      数回にわたって死刑廃止法案が提出されたが、いずれも可決に至
      らなかった。
 1981年 死刑の存廃が争点の一つになった大統領選挙で死刑廃止法 案の
                提出を公約に掲げたミッテラン候補(社会党)が勝利 
 同年6月 司法大臣に就任したバダンテールは死刑廃止法案を国民議会に提
      出、可決・成立し、同年1010日から施行
 
その後、2007年までに死刑復活を規定した法律案が約30回国会に提出され
 たが、いずれも否決または採決見送り。
 2007年 死刑禁止規定を創設した憲法改正。これにより死刑復活の議論終
      結 

 
このようにイギリスでは死刑存廃の議論が始まってから死刑廃止に至るまで41年を要した。フランスでも死刑存廃の議論が起こってから死刑廃止が確定するまで37年が経過した。
 わが国でも、かりに死刑廃止の是非に関する議論を起こすとしても、立法的結論に至るまでには死刑をめぐるそもそも論や効用(犯罪抑止力)などについて、国民的な議論、国会での審議、専門家の間での国際的な刑法制度の比較研究などに長い年月を要することは間違いない。

死刑の存廃に関する世論調査の設計私案
 であれば、今の時点での死刑の存廃に関する世論調査は、死刑制度存廃をめぐる論議の長期的な展望に立って、次のように設計されるべきではないか。

 主質問 1 死刑の存廃をめぐる今後の議論の進め方について
   A. 死刑存続を基本にして議論を進めていくのがよい
   B. 死刑廃止を基本にして議論を進めていくのがよい
 
      C. わからない、一概に言えない。
 
主質問 2 死刑の存廃が定まるまでの間の制度の運用・見直しについて
   D. 現在の死刑制度に則り、対処していく
   E. 存廃の議論が定まるまで、死刑を停止する
   F. わからない、一概に言えない
 サブ質問1 (A, Bどちらを選んだかを問わず、すべての対象者に)
  今後、死刑の犯罪抑止力に関する評価が変わるなど、死刑をめぐる状況
      が変わった場合
   D. 議論の基本的方向性を見直す
   E. 議論の基本的方向性を見直す必要はない
     F. わからない、一概に言えない
 サブ質問2 (Aを選んだ回答者に対して) 
 
終身刑を導入した場合の死刑制度の存廃について
   G. 死刑を存続させる
   H. 死刑を廃止する
   I.  わからない、一概に言えない

 上川法務大臣は、さる127日の記者会見で内閣府が実施した死刑制度に関する今回の世論調査の結果について、死刑について「肯定的な結果が示された」、「慎重かつ厳正に対処していく」と述べつつ、死刑制度を維持し、刑を執行していく考えを示した(「朝日新聞」2015128日)
 現職の法務大臣として現行制度に則って死刑を施行していくのは当然と言えば当然であるが、刑の執行については大臣の判断が介在してきたことは周知のところである。そして、その判断にあたって、死刑をめぐる国内世論(冤罪の確定、それが死刑制度や死刑執行に及ぼす世論の動向なども含む)や死刑制度をめぐる国際的な議論の動向が斟酌されるのも当然だろう。
 その意味で、内閣府が行う(質問形式は法務省が作成)世論調査の回答結果は慎重に解釈される必要があると同時に、質問形式の適否にまで及ぶ十分な検討が必要である。


 

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今回もおかしい死刑存廃の世論調査

2015131

前回の調査(質問形式)について感じた疑問
 昨日、内閣府大臣官房政府広報室は「基本法制度に関する世論調査」の一環として昨年11月に行った「死刑制度に対する意識調査」の結果の概要を公表した。
 「基本法制度に関する世論調査 2. 死刑制度に対する意識」
 
「調査結果の概要」(2015126日 内閣府大臣官房政府広報室)
   http://survey.gov-online.go.jp/h26/h26-houseido/2-2.html

 これに先立ち、NHK124日夜のニュースで、新聞各紙は125日の朝刊で、「死刑制度を容認80%」(朝日新聞)、「死刑『容認』80%、高水準を維持」などの見出しで調査結果の要旨を伝えた。

 こうした死刑制度の存廃に関する政府の世論調査は1956年以降これまでに9回実施されているが、私がこれに関心を持ったのは、2012329日、3人の死刑囚に対する死刑が執行されたことを伝えた同夜のニュース番組で2009年に内閣府が行った死刑制度の存廃に関する世論調査の概要が紹介されたのを視たのがきっかけだった。
 その折、私は、NHKのニュース番組の画面に、「どんな場合でも死刑は廃止すべきである」が5.7%だったのに対して、「死刑を容認する国民は約85%」という字幕が出、そのすぐ後で、この約85%という数字は「場合によっては死刑もやむを得ない」という問いに対する肯定の回答だったことを示す字幕が出たのを視て驚いた。「場合によっては」という条件がついた死刑肯定を「死刑容認」と括ってしまってよいのか、「場合によっては」という条件を、なぜ「死刑存続」の方にだけ付けて、死刑廃止の方には付けないのか(「場合によっては死刑もやむを得ない」という選択肢を設けるなら、それと対称的に、「場合によっては死刑を廃止してもよい」という選択肢を設けるべきではないか)という疑問がよぎったからである。

 そこで、改めて内閣府政府広報室が公表したこの世論調査の結果の概要を見ると、「場合によっては死刑もやむを得ない」に肯定の回答をした人に対して次のような追加質問がされ、その回答結果が掲記さていることが分かった。

  d. 将来も死刑を廃止しない。(60.8%)
  e. 状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい。(34.2%)
  f. わからない。(5%

 となると、世論調査の結果は次のように集約するのが的確ではないか、というのが私の感想だった。

  *将来とも死刑を存続させせるべきである。(52.6%)
   (注)0.856×0.6080.526
  *現在はやむを得ないが、将来、状況が変われば廃止してもよい。
         (29.3%)
   (注)0.856×0.342=0.293

  *どんな場合でも廃止すべきである。(5.7%)    
  *わからない、一概にいえない。(8.7%)
   (注)10.8560.0570.087

 このような資料分析とそれをもとに、その日のうちにこのブログに論評記事をアップした。
 「死刑制度に関する内閣府の誤導的世論調査、それを受け売りしたメディ
   ア
の報道」(2012330日)
 
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-34ef.html

 また、翌41日にはNHKニュース番組制作担当へ次のような意見を送った。
 「死刑支持は85.6%ではなく、52.6%と伝えるべき~NHKに意見を提出
     ~」
201241日)
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/856526nhk-88b7.html
 

 このような経緯があったので、今回の世論調査について正式の公表前に報道された「死刑容認80%」という調査結果の詳細ならびに質問形式の変化の有無に強い関心を持った。

今回の質問正式と回答結果は
 今回の質問正式と回答結果の詳細は前記の内閣府政府広報室の発表記事で示されている。その要点を再掲すると次のとおりである。(アルファベットは醍醐が追加)

 1. 死刑制度の存廃(該当者総数1,826人) 
   a. 死刑は廃止すべきである(9.7%)
   b. 死刑もやむを得ない(80.3%)
   c. わからない・一概に言えない(9.9%)
 2. 即時死刑廃止か、いずれ死刑廃止か
  (1で「死刑は廃止すべきである」と答えた者に)
   d. すぐに、全面的に廃止する(43.3%)
   e. だんだん死刑を減らしていき、いずれ全面的に廃止する(54.5%)
   f. わからない(2.2%)
 3. 将来も死刑存置か
  (1で死刑制度について「死刑もやむを得ない」と答えた者に)
   j. 将来も死刑を廃止しない(57.5%)
   k. 状況が変われば、将来的には死刑を廃止してもよい(40.5%)
   l . わからない(2.0%)
 4. 終身刑を導入した場合の私刑制度の存廃
  (注:すべての調査対象者に対して)
   m. 死刑を廃止する方がよい(37.7%)
   n . 死刑を廃止しない方がよい(51.5%)
   o . わからない・一概に言えない(10.8%)

誘導的な文言は消えたかに見えるが
 ここから、「死刑容認80%」という報道の見出しは質問1に対してbを選択した人が80.3%だったことを捉えたものだったことがわかる。ただし、前回2009(平成21)年の調査と比べ、「死刑容認」が5.3ポイント減少し、「死刑廃止」が4ポイント増えている。
 ここで注意したいのは、質問1(しばしば「主質問」と呼ばれる)の死刑容認の選択肢から「場合によっては」という文言が削除されていることである。これは日弁連の意見書や国会での質疑で、死刑廃止の選択肢には「どんな場合でも」という強い意思を想定した文言が付けられていたのに対し、死刑容認の選択肢には「場合によっては」という緩やかな意思を想定した文言が付けられ、死刑容認への回答を誘導しがちな形式になっているとの指摘を受けた見直しと言われている。
(注)日本弁護士連合会が20131122日に発表した「死刑制度に関する
 
   政府の世論調査に対する意見書」の全文は次のとおり。
         http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2013/opi nion_131122_4.pdf
  
 こうした見直しによって、「死刑容認」と「死刑廃止」の選択肢の表現の非対称性が幾分緩和されたことは確かだ。しかし、対称的な質問形式というなら、冒頭の質問を「死刑は廃止すべきである」、「死刑は存続させるべきである」とするのがすっきりした文言であり、「死刑廃止」の選択肢の方は「べきである」という強い意思を想定し、「死刑存続」の選択肢の方は 「やむを得ない」という柔軟な意思を想定させる文言を使ったのは見直しの不徹底を物語っている。とりわけ、婉曲で温和な意思や考えに支持が集まりやすい日本人の気質を前提にすると、質問1の文言にはなお見直しの余地があると考えられる。

条件次第で「死刑廃止」に転じる意見も「死刑容認」と括ってよいのか
 しかし、今回の世論調査にはもっと大きな問題がある。「死刑もやむを得ない」という選択肢を設けることによって、条件次第で「死刑廃止」に転じる意見まで「死刑容認」と括ってよいのかというのがそれである。 
 今回の世論調査でも質問1(主質問)に続くサブ・クエッションの一つとして、「死刑は廃止すべきである」と答えた人に対して、「即時死刑廃止か、いずれ廃止か」という質問が設けたれた。回答結果は先に再掲したように、即時廃止か漸進的かで意見が分かれているが、「死刑廃止」の考えはこのサブ・クエッションへの回答でも揺らいでいない。では、「死刑存続」の方はどうか?
 サブ・クエッションとして設けられた「将来も死刑存置か」という問いには、「死刑存続」論者のうちの40.5%が「状況が変われば、将来的には死刑を廃止してもよい」を選び、「将来も死刑を廃止しない」を選んだ人は57.5%にとどまっている。

集計結果の組み替え~世論をより的確に表すために~
 とすれば、死刑制度の存廃をめぐる世論は次のようにまとめるのが実態にもっとも忠実な集計になると考えられる。

  ①将来とも死刑を存続させる(46.2%)
    (注)0.803×0.5750.462 
  ②当面は存続、将来、状況が変われば廃止してもよい(32.5%)
 
  (注)0.803×0.4050.325
  ③当面は存続、その先どうすべきかはわからない(1.6%)
 
  (注)0.803×0.0200.016
  ④だんだん死刑を減らしていき、いずれ全面的に廃止する(5.3%)
    (注)0.097×0.5450.053
  ⑤すぐに全面的に廃止する(4.2%)
 
  (注)0.097×0.4330.042 
  ⑥廃止すべきだが、すぐにか、段階的にか、はわからない(0.2%) 
 
  (注)0.097×0.0220.002 
  ⑦(存廃の是非は)わからない・一概に言えない(9.9%)

 ここで、死刑の存廃に関する世論を二者択一的に分類しようとすると、②③の扱い方が問題になる。これらを存続に加えれば、死刑制度を支持する回答は一部の新聞報道の見出しに付けられたように80.3%となり、圧倒的国民が死刑の存続を支持しているという解釈になる。
 他方、③はともかく②を「死刑廃止を支持する回答」とみなすと、死刑存続は46.2%、死刑廃止は42.2%(=32.55.34.20.2)となり、存廃の意見分布は接近する。

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JAL客室乗務員解雇撤回裁判:「管財人が右と言ったら左と言わない」裁判官でよいのか(下)

201465 

財務面から見て解雇の必要性はまったくなかった~筆者の立証~
 私は本件裁判で東京高裁に財務の面から見て本件整理解雇の必要性を反証する意見書を提出した。その中で、一審判決が解雇の必要性を認める拠り所にした「二次破綻回避論」を反証した箇所を抜粋しておきたい。

 「(JAL乗員と客室乗務員裁判の)ふたつの判決は、更生計画策定時の日本航空が直面していた財政状況を不動の前提にし、その後の日本航空の財政状況の変化を顧みることなく、『破綻的清算を回避するため』、あるいは『二度と沈むことがない船にするため』には整理解雇を実行する必要性があったと判断した点で共通している。また、そうした判断を導く過程で、「事業規模の縮小に見合った人員の縮小」というフレーズを多用し、人員削減を人件費削減の手段としてではなく、それ自体が更生計画の目的であったかのようにみなすことによって、更生計画の実行に伴って日本航空の財政状況が好転したからと言って、整理解雇の必要性はいささかも変化しないとみなす点でも、ふたつの判決は軌を一にしている。」

 「(このような)「危機回避型」整理解雇の必要性を判断するには、整理解雇当時の日本航空が、なお二次破綻の危険から脱していなかったとみる状況判断が妥当だったのかどうかが問われる。通常、企業の破綻は当座の資金繰りの行き詰まりが契機になることが多い。そのため、短期的な債務弁済能力が重視され、それを測る財務指標として伝統的に用いられてきた代表的な指標は「当座比率」(=当座資産÷流動負債)と流動比率(=流動資産÷流動負債)である。

 このうち、流動比率は短期間のうちに(金銭債務であれば1年以内に)決済期限が到来する流動負債に対する流動資産(現金預金のほか、短期間に換金できる金銭債権、製品・商品等)の倍数を表し、この比率が大きいほど短期的な支払い能力が安定していることを示す。一律に下限値があるわけではないが、19901月から20071月の間に倒産した138社をサンプルにしてデフォルト・リスクの予見にどのような財務比率が有効かを検証した桜井・村宮の研究によると、流動比率は100%が安全性の一応の判定値でこれを下回ると倒産に至る懸念が生じると指摘している(桜井久勝・村宮克彦「倒産企業の財務比率の時系列特性」『国民経済雑誌』1966号、200712月、15ページ)。

 また、当座比率は、流動負債に対して短期的な決済手段に充て得る当座資産(現金預金、営業未収入金、受取手形、流動性の高い有価証券)をどの程度保有しているかを表すものである。これもどの程度なら安全かを一律にいえるわけではないが、この比率が1を超えていれば、会社が支払い不能に陥る危険性はなく、事業の存続に関して懸念すべき点はないことになる。上記桜井・村宮の実証論文は当座比率については50%が一応の判定値で、これを下回ると倒産に至る懸念が生じると指摘している。

 そこで、会社更生手続中の期間を挟む時期の日本航空の流動比率と当座比率の推移を全日空と対比すると次のとおりである。

 これを見ると、2008年度末から200912月当時の日本航空は流動比率が100%を下回り、当座比率も50%を下回る水準で、債務決済のための資金繰りが逼迫していた状況が窺える。しかし、整理解雇の時点に近接する2010年度末には当座比率は100%を超え、流動比率は150%を超える水準まで復調して、全日空を大きく上回る状況になっている。

 

1 日本航空と全日空の流動比率の推移(連結ベース:%) 

        2007年度末 08年度末 09.12.31 10年度末 11年度末

JAL       100            75     61    161      157
ANA       86               89           104         105          119

(出所)両社の有価証券報告書、決算短信より算定

 

2 日本航空と全日空の当座比率の推移(連結ベース:%)
       2007年度末 08年度末 09.12.31 10年度末 11年度末
JAL        92               53 44    135          130
ANA     55         46            73        68         87
   
   
(出所)表1と同じ
 

 次に、損益計算項目から会社の財務的安定性を測る指標としてしばしば用いられるのが「インタレスト・カバレッジ・レシオ」(=(営業利益+受取利息・配当金)÷(支払利息・割引料))である。計算式から明らかなように、借入や増資等に頼らず、年々の営業利益と金融収益で年々の金融費用を支払い続けることができているかどうかを測る指標であり、これが1を超えていれば、事業を継続できる財務的安定性が備わっているとされている。

 この比率の推移を全日空と対比すると表3のとおりで、日本航空は2010年度には27.9と、全日空(3.65)の8倍近い値になっている。つまり、向こう28年分の利払いに必要なキャッシュをこの年度の営業活動から生み出したことになるのである。日本航空のインタレスト・カバレッジ・レシオがこれほど好転した主な理由は、会社更生の過程での債務整理を通じて有利子負債が9,210億円(200912月末時点)から4,818億円(20113月末時点)へと激減したことにある。

 
3 日本航空と全日空のインタレスト・カバレッジ・レシオの推移(連結ベース)
    2007年度    08年度 09年度    10年度 11年度
 JAL         4.87     (—)    *      27.9      18.9
 ANA        5.93          0.71      
(—)     3.65        5.08
   
(出所)表1と同じ。」

 「次に、中長期的な財務の安定性を評価する代表的な指標とされてきたのは、有利子負債償還年数と自己資本比率である。このうち、自己資本比率については、ここまでの行論で触れてきたので、ここでは有利子負債償還年数を取り挙げておきたい。

 ここでいう「有利子負債償還年数」とは有利子負債残高を営業活動によるキャッシュ・フローで除した数値のことで、現在の有利子負債を現在のプラスの営業収支尻で返済するのに要する年数を表す。当然ながら、この値が小さいほど短期のうちに有利子負債を完済できることを意味し、それだけ会社の中長期的な財務の安定性が高いことになる。

 そこで、日本航空と全日空の有利子負債償還年数の推移を調べると表6のとおりである。これを見ると、経営破綻直前期の日本航空の償還年数は28.8年と際立って高い水準だったが、整理解雇時点に近接した2010年度末の時点では5.6年と大幅に短縮され、全日空とほぼ同水準になっている。

 ちなみに、企業再生支援機構が2010119日に作成した「日本航空に対する支援決定について」と題する文書で、支援適合基準の一つとして有利子負債のキャッシュ・フロー倍率を挙げ、日本航空ではこれが3年後には2.2倍になり、機構が定めた10年以内という基準を満たすため、支援の基準を充足する、と記している。実際は約12ヶ月後の2010年度末で5.6倍、22ヶ月後の2011年度末時点で0.8倍となっている。この点からも、さらに自己資本比率が更生計画の目標値を超えるテンポで改善していた事実を併せて考慮しても、整理解雇当時の日本航空に、予防的解雇を実施しなければならないような経営破綻の予兆は全くなかったといえる。むしろ、この時点では、再上場の要件をほぼ満たすまでに財務状況は改善しつつあったといえる。

  
6 日本航空と全日空の有利子負債償還年数の推移(連結ベース)
          2007年度末   08年度末  09.12.31     10年度末   11年度末
JAL          6.2     28.8         (注1)      (注3)    0.8
ANA 4.6            
(注1)      (注2)          4.6           4.4
  (出所)表1と同じ
  (注1)は営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスのため、計算せず。
  (注2)は営業期間が9ヶ月、(注3)は営業期間が4ヶ月のため、他の年度との
    時系列の比較ができないので、計算せず。」

  営業費用の0.13%にすぎない人件費がJAL再生を左右するとみなす常軌を逸した判決
 結局、今回の東京高裁判決は、本件整理解雇の必要性はなかったとする被控訴人や筆者の意見書の立証事実について認否をせず、更生計画に書かれたこと、管財人が必要と判断したことには合理性があるという論法に尽きる。これでは、更生手続き下の解雇の不当性を求める労働者の訴えの利益は中身の審理以前に実質的に排除されているに等しい。これでは司法の独立も存在意味もないに等しい。
 判決は次のように述べている。
 
 「本件解雇について、被控訴人に巨額の債務超過と累積赤字があって高度の経営上の困難に陥っており、被控訴人が企業の事業を維持するためには、本件解雇に係る人員の削減が必要であって、被控訴人の合理的な運営上やむを得ないものと認められるのであるから、この観点から検討しても、その人員削減の必要性が認められるものと言うべきである。」

 本当にそうか?
 筆者は本件控訴審につき、東京高裁に提出した意見書の中で次のように立証・主張した。
 
 「乗員81名、客室乗務員84名を整理解雇することによって削減される人件費は約14.7億円だった。

  原告請求金額合計÷原告人数×1.3(法定福利)×0.7(新人事賃金制度による3割カット)=14.7億円

 この金額は、2009年度のJALグル-プの営業費用合計額の0.09%、2010年度の営業費用合計額の0.125%に過ぎない(乗員訴訟甲170/客乗訴訟甲1762ページ)。

 かりに会社が指摘するように、整理解雇による人件費削減の通年効果額を20億円と想定しても、それぞれの割合は0.123%、0.170%に過ぎない。

 つまり、整理解雇による費用削減効果を解雇時点の日本航空の財政状況に照らして見ると、営業費用合計額の0.1%台にすぎなかったのである。にもかかわらず、一審判決は、更生計画の実行がまだ緒についていない計画策定の時点の日本航空の財政状況を前提にして、人員削減による費用削減の必要性を――その時点でさえ人員削減の費用削減効果はデータに基づいて検証されていなかったのだが――云々したため、営業費用合計の0.10.2%を削減する程度の効果しかない整理解雇を実施しなければ、日本航空は、破綻的清算を免れなかったとか、再び沈む船になる恐れがあったとかのようにみなす常軌を失した判断に陥らざるを得なかったのである。

 本件整理解雇が事業再生に果たす財務的効果がこれほど僅少であった事実に鑑みると、かりに会社が主張し、一審判決が追認したような余剰人員が整理解雇の時点で存在したとしても、「余剰人員の削減を解雇によって達成しようとしている経営上の目的が余りにもささいであるときは解雇という手段によって従業員を失職させるという結果を生じさせることとの均衡を失しているといわざるを得ず、そのような場合に余剰人員の削減について経営上の必要性が企業経営上の観点から合理性を有するということはできないのであって、解雇権の行使は濫用に当たると言わざるを得ない」(ナショナル・ウェストミンスター銀行解雇事件東京地判平成11129日、労働判例78235ページ以下。下線は筆者が追加)という判断がそっくり当てはまる。」

 本件控訴審を担当した大竹裁判長他、裁判官は筆者のこのような立証・主張をどのように受け止めたのだろうか? 整理解雇当時の日本航空の営業費用合計の0.10.2%にすぎなかった整理解雇者の合計人件費を削減しなければ、日本航空の事業を維持できなかったなどとなぜ言えるのか―――この問いに答えず、本件解雇はやむを得ないものだったなどと結論づけるのは常軌を逸した暴論である。

 整理解雇当時のJALに更生計画が掲げた人員削減目標に未達の状況があったかどうかの争点については、この記事の(上)で論じた。その争点は別としても、「人員の削減を解雇によって達成しようとしている経営上の目的が余りにもささいであるときは解雇という手段によって従業員を失職させるという結果を生じさせることとの均衡を失しているといわざるを得ず、そのような場合に余剰人員の削減について経営上の必要性が企業経営上の観点から合理性を有するということはできないのであって、解雇権の行使は濫用に当たると言わざるを得ない」というナショナル・ウェストミンスター銀行解雇事件(東京地判平成11129日)の判決が本件JAL整理解雇の必要性を判断する上で貴重な先例になると私は考えており、このような指針を採用すれば客室乗務員解雇撤回訴訟も、今日行われる乗員解雇撤回訴訟も、解雇無効の判決以外、あり得ないのである。(完)

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JAL客室乗務員解雇撤回裁判:「管財人が右と言ったら左と言わない裁判官」でよいのか(中)

201465      

融資行の関心を恣意的に曲解し、忖度した異常なまでに不公正な判決        

  今回の東京高裁判決のもう一つの特徴は、日本航空が主要行から新たな融資(リファイナス)を確実に受けるためには、「主要行に対し・・・人員圧縮策が確実に遂行されるという認識を与える」(判決文p.62。以下、数字はすべて判決文の該当ページ)必要があったという想定をもとに、整理解雇の必要性を金融機関との約束の履行という面から認めたという点である。判決文の中のこれに関係する箇所を引用しておきたい。(下線はすべて引用にあたって筆者が追加したもの)。

 「主要行は、本件更生計画に基づく人員削減計画の達成に特に強い関心をもっており、上記の条項に基づき、『人員圧縮』策の目途がつかない限り、利率、担保、返済期限等のリファイナスの条件に関する協議の前提が整っていないと主張して、これらの協議が進まない状況にあり、管財人は、毎月の主要行とのバンクミーティングにおいても、人員削減の進捗状況の報告を求められた。」(p.51

 「本件更生計画案が可決されるためには、投票期限である同月19日までに更生債権者らから法定の賛成票を得ることを要したが、その1週間前の同月12日の時点においても、法定多数の賛成票は得られていなかったこと、主要行は、本件更生計画によって、一般更生債権の多額の免除を余儀なくされることもあって、本件更生計画の基礎である本件新事業再生計画の完遂可能性を慎重に見極めており、本件更生計画案における人員削減計画について・・・・特に多大な関心を示していた・・・・」(p.64

 「・・・・以上の経緯及び上記証拠を総合すれば、本件更生計画案に対して、債権者らから法定多数を得るためには、上記の時期に上記方針の決定を公表して、管財人が確実に人員削減施策を実行して削減目標値を達成する決意であることを対外的に表明する必要があるとした管財人の経営判断には合理性があるものと認められる。
 したがって、管財人が平成221112日の時点において希望退職者が目標値に達しない場合には整理解雇も辞さないとの基本方針を決定して、同月15日にこれを正式に発表したことについても、更生会社である被控訴人を存続させ、これを合理的に運営する上でやむを得ないものと認められる。」(p.64

 以上の判決文の中で注意が必要なのは、主要行が「人員削減」ないしは「人員圧縮計画」の達成に強い関心を持っていた、というくだりである。しかし、こうした指摘の原典といえる、更生会社日本航空と企業再生支援機構が2010(平成22)年1130日に主要5行と締結した「基本合意書」第7条を確かめると、リファイナンスの協議の前提条件として設けられた(3)項で、「本件リファイナンスに係る最終契約締結までの間に、更生計画に記載されている対象事業者における諸施策(人員圧縮等、実施中のコスト削減策)及び更生計画策定後に具体化された生産性向上や購買改革等による持続的なコスト削減策等の実現に重大な支障が生じていないこと」を挙げ、同(4)項では、「本件リファイナンスに係る最終契約締結までの間に、対象事業者の損益・財政状況の悪化により、対象事業者の更生計画の実現に重大な支障が生じていないこと」を挙げている。

 ここからもわかるように、人員削減はそれ自体(削減数の追求)が目的ではなく、コスト削減策の一部としての人件費削減の手段として位置づけられていたことは明らかである。

 これは更生会社に対する金融支援行の有するもともとの利害関心に照らしても至極当然のことである。なぜなら、支援行にとっての関心事は債権なり出資の確実な回収が唯一の関心事であり、この目的を実現する観点から、更生会社の財務の再建に寄与するコスト削減に関心を寄せるのであり、人員削減はコスト削減の一部である人件費の削減の手段であって、それ自体に支援行が関心を寄せるいわれはないのである。 
 かりに、支援行が融資なり出資なりの回収可能性を超えて、支援先の会社の人員削減に介入するとすれば、それは自らの利害が及ぶ範囲を超えた不当な干渉でありあり、整理解雇の必要性を判断するにあたって法的評価に値しないし、支援行の法益を超えたそのような関心を解雇必要性の根拠にするのは不当不公正な司法判断である
 ちなみに、コスト削減策の手段として人員削減をとらえると、更生計画で定められた更生会社日本航空は2010年度決算で計画値を260億円も超過する人件費削減を達成していた。この点から見て、人件費削減の手段としての人員削減を行う必要性はなかったのである。

 
矛盾と混迷を免れない人員削減自己目的論

こうした解釈を裏付ける資料を示しておきたい。それは、管財人代理・服部明人、同加藤慎、企業再生支援機構ディレクター・飯塚孝徳、企業再生支援機構マネジャー・オリバー・ボルツアーの連名で運航乗務員に宛てて作成された「現在の状況について」と題する文書の中の一節である。冒頭のまえがきから見て、この文書は会社が整理解雇を検討せざるをえない状況を運航乗務員に説明するために作成されたものと思われる。この文書は「現下の収支状況が計画を上回っているので人員削減は不要、と言えるか?」という問いを設け、これに対する答えを次のように記している(下線は筆者の追加)。

「・更生計画案にある利益目標の達成は最低条件に過ぎない。

 ・債権者や支援機構が注目しているのは、当社が今後も中長期的に継続して利益が出せる生産体制になったかどうかである。

 ・事業規模に見合った人員規模とすることは、安定的に利益を上げる体制を構築するために必要不可欠の措置である

 ・再上場も視野に入れているが、投資家に優良な企業と認めてもらうためには、経営も社員も一丸となって少しでも計画値を上回り、累積損失を減らしていかなければならない。」

 

 こうした想定問答に続けて、この文書は債権放棄を求められている金融機関が日本航空のどこを注目しているかという視点から上記の説明を次のように解説している。

 

 「膨大な債権放棄を求められている債権者や、巨額の出資を予定している支援機構が注目しているのは、当社が今後も中長期的に継続して利益が出せる生産体制になったかどうかであり、更生計画案に記載された事業規模に合わせた人員削減は、そのための重要な要素となっています。」

 

 こうした説明は、管財人代理や企業再生支援機構の関係者が本件人員削減を、日本航空を安定的に利益を出せる生産体制にするための手段の一つと捉えていたことを裏付ける明白な証拠である。したがって、こうした管財人代理らの説明は、本件裁判で日本航空が繰り返した、人員削減は人件費削減のいかんとは独立した、それ自体を達成すべき目的だった、という主張の信憑性を根底から覆すものといってよい。」

 反証を無視して二次破綻回避論に固執

 東京高裁の判決の3つ目の特徴は、筆者が意見書で、原告団が準備書面で立証した二次破綻回避論を一切無視して、牽強付会に解雇必要性を正当化している点である。
 判決は本件整理解雇の必要性を論じた中で次のように述べている。

 「また、(控訴人らは)本件解雇の時点で、本件更生計画を上回る営業利益が確保され、自己資本比率も増大しているなど、事業を継続する上で財務安定性に何らの支障もなく、二次破綻の危険性を示す事実もなかったから、人員削減の必要性がない旨を主張し、本件解雇の当時、被控訴人の経営が財務的に安定しており、二次破綻の危険がなかったなどとする意見書(甲456113)の記載も存在する。
 しかし、本件解雇による人員削減の実行は、被控訴人の事業を維持更生するという会社更生法の目的にかんがみ、更生会社である被控訴人の本件更生計画の基礎をなす本件新事業再生計画に照らして、その内容及び時期において、合理性のあることが認められ、更生会社である被控訴人を存続させ、これを合理的に運営する上でやむを得ないものとして、その人員削減の必要性が認められ、また、本件会社更生手続に基づき被控訴人の事業の維持更生を図るために不可欠なリファイナス契約を適時に締結して融資を得るためにも、管財人が上記の時期において本件解雇に係る人員削減を実行する必要性があるものと認められる点からしても、更生会社である被控訴人を存続させ、これを合理的に運営する上でやむを得ないものとして、その人員削減の必要性が認められるものであることは、前記1判示のとおりである。」(pp.8182

 私が一読して思うのは、「しかし」以下の判決文は、「しかし」の前の私の意見書他が示した立証・主張を退けるに足る論理的文章になっているのかということである。私が在職中、自分のゼミ生の卒業論文の草稿にこのような論旨不明の駄文があったら、書き直しを求めたのは確実である。
 結局、この判決文が言いたいことを縮めて言うと、
 1.裁判所で認可された更生計画で更生会社と破産管財人が記したことに裁判所は異議を差し挟まない
 2.管財人が必要とみなした人員削減(注:整理解雇という方法に特定されたわけではない)には合理性が認められる
ということに尽きる。

 しかし、こうした判断は、大竹たかし裁判長が法廷で読み上げた「判断の枠組み」の冒頭の事項――すなわち、会社更生手続き下の整理解雇にも解雇の4要件は適用される―――という前提と相容れない。なぜなら、更生手続き下の整理解雇にも解雇の4要件(解雇に高度な必要性があるか、解雇回避措置が十分に講じられたか、解雇対象者の人選基準は適正だったか、解雇に至るまで労使協議は尽くされたか)が適用されるというなら、解雇の必要性は更生計画に明記されていることを以て満たされているなどといって、裁判所の実質的判断を事実上停止することはあり得ないからである。

          うでまくらでうたたねするウメ
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JAL客室乗務員解雇撤回裁判: 「管財人が右と言ったら左と言わない」裁判官でよいのか(上)

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判決を前に

 昨日は整理解雇撤回を求めるJAL客室乗務員の控訴審判決日だった。1320分ころ、東京高裁に到着すると詰めかけた支援団体の旗がなびき、開廷前の宣伝行動が始まろうとしていた。
 初夏の陽ざしがそそぐ高裁前、客乗原告団の表情は明るく、ともに裁判を進めてきたパイロット原告団が勢ぞろいする中、トランペットの演奏で宣伝行動が始まった。急きょ、私も宣伝カーに上がってひとことスピーチをと頼まれ、「利益あってのJAL再生という稲盛路線ではなく、空の安全と働く者の尊厳を携えるJAL再生のために勝訴を願い、判決を見守りたい」と訴えた。
 1420分頃から始まった傍聴券の抽選には定員40名に対し約380名が並んだ。あいにく私は外れたが原告団の計らいで101号法廷に入ることができた。
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 控訴棄却を告げ、そそくさと席を立った裁判官
 予定どおり、15時開廷。2分間のカメラ取りの後、東京高裁第5民事部の大竹たかし裁判長は、「本件控訴はいずれも棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする」という判決主文を読み上げた。その後、「控訴代理人(弁護団)から判決の要旨を読み上げてほしいという要望があったので」と断って、会社更生手続き下の整理解雇であっても解雇の正当性を判断するための4要件は適用される、会社の存続のために不可欠な融資を得るために必要不可欠な解雇であったかどうかなど、「判断の枠組み」を読み上げた後、「要旨を読み上げると長くなるので、のちほど渡す判決全文を読んでほしい」と言い終わるや立ち上がって後方のドアを開き、そそくさと退室した。
 法廷は一緒、静まりかえったが、思い直したかのように傍聴席からは、裁判官の背中に向かって抗議の声が飛んだ。この間、わずか5分足らずの出来事だった。

 350人が詰めかけた報告集会
 閉廷後、高裁前でしばらく抗議の宣伝行動。その後、虎の門スクエアに移動して判決報告集会が行われた。私が着いた時にはもう満席。通路に座り込む人もいた。弁護団が判決文を手に入れ、検討した後、記者会見を行った。それを待つ間、報告集会では傍聴者の感想が紹介された。
 待つこと約30分、記者会見を終えた原告代表と弁護士が会場に着き、弁護団から判決要旨の説明がされた。それによると、今日の東京高裁判決は東京地裁の1審判決よりさらに悪質、更生計画絶対論、管財人善玉論とのこと。
 弁護団の説明を参考にして、私も発言させてもらった。また、集会の途中で近くに着席しておられた弁護士から判決全文のコピーをもらったので、それを素読してもう一度、私が東京高裁に提出した意見書に関わる判決の箇所についてコメントをした上で、「今日の判決は『管財人が右と言ったら裁判官は左と言わない』と宣言したに等しい」と発言した。

集会の最後に客室乗務員原告団長・内田妙子さんのあいさつと決意表明があった。「このままでは引き下がれない、記者会見の場で最高裁へ上告すると表明した」とのこと。「これ以上、何を立証せよというのか」という内田さんの怒りを押し殺した言葉には、私も胸を締め付けられる思いがした。

 84名の解雇の傍らで稼働時間引き上げ、1年余後に650名を中途採用とは

帰宅して判決全文を精読すると、1審地裁判決との対比で高裁判決には次のような特徴があることがわかった。それは裁判の大きな争点の一つになっていた、「整理解雇当時、会社更生計画で定められた人員数4120名に達していたのかどうか」をめぐる立証の問題である。
 控訴人は独自の調査に基づき、整理解雇当時、4120名の目標数を下回る4042名になっていたから、本件解雇は更生計画に照らしても必要ないものだったと主張した。その根拠は、整理解雇が通告された2010年大みそかの翌年20111月~3月に一般退職等で218名だけ在籍者数が減少することを会社は知っていたはずだというもの。また、更生計画上の人員削減目標の到達期限だった20113月末時点で目標の達成状況を把握したなら、解雇をしなくても一般退職(自然減)で目標が達成された事実は歴然としたはずだからである。
 しかも、JAL84名の客室乗務員を整理解雇する一方で、翌2011年後からは1人当たりの稼働時間を約5時間増やすことで人手不足を乗り切ろうとした。2012年度にはさらに5時間、稼働時間を引き上げたが、それでも人手不足は足りず、解雇からわずか1年余りで650名もの中途採用を行ったのである(以上、2013912日、原告小栗純子さんの証言より)。
 こうした事実を直視すれば、84名の整理解雇が必要のないものであったこと、その1年余後に解雇者数の8倍もの中途採用を実施しながら、解雇者の復帰は一切、顧みられなかったところに、本件解雇の異常性、不条理を物語ると同時に、人員削減外の意図―――会社が辞めさせたい乗務員を会社更生に乗じて排除する意図―――があったことを窺わせるのである。

 
立証責任の主従を逆立ちさせた高裁判決
 ところが高裁判決は上記のような原告(控訴人)の立証から目をそらし、4042名と4120名の人員数の比較に多大の疑問があるという説明に多くの紙面を割いた。たとえば、原告が試算の途中で用いた平成23331日時点の人員計画数5,557名には管理職発令者数が含まれているのに対して、同年11日時点の在籍者数からは管理職発令者数が除かれているなどと指摘し、原告の試算の正確性に疑問を投げることに注力している。

 それなら、裁判官は、
 1.客室乗務員について、希望退職以外の一般退職者が何人であったか、その人数を差し引いたら整理解雇通告当時、客室乗務員の在籍者はいくらになっていたのかについて、正確な人数を知る立場にある会社になぜ質さないのか? 
 2. 整理解雇直後から在籍人員の稼働時間が引き上げられた(事実上の人手不足状態だった)という原告の主張についてなぜ事実の認否をしないのか?
 在籍人員数といい、各種事由による退職者数といい、それを正確に把握している(情報優位者)のは言うまでもなく会社である。この会社に対する立証責任を不問にして、情報劣位者の客室乗務員(原告)に過剰な立証責任を負わせる判決は不公正、不条理この上ないものである。

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著作権強化で「青空文庫」がピンチに~私たちの身辺に及ぶTPP交渉の行方

2013713
著作権強化で「青空文庫」がピンチに
 ~私たちの身辺に及ぶTPP交渉の行方~
 
 以下は、2013712日付の「全国農業新聞」の<農声>欄に掲載された筆者の小論である。同紙の編集部の了解を得たので、このブログに転載する。

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           売国条約から即時撤退を               
                        醍醐 聰

  この7月末マレーシアで開かれるTPP参加国協議に日本も加わることになった。その参加国協議で議論の焦点になっているのは知的財産権の分野だと言われている。こういうと多くの国民には他人事のように聞こえるが、実は私たちの身辺にも及ぶ問題が潜んでいる。その一つはインターネットの電子図書館「青空文庫」である。ご存じの方も多いと思うが、50年の著作権保護期間が過ぎた名作の原文をボランティアが入力し、インターネット上の電子図書館に載せて多くの国民が無料で閲覧できるようにしている市民版文庫である。今年の1月1日には50年が経過した柳田国男や吉川英治、室生犀星など著名な作家の作品を一斉に公開した。
 ところが、アメリカはTPP協議の場で著作権の強化を唱え、保護期間を自国の国内法にあわせて70年とするよう主張している。かりに、この要求が通ると青空文庫による名作の公開は20年遅れることになる。同様に、全国各地の公共図書館などが取り組んでいる名作上映会や名作鑑賞会でも上映できるまでさらに20年待たなければならない作品が続出することになる。
 さらに、医薬品の特許の分野でアメリカは先発薬への投資を保護するためとして、現状の薬価を高止まりさせる新薬創出等加算制度(現在試行中)を恒久化させることをわが国に要求している。この要求を受け入れると、医療保険財政を改善する決め手として安い後発薬の普及率の向上を図ろうとしているわが国の医療政策はアメリカの横やりで行き詰まることになる。と同時に、高い薬価を負担できない経済的弱者の間で受診抑制が広がり、健康と命の格差がさらに拡大する一方、海外の富裕層をターゲットにした高額の医療ツーリズムが広がり、医療の営利事業化が進行することになる。
 このように考えると、TPPは農業の問題といって傍観しているわけにはいかない。わが国の国民益を投げ捨て、アメリカ企業や多国籍企業に営利の機会を広げる売国的なTPP交渉から即時脱退することこそ日本の国民益を守る唯一の道なのである。

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北海道庁と帯広/十勝へ、TPPの現地調査と意見交換にーー大学教員影響試算作業チームーー

 私を含め4人の大学教員で立ち上げたTPP影響試算作業チームは明日513日から15日まで北海道に出向き、札幌では道庁のTPP・農業・酪農水産担当者と意見交換会を開くとともに、JA北海道中央会と面会することになった。その後、帯広市に出かけ、市の農政担当者、JA帯広支所と意見交換をするほか、酪農家や関連産業の現場を訪ね、TPPの影響について調査をすることになった。

道庁での意見交換会
 
 13日午後は道庁内で作業チーム3名と道庁の農政部農政課主幹、水産林務部総務課主幹/主任、総合政策部政策局参事、同部経済調査課主査、計7名の皆さんと、日本がTPPに参加した場合の影響および影響の試算をめぐって意見交換をする。そこでは私たち作業チームが事前に道庁に送った質問事項について質疑を交わし、その後、作業チームが手掛けている影響試算のフレーム、それを北海道に適用した試算結果を説明することになっている。

 作業チームから北海道庁へ送った質問事項
 
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/hokkaido_situmon20130510.pdf

 この意見交換会には「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」の意見表明に賛同された道内の大学教員4名も参加される。また、意見交換会は報道関係に公開で行うことになっており、IWJInternet Web Journal)が同行取材して、その模様をインタネットで配信する予定である。配信の予定が決まったらお知らせしたい。

JA
北海道中央会との意見交換
 
 14日午前にJA北海道中央会を訪ね、TPPが北海道の農業・酪農およびその関連産業に及ぼす影響について意見交換をする。そこでは、作業チームが道庁宛てに送った質問事項についてのJA北海道の考えを聞くほか、

 *JA全農は2013年度からの3ヵ年計画にもとづいて、また農業の六次産業化の方針に沿って、農産物の主体的なバリューチェーンを構築する運動を進め、それを農業者の所得向上につなげていくとしているが、このような考え方にそって、JA北海道中央会として特に注力している具体的な取り組みについて、

 *こうした取り組みを推進していくうえで、日本がTPPに参加することは、プラス(追い風)の効果をもたらすのか、それとも障害になる(マイナスの効果)と考えるのかについて。
 
 *政府の産業競争力会議は耕作放棄地や地域に分散した農地をまとめて規模拡大をはかるため、都道府県単位で「農地中間管理機構(仮称)」を設置することを提案しているが、こうした動きについて、JA北海道中央会はどのように考えるか?

 *328日以降、全国の大学教員は870名近い賛同者が集って、TPP参加交渉からの即時脱退を求める運動を起こしているが、こうした大学人の動きに対して、JA北海道中央会はどのように見ているか、今後、どのような役割を期待するか、

について意見交換をする予定だ。

帯広/十勝で
 
 14日午後には、帯広市役所を訪ね、市の農政部の担当者からTPPが日本有数の酪農・畑作が位置する十勝の農業に及ぼす影響について調査し意見交換をする。訪問に先立ち、作業チームは帯広市に次のような質問事項を送った。

 作業チ-ムが帯広市へ送った質問事項
 
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/obihiro_situmon20130510.pdf

 また、市役所訪問の後、地元のトラック協会、消費者協会を訪ね、それぞれの観点から見たTPPが十勝地方の関連産業と消費者に及ぼす影響についてヒアリングすることになっている。
 なお、この日の夕方には作業チーム一行は十勝毎日新聞社を訪ね、地元マスコミ関係者ほかの方々と懇談をすることになっている。その折、私は40分ほどのスピーチを頼まれたので、私たち作業チームが手掛けている関税撤廃の影響試算の概略、前日の道庁での意見交換の模様を説明するとともに、TPP参加の可否をめぐって全国紙の世論調査、論説と地方紙の世論調査、論説がなぜかくもねじれるのかーーその原因を日本のメディアの報道全般の劣化と関わらせて話し、意見交換をしたいと考えている。


十勝地方の酪農・畑作経営者・製糖事業の現地調査
 
 翌15日には、地元JA帯広支所の案内で、昼食をはさんでJA士幌町、当地の酪農家、JAめむろ、当地の畑作農家圃場・製糖所を訪ね、それぞれの事業の現地調査をする。
 
 作業チームはこれまで産業連関表を使った関税撤廃の影響試算や農業経営統計を使った関税撤廃の影響(特に農業所得への影響)を試算してきたが、作業を進める過程で数字に表れにくい/現れないTPPの影響をリアルに把握する必要性を痛感している。
 
 たとえば、今朝(512日)の「日本農業新聞」には「コンニャクも重要品目」という見出しの記事が掲載されている(妻木千尋記者稿)。記事によると、政府はTPP交渉参加国からは日本へのコンニャクの輸入実績がないため、コンニャクを関税撤廃の例外とするよう求める「重要品目」に加えなかった。しかし、この記事が調査したコンニャクの主産地・群馬県では海外のコンニャク産地は日本がTPPに参加してコンニャクの関税を撤廃したら輸出促進に転じ、外国産が急増すると危惧しているという。ちなみに、群馬県のコンニャク生産量は全国の生産量の9割を占め、加工や流通に携わる関連産業も集中していて、地域経済を支えているという。
 
 地元のコンニャク農産家や県が危惧するのは品種転換、規模拡大によってコンニャク生産の担い手、後継者育成に努めてきた努力がTPP参加で灰じんに帰すのではないかということである。
 
 北海道でも道産野菜を農産物に留めず第一次加工品化する野菜のサプライチェーン構想が進められている。十勝地方の運送業界も乳製品の運送に特化した事業として存続してきたという実態があると言われている。
 
 こうした実態を知るにつけ、「現在」の「TPP参加国」からの輸入実績だけに照らして関税撤廃を除外する「重要品目」を決め、その枠内だけで影響を試算したのでは実態からずれが生じることを銘記しなくてはならない。また、川上の原材料が国産から輸入物に代わっても川下の関連産業は輸入品に切り替えて事業をこれまで同様継続できると割り切ってよいのか、実態と突き合わせた検証が必要になる。
 
 今回の現地調査では、こうした数字に隠れた日本の農業・酪農のサプライチェーンの実態も調べてみたいと思っている。 

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「共通番号制」から離脱する権利を認めよ

 目下、国会に上程されているマイナンバー法案をめぐって、420日、ビデオ・ニュースに出演し、ジャーナリストの青木理さん、社会学者の宮台真司さんと約90分間、討論した。目下、動画配信中であるが会員でないとpreviewしか視聴できない。しかし、以下のサイトに議論の要約が掲載されていて、私の発言のポイントもうまくまとめられている。
 大半の国民が知らないところで、将来に重大な禍根を残す法案がまもなく国会を通過しようとしている。しかし、かりに法案が成立しても、法が施行される前に(各人への番号の付与は2017年1月とされている)、全国各地でこの共通番号制に参加しない/離脱する権利の存在を確認する訴訟(一種の予防訴訟)を起こすことを、討論の最後で訴えた。下記のサイトに掲載された討論の要旨を転載するので、ご覧いただけるとありがたい。

 

マル激トーク・オン・ディマンド 第627回(20130420日) 

「共通番号制」から離脱する権利を認めよ

ゲスト:醍醐聰氏(東京大学名誉教授)

http://www.videonews.com/on-demand/621630/002738.php

 

 国民一人一人に番号を付ける「共通番号制」の法案審議が衆院内閣委員会で進められている。これは納税者情報を正確に把握することを目的としたもので、今回の法案化の動きは、旧社会保険庁の年金不祥事、特に「消えた年金問題」を契機に、年金情報を含む個人情報の一元管理の必要性が叫ばれたことに端を発する。民主党政権下で「社会保障と税の一体改革」の中に盛り込まれた「マイナンバー」を、政権に復帰した自民・公明の与党が修正を加えて「共通番号」として提案してきたものである。
 国民を番号で管理するという発想は、1970年の「事務処理用統一個人コード構想」、いわゆる「国民総背番号制」にさかのぼる。そして、その後も類似の制度が政府によって検討、提言、提案されてきたが、いつの時代も「権力サイドによるプライバシーの侵害」「国家による国民管理」に対する懸念が払拭できず、頓挫してきた。今回もその懸念に変わりはない。しかも、社会環境は40年前とは一変している。パソコン、スマートフォンが普及し、インターネット環境も整備が進んだ結果、流通する情報量は爆発的に増え、しかもそれを処理する能力も飛躍的に向上している。どれだけ情報セキュリティに気を配っても、あらゆる個人情報が一つの番号に紐付けられることのリスクは、かつて無いほどに高まっている。とかく利便性が強調されがちだが、本当に共通番号を導入することによって得られる利便性は、そのリスクを上回ると言えるのか。
 たしかに現在でも個人は特定の番号に紐付けられている。クレジットカードしかり、運転免許証しかり、住基ネットしかり、だ。しかし、東大名誉教授で納税者番号制度に詳しい醍醐聰氏は「今回の制度は、従来からの縦方向の情報管理を横から串刺しにして横断的な一元管理を可能にするもの」と、共通番号制の問題点を指摘する。縦割りによってかろうじて保たれてきたファイアウォールが事実上無くなることで、情報流出の際のダメージは取り返しのつかないことになる恐れがある。
 その上で一番の問題は「われわれの側に制度を利用するかどうか決める選択権が保証されているかどうか疑わしい」ことだという。コンピュータ技術の進歩で、いやがおうにも個人情報の管理が容易になってしまった今日、各人が自分自身の情報をどう管理するかを決める「自己決定権」が保証されることが重要だ。そのためには制度への参加とともに、システムからの離脱権が保証されていなければならない。しかし、法案の条文上、そこがどうも曖昧だ。そして法案が成立したら、事実上、自動的に全国民に番号が与えられることになり、番号がなければ今後、様々な行政サービスを受けられなくなることもあり得るという。醍醐氏は、「こうした権利の制約は憲法違反の疑いすらある。今後、集団訴訟などの動きが出てくることも期待したい」と話す。
 また醍醐氏は、法案では、行政事務にとどまらず、民間へのシステム開放も想定されている点にも警戒が必要だと指摘する。一つの番号にあらゆる個人情報が紐付けされるシステムを民間事業者が利用するとなると、個人的な趣味や日常的な行動が特定の番号に蓄積されていくことにもつながりかねない。いまやネットでは当たり前になってきた「レコメンド機能(おすすめ機能)」が実生活上に入り込んでくることも考えられ、それは必ずしも良いことばかりではないようだ。むしろ逆に特定の情報から閉め出されたり、事業者に不利になるようなことが隠されたりすることにつながるという。
 法案には近年とみに増えてきている国会軽視の側面もみえる。法案に具体的なことを書き込まず、詳細は「別に政令で定める」となっている点だ。政令の発布には国会の議決や審議を必要としない。枠組みだけ先に作ってしまって、後から都合の良い中身を役所だけで考えましょうというのでは、あまりにも無責任で危険過ぎる。また、しきりと喧伝される行政事務の簡素化や効率化も、初期投資が20003000億円、その後もシステム維持に毎年200億円規模が必要との試算もある。これで本当に費用対効果に見合ったメリットがあるのか。新手のIT公共事業ではないのか。
 そもそも共通番号は誰のためのものなのか。番号による国民の管理について、海外での事例なども交えながら、ゲストの醍醐聰氏とともに、ジャーナリストの青木理と社会学者の宮台真司が議論した。

 

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