審議会等の委員の選任方法の改善を求める陳情を市議会に提出

2011年8月22日
審議会を通じた民意偽装

 政府や地方自治体主催のシンポジウムやタウンミーティングにおいて、主催者である政府や自治体が市民からの意見公募に介入し、国の政策に沿った発言者を選ぶ民意偽装工作をしていた実態が次々と発覚している。最近、発覚した原発再稼働の是非を問うシンポジウムや公聴会の準備段階でのやらせメールなどは、その典型例であるが、手口があまりに露骨であるために民意偽装の実態が一目了然である。
 しかし、行政機関による民意偽装工作はこれに尽きるわけではない。もっと目立ちにくい狡猾なやり方で行政機関が民意形成・集約過程に介入し、行政の意に沿う「民意」形成を演出する工作が日常茶飯に行われている。その代表例は常連の「有識者」を参画させた審議会で行政の施策にお墨付きを引き出す方法である。
 こうした方法は、選ばれた委員の「中立的な」審議の帰結という外見を呈するため、行政による遠隔操作の実態は捉えにくい。というより、審議会を通じた民意誘導は委員を選ぶ段階でほぼ完了しており、その後の審議(答案づくり)は宿題を出した行政が描いた筋書きに沿って進行する「出来レース」といってよい。
 その場合、審議会委員の選任の段階で行政による「オピニオン・ショッピング」がどのように行われているかを具体的に指摘するのは容易でなく、外見的な事実から質すほかない。

わが市では?
 では、私が住む市ではどうなのか? これまで市民からの委員公募に応募した経験のある知人や、現に委員に選ばれて審議会に参加した知人の体験談を総合すると、ここでも、かなりの審議会が民意偽装の場に化しているといっても過言でない。

 そこで、この6月以降、市民有志が集ってこうした現状を改革する行動を起こそうということになった。審議会の改革といっても課題が山積しているが、まずは外形的にも歪みが明らかな実態、つまり、審議会等の委員が固定化している現状を改め、多様な意見・知見を持つ市民に審議会等への参加の機会を開くよう、829日に招集される市議会に陳情書を提出しようということになった。
 先週末、有志が集まって活発な議論の末、陳情文書をまとめ、短期間ではあったが賛同署名の呼び掛けをした。そして、今日(822日)、101名の賛同署名を添え、私を代表者とする以下のような陳情書を市議会議長宛てに提出した。(下線はブログに転載するにあたって追加したもの。なお、これと同時に、もう一件、「議会報告会及び意見交換会の運営に関する陳情書」を111名の市民の賛同署名を添えて提出した。私も陳情賛同者に名前を連ねた。)

                    2011(平成23)年822

    佐倉市の附属機関等の委員の選任方法の改善を求める陳情

                    陳情者(代表)
                       住所  × × × ×
                       氏名 醍 醐  聰 印

佐倉市議会議長 森野 正 様

【要旨】
 佐倉市の附属機関等(以下、通称にならって「審議会等」という)に選任される委員が固定化している現状を改め、佐倉市の意思形成過程に多くの市民が積極的に参画できる機会を確保するよう、審議会等の委員の選任方法を改善することが求められています。そこで、私達は佐倉市議会が、次の点について早急に見直しに着手するよう、佐倉市長に助言下さることを要望いたします。

 1.同一人が時期をずらして多くの審議会等の委員を「渡り」するのを抑制するため、一定期間を通算して同一人を選任できる数を制限すること(たとえば、「同一人を委員に選任できる審議会等の数は5年間を通算して5以下とする」といった定めを「佐倉市附属機関等の設置及び運用に関する要綱」に追加する)。

 2.「当て職」枠を減らし、公募市民枠を広げるよう委員の選考基準・方法を見直すこと。

【理由】
 市の審議会等の委員の選任制度と選任の実態を調べますと、同一人が長期間にわたって同じ審議会等に在任したり、種々の審議会等を横滑り(時系列の「渡り」)で選任されたりする「委員の固定化」現象が見られます。これは、
 ①委員の過半がいわゆる「当て職」者で占められていること、
 ②委員の通算の在任期間は3期または8年のいずれも超えないものとする(「要綱」第4条(4))と定められているにもかかわらず、この原則を適用されない「専門的な知識又は経験を有する者」の枠で選任される委員が過半を占めていること、
 ③同一人の委員併任は3以内を限度とするとされている(「要綱」第4条(5))ものの、同一人がさまざまな肩書を使い分け、時期をずらして複数の審議会等を「渡り」する例が見られること、などのためです。また、
 ④専門的な知識又は経験を有するものの枠で選任された人物がその後に「公募市民」枠で選任された例や、逆に、「公募市民」枠で選任された人物がその後に「専門的な知識又は経験を有するものの枠」で選任された例も見られます。こうした実態は、2種の選任枠の区分があいまいなため、兼務の制限、通算在任期間の制限が十分機能していないことを意味します。

 次のような理由から、こうした現状を早急に改める必要があると考えます。
 1.上記のような委員の固定化現象は、委員の選任にあたっては「広く各界各層及び幅広い年齢層の中から適切な人材を確保すること」と定めた「要綱」(第4条(1))の精神にそぐわず、市民が公平に市の意思形成過程に参加する機会を損なうものであること。

 2.「当て職」委員や担当部課の役職者が委員の過半を占めると、市民の参画による行政のチェック機能、市の意思形成への提言機能が形骸化し、審議会等は行政組織の連絡調整の場と区別がつかなくなる。これは審議会等に期待される本来の姿から逸脱するものである。

 3.委員に高度な専門的知見と豊富な経験が求められる審議会等があることは否定できないが、昨今、自発的な研究・学習活動、地域でのNPO活動などを通じて自治体の行財政、ボランティア・コミュニティ活動等に関し、旺盛な関心と豊富な知見を培った市民が少なくない。こうした市民の経験と知見を市の政策形成に活かす機会を広げることは市民協働の精神に合致する。

 4.「佐倉市市民協働の推進に関する条例」で、市の政策形成過程への市民の参加手続の一つとして謳われた、審議会等への「公募による市民」参加を活性化させるためにも、委員の固定化現象を改める必要がある。

 もとより、審議会等の委員の選任は行政機関の権限に属しますが、地方議会には、自治体の意思を決定する役割とならんで、行政執行の状況を監視する役割が負わされています。こうした観点から私達は、佐倉市議会が、市民協働条例第3条で謳われた市の責務(市は市民がまちづくりに参加する機会を確保するための環境の整備に努める責務)が適切かつ公正に果たされているかどうかを充分に検証下さるよう要望いたします。それはまた、年間4,000万円を超える審議会等の運営に係る予算が効果的に執行されているかどうかを監視する議会の役割でもある、と私達は考えます。

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東京都が担うべき基礎的自治体間の財政調整の役割

「都政改革の新ビジョン」シンポジウム 
 このブログでもお知らせした新東京政策研究会主催の「都政改革の新ビジョン」シンポジウムが昨日、上智大学で開かれた。私は「東京都の財政状況と新たな財政政策に向けた提言」というタイトルで報告をした。前日までに報告用のレジメと資料、パワーポイントの原稿を研究会の事務局に送り、印刷を依頼していた。連れ合いと娘も聴きに来るというので、昨日は四ッ谷駅近くのイタリアン・レストランで一緒に早めのランチにした。2種類のピザとパスタにサラダを注文し、3人で分け合った。娘が苦労して探してくれただけあって、なかなか美味しい味だった。食後のコーヒーもゆったりした気分で味わった。
 受付開始の12時半より少し早く会場につき、パワ-ポイントのテストを済ませた。第1部の研究報告では私以外の3人の報告からいろいろ啓発を受けた。それらを財政面から考えるとともに、自分の報告を準備をする過程で感じた点を記しておきたい。なお、シンポジウムの終了時に主催者が発表したところでは延べ参加者は194名だった。

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大都市ゆえのコストのみ強調し受益の面を無視して認証保育所を合理化する東京都の論理矛盾
 最初の報告者の後藤道夫さんは「雇用・貧困・高齢者・保育・医療 東京の政策課題」と題して福祉グループの研究状況を報告した。ご本人も触れていたが、タイトルからして20分ではとても丁寧な説明をするのは無理な内容だったが、東京都独自の認証保育所の問題点について指摘されたのは私の報告とも重なり、興味深かった。東京都が全国に先駆けて認証保育所を創設したのは認可保育所では受け入れてくれるとは限らない0歳児の保育、長時間保育など保護者の多様なニーズにマッチした保育という触れ込みと同時に、高い地価ゆえの用地確保の困難を理由に0~1歳児1人当たりの面積基準を認可保育所の3.3から2.5m2まで引き下げることを容認することによって、民間業者の参入を促す狙いもあったといわれている。しかし、――私の報告でも触れたが――東京都の一般会計の歳入構成(2009年度)を見ると、固定資産税収入が地方財政計画の10.8%に対して東京都では17.8%に達し、法人関係二税の20.1%に迫る割合になっていることを指摘した。また、東京都はこのあとで述べるように、市町村税である固定資産税、市町村民税法人分、特別土地保有税の三税を調整税として徴収し、これを原資にして23区に財政調整交付金を配分している。つまり、東京都は大企業の東京への集中、人口の集積による地価の高水準で用地確保に高いコストを負担する一方、歳入面では他の自治体と比べて大きな恩恵も得ているという両面を理解する必要がある。負担の面だけを見て、恩恵を得ている面を見ず、財政面の制約を誇張して大量の待機児童を放置し、行き場のない0,1歳児を持つ保護者を、上限付きながら保育料を事業者が任意に決定できるという民間事業者との直接契約制に委ねるのは児童福祉に関する行政の責任放棄といっても過言ではない。

就職チャレンジ支援事業の予算執行率はなぜ低いのか?
 後藤報告では、都が2010年度から廃止するとした「就職チャレンジ支援事業」も取り上げられ、この事業を持続・大幅拡大するよう提言がされた。この提言に私も異論はないのだが、この事業の歳出予算の執行状況を調べると――後掲の報告用レジメの2ページ、パワーポイントのスライドNo.15参照――、
         予算現額   執行額   執行率
  2008年度   19億円   6億円    30.4
  2009年度   29億円   18億円    62.5
で執行率が極めて低い。後藤さんが提言するように、この事業の継続・大幅拡大を要望するのであれば、この事業の歳出予算の執行率がなぜこれほど低かったのかを検証する必要がある。事業の周知度が低いという事情もあったかと思われるが、申し込みの要件として、①年間総収入が扶養人数ゼロ(単身)の場合176万円以下、1人の場合260万円、2人の場合320万円、②預貯金等の資産保有額が600万円以下、③都内に引き続き1年以上在住していること、などが課されていることが利用を狭めている要因ではないかと考えられる。これら要件に該当する人々を優先するのはわかるとしても、単身で年収が176万円を超えた層を不適格とするのは厳しすぎる。また、後藤さんも指摘したように、就業中でありながら求職している半失業者が増加している現実を考えれば、正社員として就業中というだけで排除してしまうのも行き過ぎだろう。

 以下、この日、私が報告用に準備し、参加者に配布してもらった資料と報告の時に使ったパワ-ポイントの原稿を掲載し、報告準備の過程で私が実感した点を補足的に記しておきたい。

報告用本文レジメ「東京都の財政状況と新たな財政政策に向けた提言」
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/sinpo_hokoku_rezime20101003.pdf


報告用資料(データ集)
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/20101003sinpo_hokoku_siryo.pdf


報告の時に使ったパワーポイントのスライド原稿
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/20101003sinpo_hokoku_pp.pdf

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区間の財政力の格差と都区財政調整制度
 新東京政策研究会に参加して東京都の財政状況を調査していく中で私が強く感じたのは23区間の財政力に大きな格差があるということだった。東京都全体では財政力指数でみても(都1.41、都道府県平均0.52.いずれも2008年度。以下、同じ)、経常収支比率でみても(東京都84.1%、都道府県平均93.9%)、実質公債費負担比率でみても(東京都5.5%、都道府県平均12.8%)、将来負担比率でみても(東京都63.8%、都道府県平均219.3%)、東京都の財政力は極めて強固といえる。これは首都圏への大企業と就業人口等の集中による法人二税、住民税の圧倒的な高さによるものである。

 しかし、その一方で、都内23区の財政力指数を確かめると、最高の港区(1.20)と最低の荒川区(0.29)の間には4倍強の開きがある。特に下位の足立区、葛飾区、北区、墨田区は0.4を割り込み、都道府県平均以下となっている。こうした23区の財政力格差を是正することを主な目的にして東京都は普通税として道府県税を徴収する他に、市町村税である固定資産税、市町村民税法人分、特別土地保有税の三税を徴収し、これら税収の合算額の55%を原資にして23区に交付金を配分する都区財政調整制度を採用している。具体的には、各区の基準財政需要額が基準財政収入額を超える部分を財源不足額とみなし、それを補てんするものとして都区財政調整金が交付される仕組みになっているのである。そこで、港区と荒川区の歳入の構成割合(2009年度)を調べてみると、次のとおりだった。
      地方税  区財政調整交付金  国庫支出金  都支出金 その他
港 区  53.6%        7.0              8.6         3.1       27.6
荒川区  17.4%         47.6               13.5           4.6         17.0

 つまり、港区では地方税が50%を超え、区財政調整交付金は7%にとどまっているのに対して、荒川区では地方税は17.4%にとどまる一方で、区財政調整交付金が48%を占めているのである。このことは都区財政調整交付金が両区の地方税収入への依存度の開きで示される財政力の格差を是正する機能を果たしていることを物語っている。なお、2010年度の都の予算では港区と渋谷区は基準財政収入額が基準財政需要額を超えたため、両区は都区財政調整交付金の不交付団体とされた。
 ただし、これはあくまでも歳入の構成比でみた相対比較である。絶対額でみて区財政調整交付金が23区のどこに住んでも同程度の基礎的行政サービス(介護、保育など)を受けられるのを保証するような財政力の開きを調整するのに十分機能しているかどうかを別途検討する必要がある。

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区、市部、町村部、島しょ部の財政力の格差と財政調整制度の改善・拡充
 「都内」というと私たちは無造作に23区を思い浮かべ、都下の市部・町村部・島しょ部を無視しがちである。今回、改めてこれら都下の自治体の財政力指数(2008年度)を調べてみると、次のとおりだった。
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   港 区(最高)     1.20   
   荒川区(最低)      0.29      
   
市部単純平均      1.10
      
武蔵野市(最高)   1.67
      
清瀬市(最低)       0.73
   
町村単純平均       0.40
      
瑞穂町(最高)    1.15
    
青ヶ島村(最低)    0.15
   島しょ部単純平均  0.34

 一見してわかるように、市部では最高の武蔵野市と最低の清瀬市では2.3倍の開きがあり、町村部では最高の瑞穂町と最低の梅ヶ島村では7.7倍の開きがある。また、町村部の財政力は全体として23区や市部と比べ、極めて脆弱であることがわかる。そこで、23区、市部、町村部、島しょ部の歳入構成(2009年度)を調べると次のとおりだった。

       地方税  区財政調整交付金  国庫支出金  都支出金  その他
 23 区   30.0%      30.6              14.1         4.3         21.0
 市  部  53.1%     ( 1.5)                 14.1            10.5         22.2
 町村部   23.1%         (19.4)              7.6              28.0       21.8
 島しょ部 10.5         28.0                    7.5              31.7       22.5
 (  )内は地方交付税の割合

 これを見ると、市部では区財政調整交付金はないものの、地方税が53.1%を占め、自主財源を確保しているが、町村部では地方税への依存度は市部の半分以下で、それを補完するものとして都支出金の割合が30%前後を占めている。この点で町村部の自治体にとって東京都からの各種支出金は脆弱な財政力を補完する死活の財源になっているのである。
 ところで東京都は2006年度から、それまでの市町村向け振興交付金、調整交付金、多摩島しょ底力発揮事業交付金を統合して市町村総合交付金を創設し、2010年度予算では435億円をこれに充てている。この金額は当年度予算における区市町村振興費総額の48.9%に相当する。
 ところで、近年、都下の市長会、町村会等が都の予算編成にあたって提出している要望事項を見ると、市町村総合交付金を市町村の自主性を尊重しつつ増額するよう求める意見が繰り返されている。その詳しい理由は示されていないが、いろいろ調べて見ると、各市町村に毎年度どれだけの交付金を交付するかを決める算定基準に問題があると考えられる。
 
 というのも、交付される金額は4つの要素――財政状況割、経営度努力割、まちづくり振興割、特別事情割――を総合して算定される。自治体間の財政調整という趣旨からいえば、財政状況割が主たる算定要素となるべきところ、現行では30%のウェイトにとどまっている。しかも、2009年度予算までは35%のウェイトであったのが2009年度から30%に引き下げられたという経緯がある。他方、15%のウエイトを占める経営努力割は給与水準の見直しや業績評価制度の導入状況など、本来、各市町村が主体的に検討すべき事項が交付金の多寡に影響を及ぼす仕組みになっている。これでは各自治体の自主性を妨げ、基礎的自治体に権限を移譲するという近年の地域主権の流れにもそぐわない財政誘導と考えられる。また、まちづくり振興割は具体的には東京都が定めた「10年後の東京」プランと連携した事業が加点される仕組みになっており、この点でも都が市町村の自主的な事業計画の立案に財政面から干渉する怖れを孕んでいる。
 包括的な財源補償制度というなら、財政状況割の比重を大きく引き上げ、各自治体の事業計画、予算編成に干渉を及ほす怖れのある事項を総合交付金の算定要素から削除することが必要である。
 なお、第2部の討論の中で上原公子さん(元国立市市長)が、ご自身の行政体験を踏まえて、東京都の財政運営では23区に比べて市町村が置き去りにされがちなこと、市町村総合交付金の充実を訴える発言をされたのが参考になった。

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ブリオン調査会委員の恣意的再任―私の体験をダブらせて―

行政の恣意的な委員選別
 
米国産食肉の安全性を評価するブリオン専門調査委員会の委員再任をめぐって委員会事務局を務める行政と委員の間で説明が錯綜している。任期は設けられていなかったそうだが、45日付けの各紙報道によると、事務局は年齢制限にあたる4人を除いて再任を要望したが、半数にあたる6人は研究に専念したいなどの理由で固辞したと発表していた。しかし、結果として委員を辞した6人全員が輸入再開に関する政府の方針に批判的ないしは慎重な意見を唱えていた委員であったと知って、私は3年前の自分の体験を思い起こし、額面どおりに受け取れなかった。
 
実際、その後の報道によると、例えば、座長代理の金子清俊氏の不再任は自分の意思によるものではなく、「新たに設けられた」年齢制限によるものだった。6人の中の別の委員も再任については追って連絡するということだったが、その後通知がないまま、不再任が決まった形になったと話している。
 
ここまで来ると私が総務省の情報通信審議会委員を再任されなかったときの役所の「手法」と酷似している。「任期切れ」の時こそ、行政が自分の意向に沿うかどうかで審議会委員を選別する格好の機会なのである。

再任を拒まれた私の体験
 
私は旧郵政省の電気通信審議会(現情報通信審議会)委員に就任してから通算で63ヶ月が経過した20031月の時点で2年の任期切れとなった。その時、審議会事務局を務めた総務省の課長が訪ねてきて再任を見送るとの通知を受けた。しかし、大学に籍を置く委員の場合、前例では、48年が慣例だった。そこで不再任の理由を聞くと、「今回、先生を再任すると通算で8年を超えるから」という返答だった。では、通算年月が同じ委員は皆不再任なのかと尋ねると、「いえ、任務の継続性を考慮して会長、同代理、分科会会長、同代理は再任の予定」とのことだった。3ヶ月という端数が生じたのは、省庁再編で委員の発令日が以前の101日から16日に変わったからだった。
 
このようにいうと、事務的形式的理由による不再任と受け取る人が多いかも知れない。しかし、私に対する事務局の説明は私が確かめた次の事実からでたらめであったことが判明する。
 
① 省庁再編を挟む時期に私と同じ審議会委員に就いていた大学教員3人(ABC氏)の通算在任年数を調べると、AB2人は83ヶ月で、もう一人のC氏は73ヶ月だった。つまり、C氏もあと2年在任すると通算で8年を超えることを承知の上で再任され、途中で総務審議官に着任したため、任期が73ヶ月となっただけである。
 
② また、A氏は83ヶ月の任期を終えた後も臨時委員として任用され某委員会の座長を務めている。
 
こうした事実を見ただけでも、行政が任期切れ・再任の機会を使っていかに恣意的に委員を選別しているか、おわかりいただけると思う。もっとも、それ以前に私の場合は任期切れの前の年(2002年)の夏に役所の某氏から、「政治家が先生を再任するなと言って来ています。あまり激しくNTTを批判するのは控えた方がいいですよ」と伝えられていた。そういうことから、不再任もありうるとは思っていたが、その可能性は34割と思っていた。
 
いずれにせよ、私の審議会委員不再任のいきさつと、私が体験した行政による審議会の操縦ぶりは、「総務省が審議会委員の私を『解任』した真相」(『エコノミスト』2003121日)で触れている。そのword版原稿をアップするので、一読いただけると幸いである。
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/singikaiiinkainin.pdf

行政によるオピニオン・ショッピング
 
監査論の世界で「オピニオン・ショッピング」という言葉がある。粉飾決算と判断されかねないグレイな会計処理をした企業が、「適正意見」を付けてくれる監査(法)人を探し回ることを指して使う言葉である。総務省(旧郵政省)、大蔵省、内閣府(旧経済企画庁)の審議会、懇談会委員を務めた私の経験から痛感するのは、第三者機関を標榜した審議会等の答申の大筋は審議が始まる時点で、もっと端的にいえば、委員を人選する時点で固まっているということである。
 
そして、答申の趨勢を決める委員の人選は諮問をする役所が采配を握っており、1,2人の一家言ありの委員(といっても穏健な)を混ぜることはあっても、役所に「優しい」委員が大半を占める人選となることに変わりはない。そこから、私は審議会委員の選任、再任は「オピニオン・ショッピング」(意見の買い漁り)と呼ぶことにしている。
 
そして、審議会委員の体験を通して痛感するもう一つのことは、行政の傲慢な審議会操縦の害悪とともに、自らの肩書き作りのためか、それに加担する御用研究者の堕落ということである。
 
今回のブリオン調査会の委員再任の不透明さが、こうした悪弊を世に知らしめ、審議会に対する市民監視を促す契機となることを願っている。

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