2017年2月26日
私が共同代表の1人になっている「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」は、今年の1月24日に放送された「クローズアップ現代+ 韓国 過熱する“少女像”問題 初めて語った元慰安婦」の内容を精査した結果、番組の編集方法に多くの重大な疑問点が浮かび上がってきた。
そこで、疑問点を9項目からなる質問書の形にまとめ、2月24日、私ともう一人の運営委員が渋谷のNHK放送センターに出向き、これを提出した。3月10日までに書面で回答を要望している。
各質問項目には説明文を付け、質問を細分しため、A4サイズで計10枚とやや長い文書になった。初めに全文のURLを張り付けておきたい。
http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/2017/02/nhk-799a.html
以下、ここでも改めて、全文を載せることにする。
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2017年2月24日
NHK会長 上田良一 様
NHK放送総局長 木田幸紀 様
「NHK クローズアップ現代+」制作担当 御中
番組キャスター 鎌倉千秋 様
「クローズアップ現代+」「韓国 過熱する“少女像”問題 初めて語った元慰安婦」(2017年1月24日放送)に関する質問書
NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ
共同代表 湯山哲守・醍醐 聰
http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/
本年1 月 24 日に放送された「クローズアップ現代+
韓国 過熱する“少女像”問題 初めて語った元慰安婦」(以下、「本番組」という)の内容、編集方法には、「放送法」、「NHK放送ガイドライン2015」に照らして種々、重要な疑問点がありますので、以下のとおり質問をします。
ご回答は、本年3月10日までに書面で別紙宛てにお願いします。その際は、質問項目ごとに、質問に噛み合う形でご回答をお願いします。なお、以下で引用する韓国紙の論説、記事はすべて日本語版です。
Ⅰ.元「慰安婦」の声はさまざまと言いながら、なぜ、日本の支援金を受け取った3組の元「慰安婦」とその家族の声だけを伝えたのか?
今回の日韓合意や日本からの10億円の「支援金」に対する韓国の元「慰安婦」の対応はさまざまです。番組でも、「一人一人の元慰安婦の方々にそれぞれの思いがあって、決して十把一からげにできない」(奥園秀樹・静岡県立大学准教授)とか、「当事者の多様な声があって、それを置き去りにしないことが求められている」(鎌倉キャスター)とか語られました。ところが、番組が伝えたのは、日本からの「支援金」を受け取った3人の元「慰安婦」とその家族の声だけでした。
しかし、韓国の元「慰安婦」10人は、今回の合意は日本の法的責任を認めた謝罪ではないとして、昨年1月29日に連名で国連人権機構に対して審査を請願しています(『聯合ニュース』2016年1月28日、14時20分)。また、昨年3月27日には生存する元「慰安婦」29人の遺族と生存者家族など41人が韓国の憲法裁判所に対し、日韓合意は被害者の財産権と人権を侵害するものであるとして違憲の憲法訴願をしています(『聯合ニュース』
2016年3月28日)。
番組の中で、こうした元「慰安婦」やその家族の声をまったく伝えなかったのは、意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにするよう求めた「放送法」第4条第1項第4号の規定に反していませんか? 皆様のお考えを説明ください。
なお、近く別の番組の中で、日韓合意に異議を唱える元「慰安婦」とその家族の意見を伝える予定があるのなら、その予定をお聞かせください。
Ⅱ.番組に登場した3人の元「慰安婦」本人の意思は取材を通じて確認されたのか?
番組では、生存する元「慰安婦」46人のうち34人が日本からの「支援金」を受け取る意向を示しているが、その事実が韓国内で伝えられていないと解説しました。そして、「7割を超える方々が、この合意を受け入れてくださったということは重く受け止めるべきだ」(奥園氏)という発言を放送しました。つまり、本番組は、日本からの支援金を受け取ったこと、すなわち、日韓合意を受け入れたこと、とみなしたのです。しかし、この番組は元「慰安婦」とその家族の次のような会話も放送しました。
元慰安婦の家族:「日本から1億ウォンを受け取ったと話したよね?」
元慰安婦:「誰が1億ウォンをもらったの?」
同上家族:「このように話していても何が何だか分からないのです」
さらに、この元「慰安婦」の家族は取材に対して次のように語りました。
「(母は)日本が謝罪して補償してくれるなら、それ以上は望まないと言っていました。しっかりしている時にもらっていれば、本人も気持ちを伝えることができたはずなのに、今は(お金をもらった意味さえ)分かっていません。」
このように90歳を過ぎ、認知症が現れ、受け取ったお金の趣旨はもとより、お金を受け取ったという事実さえ、認識できていない元「慰安婦」が日韓合意の内容を理解できたのか大変疑問です。「日本が謝罪して補償してくれるなら」と本人は話していたと家族は語りましたが、この元「慰安婦」は日韓合意に盛られた安倍首相の「お詫び」は自分が求めていた謝罪になっているのかどうかについて自分の判断を伝えられる状態だったのかも疑問です。
ちなみに、元「慰安婦」のキム・ボクトゥクさん(100歳)は、最近になって、甥が「和解・癒やし財団」から「支援金」を受け取っていた事実を知らされ、「受け取っていたのなら返してほしい」と語っています(『ハンギョレ新聞』2017年1月23日)。
以上のような事実を知ると、34人が「支援金」を受け取る意向という報道は、はたして元「慰安婦」の確かな意思と受け取ってよいのか、慎重な裏付け調査・取材が必要です。
具体的に言えば、「和解・癒やし財団」は元「慰安婦」に「支援金」を支給するにあたって、元「慰安婦」本人が日韓合意に同意することを条件にしていたのでしょうか? そうであれば、「支援金」の受け取りを以て日韓合意に同意したと言えますが、はたしてそのような条件が付されていたのでしょうか? 元「慰安婦」はそうした条件を了承して「支援金」を受け取ったと言ってよいのでしょうか?
「NHK放送ガイドライン2015」は、「放送の基本的な姿勢」の項で次のように定めています。
「NHK のニュースや番組は正確でなければならない。正確であるためには事実を正しく把握することが欠かせない。しかし、何が真実であるかを確かめることは容易ではなく、取材や制作のあらゆる段階で真実に迫ろうとする姿勢が求められる。」
本番組に登場した3人の元「慰安婦」とその家族を取材した時、こうした「NHK放送ガイドライン2015」の定めは忠実に貫かれたのでしょうか? 元「慰安婦」の家族の説明が元「慰安婦」本人の意思をどこまで代弁できているのかを慎重に見極められたのでしょうか? ご説明ください。
なお、昨年12月21日に韓国の『聯合ニュース』の記者有志は会社に対し、公正な報道や人事を求める声明を出しました。その中に、「慰安婦問題の日韓合意に好意的な被害者(元慰安婦)が圧倒的に多いという政府の主張を実証する記事を書くよう求める指示もあった」(『朝日新聞DIGITAL』2017年1月3日、00時54分)と記されていることを付け加えておきます。
Ⅲ.「当事者の思いと異なる形で少女像が設置された」という解説はどのような事実に裏付けられたものか?
①番組では、「当事者の声を置き去りにした」というナレーションや発言が幾度か流されました。たとえば、鎌倉キャスターは「まさに、当事者の思いとは異なる形で少女像が設置されている」と発言されましたが、「当事者の思い」とは「誰の」「どういう思い」を指しているのでしょうか?
②「当事者」とは元「慰安婦」のことだとしたら、「当事者の思いとは異なる形で少女像が設置されている」という鎌倉キャスターの解説を裏付けるのは、番組に登場した1人の元「慰安婦」の家族が語った、「(お金を)受け取ったのだから(少女像は)撤去しなければならないと思います」という言葉だけです。しかし、この元「慰安婦」は寝たきりの90代の女性です。家族のこうした発言は、はたして元「慰安婦」本人の気持ちを代弁したものと言えるのでしょうか?
③また、取材を通じて、少女像は撤去すべきだと語った元「慰安婦」は他に何人もいたのでしょうか? 「当事者の思い」と一括できるほど、多くの元「慰安婦」が「少女像は撤去すべきだ」と語ったのでしょうか? 取材で得られた事実に基づいてご説明ください。
④当会が確かめたところでは、たとえば、元「慰安婦」と名乗り出ている金福童(キム・ボクドン)さんは2015年4月24日、東京有楽町の外国特派員協会で会見し、日本政府による公的な謝罪と賠償を求めるとともに、少女像は「過去に何が起こったかを表す一つの方法」、「自らの体験を伝える助けになる」と語り、像の設置を歓迎する意思を表明しています。(このニュースのソースは、
http://www.j-cast.com/2015/04/24233948.html?p=all)
また、日韓合意発表後の2016年1月26日、来日した元「慰安婦」の李玉善(イオクソン)さんと姜日出(カンイルチュル)さんは「私たちを無視した日韓合意は受け入れられない。」「私たちがこうやって生きているのに<少女像>を撤去するなんて・・・私たちを殺すことと同じです」と語っています(岡本有佳・金 富子責任編集『<平和の少女像>はなぜ座り続けるのか』増補改訂版、2016年、世織書房、77ページ)。
番組制作にあたって、こうした元「慰安婦」の<少女像>に対する思いは取材されたのでしょうか? 番組では、「少女像は撤去すべき」という1人の元慰安婦の家族の声を伝えましたが、少女像は自分たちの苦難の歴史の証しとして設置を歓迎する元「慰安婦」の声が全く伝えられなかったのはなぜなのか、ご説明ください。
⑤元「慰安婦」あるいはその家族の「思い」は重要ですが、韓国の各地に設置された「少女像」はその地の多くの若者、市民の募金で、痛ましい過去を記憶し、同じ過ちを繰り返さないという思いを込めた「平和の碑」として建てられたものです。
たとえば、釜山の日本総領事館そばに少女像が設置されるにあたっては、「未来世代が建てる少女像推進委員会」が1年間にわたって呼びかけた製作支援の募金に市民から8,500ウオン(約823万円)が寄せられています。そして番組にも登場したマ・ヒジン推進委代表(釜山大学航空宇宙工学科3年生)は、「釜山の少女像は国民が建てた少女像という意味で『国民少女像』というニックネームもついた。誤った歴史を立ち直らせるまで、若者や青少年は国民と一緒に行動して闘う」と語っています(『ハンギョレ新聞』2017年1月9日)。
「少女像」が設置されたこのような背景、経過を知れば、少女像をめぐる「当事者」とは元「慰安婦」にとどまらず、少女像の設置を企画した人々、設置に協力した人々だと考えてもおかしくありません。
とすれば、日本政府が執拗に像の撤去を要請していることをこれらの人々がどう受け止めているかが問題ですが、昨年8月末に行われた世論調査では、ソウルの日本大使館前にある少女像について、76%が「日本政府が合意を履行したかどうかにかかわりなく、移転に反対」と答えています(『ソウル時事』2016年9月2日、14時45分)。
また、この2月14~16日に韓国ギャラップが全国の成人1003人を対象に行った世論調査によると、釜山の少女像について、78%が「そのまま置いておくべきだ」と回答し、「撤去または移転すべきだ」と答えたのは16%にとどまっています(「ソウル聯合ニュース」2017年2月17日、12時11分)。
こうした事実に照らせば、「まさに、当事者の思いとは異なる形で少女像が設置されている」という鎌倉キャスターの解説は根拠不詳の発言、あるいは事実と食い違った発言だといえます。この点を皆様はどうお考えか、ご説明ください。
Ⅳ.多様な論説を掲げた韓国メディアの中で、韓国に非があるとする1紙の論説だけを伝えたのはなぜか?
番組では、「過熱する」世論に対して「冷静さを呼びかける論調も広がっている」として、『韓国経済新聞』主筆のチョン・ギュジュ氏へのインタビューの模様が放送され、「韓国だけが、日本との関係において、過去から一歩も抜け出せないでいる」という同紙の論説が字幕に映されました。
しかし、韓国には12 の全国紙、9つの経済紙があり、日韓合意に関する評価は一様ではありません。
たとえば、全国紙の1つ『東亜日報』は合意を拒否する被害者や団体の意見も、悩んだ末に異なる対応をした被害者らの選択も、どちらも尊重されるべきだとするコラム記事を掲載しています(2017年1月19日)。その上で、この記事は「日本政府が10億円と少女像撤去を結びつけるという本末転倒な主張をするならば、日本政府を批判すべきであり、韓国政府を追及する話ではない」と述べています。
また、『中央日報』は、過去の清算も重要だが外交関係で究極的な最高ラインは国益だ、そのためには韓日関係も未来志向的に導くのが望ましい(2017年1月7日、社説)と主張する一方、「日本の主張のように10億円を出したことで合意を忠実に履行したと見ることはできないというのが専門家らの指摘だ。被害者に日本側の謝罪メッセージを伝える案について安倍首相が『毛頭考えていない』(10月)と述べたのが代表的な例だ」と指摘しています(2017年1月10日、掲載記事)。
さらに、『朝鮮日報』は「日本が外交問題と歴史問題を分離する原則を捨て、感情的な対応を始めれば、両国の対立はブレーキがかからなくなり誰も望まない方向に進むだろう。そのため全ての関係国が今こそ冷静さを取り戻さなければならない」(2017年1月10日、社説)と述べています。
また、『ソウル聯合ニュース』は2017年1月9日に配信した時論の中で、その前日に安倍首相が「日本は10億円をすでに拠出した、韓国にしっかり誠意を示してもらわなければならない」と語ったことに対し、「日本政府が韓国に無礼かつ身勝手な圧力をかけている」と非難しています。そして結びでは、「安倍氏がハワイを訪ね平和のパフォーマンスをする間、日本では閣僚や議員が靖国神社を参拝した。それでいて1枚の合意文書といくらかの金で慰安婦問題を永久に振り払うことができると信じるならば、大きな勘違い、誤算だろう」と痛烈に日本政府を批判しています。
さらに、『ハンギョレ新聞』のように日韓合意そのものを根本から批判する韓国紙もあります。同紙は2015年12月30日の社説で、日韓合意には、「慰安婦」問題の解決のためには欠かせない、徹底した真相究明、責任者に対する審判、事実に基づく明確な謝罪、被害者に対する賠償、関係資料の公開、教科書記述などを通じた再発防止策などが合意には一切、含まれていないと指摘し、ドイツのホロコーストに対する記憶と反省を例に挙げながら、「重要な歴史的犯罪に終止符などありえない」と断じています。
このように韓国紙の中で、日韓合意の行き詰まりの原因はもっぱら韓国政府や韓国の市民社会の過熱した運動にあるとみなすのは極めてまれです。そうしたごく一部の経済紙の主筆だけを登場させ、「日韓合意の履行が行き詰っている原因は過熱した韓国社会の極端な主張にある」という論調が韓国のメディアの中で広がっているかのように伝えるのは、著しく事実を歪めると同時に、意見が分かれる問題については多角的に論点を伝えるという「放送法」第4条の規定からも逸脱しています。各位はこの点をどのようにお考えか、ご説明ください。
Ⅴ.釜山に少女像が設置された経過が歪めて伝えられた。
番組では、釜山に少女像が設置された経過について、「政権のスキャンダルが次々と明らかになる中、国民の怒りが噴出。大統領を職務停止に追い込み、これまでの政策すべてを否定する勢いです。」「こうした政治的な空気の中で、プサンの日本総領事館前に少女像は設置されました」というナレーションを流しました。
このような解説は、釜山に少女像が設置されたのは2016年秋から起こった朴大統領に対する韓国市民の抗議行動の空気の中からだという印象を視聴者に抱かせます。しかし、事実経過は全く異なります。
釜山では日韓合意(2015年12月28日)直後の2016年1月6日から日韓合意に反対する大学生や高校生ら若い世代を中心に、「人間少女像ひとりデモ」がはじまり、3月には「未来世代が建てる少女像推進委員会」が発足しました。同委員会は直ちに釜山の大学や市民に呼びかけて少女像建設のための募金活動を続ける一方、6月9日から8月23日まで釜山市民を対象にオンライン・アンケート調査を行っています。同月25日に推進委員会が発表した調査結果によると回答した1,168人の市民のうち、92.1%が東(トン)区草梁(チョリャン)洞の日本総領事館前に「平和の少女像」を設置することに賛成したとのことです。このアンケート結果を踏まえて推進委員会は日本総領事館前周辺の道路を管轄する東区と設置の許可を求める協議を進めたのです(以上、『ハンギョレ新聞』2016年8月25日参照)。
つまり、釜山に少女像を設置する準備は、2016年秋の朴大統領弾劾要求へと続く市民の抗議行動が起こる半年以上前から取り組まれたことは動かせない事実です。
そうした釜山の若者や市民の運動を、朴大統領に対する抗議行動の「空気」の中から生まれたと解説するのは事実経過を歪めるものです。これについて皆様はどう受け止められるか、ご説明ください。
Ⅵ.日韓合意を批判する韓国の政党・政治家を「世論迎合」、「ポピュリズム」と決めつけるのは事実経過に反し、メディアが担う役割から逸脱している。
番組では、「大統領選挙を視野に入れる野党各党は、世論に迎合する動きを強めています」というナレーションを流しました。
また、「与党も野党も今年(2017年)前半にはパク大統領の弾劾が確定して、選挙が前倒しされる可能性があるという読みのもと、日本との関係改善よりも大衆の支持獲得に必死です。その結果、各党・各候補とも慰安婦問題で日本をたたく、ポピュリズムに走ってしまっています。この流れを変えるには、まず、韓国の政治家たちがこうした外交問題を選挙に利用するのを自制することが不可欠だと思います」という池端修平・NHKソウル支局長の現地報告を伝えました。
さらに、「この慰安婦問題というのが、大統領選挙を念頭に置いた時に非常に有効で手っ取り早い、格好の材料と化してしまっているということが残念ながら言えるんだろうと思います」という奥園秀樹氏のスタジオ発言も流しました。
しかし、韓国の政党、特に日韓合意に批判的な野党の姿勢を「世論に迎合」、「ポピュリズム」と決めつけるのは事実経過に反する粗雑な発言です。
日韓合意に関する評価については韓国野党内でも当初から意見がまとまっていたわけではありませんが、朴大統領の弾劾訴追が国会で可決され、次期大統領選挙が前倒しで実施される公算が出てきたのを受け、世論の動向に阿る形で、日韓合意反対、再交渉を唱え出したわけではありません。
韓国の最大野党「共に民主党」の文在演(ムン・ジェイン)代表は日韓合意が発表されてから20日後の2016年1月19日に、「慰安婦」被害者と国会の同意なしにかわされた日韓合意は「史上最悪の外交惨事」と批判しています(『朝鮮日報』2016年1月20日)。また、同じ日に、同党の都鐘煥(ト・ジョンファン)報道担当は、安倍首相が慰安婦集めにあたって「強制性」はなかったと改めて発言したのを指して、「韓日慰安婦合意が無効であることを宣言したのと同じだ」と強く批判しています(前掲、『朝鮮日報』記事)。そこで、以下➀~③について質問します。
①「世論に迎合」とは自らの政治的信条を曲げて民意に阿ること、「ポピュリズム」とは聞こえの良い言動で世論を扇動することだとしたら、日韓合意に関する韓国野党の政治姿勢にそうしたフレーズをあてがうのは上記の事実経過を曲げた評価だと考えますが、いかがですか?
②そもそも、政党が民意をくみ取り、民意を自らの政治活動に反映させるのは、民主主義にかなう政治姿勢であり、非難されるいわれはないはずですが、皆様はそうは考えないのですか?
③今回の日韓合意をめぐる韓国の個々の政党、政治家の言動が一貫性を欠き、世論迎合、ポピュリズムと非難すべきものかどうかを決めるのは韓国の有権者であって、日本のメディアではないと考えますが、いかがですか?
Ⅶ. 韓国社会で日韓合意に反対の意見が多いのは合意に関する理解が進まないからではなく、日本政府には加害国としての真摯な謝罪と反省がないと見られているからではないか? 番組はそうした韓国の民意と向き合わず、「合意を守らない韓国に非がある」という予断にもとづいて制作された。
番組の中で奥園氏は、「決して多数ではない反対の声だけがクローズアップされていくと。その結果、その当事者を無視した合意であるというイメージが出来上がって、それが一人歩きをしてしまうと。合意そのものに対する理解も一向に深まらずに、日本国内にもそれが伝えられて、日本でも韓国に対する反発だけが高まっていくという悪循環に陥っているような気がします」と発言しました。
1つ目の下線部分は根拠が不確かな発言です。これについては、前記の質問Ⅰ、Ⅱと重なりますので、ここでは立ち入りません。
2つ目の下線部分は的外れな解釈ではありませんか? 過半の韓国市民が日韓合意に反対し、合意の破棄を求めているのは、合意の内容を理解しないからではなく(理解が進めば日韓合意に賛成する市民が増えるというものではなく)、日本政府が、性格のあいまいな10億円の資金拠出で「慰安婦問題」を幕引きしようとしていることを強く批判し、加害国の日本が10億円の見返りかのように少女像の撤去を迫ることに憤りを感じているからです。こうした憤りは、日韓合意を理解しないからではなく、合意が玉虫色にした点(10億円は法的賠償金なのか、少女像の撤去なり移転なりとリンクした条件付のものなのか)を十分、理解したうえで、「最終的・不可逆的な解決」というフレーズで日本政府が戦争責任を記憶し、未来の世代に引き継ぐ責務を免れようとしていると捉えたからです。
この点で奥園氏の前記の発言は韓国の民意を、恣意的にかどうかは別として、取り違えていると言って差し支えないと思いますが、皆様はどう考えられるか、お聞かせください。
なお、「クローズアップ現代」の前キャスターの国谷裕子さんは自著の中で次のように述べています。
「担当ディレクターの書いた番組の構成表の書き出しは、『なかなか理解が進まない安保法制』と言う文章から始まっていた。」「果たしてこの言葉の使い方は正しいのだろうか。」「この言葉は、今は反対が多いが、人々の理解が進めば、いずれ賛成は増える、とのニュアンスをいつの間にか流布させることにもつながりかねないのではないだろうか。そういう言葉を、しっかり検証しないまま使用してよいのだろうか、私にはそう思えた。」
(国谷裕子『キャスターという仕事』岩波新書、2017年1月、101~102ページ)
「なかなか理解が進まない」という言葉に対する国谷さんの警鐘は奥園氏の上記の発言にもそのまま当てはまると思えますが、皆様はどのように受け止められるか、お聞かせください。
Ⅷ.韓国政府に日韓合意に反対する市民団体を説き伏せる体力がなくなっていることを混乱の原因とみなす発言は、政府に対する市民の言論の自由に関する認識を欠くものではないか?
番組では日韓両国政府がギリギリのところで歩み寄って合意にこぎつけたにもかかわらず、韓国社会では合意に反対したり、再交渉や合意の破棄を求めたりする意見が広がっていることを懸念する発言やナレーションがしばしば挿入されました。そして、池端修平・NHKソウル支局長は、「パク大統領は、少女像を含む、慰安婦問題の任期中の解決を外交上の大きな実績としたい考えでした。一連の事件で足元をすくわれ、強硬な市民団体を説き伏せるだけの、いわば政治的な体力というものがないのが実情です」と現地の状況をレポートしました(下線は追加)。
しかし、今回の日韓合意は両国の外相が会談を踏まえて、共同記者会見を行い、その場でそれぞれの立場を短い文書で発表したものです。合意は条約でもなければ、両国首脳の署名もなく、両国の国会での承認を経たものでもありません。韓国では元「慰安婦」への事前の説明も了解も経ていないことが問題とされているのは周知のとおりです。
それでも公的な共同会見の場で発表された文書ですから、両国政府にはこれを尊重する責務があると言えますが、両国国民にはそうした政府間の合意についてさまざまに政治的意見を表明する自由があることは近代民主主義のイロハです。このような前提に立って、以下、お尋ねします。
①韓国政府が日韓合意に反対する自国民を「説き伏せる」ことができないのは、朴大統領に「政治的な体力」がないからだと断定できるのでしょうか? 日韓合意自体が民意にそぐわないため、国民を説得できないという別の見方を検討しなくてよかったのでしょうか? ちなみに、『ソウル聯合ニュース』はこの1月19日、17時31分に「日本が反発しても少女像設置は続く 強引な合意の産物」というニュースを配信しています。
また、国連女子差別撤廃委員会は2016年3月7日(現地時間)に日本軍慰安婦問題に関する最終見解を発表しました。その中で、「慰安婦問題を最終的かつ不可逆的に解決したというアプローチには、被害者中心のアプローチが十分に反映されていない」と指摘し、日韓合意そのものに欠陥があるという見解を示しています。「最終見解」の英文全文は次のとおりです。
Committee on the Elimination of Discrimination against Women, 7 March
2016“Concluding observations on the combined seventh and eighth periodic
reports of Japan*
これらの資料もご参照の上、上記の質問にお答えください。
②中華民国大使館前を通る集団的示威行動の許可申請を受けた東京都公安委員会が進路変更を許可条件としたのを不服とし、指示の執行停止が申し立てられた事件について、東京地裁民事第2部は1967年11月23日に申し立てを認める判決を言い渡しています。
その理由として東京地裁は、憲法が保障する集団的示威運動による表現の自由は、外国人であっても日本国にあって、その主権に服している者には保障される、被申立人(東京都公安員会)は、ウィーン条約22条2項を挙げて、外交使節団が存在する地点を進路に含む本件集団的示威行動は公館の安寧の妨害、威厳の侵害に当たるとするが、許可申請された集団的示威行動は一部過激なスローガンを記載したプラカードがあったとしても整然とした秩序を保つものとなっており、「公館に安寧、威厳の侵害」を生じるものとは認められない、と述べています。
(判決全文は、第一法規法情報総合データベース、判例ID27603116)
また、米国内の外国大使館周辺で当該外国政府の評判を貶めるような掲示を出すことを禁止する法律の合憲性が争われた事件(Boss v. Barry 事件(1988))で連邦最高裁(485 US 312, 324-29(1988)はこの法律を違憲と判示しました。その理由として最高裁は、当該法律はパブリック・フォーラムでの政治的言論に対する内容規制に当たると認定したうえで、そうした法律はウィーン条約22条2項が定めた外国公館、外交官の尊厳を守るべき必要性の限度を超えて、個人の政治的言論の内容を規制するものだと述べています。
以上のような判例を踏まえると、池端氏の前記の発言はパブリック・フォーラムでの市民の政治的言論の自由に関する認識を欠くものと思われますが、いかがですか?
Ⅸ.番組は、日韓合意の行き詰まりの原因はもっぱら韓国側にあるという見立てで編集され、日本側の問題に全く触れなかった。こうした編集は政治的公平、多角的な論点を明らかにするよう定めた「放送法」第4第第1項の定めに反するのではないか?
また、国際問題の報道のあり方を定めた「NHK放送ガイドライン2015」に抵触するのではないか?
以上で記した質問事項とその説明文を総合すると、本番組は、日韓合意が行き詰まっている原因は、合意の破棄を唱える韓国社会の「過熱」し、「先鋭化」した主張にあるという見立てで編集されたことは明らかです。それは、番組のタイトルが「韓国 過熱する“少女像”問題・・・」と付けられたことにも表れています。また、番組の導入部分では、映像を映し出しながら、
「自分たちの思いを韓国社会はわかっていないのではないか。今回、取材に応じた元慰安婦の女性。これまで固く口を閉ざしてきましたが、はじめて胸のうちを明かしました。」
というナレーションが流され、それに続けて、
a. 「私たちの苦労を韓国の国民は分かっていないのに、あのようなこと(騒ぎ)を起こしている。本当に心が痛みます。」
という一人の元「慰安婦」の声を流しました。さらに、続けて、「LOVE JAPAN」というプラカードを持った人物が釜山の少女像のそばに登場した映像を映し、
b.
「(日韓で)もう憎しみ合うのは止めましょう」
と語って、「少女像」を守る大学生らに抗議する場面を大写ししました(下線は追加)。こうした冒頭のシーン設定は、前記のような本番組の編集姿勢を如実に物語っています。
しかし、日韓合意が行き詰まっている原因は、合意の破棄を唱える韓国社会の「過熱し」「先鋭化した」主張にあるという見立ては、日本サイドの見立てであり、韓国社会や国際社会で共有されているわけではありません。
韓国の世論やメディアの間では違った見方がされていることは、質問書のⅢ、Ⅳの説明文で記したとおりです。
そのほか、韓国の丁世均(チョン・セギュン)国会議長も、今年の1月16日、フィジーで開催されたアジア太平洋議員フォーラムで中曽根弘文参議院議員らと会談した際、「多くの韓国人は安倍晋三首相の慰安婦関連の発言や立場について、大変残念に思っているのが事実」と指摘、「それが恐らく状況を悪化させている要因ではないか」と述べています(『聯合ニュース』2017年1月16日、11時30分)。
また、国連女子差別撤廃委員会も日韓合意後にまとめた「慰安婦問題」に関する前記の最終見解の中で、日本の指導者や当局者が「慰安婦」問題に対する責任を軽く見るような発言を行い、被害者に再び心理的な苦痛を与えている、と指摘しています。
このような各界の意見の状況を踏まえて以下、質問をします。
①韓国内では、同国の「和解・癒やし財団」が安倍首相に、元「慰安婦」宛に直接、謝罪の手紙を出すよう求めたのに対して、安倍首相は2016年10月3日の衆院予算委員会で、「毛頭そのつもりはない」と答弁しました。このような答弁に対して、韓国内では政治的立場の違いを問わず、強い批判、反発が起こっています。
また、今年1月8日に放送されたNHK「日曜討論」の収録インタビューで安倍首相は、「日本政府はすでに韓国側が設立した元慰安婦支援の財団に10億円を拠出した、次は韓国にしっかり誠意を示していただかなければならない」と発言し、ソウルの日本大使館、釜山の日本総領事館のそばに設置された少女像の撤去を求めたのに対しても、韓国内では強い批判、反発が起こりました。
皆様は、安倍首相のこうした発言に対して韓国で起こった批判、反発を「過剰反応」、「過熱した反発」と理解されているのでしょうか? それとも、安倍首相のこうした発言は自らの謝罪に誠意が欠ける証しと受け止められても致し方ないとお考えでしょうか?
②河野談話(1993年)では、「われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する」と謳われました。しかし、日本の中学校の歴史教科書では2011年の検定で「慰安婦」関連記述がすべて消え、2015年の検定で「強制連行を直接示す資料は発見されなかった」という日本政府の見解を併記することを条件に、かろうじて1社の教科書に「慰安婦」関連の記述が復活しました。
日韓合意が、こうした日本における歴史教育の現実を不問にしたまま、「慰安婦」問題を「最終的・不可逆的に解決する」と謳ったことに韓国社会では批判が起こっています。
皆様は、こうした韓国社会から日本に向けられた批判も「過熱した」主張と受け止められるのでしょうか?
③番組は、日韓合意の行き詰まりの原因はもっぱら韓国側にあるという見立てで編集され、韓国社会から日本政府に向けられた批判は、「過熱」「強硬」「先鋭化」というフレーズで印象付けされ、批判の内容を掘り下げた紹介はまったくありませんでした。こうした編集は政治的公平、意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにするよう定めた「放送法」第4第1項第2号、同第4号の定めに反すると考えます。皆様はどうお考えか、お聞かせください。
④「NHK放送ガイドライン2015」は、国際・海外取材にあたっての基本姿勢として、「各国の利害が対立する問題については、一方に偏ることなく、関係国の主張や国情、背景などを公平かつ客観的に伝える」と定めています。
上記のような本番組全体を貫く編集のあり様は、この規定から大きく逸脱していると考えます。皆様の見解をお示しください。
以上
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