医薬品メーカーを独り勝ちさせている高薬価の是正が急務~「薬価改定と医薬品業界の動向」と題して厚生農協連で講演~

   厚生農協連で講演
 
 昨日(2012420日)、日本文化厚生農業協同組合連合会(通称:文化連)で「薬価改定と医薬品業界の動向」と題して講演をした。
 厚生連は全国各地で病院を経営しているが、この4月に診療報酬と薬価が改定されたのを受けて、次年度の医薬品購入に向けた対応を協議する時の参考にと依頼を受けたものである。以下、講演用に作成し、会場で配布してもらった資料一式(パワーポイント原稿、医薬品業界の直近の財務の状況をまとめた別紙資料3枚)を掲載しておきたい。なお、講演の要旨を資料のあとに掲載したのでご覧いただけると有難い。
 これらの資料が、わが国で、薬剤費が医療費を押し上げる主な要因の一つになっているのはなぜなのか、医療保険財政の再建という時の財源は、「初めに消費税ありき」でよいのか――を考える参考にしていただければ幸いである。

 講演で使ったパワーポイント:「薬価改定と医薬品業界の経営動向(Part1)」
 
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/yakkakaitei_to_iyakuhingyokai_no_doko_part1.pdf
 同上:「薬価改定と医薬品業界の経営動向(Part2)」
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/yakkakaitei_to_iyakuhingyokai_no_doko_part2.pdf

 別紙1 医薬品製造業の財務の状況
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/iyakuhinseizogyo_no_zaimubunseki.pdf
 別紙2 ジェネリック医薬品製造業の財務の状況
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/zyeneriikuiyakuhingyo_no_zaimubunseki.pdf
 別紙3 医薬品卸売業の財務の状況
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/iyakuhin_orosi_zaimubunseki.pdf

 また、当日、配布しなかったが、医薬品製造業の過去5年度(20062010年度)の売上高、売上原価、営業利益の金額と売上高百分比を、製造業平均と対比する形でまとめた資料を作成したので、参考までに掲載しておく。
 医薬品製造業の営業利益率の推移――20062010年度――
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/iyakuhinseizogyo_riekiritu_2006-2010.pdf

 講演の要旨 
 (1)わが国の薬価が国際比較で割高(注)で医療費を押し上げる大きな要因になっているのは、処方箋枚数の増加以上に処方箋1枚当たりの薬剤費が高止まりしていることに起因している。ちなみに、薬局調剤分も含めた薬剤費が医療費総額に占める割合は2010年度(6月審査分)には33.0%となっている。
 (注)全国保険医団体連合会の「日本の薬価問題プロジェクト2011」が医薬ビジランス研究所と共同で行った薬価の国際比較調査(昨年1222日に調査結果を発表)によると、売上上位77品目で見た日本の薬価(相対薬価)は英国、フランスの約2倍、ドイツの約1.5倍になっている。
 詳しくは、保団連「薬価の国際比較調査にもとづく医療保険財源提案」
 http://hodanren.doc-net.or.jp/news/index.html
 (開いた画面の中央にある「保団連の調査など」を「クリック」すると出てくる先頭の記事です。)

 (2)近年わが国では、医療保険財政の立て直しのためにと、医療費の抑制と患者の自己負担の引き上げが相次いで実施されてきた。しかし、その一方で、過去5年間の加重平均でみると、医薬品製造企業(資本金100億円以上)の営業利益率は製造業平均(同左、4.2%)の4.5倍(19.0%)という極めて高い水準を記録している。

 (3)医薬品製造業が、研究開発費その他の販売費及び一般管理費にかなりの出費をした上でなおこれほどの営業利益率を残せているのは、売上高原価率が業種平均で44.3%(過去5ヶ年平均)、トップメーカーの武田薬品工業に至っては20.4%と異常に低いことが最大の理由である。

 (4)他方、医薬品をメーカーから仕入れ、医療機関に納入する医薬品卸売企業の営業利益率は1%前後にとどまっている(2010年度連結決算では0.2%の営業損失)。

 (5)つまり、(3)(4)から、国際比較で日本の薬価が割高で、それが医療費を押し上げる大きな要因になっている究極の理由は、医薬品卸業者が医療機関に納入する価格に問題があるのではなく、医薬品メーカーが卸売業者に販売する時の仕切り価格が原価を大きく上回る水準で決められ、かつ、わが国の薬価算定方式がこうした原価を大きく上回る水準で薬価を高止まりさせる仕組みになっていることにある。

 (6)その仕組みというのは、①効能が類似する医薬品があり、かつ、新規性ありと認められた新医薬品には、画期性加算、有用性加算など様々な名目で類似薬効品の実勢価格に上乗せがされる仕組みになっていること、②類似薬のない新医薬品には原価計算方式が適用されるが、各種営業費用の実績値に加算される営業利益が過年度の営業利益率の実績値をベンチマークとして算定され、その上でさらに既存医薬品と比べて革新性、有効性、安全性において優れているとみなされたものには最大で50%の加算を認める仕組みになっていることを指す。
 詳しくは以下をご覧いただきたい。
 新医薬品の薬価算定方式
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/yakkasanteihosiki.pdf
 薬価算定の実態
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/yakka_santei_no_zittai.pdf

 (7)公正取引委員会は20061月~9月に「医療用医薬品の流通実態調査」を行ったが、その結果を公表するにあたって、次のような指摘をしている。
 ①病院など医療機関による医薬品の選定にあたって、メーカーのMR(注:もともとは医療情報担当者。実態は営業担当職員に近い)による営業活動が卸業者の営業活動よりも圧倒的な影響力を持っている。
 ②そのため、卸業者はメーカーとの間で値引き交渉など価格交渉をする余地が限られている。
 ③メーカーはコンピュターシステムを利用して90%以上の卸業者から、医療機関に対する販売情報(販売先、販売品目、販売価格、販売数量等)を報告させている。
 ④その販売情報提供をもとに、メーカーは卸業者に支払うリベート、アローアンスを決めている。
  (注)上で掲載した別紙3「医薬品卸売企業の財務の状況」において、営業外収益に計上されている「受取情報料」(アルフレッサHD52億円、スズケン46億円)は、ここでいうリベート、アローアンスの受取額を指すと考えられる。また、別紙1「医薬品製造業の財務の状況」で、販売費及び一般管理費の中の販売促進費の割合が大きい理由の一つは、卸売業者に支払うリベート、アローアンスがかなりの金額に上っていることのあると考えられる。

 医薬品の流通過程でのこうした取引慣行は、卸業者が一定の価格以下で医薬品を医療機関に納入しないよう再販売価格に影響を及ぼす行為となる恐れが常にあるから、公取委による不断の監視と機動的な是正措置の発動が求められる。

 (8)さらに、2010年度からは、このように異例といえる高薬価誘導型の方式で算定された薬価を維持させる「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」方式が試行と称して導入され、この4月に改定された薬価でも「試行」を継続することになった。

 (9)医薬品メーカーは創薬のインセンティブと研究開発投資の原資を確保するには薬価のさらなる引上げあるいは維持が不可欠と繰返し主張している。しかし、大手製薬企業の近年の貸借対照表(上記の別紙1を参照)を見ると、「のれん」、「販売権」といった、外部から取得した無形固定資産が大きなウェイトを占めている(武田薬品工業の場合は資産総額の40.9%、エーザイ23.9%、アステラス20.8%、第一三共16.3%)。これは、近年、わが国の製薬大手企業が海外でMAや販売権の取得を活発に進めた結果生じたものである。自社開発か外部成長かは各社の経営戦略によるから、一概にその可否を議論できないが、他から既成の医薬品の製造・販路を取得して成長を図るやり方は「創薬のためのさらなる原資が必要」と言う言い分と辻褄が合わない。

 (10)創薬のための原資というなら、業界全体で見ても負債総額を上回る利益の内部留保(利益剰余金)を活用することが先決である。ちなみに、武田薬品では201112月末(2011年度第3四半期末)時点で内部留保利益(利益剰余金)が22,905億円に達している。これは同時点の負債総額の1.6倍である。

 (11)現行の薬価算定方式では、有用性、画期性、革新性等の言葉を冠した「価値評価」が根拠があいまいなまま、種々折り込まれている。そのため、価値評価を反映させる加算の種別、加算率の選定にあたって、厚労省の担当部局の裁量的な判断が介在する余地が極めて大きくなっている。これについては、スライドNo.6で記載した元厚労省薬価審査責任者の講演趣旨文を参照いただきたい。元記事は以下。
 「当局との薬価取得交渉、有効な資料作成と加算要件」
 【第1部】当局との薬価取得交渉~薬価の算定基準・予測と当局の考える「値ごろ感」~
  https://www.meducation.jp/seminar/regist?id=10493

 (12)確かに、医薬品を開発する事業者の創薬インセンティブを維持・向上させるには、薬価の算定にあたって、医薬品のコストだけでなく価値(効能)の評価も折り込む必要がある。しかし、問題は価値評価をどの段階で折り込むのかという点である。
 私は、(11)で指摘した現行の方式――新医薬品の薬価収載時に行政担当者の裁量的な判断に委ねる方式――ではなく、販売後の利用者(患者、医師)による評価に委ねるのが透明性、客観性の点で優れていると考えている
 この点でいうと、現行の方式では、上市後に予測を超えて売れた医薬品については最大15%(類似薬効算定方式が採用された品目)または最大25%(原価計算算定方式が採用された品目)だけ薬価を引き下げる「市場拡大再査定方式」が採用されている。確かに、利用実績の高い医薬品を少しでも低価にして普及しやすくするのは望ましいことである。
 しかし、高額医薬品の場合は別として、利用実績が高いということは効能、価格両面で医師、患者に受け入れられた医薬品と考えられる。とすれば、販売開始前に根拠が乏しい基準で原価を大幅に超える薬価を設定するのを止め、その分、薬価を現行の水準よりも大幅に引き下げた上で、販売後の実績にもとづいて、医師、患者に効能が高く評価された医薬品については、「売れ過ぎたら下げる」という方式を緩和し、優れた医薬品を開発した功績が事業者にも還元される仕組みにするのが望ましいといえる。
 もちろん、それでも、①類似薬効比較方式では各種の加算制度を廃止し、②原価計算方式では、既存の異常に高い営業利益率をベンチマークとする方式を止めて、製造業平均とまでは言わないまでも、その中間レベルの営業利益を確保する水準までベンチマークを引き下げることにすれば、トータルでは薬価は現状よりも大幅に引下げられ、医療保険財政の改善に大いに寄与する

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公立保育園等のあり方にについて意見を提出

2012年3月18日

 近年、国が打ち出した新しい「子育て支援システム」に呼応して、全国各地で保育園の民営化が進行している。私が住む千葉県佐倉市でも、目下(といっても明日19日が締め切り)、市がまとめた「市立保育園等の在り方等に関する基本方針(案)について意見募集(パブリックコメント)がされている。

「基本方針案」と意見公募の広報
http://www.city.sakura.lg.jp/shiminkyodo/200sanka/010bosyu/20120305_012305000_01.htm

 また、それに先だって次のような提言が市長宛てに提出されている。
「佐倉市保育所の在り方検討会」:提言(平成233月)と会議録
http://www.city.sakura.lg.jp/kosodate/arikata/arikatakentoukai.html

 保育園というと私には孫の世代の問題であり、はじめは子育て世代の保護者に任せるのが穏当な気がした。しかし、事の発端が地方分権を掲げた三位一体改革の下での国の財政誘導(それまで公立保育園に交付されていた補助金・負担金を一般財源化した結果、地方交付税不交付団体をはじめ、富裕自治体とみなされた自治体には国からの交付がなくなるか激減する一方、民間保育園には補助金を交付するというシステム)にあることがわかった。そこで、身近な居住地の問題を自分なりに調べ検討して考えを発信するのは一住民の務めと思え、意見を提出した。深い検討の結果とはとても言えないが、自分なりに保育園の民営化問題を考えるきっかけにはなった気がしている。
 以下は提出した意見の全文である(原文のレイアウトを多少変更したが、内容はそのまま)。

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佐倉市立保育園等の在り方の関する基本方針(案)に対する意見(醍醐聰)

1.意見募集の方法について

 ①このような意見募集をするにあたっては出来上がった基本方針(案)(以下、「案」と略す)を示すだけでなく、(案)の取りまとめのプロセス、特に「佐倉市保育園等の在り方検討委員会」(以下、「検討会」と略す)の提言、同委員会での検討の状況を記した会議録も参考資料として添付してほしい。
 ②意見募集が「既に結論ありきの通過儀礼」ではなく、市民の意見を真にくみ上げる趣旨で行われるためには、基本方針(案)を取りまとめた後だけでではなく、(案)を取りまとめる途中段階(上記検討委員会での審議の途上)でも行う必要があります。

2.公立保育園の民営化について
 ①(案)は主に財政面での理由から、公立保育園の民営化(民間移管)を打ち出しているが、検討会の提言(2122ページ)には、<委員の主な意見>として、

 ・「民間では採算が合わず引き受けられない部分を公立が率先して引き受けないといけない」
 ・「身分が保障されていることが、公立の良さとしてある、保身に走ったり、経営者の言いなりになったり、同僚に対して競争を煽ったりするようなギスギス感は公立にはなかった」
 ・「公立には異動があります。経験豊かな人や、やる気のある人が異動してくることによって、園の雰囲気がまるで変わったり、行事に活気が出たりします」
 ・「年配の職員から若い職員まで年齢層に幅があるというのは、公立の売りかと思います。障害児保育等の推進や、豊富な知識経験の活用が期待できる」
   ・「公立には横の連携や地域とのネットワークがありますが、民間になってしまうと保てなくなってしまうのではないかという懸念はあります」
 ・「市の財政状況が厳しいことも十分承知していますが、子どもたちの育ちと子育てをどのように守っていくか、自治体の判断にかかっています」

といった意見が掲載されています。いずれも、公立の長所、民間立に対する懸念を当事者の体験を踏まえて指摘された意見と思えます。
 こうした意見と民営化をあくまでも推進しようとする提言や(案)の方向付けには大きなずれがあります。こうしたずれがなぜ生まれたのかについて、検討会会長、ならびに意見公募をされる市の担当部署は市民に分かりやすく説明していただきたい。

 ②佐倉市の保育所職員の勤続年数は公立の場合は平均約17年、民間の場合は平均約47年とのことですが、上の委員の意見の中にもあるように、幼い子供と向き合う保育では現場で培う経験、それを伝授していく職員内のシステムが保育の質を維持・向上させるうえで非常に重要だと思います。平均勤続年数47年という民間保育園でこの点がはたして担保できるのか、他市他県の実態も十分調査・研究した慎重な判断が必要です。2009626日に市内5つの園を視察されたとのことですが、正味2時間余りの時間で、かつ保護者からのヒアリングもなしでは、とても十分な実態把握ができたとは思えません。

 ③市は国の三位一体改革に伴う財政負担を民営化の主な理由に挙げています。しかし、県内の類似規模の市の間では公・民立の割合は一様ではありません。また、人口規模が類似する野田市、成田市、習志野市、流山市、八千代市、浦安市と比較しますと(平成21年度、「決算カード」による)、佐倉市は住民1人当りの歳出額は7市の中で最低(229千円)で、歳出のうちの民生費を比較しても同じく最低(65千円)です。このようなデータに照らせば、市が挙げる財政事情には説得力がありません。

 ④平成23929日に開かれた市議会本会議における議員質問の中で志津地区北部に保育園が不足している、という発言があります。しかし、平成234月に八社神社西に開園したユーカリが丘保育園は児童の応募がほとんどない無人に近い状況が続き、同年11月に閉園となりました。このような事実を検討会なり、市の担当部局はどのように把握され、判断されたのか、お聞かせ下さい。

⑤検討会の議事録を読みますと、幾人かの委員から、「民間の職員も臨時職員も公立の正職員と変わらないよい保育をしている」という発言がありました。しかし、民営化の是非や雇用形態を議論する時に問われるのは個々の職員の仕事ぶり(それは別の議論の場面では非常に重要ですが)ではなく、上の2-①で紹介した<委員の意見>にもあるような職員の経験の蓄積、伝承、創意が発揮できる職場環境といった制度面、環境面の問題です。従って、個々の職員の熱意なり意欲なりだけで保育園の設置形態を判断するのが適切ではありません。

 ⑥八千代市で2007年に民間に移管した4つの保育園のうちの1つで2名の保育士が20103月に、児童に不適切な行為をしたとして解雇される事件が起こりました。しかし、解雇された本人と園側、及びその他の職員の事件に関する説明が食い違い、保護者が求めた当事者職員から直接説明を聞く機会も持たれない状況が続いています。また、同園では民間移行後、園長が3人交代し、職員も計11人が退職するという尋常でない状態になっています。民間移管後も行政、法人、保護者が密に連携して、法人の事業運営を監督すると言われるのであれば、近隣市でのこうした事例に深い関心を寄せ、民営化後の行政のあり方だけでなく、民営化の是非の検討にあたっても参考とすべき点が少なくないと思います。この件について、市の担当部局なり検討会は、背景も含め、何らかの調査をされたのでしょうか?また、この件についてどのような知見、見解を持ちか、お聞かせ下さい。

 ⑦以上から、(案)が掲げる公立保育園の民営化には、その根拠も含め、疑問が山積しており、とても今の時点で民営化にゴーサインを出せる状況にはありません。山積した課題をさらに深めて調査・検討するよう、今回の意見募集も踏まえ、検討会での審議の再開、市内のブロックごとに保護者・市民から意見を聞く公聴会を検討会主催で行うよう要請します。

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出入り自由のサンルーム(?)に置かれた段ボール箱で仲良く休む野良ネコ(姉宅)
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日差しが差し込む居間でうたた寝するウメ
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市民の自発性を阻む行政の壁、社協の壁

支援物資を届けようと出かけたのだが 
 3
22日、私たち佐倉市の市民有志はこのたびの大震災の避難者の受け入れに市が積極的に対応するよう市長宛に申し入れた。これに対する市の回答を待つ間に、岩名公園内の青少年センターに福島県から避難者3世帯・7名が入所されているという情報が入った。うち2名は高齢のご夫妻で食材の調達に苦労をされているとも聞いた。ならば、私たちからセンターに出向いて、避難生活の様子を伺い、なにかサポートできることはないか、確かめようということになった。
 といっても、自治体相互の話し合いで受け入れが決まった方々なので、勝手に押しかけるのは控えなければと、28日、とりあえず、思い当たる物資を持って、被災者の受け入れ窓口になっている市の交通防災課へ8人で出向いた。私たちが同課に着いたのは1040分ごろ。それから青少年センターに着いたのは3時間10分後の午後150分。順調にいけば、11時過ぎには着けたはずの場所なのに。なぜ、こんなに手間取ったのか? 説明しだすと長い文章になるが、一言でいえば、市民の自発性を阻む2つの壁――行政の壁、社協(市の社会福祉協議会)の壁――がこれだけの時間の「浪費」(私には浪費としか言いようがない)を招いたのだ。

 行政の壁
 22日の申し入れの趣旨に沿って、市と連携し協働して避難者支援のボランティア活動を行いたいという私たちの申し出に対し、交通防災課の危機管理監I氏は、「市として十分対応できているので、今はその必要はない」との返答。その一方でI氏は「水道水の事まで交通防災課に回ってきて、このところ、大忙し。今、任務の分担の見直しを要望しているところ」という。「それなら、なおさら、受け入れ後の避難者の生活サポートは市民のボランティアに委ね、市は本来業務をしっかりやってほしい」という私たちとしばし、議論。結局、I氏は、「それなら社協に行こう」ということで、私たちを社協が入っている別棟へ案内する。

 社協の壁
 社協の部屋では、地域福祉推進グループのNさんが応対された。用件を告げた上で、「ボランティア登録をする必要があれば、手続きをしますが」と尋ねると、「今、ボランティアセンターを立ち上げようとしているところ。それまで待って下さい。」「わかりました。立ち上ったら登録しますので連絡を下さい。ひとまず、今日、これから物資を持ってセンターへ出向きたいので、駐在の職員に連絡をお願いしたい」というと、I氏もNさんも口をそろえて「それは困る。待ってほしい」の一点ばり。そこへ、青少年センターで避難者と会ってきたという児童福祉課の職員A氏が現れて「避難者の要望は私が聞いています。何も不自由はありませんということでしたので、皆さんが行かれる必要はありません」と同調。「しかし、今日は新しく8名の方が到着されるのでしょう。初めて来た地で実際に生活を始めて、少しずつ足りないもの、必要なことが出てくるのが普通じゃないですか?」「受け入れ施設の確保や災害現場の復旧など、市は独自の業務を。避難して来られた方々の生活サポートは市民のボランティアで分担するというのが本来の形では?」といったやりとりに。今度はI氏いわく、「それなら皆さんの物資は私が持っていきますから、預けて下さい。」「ええ? 大忙しのはずのあなたは、そんなことに時間を使わないで、大切な交通防災の仕事をやってくださいよ」といったやりとりが続いた。

 それでも社協のNさんは必死の表情で私たちを止めようとする。たまりかねて私が、「社協って何ですか? 行政の後ろ盾があるにせよ、民間団体ですよね。私たちも市民のボランティア・グループですよ。社協さんの態勢が整うまで、他の市民グループは活動を待ってと言われる筋合いはないですね」と言うと、しぶしぶ頷く。しばらく、激論をした末、センターの様子を問い合わせることに。I氏によると、「避難者の方は今、食事中なので時間をずらしてとのこと」。

 私たちも市役所の食堂で昼食をとった後、再度、交通防災課に連絡して、センターの様子を問い合わせるよう依頼すると、またもやI氏が私たちがいた一階のロビーにやって来て、「避難者の方はこちらに着かれたばかりなので、しばらく間をおきたい」とのこと。(実はこれはずさんな返答であることがセンターへ行ってみて分かった
。施設の外で車から降りてきたのが避難者の方とわかり、近づいて声をかけると、「私は市の職員の方から、地元のボランティアの人と会うことについて何も聞かされていない」とのこと。その後、しばし、和やかな会話を交わした。)
 それならばと了解した上で、せっかく物資を持ってきたので、今からセンターへ出向いて駐在の職員の方に預けて引き上げるというと、I氏は行ってもらっては困ると言い出す。これには呆れて問い詰めているところへ、交通防災課の課長が心配そうな表情でやってきた。経過を説明すると、「では私がセンターに連絡します」といって、課の部屋へ戻る。すぐに戻って来た課長は、「来てくださいということでした」というあっけない返事。

 市民部長が支援物資を届ける場面を待ち受けたテレビ・カメラ
 
この後、出向いた青少年センターでは、ひとまず、物資を届けることができたが、帰り際、なんとも後味の悪い光景に出くわした。
私たちが物資を届けて建物の外へ出ると、2台ほどの公用車がやって来て車を止めた。どこの車だろうと尋ねると「社協です。」ドアを開けてたくさんの物資を搬入し始めた。カメラをぶら下げた2人の職員を含む5人ほどの一行の中から作業服の人物が下りてきて大きな段ボール箱を抱えて玄関に向かって歩きだした。私たち一行の中の一人が低い声で、「市民部長だよ」。その場面を待ちうけるかのようにカメラを待ちかまえた2人の職員が「パチリ」。おまけにCATVの取材車まで到着した。「取材ですか」と尋ねると「ええそうです」、「市から連絡があってこられたのですか?」、「ええ、そうです」と答えて市民部長らの方へ近づいていった。
 市を代表して物資を届ける市民部長の晴れやかな姿がCATVの画面や社協の広報誌に登場するのも遠くないことだろう。私はそんな「善意の宣伝」を見たくもないが。

 目の当たりにした、まやかしの「市民参加」

 市民を自分の管理下に置かないと不安でたまらない旧態依然の行政。福祉というと社協に身内同然に丸投げする自治体。その行政を後ろ盾にして市民のボランティア活動を仕切りたがる社協。こうした行政と官制法人の二人三脚の福祉独占体制がボランティア活動への市民の自発的参加を狭め、創意を抑制する悪弊の元凶になっていると言っても過言でない。一握りの常連の「市民」、「学識経験者」を座長に据えて、審議会を行政が遠隔操作するうわべだけの「市民参加」も、この日私が体験した行政の悪弊と同根と思える。

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高過ぎる薬価にメスを~クローズアップ現代「追いつめられる患者と財政」を視て(2:完)~

問うべきは高い薬剤費の構造
 私が問い返すべきと思うのは、限られた財源の配分いかんという「価値判断」以前の、医療または医療保険財政をめぐる「事実認識」の問題である。

 1.高額療養費が医療(保険)財政を追いつめるというが、2007(平成19)年度の支給実績によると、それは16,234億円で、国民医療費総額(341,360億円)に占める割合は4.76%に過ぎない。これだけのウェイトの高額療養費負担が医療保険財政を「追いつめている」というのはいささか誇張ではないか? また、国民医療費の水準を問題にするのであれば、日本の総保険医療支出の対GDP比が11.8%で、OECD加盟国中21位、OECD加盟国の平均値(12.9%)を下回っている現実(OECD編著/鐘ヶ江葉子訳『図表でみる世界の保険医療 OECDインディケータ』2009年版、163ページ)も指摘されるべきである。

 2.番組の中で、「患者の症状がわずかでも改善すれば、家族や介護施設の負担が減らせる」という海外の識者の意見が紹介された。このように、公的財政負担の効果を患者本人にとどまらず、その家族、さらには医療施設に及ぼす波及的な効果にまで視野を広げて観察する視点は極めて重要と思えるが、番組ではこの点がフォローされなかった。医療費の公的負担に費用対効果の視点をどこまで適用するのか、深い検討が必要だが、適用する場合には把握しやすい費用と比べ、効果の方は測定の範囲が患者本人の病状の改善度に限られがちである。しかし、それとともに、患者の家族や医療施設の精神的経済的負担を軽減する効果も視野に入れる必要がある。

 3.難病の療養費が高額化する最大の要因として医薬品が高額なことが挙げられた。確かに需要が限定され、高度な研究開発を必要とする新薬の開発費が割高となるのは避けられない。しかし、医療保険財政全体でそうした高額な医薬品をどこまで負担できるのかを問題にするのであれば、現在の医療保険財政の全体を総点検したうえでなければ、高額療養費を「全部面倒をみたらパンクする」と簡単に言ってしまえないはずである。
 そこで、現在の医療保険財政の全体を総点検していく中で気が付くのはほかでもない、日本の場合、国民医療費に占める薬剤費の割合が国際比較で異常に高いという点である。2008年度でいうと、薬剤費比率はドイツ15.1%、米国11.9%、イギリス11.8%に対し、日本は20.1%と突出している。
 次に、薬剤費の変動要因を数量要因(処方箋枚数)と価格要因(1枚当たり調剤医療費)に分けて検討すると、次のとおりである。

            H18年度  H19年度 H20年度   H21年度
調剤医療費(億円)    47,468     51,673       54,402    58,695
(対前年度比%              3.4    8.9    (5.3) (7.9
処方箋枚数(万枚)           68,955    70,739       72,008     73,056
(対前年度比%             3.9    2.6)   (1.8    1.5
1
枚当たり調剤医療費(円) 6,884      7,305         7,555       8,034
(対前年度比%             (▲0.5) (6.1)   (3.4) (6.3
(厚生労働省「最近の調剤医療費(電算分)の動向~平成21年度~」より)

 これを見ると、近年の調剤医療費の増加は処方箋枚数の増加ではなく、調剤医療費の単価の増加に起因していることがわかる。つまり、日本の医療費に占める薬剤費の割合を押し上げている要因は、世上いわれてきた「薬漬け」ではなく、薬価の高さによるものであると判断できるのである。

製薬メーカーの異常な高収益~逼迫する医療保険財政の対極で~
 そこで、医薬品を製造し、卸業者を通じてそれを医療機関に納入しているわが国の製薬企業の損益構造を概観すると、次のとおりである。

       
    医薬品製造企業の百分比損益計算書(2008年度)

                          
製造業  医薬品製造業  武田薬品工業  第一三共

売上高         100.0               100.0                100.0               100.0
売上原価              83.9                 34.7                  26.1                 25.5
 売上総利益             16.1               65.3                  73.9                 74.5
販管費                       14.9               48.6                  46.0                 64.0
 うち、研究開発費  5.7                19.1                  31.5                 21.9
 営業利益                  1.2                16.6                  27.9                 10.6
営業外収益                  3.1                  2.0                    3.8                   1.5
営業外費用                  1.7                  1.1                    0.8                   5.5
 経常利益       2.6               17.5                  30.8                  
6.6


(製造業、医薬品製造業は資本金100億円以上。これら業種のデータは、経済産業省産業政策局調査統計部『企業活動基本調査報告書』2009年版、武田薬品工業と第一三共のデータは両社の「有価証券報告書」)

 
つまり、医薬品業界は新薬開発に莫大な研究開発コストがかかり、薬価を引き下げると、日本の医薬品の開発力が落ちてしまうと口癖のように唱え、新薬開発のインセンティブを維持し高めるためにと薬価改訂にあたって様々な新薬加算制度(画期的加算、市場性加算、新薬創出加算など)の導入を働きかけてきた。しかし、上のデータを見ると、確かに製造業平均と比べ、売上高研究開発費比率がきわめて高いことは確かだが、その研究開発費を控除した上での営業利益率は医薬品業平均(16.6%)で製造業平均(1.2%)の13.8倍を記録し、業界トップの武田薬品工業(27.9%)は実に製造業平均の23.3倍の営業利益率を記録している。こうした傾向は2008年度に限ったことではなく近年、一貫している。)
 その結果、2009年度末現在で、医薬品製造業全社の利益の内部留保(利益剰余金)の合計は6.1兆円、武田薬品工業1社で2.6兆円に達している。ちなみに、武田薬品工業の利益剰余金の金額は同じ時点の負債総額の3.3倍に相当する。

 このようなデータは医薬品の売価が製造原価との対比で異常に高い水準にあること(売上高原価率が業種平均で34.7%)、そして、これをベースに医療保険に請求される薬剤費の水準を公定する薬価が決められていることを意味する。

高過ぎる薬価を生み出す薬価算定制度
 具体的にいうと、現在の薬価算定方式では、類似薬がないと判定された新薬を薬価に収載するにあたっては原価計算方式で薬価を算定することになっているが、現在、厚労省は日本政策投資銀行が刊行している『産業別財務データハンドブック』(平成18年発行)に記載された医薬品製造業の平均営業利益率19.2%を営業費用(流通経費を除く)に上乗せして算定することにしている。しかも、その上で革新性があると(厚労省が)認めた医薬品についてはこの19.2%からプラス50%を上限として加算することを認めている(ただし、革新性がないと判断した場合は逆に減算することにしている)。

 例えば、201062日、98日、1126日に開催された中医協総会に総数36の新医薬品が薬価収載予定の薬品として提出されたが、そこで薬価算定方式として原価計算方式が採用された13の医薬品の薬価の補正加算等の状況を調べると、平均営業利益率(19.2%)のままとされたものが8例、10%加算(19.2×1.121.1%)されたのが1例、20%加算(19.2×1.223.0%)されたのが1例、30%加算された(=19.2%×1.325.0%)のが1例、5%減算(19.2×0.9518.2%)されたのが2例であった。
 これは限られた事例ではあるが、平均営業利益率に対して補正が施される際には減算もあるにはあるが、それを大きく上回る加算がされる場合の方が多いことがわかる。つまり、新医薬品の薬価算定にあたっては、もともと製造業平均と比べて著しく高い営業利益率が
既得権かのように保証され、その上にさらに大幅な加算がなされているのである。

 また、類似薬がある新医薬品を薬価に収載するにあたっては、類似薬効比較方式が採用されるが、このことは、①原価計算方式で薬価が算定された既成の医薬品と薬効が類似するとみなされる新医薬品には、多くの場合、それ自体、異常に高い営業利益率が保証された上に種々の補正加算がされた薬価が踏襲されると同時に、②ここでも、有用性加算等の名目で高率の補正加算が施されることになっている。ちなみに、上で挙げた、201062日、98日、1126日に開催された中医協総会に提出された13の新医薬品のうち、2例について5%、3例について10%、1例について15%の加算がそれぞれ認められている。
 このような実態は、裁量的な補正加算によって医薬品製造業では、ある場合には業種平均で異常に高い営業利益率が保証され、またある場合には異常に高い営業利益率をさらに螺旋状に上昇させる仕組みが公認されていることを意味する。

 こうした現実を見据えると、医療保険財政を「追いつめている」大きな原因の一つとして、高すぎる薬価を指摘できるだろう。したがって、医療財政の逼迫を打開するカギは高額療養費の抑制にあるのではなく、高すぎる薬価を正常な水準まで引き下げることにあるといえる。クローズアップ現代がこのような実態を追跡する続編を企画することを期待したい。

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あきらめの勧めで終わってよいのか~クローズアップ現代「追いつめられる患者と財政」を視て(1)~

金の切れ目が命の切れ目
 1月25日、NHKのクローズアップ現代は「問われる夢の医療~追いつめられる患者と財政~」というタイトルの番組を放送した。番組の専用サイトは、この番組の趣旨を次のように解説している。

 「いま、命を救うはずの夢の新薬によって、窮地に追い込まれる患者や家族が急増している。ここ数年、がん治療の最前線では、細胞中の分子をピンポイントで攻撃する『分子標的薬』が登場し、以前は助からなかった患者の延命治療が可能になるなど目覚ましい効果があがっている。しかし、薬には巨額の開発コストがかかるため、患者は一度使い始めたが最後、生涯、高額な薬代を負担し続けなければならず、経済的な理由から使用を中断する患者が後を絶たないのだ。患者団体は国に助成を求めているが、医療保険財政逼迫のため対策は容易ではない。番組では、“費用対効果”の観点から医療制度を大きく見直したイギリスの取り組みなども紹介しながら、高度医療と財源のバランスをどう取るべきなのかを考える。」

 このような趣旨に沿って、前半では高額の医療費に「追いつめられるがん患者」の実態をKさんの実例を追いながら描いた。Kさんは10年前に骨髄の中ががん細胞で侵され、白血球が増加する「慢性骨髄性白血病」を発症した。当初は平均生存期間45年と言い渡されたが、細胞中の分子をピンポイントで攻撃する「分子標的薬」「グリベック」を服用し始めると、1ヶ月でがん細胞は正常範囲に収まった。

 しかし、「夢の医療」は患者にとって朗報と喜んで済まなかった。1錠約3,130円のグリベックを1日4回服用すると高額療養費制度を利用しても、患者負担は月44,000円、年間約50万円になる。Kさんは、夫婦で経営していた店が不振になったこともあり、家計への負担に悩んだ末、妻に内緒で「グリベック」の服用を止めてしまった。すると、症状が急速に悪化、服用を再開したものの手遅れで効かず、昨年11月に死亡した。番組は残された妻の、「貧乏人は死ねということか。悔しい」という言葉を伝えた。「金の切れ目が命の切れ目」という諺そのものの現実を見せつけた場面だった。

高額療養費で医療保険財政も追いつめられる?
 番組はその後、高額療養費を理由に「夢の新薬」の服用を止めてしまう患者が低所得層に限られないという現実を伝え、このままでは、経済的な理由で医療を受けられないという国民をなくすために50年前に国民皆保健を作った前夜の状況に戻ってしまう、そうならないよう、患者負担が軽減するように医療制度を見直すことが急務になっているとも伝えた。

 しかし、番組の後半は、患者の負担から医療財政の負担に話題を転じ、患者負担を肩代わりする医療保険や公的財政が急増する高額療養費の負担で窮迫する現状を様々なデータを使って伝えた。2010年には37.5兆円の国民医療費が2025年には52兆円に達するという予測、高額療養費の利用実績(平成8年度)が12千億円に達している等々。その間、番組では医療経済専門家が登場し、「一体どこまで公的医療保険で面倒をみるのか」、「全部認めたらパンクする」といった発言を紹介した。
 これほど新薬が高額になる理由を識者は、「バイオなど新しい技術を使いますので、薬の開発、製造に大きなコストがかかります。また、遺伝子変異の有無などで、効くか効かないかが決まりますので、対象となる患者さんは絞られ、薬剤の流通量は限られます。そうした理由で、一部の薬は驚くほど高い価格になっています」と解説していた。

患者負担と財政負担の狭間で
 では、医療保険財政の限界を見据えながら、患者負担も抑ええるという難しい課題をどう解決すればよいのか? 番組は海外の先進例も紹介しながら、2つの方法を紹介した。
 一つは、がんなどの最新医療のコストを下げる試みである。アメリカのがんワクチンは、体内から免疫細胞を取り出して作るので800万円近い費用がかかるのに対し、免疫細胞を取り出さずに体内で活性化させ、増やす方法でコストを大幅に引き下げた久留米大学の例が紹介された。
 次に、症状に応じて優先度をつけて医療費を配分しているイギリスなどの例が紹介された。例えば、アメリカのオレゴン州では、がんなどの治療に優先的に財政負担を充てることによって患者負担をゼロにする一方、かぜなどは優先順位の低い症状とみなして全額患者の自己負担としている例が紹介された。もっとも、このように公的負担を費用対効果で選別することにはイギリス国内で批判が強いことも紹介されたが。

あきらめの勧めで終わってよいのか?
 番組を見終えて、関係者以外に知る機会が少ない高額療養費に苦しむ患者とその家族、それを負担する医療保険の財政の実情を伝えたこと自体、貴重なドキュメンタリーだと思えた。そして、その後、調べてみると、「高額療養費に追いつめられる」患者・家族はほかにも少なくないことがわかった。
 その一つに、リウマチ新薬がある。2003年から徐々に使えるようになった遺伝子工学で作られたリウマチ新薬で症状が消えたり、改善したりする患者が着実に増えたと言われている。しかしその一方で、高価な新薬を使えない患者もいる。「日本リウマチ友の会」(会員約2万人)がこのほどまとめたリウマチ白書(2009年7月に調査表郵送)によると、回答した患者8,307人のうち、新しい生物学的製剤を使う患者は5年前の5%から29%に急増した。その結果、1年前と比較して症状が消えたと答えた患者は2%から4%と倍増。「良くなった」も27%に増えたという。つまり、治らない病気というリウマチのイメージが変化し、寛解から治癒までも患者は期待し始めているという。しかし、医療費の自己負担は1ヶ月平均で3万円以上が15%に増え、高額なため新薬を使えないという患者も4%いたという。(以上、熊本日日新聞 2011225日朝刊)

 クローズアップ現代は、このように高額療養費で追いつめられる患者とその家族の過酷な現実の一端を伝えるには伝えた。しかし、それに続けて、様々なデータや識者の発言を駆使して、患者の自己負担を肩代わりする医療財政の限界を強調し、印象付けた。
 このような番組の顛末を見届けて私は、ほかでもない番組の前半で登場したKさんの遺族、あるいは番組を注視したと思われる全国の「高額療養費に追いつめられる患者とその家族」、さらにはその担当医師は番組の後半で語られた、「一体どこまで公的医療保険で面倒をみるのか」、「全部認めたらパンクする」という識者の発言をどのような思いで受け止めたのだろうと、想像をめぐらさずにはいられなかった。これでは、患者らに向かって「あきらめの勧め」を口説いたのも同然ではないか? 私が当事者なら、おそらくそう感じただろう。

 しかし、それは感情論であって、厳しい財政事情をあるがままに伝えるのもメディアの役割だ、そういう現実をどう打開するかはメディアの役割ではなく、現実を知らされた人々(行政当局者も含めて)が考えることだ、という答えが返って来そうである。
 しかし、私は一見、もっともらしい冷静を装ったこのようなシニカルな態度こそ、冷静に問い返されなければならないと考えている。(以下、続稿)

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介護報酬の引上げは保険料の引上げなしでも可能である~介護保険財政の現状分析(1)~

 年末以降、雇用を打ち切られ、住まいも失った人々が日比谷公園の年越し派遣村に集まってくる様子やイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への攻撃で多数の死傷者が出ている模様を伝えるニュースを見ていると、年の切れ目を実感できません。しかし、それでも皆様それぞれの思いを込めて新年を迎えられたことと思います。今年も細々ながら、日々の体験や感想をこのブログに綴っていきたいと思います。どうか、よろしくお願いいたします。
 新年最初の記事は介護保険財政をテーマに3回に分けて取り上げることにしました。

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介護報酬の引上げも財政規律を「底抜け」させるものなのか?

 2009年度予算の大蔵省原案や2008年度第2次補正予算案をめぐって、多くのマスコミは、①定額給付金の計上や一般財源化後も道路特定財源の予算の大半を道路整備に回す仕組みにしたことも、②社会保障費の伸びを2,200億円抑制する小泉内閣以来の方針を事実上、覆したことも、おしなべて、「財政規律『底抜け』」という大見出しで報道し、介護報酬の3%の引き上げなど数百億円の歳出増を「2,000億円枠」外側で掲げながら抑制枠の数字合わせに終始する現実を自嘲する厚労省職員の声を紹介している(『毎日新聞』20081220日)。
 このように、①を選挙目当てのばらまき財政と評することに異論はないが、それと②の社会保障費の増額を同列に置いて、どちらも財政規律を骨抜きにする放漫財政の象徴かのように評価する報道は、日本のメディアが、小泉政権が掲げた「構造改革」というワン・フレーズを中身の吟味なしに賛美した思考停止の呪縛から、いまだ解脱できていないことを物語っている。

 問題を社会保障全般から介護保険に絞っていうと、介護報酬を引き上げる以上、それに見合う保険料の引き上げなしには介護保険制度の持続可能性はないかのように信じ込む発言が社会保障審議会(内の介護給付費分科会)の委員の間にも見受けられる。たとえば、昨年1212日に開催された同分科会第62回会合に事務局が提出した「平成21年度介護報酬改定に関する委員のご意見」(未定稿)と題する参考資料では、それまでの会合で出された委員の意見が列挙されているが、その中で目立つのは次のような報酬増と負担増の連動論である。

 「介護報酬の引上げと給付の適正化、被保険者の負担増について国からの説明が必要」
 「介護報酬を引き上げると保険料も上がることから、報酬引上げの理由をきちんと説明すべき」
 「介護報酬を引上げれば保険料が上がるのは当たり前。如何に財源を確保するかという問題がある。」
 「利用者負担の増加を避けるのであれば、介護報酬の引上げは不可能である。」

 しかし、介護保険の財源(原則1割の利用者負担を除く保険給付の財源構成)は大きく分けると、
 1.公費50%(国25%+都道府県12.5%+市町村12.5%):各一般会計よ  り繰入れ
 2.保険料50
  *第1号被保険者(65歳以上):3年ごとに市町村が決定。所得に応じ   て5段階。公的年金より天引き
  *第2号被保険者:医療保険から自動払い

 このように介護保険の財源(利用者負担は別枠)が公費と保険料から構成されている現行の制度の下で、介護報酬を引上げるには保険料の引上げに頼るほかないかのように決め込む発言は一体、何を根拠にしているのだろうか? 昨今わが国では、社会保障費増額のための財源というと自明のように消費税引上げを予断する論調が一部の「有識者」やマスコミから流布されている。介護報酬の引上げの財源というと保険料の引上げを自明のように唱えるのも、根拠のない予断という意味ではこれと同種である。

 しかし、予断はそれにとどまらない。そもそも新たな財源の手当てなしに介護報酬の引上げは不可能かのように論じること自体、私に言わせると初歩的な予断である。なぜなら、
 ①介護報酬の引上げに新たな財源が必要かどうかは、介護保険財政の現  状――収支の均衡状況――を確かめることなしに判断できない。
 ②かりに収支の不均衡が構造的なものとみなされ、歳出増のためには新  たな財源が必要と判断された場合、それを公費の負担増に求めるの   か、保険料の引上げに求めるのかという議論を国民的規模で行う必要  がある。新たな財源というと、保険料引上げ(広い意味での受益者負  担)を自明のこととみなしたり、公費負担というと消費税引上げが自  明であるかのように論じたりするのでは、国民誰もが健康で文化的な  生活を送る権利の保障に関わる社会保障の財源論に値しない。また、  そのような貧困な発想しかできない人物に果たして社会保障審議会の  委員としての資質なり知見が備わっているのかはなはだ疑わしい。

保険料の引上げなしでも介護保険特別会計は持続できる

 上の2つの論点のうち、議論の因果からいって、①の論点に判断を下すのが先決である。そこで、特別会計で運営されている介護保険財政の全国ベースの状況を調べてみると、結果は表1のとおりであった。

 1 介護保険特別会計の収支と諸基金の残高の推移(2000年度~2006年度)
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/table1_kaigohoken_tokubetukaikei_shusi_kikin.pdf
 (注:歳出項目に計上されている「介護給付費準備基金」とは3年間とされる介護保険計画期間の初年度に生じると見込まれる剰余金を後年度に生じると見込まれる欠損金を補てんする財源として留保するために設けられる基金である。「財政安定化基金」については後ほど説明する。)

 表1を見ると、次のような特徴を指摘できる。
 ①市町村が運営主体となって設置している介護保険特別会計は制度発足  以来2006年度まで毎年度歳入余剰を計上し、収支率(歳入/歳出)は  101.3105.9の範囲で推移している。
 ②歳入・歳出の項目別の推移を2000年度を100とした2006年度の指数で  調べると(2000年度は制度導入の初年度でイレギュラーな金額が混入  した可能性があるため、2001年度を100とした指数を括弧内に併記し  た)、歳入総額は172.9141.1)、保険料は656.0(214.0)、公費は   135.5133.7)であった。他方、歳出総額は176.6139.3)、保険給付
  費は
180.9142.7)となっている。ここから、収支率はほぼ横ばいで  あるが、保険料の大幅な伸びに対して保険給付費の伸びはその約4分  の12001年度を基準年度とすると約3分の2)にとどまっている。
 ③表1は厚労省の公表資料に基づく2006年度までの市町村の介護保険特  別会計の全国集計値であるが、厚労省がまとめた2007年度の暫定推計  値によると同年度の全国集計値では3,800億円の黒字を記録したとい  う(『朝日新聞』2008129日)

 こうしたデータを見ると、介護保険財政の持続可能性に不安材料は何もないことがわかる。むしろ、保険の原理にならって被保険者全体としての負担と受益の関係を確かめると、制度発足以降の負担の増加との対比で給付が極めて低い水準で推移してきたことがわかる。特に、介護保険計画の第3期の初年度に当たる2006年度から介護保険料は25%引上げられた結果、保険料収入が1.28倍(=12,621億円/9,835億円)に増加したにもかかわらず、保険給付費は1.01倍(58,842億円/58,119億円)で伸びはほぼゼロとなっている。これでは、「保険料あって介護なし」といっても過言ではない。
 こうした介護保険財政の実態を直視すれば、保険料の引上げなしには介護報酬の引上げはあり得ないかのような議論がいかに現実に関する無知に基づく稚拙で無責任な予断であるかが判明する。

 となると、次には、なぜこのような「保険料あって介護なし」の実態が生まれたのか、その原因を究明することが必要になるが、その前に、介護保険財政と介護報酬(保険給付費)を引上げる財源をより的確に把握するには、表1の歳出項目に計上されている財政安定化基金(市町村が通常の努力をしてもなお生じる第1号保険の未納、見込みを上回る介護給付費の伸びなどによって財源不足が生じた場合に、それを補てんするために市町村に貸し付けや交付金の交付を行うための基金)と介護給付準備基金(介護計画期間3年の初年度に生じると見込まれる剰余金を後年度に生じると見込まれる欠損金を補てんする財源として繰り越すために設けられた基金)の運用の実態を確かめておく必要がある。次回の記事ではこの点を取り上げることにする。

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 このところ夜は冷え込みが厳しいので、飼い犬の「ウメ」を居間で寝かせている。4つ折りにした布団の上で身体を丸めて眠ると毛布やタオルケットをかけてやるが、いつの間にか自分の鼻と足で毛布を鳥の巣のようにすり鉢形に「造作」し、掛け布団の端をたたんで枕にして眠っている。

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生活保護・医療保険はセ-フティネットとしてどう機能しているか~NHKスペシャルへの自民党議員の攻撃に関連して(その1)~

NHKスペシャル~セ-フティネット・クライシス~が伝えようとしたこと
 
さる511日に放送されたNHKスペシャル「セ-フティネット・クライシス~日本の社会保障が危ない~」は、国民健康保険料滞納により、保険証を取り上げられて医療が受けられず、亡くなった人々のことを取り上げた。
 これについて520日の参院総務委員会で磯崎陽輔議員(自民党)は、参考人として出席したNHK正副会長ほかにむかって、政治的に偏向した番組だと咎めた。健康保険料には減免制度があることを番組はきちんと伝えなかった、保険料滞納の背景を説明していない、保険証の取り上げと死亡の因果関係を証明していない――これが磯崎議員のいう「偏向」の中身だった。もとより、ある番組で取り上げたテ-マについて、その背景を十全に説明することは時間的に不可能である。
 それを承知で、この番組が伝えようとしたのは、人件費の削減のため企業が雇用を拡大した非正規社員は、社会保険への加入が認めらない例が少なくない、その結果、非正規社員の国民保険への加入 国民保険の医療費負担の増加 保険料の引き上げ 滞納者の増加、という悪循環が生まれている実態だった。日本の社会保障(セ-フティネット)が直面する危機的状況を伝えることは、市民が日本の社会保障制度が向かうべき方向と政策課題を考える上で貴重な素材になると考えられる。

生活保護の申請を抑制する水際作戦
 磯崎議員は医療保険制度には生活保護制度という補完的セ-フティネットがあるのにこれに触れなかったとNHKスペシャルを非難した。しかし、それをいうなら生活保護制度が補完的セ-フティネットとしてどれほど機能しているのかに言及する必要がある。
 折しも、2008722日の『朝日新聞』朝刊に、同紙が情報公開法によって厚生労働省から入手した全国各市と東京23区の2006年度の生活保護申請率(福祉事務所の窓口に相談に訪れた世帯数のうち生活保護の申請をした世帯の割合)の実態調査の結果が掲載された。それによると、それによると、全市集計では相談に訪れた世帯は348,276でうち申請したのは155,766、申請率は全国平均で44.7%だった。ただし、都市によって申請率のバラつきが大きく、指定市で最高の千葉市は70.5%だったのに対し、最低の北九州市は30.6%だった。また、同じ市の中でも大阪市では24区のうち、北区72.4%から浪速区の21.8%まで50ポイント以上の開きがあった。このことは相談窓口での対応が市あるいは区ごとの裁量によって左右されていることを意味する。

 事実、「親族がいるからダメ」とか、「仕事を探せ」などといって、申請書を渡さない「水際作戦」が各地に広がり、申請権が侵害されたと相談した世帯が訴訟を起こす動きも出ている。たとえば、申請率全国最低の北九州市では1980年頃から各福祉事務所が保護開始数を目標値以下に抑える「目標管理」を導入したという。同市では2007年までの3年間に保護申請を拒まれた男性が孤死に至る事件が3件起こった。その中には、半ば強制的に申請の辞退書を書かされた男性がいた。

セ-フティネット・クライシスの制度的背景
 このようにセ-フティネットが半ば機能不全の状態に陥った本質的原因は自治体の窓口対応のあり方ではなく、非正規雇用者に対する日本の社会保障の後進性にある。以下では、この問題を雇用保険、健康保険、厚生年金に分けて検討した戸田典子「非正規雇用者の増加と社会保障」『レファレンス』20072月、を参照しながら、非正規雇用者に対する日本の社会保障の実態を確かめておきたい。

  表1 雇用形態別の各種保険の適用率         単位:%

雇用保険

健康保険

厚生年金

正社員

99.4

99.6

99.3

非正社員全体

63.0

49.1

47.1

契約社員

79.0

77.4

72.2

嘱託社員

83.5

87.7

84.5

出向社員

87.4

90.9

89.3

派遣社員

77.1

69.9

67.3

臨時的雇用者

28.7

24.7

22.7

パ-トタイム労働者

56.4

36.3

34.7

その他

70.9

67.0

65.6

(出所)厚生労働大臣官房統計情報部『平成15年就業形態の多様化に関す
る総合実態調査報告』
pp.148149.戸田典子「非正規雇用者の増加と社会
保障」『レファレンス』
20072月、32-ジ、より作成。

 上の表1から、
①正社員と非正社員では3つの保険の適用率にいずれも大きな開きがあること、
②さらに、その開きは健康保険・厚生年金の間で顕著な差が見られ、非正社員へのこれら2つの適用率は50%を下回っていること、
③非正社員の中でも、契約社員、嘱託社員、出向社員はどの保険でも70%を超える適用率となっているのに対し、臨時的雇用者、パ-トタイム労働者の健康保険、厚生年金の適用率は40%を下回っていること、
がわかる。

 このうち、①のような実態が生れたのは、被雇用者側の要因からいうと、健康保険、厚生年金の場合は配偶者の被扶養者となれば保険料を負担する必要はない、そのため、労働時間、労働日数の基準を満たしていても、非正規雇用者本人としての加入を避ける場合がある。また雇用者側の要因としては、正社員であれば雇用保険とともに負担しなければならない社会保険料を負担しなくて済むという事情がある。その結果、
2005年現在、国民年金の第1号被保険者の37.2%は雇用者で、そのうち、25.2%は臨時・パ-トの労働者が占め、自営業主の割合は17.8%にとどまっている。1996年当時、臨時・パ-ト労働者の占める割合は13.8%であったから、この10年間に2倍弱の伸びを記録したことになる(戸田、前掲論文、26ページの図2参照)。

 また、短時間労働者の医療保険への加入状況の一端を確かめた資料として、戸田論文(
37ペ-ジ)は厚生労働省『平成16年国民生活基礎調査』を紹介している。それによると、35歳未満のパ-ト、アルバイトをしている者(求職中を含み、学生を除く)のうち、自分の勤務先の医療保険に加入している者は男性で20.1%、女性で25.0%に過ぎず、男性の49.9%、女性の36.0%が市町村国保または国保組合に加入している。

 このように見てくると、
NHKスペシャル~セ-フティネット・クライシス~は時間の制約の中で、非正規雇用者に対する日本の社会保障の貧困を的確に伝えたと言って差し支えない。加えて、前記のような日本の生活保護制度の歪んだ運用の実態を知るにつけ、(最後の)セ-フティネットとしての生活保護制度を紹介しなかったとNHKスペシャルを攻撃した磯崎議員の国会質問は、放送法が禁じた公権力による個別の番組への露骨な干渉であると同時に、同議員自身の生活保護制度に関する認識の欠如を露呈したものといえる。

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生活保護の申請拒否を「辞退」と伝えたNHKの体質

 高知の方から届いたNHKのいじめ報道への疑問

 昨日、高知県のAさん(面識なし)から電話をもらった。用件は、神戸の某私立高校における生徒の自殺事件を伝えた9月17日夜11時のNHKニュースについてだった。Aさんが問題にしたのは、ニュースの中でNHKが学校側あるいは警察情報をそのまま受け取り、自殺した生徒と金を要求した生徒を「普段は仲がよかった」と伝えたことである。「なぜ一方サイドの見方だけを伝えるのか? いじめられた生徒の実情を知る関係者、友人の見方もなぜ併せて伝えないのか?このような報道の仕方がいじめの実態を見過ごす、過小評価する、さらには見て見ぬふりをする風潮を助長するのではないか?」というのがAさんの意見だった。

 私はこのニュースを視ていないが、AさんはすぐにNHK視聴者センターとBPOに質問、連絡をしたそうだ。
 「NHKはどう答えましたか?」と聞くと、「私たちは警察情報をそのまま伝えるしかない」ということだったそうだ。BPOは「私たちはそういう問題は取り上げられない」との返事だったという。

 NHKの見解をもう少し詳しく聞く必要があるが、こうしたいじめ事件を取り上げるメディアの報道には、「当事者同士は普段は仲がよく、いっしょに遊ぶ仲間だった(と聞いている)。なぜ、こんなことになったのか見当がつかない」といった学校関係者の声をそのまま流すのが恒例になっている。これだと、ちょっとした悪ふざけが大きな事件に発展したといわんばかりの物言いに聞こえる。しかし、中には、「放課後に呼び出されて脅かされていた」といったような親しい生徒の証言を伝えるメディアもある。また、子供からいじめの模様を知らされ、心配になって学校あるいは警察に連絡したが有効な対策を取ってくれなかったという保護者の声が伝えられることもある。学校・警察側と生徒に近い関係者の状況認識や言い分にギャップを感じさせらる場合が多い。

 NHKに限らず、すべてのメディアは「いじめに遭っている被害者の本音は聞こえにくい、という当たり前のことを銘記した取材・報道がなぜできないのか? 学校サイドや警察の建前会見を伝えて事足りとするのでは、「マスコミあって、ジャーナリズムなし」である。

理不尽な生活保護の拒否を「申請辞退」と伝えたNHKニュースの体質

 Aさんの話しを一通り聞いた後、私から次のような感想を伝えた。「同じような感想を私も持ったことがあります。先月、北九州市で生活保護を打ち切られた人がその直後に自殺するという事件が起こりました。その日の夜7時のNHKニュースは冒頭で、『申請を辞退した人が』と伝えました。これも弱い立場にある人間のうわべの言葉を右から左へ流すだけの行政加担報道と思えたので、すぐにNHKへ異議を伝えました。」

 この件については、昨年も北九州市で同様の事件が起こっている。それを機に昨年10月に弁護士、研究者、住民ら300人が参加した調査団が同市を訪れ、3日間に渡って生活保護行政の実態調査を行っている。そこでは、厚労省も容認した、申請時に弁護士が同席することを北九州市が拒んでいる点などが問題にされた。

 今回も申請者の就労可能性について、主治医は「仕事をしていいとは言っていない」と語り、行政側の言い分と食い違いが出ている。事件後、不本意に申請を拒まれたことに対する怒りを記した申請者本人の記録も発見されている。こうした事実経過を踏まえ、事件後、弁護士らが理不尽な生活保護行政を告発する訴訟を起こしている。

 こうした事件の背景をNHKが知らないはずはない。その上で、ニュースの冒頭で「申請退」者と表現したことは、言葉の選択の次元の問題ではなく、時の政治・行政を監視するというメディアの使命をNHKがなにほど自覚しているかが問われる深刻な問題といわなければならない。

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有料老人ホームの入居一時金の怪

コムスン事件を機に入居一時金の怪を調査

 今年6月に厚生労働省がコムスンの指定介護事業所(全国で約1,600箇所)について来年4月以降、指定の更新を打ち切るよう、都道府県に通知した事件をきかっけに、コムスンの経営状況に関心を持ち、資料集めを始めた。報道では、コムスンの様々な不正請求が伝えられているが、調査を進めるうちに有料老人ホームが入所時に請求する一時金(入居一時金)に問題が山積していることに気がついた。

 さっそく入手できた財務資料を下調べし、それを基に6月15日に、コムスン(広報室)へ同室の指示にしたがってE・メール添付の書面で質問書を送った。しかし、なかなか回答が来ないので8月13日、回答を督促するE・メールをコムスン広報室へ送ったところ、8月18日に同室から回答できないとの返信が届いた。そこで、補足調査のため、東京都高齢社会対策部施設運営係に問い合わせをして、入居一時金一般に関するいくつかの重要な事実を確認できた。この記事はこうした経過を経てまとめたものである。

入居一時金の30%を即時償却し、残額を5年で償却してしまうコムスン

 入居者の経費負担には月払い方式、一時金方式および両者を組み合わせた方式がある。その中の一時金方式について、厚生労働老健局長通知「有料老人ホームの設置運営指導指針」は次のように説明している。

  「一時金方式(終身にわたって受領すべき家賃相当額の全部または一部を前払金として一括して受領する方式)」(下線は2006年3月31日付けの最終改正で追加されたもの)

  また、社団法人全国有料老人ホーム協会は、「入居一時金」の性格について、次のように説明している。
http://www.yurokyo.or.jp/knowledge/03.html

  「入居一時金  有料老人ホームは、建物の建築について、公的な補助はありません。ホームの建設費用は、入居者の方からいただく費用で成り立っています。入居一時金を支払うことによって、専用居室や共用施設を利用する権利を取得することになります。言ってみれば、長期の家賃相当分の前払いと考えることができます。」

 実際にも、各施設が作成した重要事項説明書では、入居一時金の趣旨を、「専用居室、共用部分の利用のための家賃相当額に充当されるもの」と記すのが通例になっている。このような入居一時金の説明と一時金の帰属、償却方法に齟齬はないのかを検討することがこの記事の究極の目的だが、本題に入る前に、まずは、入居一時金の金額、償却方法の実態を確かめておきたい。

 入居一時金については、その上限、償却方法、解約時の返還方法などが法令で規制されているわけではなく、一時金の算定根拠等を書面で明示し、保全措置を講じること等が上記の「指導指針」で通知されるにとどまっている。そこで、いくつかの施設の重要事項説明書ないしはホームページを検索して確かめた実例を紹介しておく。

〔コムスンガーデン南平台〕
   金額:居室タイプⅠ 2,280万円
       (別に、家賃・食費・管理費等の月額 292,500円)
      居室タイプⅡ 4,480万円(夫婦入居可能部屋)
       (同上の月額 511,500円)
  償却方法:30%を即時償却、残金を5年間で定額償却
  退去時の返金:入居年数に応じて入居金の未償却残高を返金

〔ロイヤルライフ多摩〕
  金額:1人入居の場合 5,200万円~14,700万円
       (別に、食費・管理費等の月額 200,550円)
      2人入居の場合 6,500万円~18,375万円
       (同上の月額 343,350円)
  償却方法:15%を即時償却、残金を入居時の年齢に応じて10
                   ~20年間で償却
  退去時の返金:入居月数に応じて入居金×85%の未償却残
                   高を返金

〔サンリッチ三島〕
  金額:1人入居の場合 2,515万円~8,426万円
       (別に、食費・管理費の月額 151,680円~171,420円)
      2人入居の場合 3,311万円~9,222万円
       (同上の月額 236,160円~255,900円)
  償却方法:15%を即時償却、残金を入居時の年齢に応じて15
              年間で償却
  退去時の返金:入居月数に応じて入居金×85%の未償却残高
              を返金

〔アビタシオン博多〕
  金額:1人入居の場合 990万円~3,730万円
       (別に、入居時費用として介護費400万円、食費・管理費
                の月額 125,475円)
      2人入居の場合 1,390万円~4,130万円
       (同上の介護費800万円、食費・管理費の月額 215,775
                円)
  償却方法:20%を即時償却、残金を8年間で償却
  退去時の返金:入居月数に応じて、入居金×80%の未償却残高
                を返金

なぜ即時償却なのか?

  調査した範囲では、入居一時金の即時償却率は施設によってまちまちだが、多くは15%~20%の幅に収まっていた。コムスンの30%という数値は稀な例といってよい。また、入居時の年齢に応じて償却年数を定める施設、例えば、80歳未満の場合は15年、80歳以上の場合は10年というように定めている施設も少なくない。
    しかも、この即時償却された入居一時金は償却期間内に解約・退所した場合でも返金の対象から除かれることになっている。それだけに即時償却率の多寡は入所者にとって重大な関心事である。しかし、割合以前に、そもそもなぜ契約開始日に入居一時金の15%~30%が償却されてしまうのか? その理由が問われるべきである。

 入所一時金が家賃の前払いというなら、入金の時点でいったん、長期前受金として負債に計上し、償却期間(=平均入所期間)にわたって、時間の経過に合わせて収益に振り替えていくのが合理的な会計処理のはずである。事実、入手できた各施設の貸借対照表を見る限りでは、即時償却した後の入所一時金については負債の部に「長期預かり保証金」として計上されている。おそらく、これが入所一時金の未償却残高の受け皿となっている科目で、この金額が解約者への返金額に相当すると考えられる。それなら、一時金の15%~30%をこうした期間償却に先立って契約開始日になぜ即時償却してしまうのか?

 コムスンガーデン南平台に2,280万円の一時金を支払って入所した高齢者を例にしていうと、そのうちの1,344万円は契約開始日に償却され、解約しても返金されない(施設側に帰属してしまう)仕組みになっているのはなぜなのか? これでは、入所一時金を家賃の前払いとする説明と辻褄が合わない。

 考えられる解釈としては、入所一時金の算定要素の中に施設の維持・運営に係る初期費用としての固定費が含まれており、その部分については期間の経過に関わりなく発生する費用の対価として契約開始日の属する年度に償却する(収益に振り替える)ことにしているのかもしれない。それなら、入居一時金の算定要素の明細を公表し、即時償却率がこの固定費的要素の占める比率に見合っているかどうかを立証する責任を事業主体に負わせるのが当然である。

なぜ5年~20年で償却を済ませるのか?

 上で説明したように、入居一時金はその15%~30%が契約開始日に即時償却され、残りは所定の期間にわたって均等額ずつ償却されていく仕組みになっている。この場合の所定の期間は施設によりまちまちであるが、大半は15年~20年の範囲内に収まっている。また、入居時の年齢に応じて償却年数を定める施設、例えば、80歳未満の場合は15年、80歳以上の場合は10年というように定めている施設も少なくない。いずれにしても、償却年数を5年としているコムスンは稀な事例である。

 入居一時金を居室の家賃の前払いと捉えるとすれば、いくつかの施設が重要事項説明書で記載しているように、入所者の平均的な想定居住年数に基づいて入居一時金の償却年数を定めるのが合理的である。とすれば、施設ごとに入所者の(入所時の年齢区分ごとの)平均居住年数の実績値を公表し、一時金の償却年数がそれに見合っているかどうかを立証する責任を事業主体に負わせるのが当然である。そうすれば、償却年数が施設によって5年であったり20年であったりとばらついているのが合理的なのかどうかが判明するはずである。   

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